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「Ryzen 5 1600X」「Ryzen 5 1500X」レビュー。6C12Tで税込3万円台と4C8Tで税込2万円台半ばのRyzenはスレッド数とコスパが魅力
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印刷2017/04/11 22:00

レビュー

6C12Tで税込3万円台と4C8Tで税込2万円台半ば。今回もスレッド数とコスパが魅力だ

Ryzen 5 1600X,Ryzen 5 1500X

Text by 宮崎真一


Ryzen 5
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 AMDの予告どおり,日本時間2017年4月11日22:00,同社の新世代ミドルクラス市場向けCPU「Ryzen 5」のうち,6コア12スレッド対応モデルが発売の日を迎えた。10日の記事でお伝えしたとおり,4コア8スレッド対応モデルは15日発売予定だ。

 4Gamerではそれに合わせ,シリーズ最上位の6コア12スレッド対応モデル「Ryzen 5 1600X」と,4コア8スレッド対応製品の最上位モデルとなる「Ryzen 5 1500X」が含まれる評価キットを,AMDから入手できた。後述するように,今回はテストに制約がかかっているため,検証できる内容には制限があるのだが,それでもできる限りRyzen 5のゲーム性能に迫ってみたので,その結果をお届けしたい。


6C12T対応の1600Xと4C8T対応の1500X。DDR4-2933は非公式に対応か?


 Ryzen 5 1600XとRyzen 5 1500Xは,先にレビュー記事を掲載した「Ryzen 7 1800X」と同じく,「Zen」マイクロアーキテクチャに基づくCPUだ。ただ,Ryzen 7では全モデルが8コア16スレッド対応なのに対し,Ryzen 5は6コア12スレッドもしくは4コア8スレッド対応となる。

発表時点におけるRyzen 5のラインナップ。国内における税別のメーカー想定売価はRyzen 5 1600Xが3万800円,Ryzen 5 1600が2万7800円,Ryzen 5 1500Xが2万3800円,Ryzen 5 1400が2万1000円となっている
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Summit Ridgeのダイ写真。Ryzen 7とRyzen 5は同じCPUダイを用いている
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 Zenマイクロアーキテクチャでは,1基あたり容量512KBのL2キャッシュを持つCPUコアを4基と,これらCPUコアで共有する容量8MBのL3キャッシュをまとめてCPUモジュール「CPU Complex」(公式略称「CCX」,以下略称表記)を構成している。Ryzen 7はフルスペックのCCXを2基,1つのプロセッサダイに統合しているのだが,Ryzen 5の場合,6コア12スレッド対応モデルではCCXあたり1基,4コア8スレッドモデルではCCXあたり2基,それぞれCPUコアが無効になる。言い換えると,「Summit Ridge」(サミットリッジ)と呼ばれてきたRyzen 7&5ではCCXあたり半分のCPUコアが無効であっても(Ryzen 5という)良品として出荷できるわけで,これはSummit Ridgeというプロセッサ全体の歩留まり率向上,ひいては製造コスト削減に貢献しているのだろう。

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 入手した2製品は,まずRyzen 5 1600Xは定格クロックが3.6GHz,自動クロックアップ機能「Precision Boost」により最大4.0GHz動作となる。さらに「Extended Frequency Range」(公式略称「XFR」,以下略称表記)により,組み合わせるCPUクーラーの冷却能力が高く,かつTDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力)上の余裕があれば,動作クロックは最大4.1GHzにまで上昇するという。

Ryzen 5 1600X。Ryzen 7と同じ1331ピンのAM4パッケージなので,見た目はRyzen 7 1800Xとそっくりだ。OPN(Ordering Part Number)は「YD160XBCM6IAE」だった
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 一方のRyzen 5 1500Xは,定格クロックが3.5GHzで,Precision Boostによる最大動作クロックが3.7GHz。XFRでは最大3.9GHzの動作クロックを実現できるとのことである。

こちらがRyzen 5 1500X。OPNは「YD150XBBM4GAE」だ
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 メモリコントローラはRyzen 7 1800Xと同じで,条件付きながらDDR4-2667に対応する。ただ,詳細は後述するが,今回の評価キットに対し,AMDからはDDR4-2933設定でテストするようにというお達しがあった。レビュワーズガイドにもDDR4-2667までが公式対応とあるのだが,「Ryzen 5は非公式にDDR4-2933をサポートしている」のか「少しでも高いテスト結果が記事に載るよう,オーバークロックをさせているのか」は何とも言えないところである。

 なお表1は,そんなRyzen 5 1600XとRyzen 5 1500Xの主なスペックを,AMDが両製品の競合と位置づける「Core i5-7600K」(以下,i5-7600K)と「Core i5-7500」(以下,i5-7500)とともにまとめたものである。

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今回はB350マザーボード+OCメモリモジュールを用いてテスト


届いた評価キット(のボックス)
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 ここで,評価キットの中身を確認しておきたい。
 Ryzen 7 1800Xのような木箱ではなく,黒い段ボールに入って届いたのだが,その中には主役となるRyzen 5 1600XおよびRyzen 5 1500Xの製品ボックスと,AMD純正CPUクーラー「Wraith Max」(レイスマックス),PC4-25600対応のGeIL(Golden Emperor Int’l Ltd.)製オーバークロックメモリモジュール「EVO X GEX416GB3200C16DC」と,CPUもしくはメモリモジュール用の電源延長ケーブル,「B350」チップセット搭載のASUSTeK Computer(以下,ASUS)製マザーボード「PRIME B350-PLUS」,そしてレビュワー向けの指示が入ったペラ紙である。

評価キットの内容物を全部出したところ。左手前のケーブルについては何の説明もないのだが,試してみた限り,CPUクーラーもしくはメモリモジュールのLEDイルミネーションを光らせるための電源延長用として利用できた
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Wraith Maxクーラー向けRGB照明コントロールユーティリティ。これを見る限り,Wraith MaxクーラーはCooler Master TechnologyのOEM品のようだ
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実際に光らせた例。白いAMDロゴと,上と下2つのリングが光る
 Ryzen 5 1600Xは製品ボックスにCPUクーラーが付属しないため,その対策としてWraith Maxクーラーが付属するということなのだと思うが,このWraith Maxクーラーは,TDP 140WクラスのCPUに対応する,動作音38dBAという仕様の製品で,銅製プレートで受けたCPUの熱を4本のヒートパイプでヒートスプレッダへ運び,それを100mm角相当のファンで冷却する構造になっている。

 対応したマザーボードであれば,AMD(※正確にはCooler Master Technology)が配布している「Ryzen Wraith Max RGB lighting control software」(AMD Wraith Maxクーラー向けRGB照明コントロールユーティリティ)を用いて,ファンの周りに配置されたLEDの色や明るさを制御できる。

マザーボード上にあるマウンタのツメに,クリップを引っ掛けて固定するという,AMDのCPUクーラーでは昔ながらの固定方法をWraith Maxは採用している
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Wraith Max(左)とWraith Spire(右)の大きさ比較
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 一方,Ryzen 5 1500Xのほうだと,製品ボックスに「Wraith Spire」(レイススパイア)クーラーが付属する。こちらは動作音が32dBという仕様だ。
 こちらは銅製プレートで受けた熱を,アルミ製のヒートスプレッダへ拡散させる仕様。ファンの大きさは100mm径ながら,LEDを搭載しなかったりするため,見た目はWraith Maxと比べるとかなり小さい。

Wraith Maxと異なり,Wraith Spireはネジ留め式となっている
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 メモリモジュールであるEVO X GEX416GB3200C16DCは,「D.O.C.P.」(Direct Over Clock Profile)にでDDR4-3200に対応。容量8GBモジュールの2枚セットだ。
 メモリモジュールの上部および側面にあるEVO Xロゴ部にはLEDイルミネーションが埋め込んであり,付属の電源ケーブルを使い,マザーボード上のLED用ヘッダピンおよびファン用電源端子と接続することで,ASUSの「Aura」やMSIの「Mystic Light」といったLED制御機能から色の設定を行えるようになっている。

D.O.C.P.によりDDR4-3200に対応したオーバークロックメモリモジュール,EVO X GEX416GB3200C16DC。付属ケーブルを使ってマザーボードと接続することで,LEDを制御できるようになる。このケーブルがけっこう短いので,評価キットには延長ケーブルが付いていたということなのだろう
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B350チップセット
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 最後にマザーボードのPRIME B350-PLUSだが,ASUSによると本製品はエントリーミドルクラス市場をターゲットにした製品だ。とくにゲーマー向けと言うわけではないが,焦げ茶色地に赤という,あまり見ないカラーリングは,ゲーマー向けマザーボードっぽいと言えなくもない。

ATXフォームファクタを採用するPRIME B350-PLUS。色合いが目を惹く一方,電源周りやオンボードの機能などはオーソドックスな印象がある。なお,オンボードの1000BASE-T LANコントローラはRealtek Semiconductor製の「RTL8111H」。HD Audio CODECはやはりRealtek Semiconductorの「ALC887」で,アナログサウンド出力回路はマザーボード上で独立させてあるとのことだ
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ASUSは6フェーズとしているが,見る限りでは4+2フェーズ構成だ。写真右下には省電力コントローラ「EPU」を統合するデジタルPWMコントローラの姿も見える
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 プッシュピン型のヒートシンクを外して確認した限り,デジタル電源回路「DIGI+VRM」は4+2フェーズ構成。物理的な拡張スロットはPCI Express(以下,PCIe) x16 ×2,M.2×1,PCIe x1 ×2,PCI ×2で,このうちRyzenもしくは第7世代A-Series APUと直接つながるのは灰色のPCIe x16スロットとM.2スロットである。
 B350チップセットとつながる,黒いPCI x16スロットの帯域はx4となるため,CrossFireはサポートする一方,SLIはサポートしないので,この点は注意が必要だろう。

PCIスロットを2本備えるのがエントリーミドルクラス市場向けっぽいところ(左)。右はSafeSlot Core仕様のPCIe 3.0 x16スロットと,type 22110にまで対応するM.2スロットだ。M.2スロットはPCIeとSerial ATA両対応で,PCIe接続時はGen.3 x4接続となる
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ステンレスの採用で耐久性を高めてあるというI/Oインタフェース部。青色のType-Aポート×4がCPU直結のUSB 3.0(=3.1 Gen.1),青緑色のType-Aポート×2がB350チップセットとつながるUSB 3.1 Gen.2という仕様だ
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 ちなみに灰色のPCI x16スロットは,重さのあるグラフィックスカードを支えるために耐久性を引き上げた「SafeSlot Core」仕様になっているそうだ。PCIeスロットを金属で覆う「SafeSlot」の下位仕様という理解でいい。
 またそのほかにも,基板レベルの過電流保護回路,強度を高めてあるというステンレス製のI/Oインタフェース部,そして「LANGuard」をはじめとする静電気対策といった具合に,耐久性や動作安定性の確保を狙った機能が多いのも,PRIME B350-PLUSの特徴と言えるだろう。

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LANポート部のLANGuardや,USBポート部のESD保護用ダイオード(TVS diode)など,端子周辺に静電気対策が見られる
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ちなみにこちらはオンボードのSerial ATA 6Gbpsポート。6つというのは,エントリーミドルクラス市場向けとしては十分だろう


比較対象やメモリなどはすべてAMDの指定どおりながら,SMT無効化時のテストも追加


 さて,テストのセットアップだが,冒頭でも紹介したとおり,今回,評価キットを用いたテストにあたっては,AMDから事細かな指定があった。電源プランについては前段でも軽く触れたが,そのほかにも以下のとおりの指示が入っている。

  1. 「同じ価格帯での比較」とするため,Ryzen 5 1600Xの比較にはi5-7600Kのみを,Ryzen 5 1500Xの比較にはi5-7500のみを使うこと
  2. Ryzen 5のテストでは,評価キットに入っているB350マザーボードを使うこと
  3. Ryzen 5のテストでは,評価キットに入っているメモリモジュールを用い,メモリコントローラの設定をDDR4-2933,遅延設定16-18-18-18とすること
  4. 「同じ価格帯での比較」とするため,競合製品のテストでは「Intel B250」チップセット搭載マザーボードを使うこと
  5. マザーボードのBIOS(UEFI)から「High Precision Event Timer」(HPET)を無効化すること。マザーボードから設定できない場合は,WindowsのPowerShellから「bcdedit /deletevalue useplatformclock」と入力すれば無効化できる
  6. Windows 10はBuild 1607/14393以降を使うこと。テストにあたってはクリーンインストールすること
  7. Windowsの電源プランは「高パフォーマンス」とすること

PRIME B250M-A
エントリー市場向けのMicroATXモデル
メーカー:ASUSTeK Computer
問い合わせ先:テックウインド(販売代理店) [email protected]
実勢価格:1万1600〜1万2800円程度(※2017年4月11日現在)
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 つまり,今回のテストにあたって,Intelの6コア12スレッド対応CPU,あるいは4コア8スレッド対応CPUと比較することはできない。また,マザーボードもIntel B250という,4Gamer読者にはあまり馴染みのないエントリー市場向けチップセットを採用したものしか利用できない。幸いにして,事情を話したところ,ASUSは快く同社製マザーボード「PRIME B250M-A」を貸し出してくれたので,i5-7600Kとi5-7500ではこちらを組み合わせることにするが,いろいろ制約がある点はご了承のほどを。

 ちなみに,AMD製プロセッサのテストには制約がなかったので,比較対象にはRyzen 7 1800Xを加えようかと考えていたのだが,実際にテストを行ってみると,「3DMark」(Version 2.3.3682)のスコアがレビュー記事のものより低くなってしまった。これは,PRIME B350-PLUSに搭載されていたUEFIがテストバージョンのもので,おそらくRyzen 5 1600XとRyzen 5 1500X用にチューニングされていることに加えて,メモリモジュールの遅延設定が大きいことが原因ではないかと思われる。
 ただし,先に示したとおりの事情で,ほかのマザーボードやメモリモジュールを使うことはできず,そのまま掲載するとRyzen 7 1800Xの性能について筆者の意図していないメッセージが伝わる可能性があるため,今回,比較対象からRyzen 7 1800Xは外している。

 なお,グラフィックスカードに対しては制限がなかったので,グラフィックスカード自体が性能面でのボトルネックにならないよう,「GeForce GTX 1080 Founders Edition」を用いた。導入したグラフィックスドライバは,テスト開始時の最新版となる「GeForce 381.65 Driver」だ。
 そのほかテスト環境は表2のとおりとなる。

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 テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション19.0に準拠。今回はCPUが主役ということで,スコア差が表れやすいよう,描画負荷が低いほうのプリセットを選択のうえ,解像度は2560×1440ドット,1920×1080ドット,1600×900ドットの3つを選択した。追加で,マルチスレッド対応の定番CPUベンチマークである「CINEBENCH R15」(Build RC184115)も実行し,CPU性能の比較を行う。
 Ryzen 7 1800Xのときに実施した基礎検証は,今回行っていない。AMD指定のB350マザーボードおよびIntel B250マザーボードでは,UEFI側の機能が十分でなく,動作クロックを揃えることができなかったからだ。

 なお,電源プランやHPET絡みの設定は,競合製品のテスト時も含め,AMDの指定どおりとしている。


競合製品といい勝負を演じるRyzen 5。SMT無効のほうがスコアが伸びる場面も


 グラフ中に限りRyzen 5を「R5」と略すことをお断りしつつ,テスト結果を順に見ていこう。
 グラフ1は3DMarkのDirectX 11テスト「Fire Strike」における総合スコアをまとめたものだ。3DMarkはマルチスレッド処理への最適化が進んでいることもあって,SMT有効と無効とでスコアにハッキリと違いが出た。数字で言えば,Ryzen 5 1600Xだと3〜6%程度,Ryzen 5 1500Xでは6〜9%程度,それぞれSMT有効時のほうがスコアは高い。
 また,AMDが競合認定している製品との比較だと,SMT有効時のRyzen 5 1600Xはi5-7600Kに対して7〜8%程度,Ryzen 5 1500Xはi5-7500に対して5〜7%程度高いスコアを示した。

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 次にグラフ2は,同じく3DMarkのFire Strikeから,CPUベースの物理シミュレーションテストで,事実上のCPUベンチマークである「Physics test」のスコアを抜き出したものだ。ここではマルチスレッド処理性能がスコアを大きく左右しやすいため,6コア12スレッド対応のRyzen 5 1600Xがダントツのトップとなり,次に4コア8スレッドのRyzen 5 1500X,そしてSMTを無効化して6コア6スレッド動作となるRyzen 5 1600Xが続く。
 一方,4コア4スレッド動作のCPU同士で見てみると,SMTを無効化したRyzen 5 1500Xは,i5-7500とほぼ互角というスコアだった。

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 3DMarkのDirectX 12テストである「Time Spy」の総合スコアをまとめたものがグラフ3だ。Time SpyでもFire Strikeの傾向を踏襲している印象で,SMTの有効/無効によりスコアには違いが出ている。競合製品との比較でいうと,SMTを有効化した状態のRyzen 5 1600Xはi5-7600Kに対して約7%高い。SMTを有効化したRyzen 5 1500Xもi5-7500に対して約2%高いスコアを示した。

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 グラフ4はそのTime Spyから「CPU test」の結果だけを抜き出したものだが,ここでSMTを有効化したRyzen 5 1600Xはi5-7600Kに対して約47%高いスコアを示した。対応スレッド数が3倍という違いをはっきり確認できる結果だ。
 ただし,SMTを有効化したRyzen 5 1500Xは,i5-7500に対して約9%高いスコアを示す一方,SMTを無効化すると約87%のスコアにまで落ち込んでいる。

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 ゲームアプリケーションを用いたテストの結果に移ろう。グラフ5は「Far Cry Primal」のスコアだが,本作ではRyzen 5でSMTを無効化することによりスコアが伸びる傾向を確認できた。とくにRyzen 5 1600XはSMT有効時よりも無効時のほうが6〜15%程度もスコアが高い。
 SMTを有効化したRyzen 5 1600Xがi7-7600Kに溝を開けられているのに対し,無効化すると並ぶ点も要注目といえ,6コアCPUに関して言えば,SMTは無効化したほうがよいということになるだろう。
 一方のRyzen 5 1500Xだと,SMT無効化の効果は,少なくともRyzen 5 1600Xと比べると大きくなかった。

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 「ARK: Survival Evolved」(以下,ARK)のスコアをまとめたのがグラフ6だ。ARKの「Low」プリセットは,今回のテストの中でもとくにGPU負荷が低いテストになるが,ここではi5-7600Kが優勢で,Ryzen 5 1600Xは,SMT有効の効果は出ているものの,対i5-7600Kだと90〜92%程度というスコアに留まった。
 Ryzen 5 1500Xも対i5-7500で94〜97%程度だ。

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 「DOOM」の結果がグラフ7になるが,DOOMはゲームの仕様上,200fpsが上限となり,ここでは1920×1080ドットと1600×900ドットのスコアが意味を成していない。
 そこで2560×1440ドットのスコアを見ていくことになるが,DOOMでもSMTは有効にしたほうがスコアは伸びる傾向となった。競合との比較だと,SMTを有効化したRyzen 5 1600Xはi5-7600Kと互角。SMTを有効化したRyzen 5 1500Xはi5-7500からわずかに離された。

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 グラフ8の「Fallout 4」では,また違った結果が得られている。ここでRyzen 5 1500XはSMTを有効化することで無効化時よりも約1%のスコア上昇が見られるものの,Ryzen 5 1600XだとSMT有効時のスコアはSMT無効時よりも低くなった。
 傾向としてはFar Cry Primalに近いとも言えるが,少し古めのゲームエンジンを採用したタイトルだと,4コア8スレッドまでは最適化されているが,6コア12スレッドへは最適化されておらず,スコアが安定しなくなる可能性があると言えそうである。
 競合製品との比較では,SMTを無効化したRyzen 5 1600Xでもi5-7600Kの86〜87%程度と,あまり芳しくない。

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 「ファイナルファンタジーXIV:蒼天のイシュガルド ベンチマーク」(以下,FFXIV蒼天のイシュガルド ベンチ)におけるスコアがグラフ9だ。ここでの傾向は一見Fallout 4と似た印象だが,ただ,解像度2560×1440ドットでSMTを有効化したRyzen 5 1600Xのスコアが無効時よりも高いことを踏まえると,1920×1080ドット以下の解像度では描画負荷が低すぎてSMT動作にマイナスの効果が生じている可能性のほうが高そうだ。言い換えると,十分な描画負荷があれば,6コア12スレッドの効果は得られる可能性が高い――もちろん,描画負荷が高まれば,どこかでGPUがスコアを左右するようになるわけだが――ということになるだろう。
 Ryzen 5 1500Xは,SMT有効時が無効時と比べて2〜4%程度高いスコアを示した。

※グラフ画像をクリックすると,平均フレームレートベースのグラフを表示します
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 それに対し,「Forza Horizon 3」におけるスコア傾向は,グラフ10を見るに,Fallout 4と同じと述べてしまっていいだろう。Ryzen 5 1600XではSMT無効時のほうが,Ryzen 5 1500XではSMT有効時のほうがスコアは高い。
 競合製品と比べてスコアが大きく落ちるのは,Ryzen 7 1800Xのレビュー時と同じである。

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 性能検証の最後はCINEBENCH R15の結果だ。Ryzen 7 1800Xのレビュー時はCPUの対応を超えるスレッド数ではテストを行わなかったが,今回は同じスレッド数での比較を行えるよう,CPUの対応を超えるスレッド数でもスコアを取得している。

 というわけでここでは,12スレッド,8スレッド,6スレッド,4スレッド,1スレッドの5パターンでのテストを行ったが,グラフ11に示したとおり,SMTを有効化して12スレッド処理に対応したRyzen 5 1600Xのスコアが圧倒的だ。
 ただ,「CPU(Single Core)」で比較すると,全体としてRyzen 5は競合製品にスコアが届いていない。4スレッド性能でも置いて行かれているので,やはりRyzenというプロセッサは,ミドルクラス市場向けであってもコア数とスレッド数で勝負する製品ということになるだろう。

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消費電力ではやや苦しいRyzen 5。SMT対応と大容量L3がここではネックか


 ミドルクラス市場向けCPUということで,消費電力が気になる人も多いだろう。とくにRyzen 5 1600Xは95W,Ryzen 5 1500Xは65WとTDPが30W異なるが,その違いは出るだろうか。Ryzen 7 1800Xのときと同じく,クランプメーターを用いてEPS12Vの電流測定を行ってみよう。
 テスト方法の詳細はRyzen 7 1800Xのレビュー記事に詳しいが,本稿でも簡単に紹介しておくと,三和電気計器製のクランプ式電流センサー「CL33DC」でEPS12Vに用意されている12Vのライン4本をクランプ。それをデジタルマルチメーター「PC20」およびデジタルマルチメーター用データーロガー「TsDMMViewer」で読み取るというものだ。

 テストにあたっては,ゲーム用途を想定し,無操作時にもディスプレイの電源がオフにならないよう指定したうえで,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。また,アイドル時に限っては,Windows 10の電源プランを「バランス」に戻してテストを行った。

 その結果はグラフ12のとおり。アイドル時のスコアはすべて10W以下で揃っており,大きな違いは見られない。
 そこでアプリケーション実行時を見てみると,SMTを有効化したRyzen 5 1600Xの消費電力が大きいのが分かる。SMTの有効化時に期待どおりの性能が出ていないFar Cry PrimalとFallout 4,Forza Horizon 3のスコアを無視すると,SMT有効時は無効時に対して10〜25W程度高く,またSMTを有効化したRyzen 5 1500Xに対して1〜30W程度高い。Ryzen 5 1500Xとの間に,きっちりTDP分のスコア差が出ているのは興味深いところだ。
 SMTの有効化で期待どおりの性能が出ているアプリケーションにおいて競合製品と比較すると,Ryzen 5 1600Xはi5-7600Kに対して17〜42W程度,Ryzen 5 1500Xはi5-7500に対して13〜32W高いスコアだ。やはり,より多くのスレッドを処理できることと,合計16MBのL3キャッシュは,こと消費電力面ではマイナスに作用するということなのだろう。

※そのまま掲載するとグラフが縦に長くなりすぎるため,簡略版を掲載しました。グラフ画像をクリックすると完全版を表示します
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 最後にCPU温度を確認しておきたいが,今回も,Ryzen 5 1600XがWraith Max,Ryzen 5 1500XがWraith Spire,i5-7600Kとi5-7500がCore i7-6000番台のCPUを購入したときに付属していたものと,搭載クーラーがバラバラだ。なので横並び比較に意味はない。あくまでも,Ryzen 5 1600XとRyzen 5 1500Xがどの程度の温度かを把握するに留めてもらいたい。

 ここではアイドル時に加え,3DMarkのFire StrikeにおいてPhysics testを30分間連続実行した時点を「高負荷時」として,CPUの温度を取得している。テスト時の室温は約24℃。システムはケースに組み込まない,いわゆるバラック状態で,テスト用となる机の上に置いている。テストに用いるソフトウェアはASUS製オーバークロックツール「AI Suite III」(Version 1.01.56)だ。
 その結果がグラフ13で,Wraith Maxはかなりの静音指向で,そのためアイドル時,高負荷時とも温度はやや高め。ただ,それでも高負荷時に70℃を下回っているので,問題はないと言っていい。Ryzen 5 1500Xの純正クーラーもCPU高負荷時の温度を59℃に抑えているのだから,こちらも冷却能力は高いと述べてよさそうだ。

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 気になる動作音だが,筆者の主観であることを断ったうえで続けると,どちらも静音性には優れている印象だ。少なくとも,Intelのリテールボックスに付属するクーラーとは比べものにならない優秀さである。
 動作音の公式スペックどおり,ではあるのだが,どちらが静かかと言えば,Wraith Spireのほうが若干静かに感じられた。


価格を抑えながら多くのスレッドに対応した点がRyzen 5の強み


 とにもかくにもAMDによる縛りが多すぎ,それこそ「オーバークロックで競合の上位CPUにどこまで迫るか」とか「動作クロックを揃えたときにどういう挙動を見せるか」という検証を行えなかったのが心残りだが,全体としては,Ryzen 7 1800Xのレビューを行ったときとほぼ同じ印象を,Ryzen 5の2製品に対しては抱いている。

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 Ryzen 5 1600Xのメーカー想定売価は税別3万800円。単純計算した税込価格では3万3264円だ。価格が近い存在として,AMDはなんとしてでも実勢価格が3万〜3万1000円程度(※2017年4月11日現在)のi5-7600Kと比較してほしいのだろうが,正直,それはエンドユーザーの感覚からズレていると思う。
 Intelが抱える6コア12スレッド対応CPUの最下位モデルである「Core i7-6800K」は実勢価格が5万1200〜5万5000円程度(※2017年4月11日現在)。Ryzen 5 1600Xは,6コア12スレッド対応CPUの導入ハードルを2万円も下げる存在であり,それこそが最大の魅力だろう。
 「予算に一定の縛りがある一般のPCゲーマーにとって,事実上,CPUのスペックは4コア8スレッドが上限」という,長きにわたる常識を打ち破れる存在というのが,Ryzen 5 1600Xの持つ価値であると考えている。

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 一方,メーカー想定売価が税別2万3800円で,単純計算した税込価格が2万5704円となるRyzen 5 1500Xだと,Ryzen 5 1600Xほどには,分かりやすい価値を見出しにくい。というのもこの価格帯だと,ゲーム用途に向けた費用対効果からして4コア4スレッド対応のCore i5で十分といえるテスト結果が出ているからだ。
 もっとはっきり言うと,Ryzen 5 1500Xは,実勢価格が2万4300〜2万6000円程度のi5-7500に対して明確なメリットを打ち出せていない。その意味でRyzen 5 1500Xの強みは「8スレッドに対応していること」であり,4コア8スレッド対応で倍率ロックフリー版となるCPUの導入ハードルを,実勢価格が4万〜4万5000円程度となる「Core i7-7700K」と比較して2万円近く下げる存在と見るべきである。

 いずれにせよ,Ryzen 7 1800Xがそうであったように,Ryzen 5 1600XとRyzen 5 1500Xも,何かほかのことをしつつ,ゲームをプレイするときにこそ活きるCPUではなかろうか。
 それこそ,ゲーム配信や,頻繁にゲームプレイのキャプチャやエンコードを行うユーザーが費用対効果を考えたときに,Ryzen 1600XとRyzen 5 1500Xはかなりお買い得なCPUだ。

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