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“魅力”と“可能性”があるから,我々は「PlayStation 4」を作る――SCE吉田修平氏 特別インタビュー
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印刷2013/04/26 00:00

インタビュー

“魅力”と“可能性”があるから,我々は「PlayStation 4」を作る――SCE吉田修平氏 特別インタビュー

PS4はPCゲーム/オンラインゲーム市場を取り込む? ビジネス面での可能性


4Gamer:
 ちょっとハードウェア寄りのお話もさせて頂ければと思うんですけど,PS4は,x86アーキテクチャをベースにしている――要するに,PCに近いハードウェア構成になっていますよね。PS3で搭載されていた「Cell Broadband Engine」後継のチップではなく,汎用的なチップをベースにすると決めたタイミングはいつだったんですか?

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吉田氏:
 PS4のプロジェクトが立ち上がった直後の2008年頃です。むしろ,2008年頃は「CELLをどうするのか」という議論ばかりしていた状態で。

4Gamer:
 ずいぶんと前のことなんですね。その時点でもう,PS3との互換性は切る,という判断をしていたということですか?

吉田氏:
 そうなります。というのも,ハードウェアの開発プロジェクトは,最初に半導体をどうするか決めなければならないんですよ。この部分の研究開発が,一番長いスパンで動きますから,まずそこの方針を決めなければいけない。

4Gamer:
 でも,2008年頃というと,まだGaikaiのようなクラウド技術も出てきていませんよね。今でこそ,PS3タイトルへの対応はGaikaiでサポートすることもできるといった選択肢も見えますが,当時は,PS3との互換性の問題をどう対処するつもりだったんでしょう。

画像集#010のサムネイル/“魅力”と“可能性”があるから,我々は「PlayStation 4」を作る――SCE吉田修平氏 特別インタビュー
吉田氏:
 この点については,議論を重ね,非常に頭を悩ませた部分です。互換性の問題を含めた,いろいろなマイナス面は十二分に理解していたのですが,メーカーさんからのご意見,半導体の研究開発の世界的な情勢など,さまざまな要素を検討したうえで,次のPlayStationにCELLを搭載するのはやめようという判断に至りました。

4Gamer:
 個人的には,x86アーキテクチャを選択した背景には,もっと「ビジネス的な狙い」もあったんじゃないかって思っていたんですが,そういうわけでもないのでしょうか。

吉田氏:
 どういう意味ですか?

4Gamer:
 要するに,PCゲームからの移植を促すことによって,PCを中心に展開されているタイトルやジャンル,メーカーを取り込む狙いがあったのかなと思ったんです。とくにアジア諸国やブラジル,ロシアなどの新興市場を見据えたとき,PCのオンラインゲームって結構な存在感がある市場だとも思うんです。PS4との戦略的提携が発表されたBlizzard Entertainmentにしても,キラータイトルをいくつも抱えていますよね。

吉田氏:
 なるほど。我々がPCゲーム市場をそこまで意識してPS4を設計していたかといえば,正直,そこはあまり意識していませんでした。どちらかというと,ゲームを作りやすい環境を意識してハードウェアを設計していったら,PCゲームのメーカーさんの方が興味を持ってくれたという感じになります。

4Gamer:
 あら,そうなんですか。

吉田氏:
 提携を発表させていただいたBlizzardさんも,PCでゲームをしないコンシューマのゲーマー層に,何らかの形でアプローチしたいという思いが常々あったようで。そうした流れがうまく我々の方向性とマッチして,パートナーになっていただけたのだと思います。BlizzardさんのゲームをPS3に移植するのは大変だとは思いますけど,PS4なら,かなり簡単にできますしね。我々としても,これまでコンシューマゲームのユーザーさんが遊べなかったようなタイトルが登場してくることは,大歓迎ですから。

4Gamer:
 ユーザーからしても,「Diablo III」だけでなく,「World of Warcraft」や「StarCraftII」のようなタイトルがゲーム機(PS4)でも遊べるようになれば,かなり嬉しい話のはずですよね。ほかにも,最近PCゲームで人気を博している「League of Legends」などは,アカウントベースで7000万みたいな規模感ですし,ああいう人気作をコンシューマゲーム側が取り込んでいくというのは,個人的には大きな可能性を感じるんですよね。

Diablo III
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吉田氏:
 コンシューマ向けには,DiabloやStarCraftみたいなゲームはあまりないので,もったいないですよね。ああいう面白いゲームが遊べないのは,プレイヤーさんにとって損なことだと思いますし。

4Gamer:
 ええ。それに世界的に見れば,BlizzardのタイトルがPC版と同じように遊べるゲーム機,というのはかなり強力なウリになると思えるんですよね。プレイヤーからすれば,高いPCを買わなくて済むわけですし。
 ところでオンラインゲームの扱いは,どういった方針にしていくんでしょう。これまで新興国では,海賊版などの問題もあって,なかなかパッケージビジネスがうまくいかないという歴史がありましたが,オンラインゲームであれば,そこもビジネスになるのではないですか?

吉田氏:
 まず海外市場についてお話をすると,パッケージゲームについても,我々はまだまだ伸びしろがあると思っています。というのも,とくにPS3は,セキュリティ面を相当頑張っているおかげで,ラテンアメリカやアジア,東ヨーロッパ,ロシア,ポーランドといった地域での売り上げがものすごく伸びているんです。そういった地域のポテンシャルはすごく高いと思っていますよ。

4Gamer:
 なるほど。

吉田氏:
 もちろんオンラインゲームにも,もの凄く注目しています。今はスマートフォン向けゲームなどの普及で,Free to Playが当たり前に浸透していますが,この流れはコンシューマゲーム機市場にも当然ドカっと入ってくるものだと思うんです。ですから,我々としては,パブリッシャさんがそういうビジネスをしやすいような環境を意識して作っていく必要があると考えています。

4Gamer:
 プラットフォーマーの中では,SCEさんはFree to Playに寛容というか,積極的ですよね。

吉田氏:
 我々も少し驚いているんですけどね。PS3の「機動戦士ガンダム バトルオペレーション」やPS Vitaの「サムライ&ドラゴンズ」などでオンラインゲームが賑わう実例が現れ始めたので,良い意味で「ああ,これはありなんだ」という手応えを感じています。まったく知らないゲームであっても,タダで遊んでみて面白かったらお金を払うというのは,非常に理にかなった仕組みですし。

4Gamer:
 オンラインゲームのパブリッシャからしても,オンラインゲームの市場をPS4が開拓してくれるのであれば,非常にポジティブに捉えられると思うんです。移植の容易さも手伝って,オンラインゲームのタイトルがPS4に流れていくと面白いな……と,そういうところにも期待したいんですけど(笑)。

吉田氏:
 そうですよねぇ(笑)。


インディーズゲームという新しい潮流にどう向き合うか


4Gamer:
 あと,これはぜひ吉田さんにお聞きしたかったんですけど,Steamのような新興のプラットフォームと,それが最近リビングに進出しようとしていることをどう見ているんでしょうか。あるいは「OUYA」など,Androidベースのゲーム機のような“第三勢力”については,どういう分析をされているんですか?

吉田氏:
 4Gamerさんは,やっぱり質問が海外のメディアさんっぽいですよねぇ(笑)。海外では,その質問をたくさん受けました。

4Gamer:
 いや,みんなが気になるところだと思うので(苦笑)。

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吉田氏:
 あくまで個人的な意見になりますけれど,ネットワークサービスとしてのSteamは,PCゲームを牽引するサービスとして最先端だと思っていますし,その中でヒットするゲームの事例なんかを見ていても,なんというか,ゲーム産業にとって「いいこと」をやっているんだろうなという見え方はしています。

4Gamer:
 ふむふむ。

吉田氏:
 ただ一方で,それをテレビにつないでもらう,リビングで遊んでもらうようにするためには,解決しなきゃいけない問題も多いだろうなとも感じていて。

4Gamer:
 それはどういう部分で,ですか?

吉田氏:
 単純な話,ビジネスとして「ハードウェアを売る」というのを考えるにしても,コンシューマゲーム機であれば,ハードの利益はほとんどなくて,その後でソフトのライセンス料でまわしていくっていうビジネスモデルじゃないですか。だから,ハードウェア単体で見たらべらぼうに安い,コストパフォーマンスの良い金額でハードを売ることができるわけですよね。

4Gamer:
 そうですね。その意味でいうと,先日発表されていた「PISTON Console(※)」は,思ったよりも値段が高くてがっかりしたんですよね……。

※非公式のSteam Boxと謳われていた。メインストレージとなるSSDの容量によって価格が異なっており,一番安い128GB版で999ドル(関連記事)。

吉田氏:
 でも,普通にやっていったら,どうしてもそうなってしまうんですよ。それに,ライセンス料でビジネスを回していくにしても,市場のエコシステムをうまく回していかなければならないし,そこを機能させるためには大変な労力が必要です。そういった諸々のことを全部やっていくのは,Valveさんであっても大変だろうなとは思います。もちろん,ゲーム機はゲーム機で,最初に本体を買わないといけないっていうデメリットはあるんですけどね。

4Gamer:
 ただSteamなどは,インディーズゲームのプラットフォームとしてもうまく機能しているサービスだと思うんですよね。そこに乗っかってきている小さなデベロッパもたくさんあって,そこから面白いインディーズゲームがたくさん生まれています。ゲーム産業の流れとしては見逃せない分野なのかなとは感じています。

吉田氏:
 ああ,最近はすごく良いインディーズゲームがたくさんありますよね! 今のインディーズゲームは,なんというか,とても熱量があって,私も大好きです。長いムービーやクレジットもなく,割とすぐにゲームの世界に入ってのめり込める感じが,今の忙しいゲーマーのライフスタイルにはすごく合っているとも思いますし。

4Gamer:
 PS4でも,インディーズゲームがきちんと回る(制作され,ちゃんと儲かる)仕組みが出来ていくと,遊び(ゲーム)の幅が広がりそうですよね。

吉田氏:
 PS4はもちろん,PS3やPS Vita,PS Mobileにもどんどん来てほしいと思っているので,そのあたりの環境整備には注力していくつもりです。それに個人的には,日本の開発者の方に,もっとインディーズゲームを作ってほしいんですよね。
 今の時代,ゲームを作ろうとすれば開発費が問題になりますし,とくに日本で大作を作るのがなかなか難しくなってきているように感じます。でも一方では,インディーズゲームを世界中に配信できるような環境がどんどん整備されてきている。変わったゲーム性や尖った世界観を打ち出して,実際にヒットする作品も出てきていますよね。

4Gamer:
 昨年で言えば,やはり「風ノ旅ビト」が印象的でした。超大作ゲームを差し置いて,プレイヤーからも業界人からも,高く評価(※)されましたよね。

※GDC期間中に行われたゲーム開発者によるアワード「The 13th annual Game Developers Choice Awards」では,「風ノ旅ビト」がGame of The Yearを含めなんと6冠を達成している(関連記事)。


風ノ旅ビト
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吉田氏:
 そうそう。ああいったものを見て,日本でも「こういうのが作りたいんだ」というチームや個人が,もっと出てきてほしい。そういう意味では,「TOKYO JUNGLE」を作ったクリスピーズの片岡君(片岡陽平氏)達は,一緒に仕事をしていて楽しかったです。彼らはまだ20代なんですけど,「今しかできない!」と大学をやめて会社を作ってしまったりして,何だが日本人らしくない(笑)。
 でも,TOKYO JUNGLEの世界観は,「なんだこりゃ!」と欧米でもウケが良かったりして。尖った作品は,やっぱり世界に通じるんだなと思いました。

4Gamer:
 SCEさんは,昔から「PlayStation C.A.M.P!」など,新人クリエイターを発掘するような活動をされていますけど,そういった押し出し方は,今後も続けていかれるのでしょうか。

吉田氏:
 それはもちろん。PlayStationのためというよりは,業界のためにもそこはサポートしていかないと,市場が先細って縮小再生産みたいなことになりかねません。それに,近年インディーズゲームがものすごく注目されているのは,同じようなジャンルや続編モノが多くなっているなかで,ユーザーさんが新しい刺激を求めている証明だと思うんです。それを考えたら,やっぱりそこはちゃんと押し出していきたいですよね。

4Gamer:
 そういえば,PS4では,「風ノ旅ビト」みたいな話題作が出てきた時には,バックグラウンドで自動的にダウンロードしておいてくれて,シームレスに遊べたりしてほしいんですよね。そういう“目に付きやすい環境”“話題になったものを試しやすい仕組み”があると,無名でも面白いゲームが広がっていくチャンスが生まれそうですし。

吉田氏:
 いいですね! CMなどがないゲームでも,そういう形で目に入ってくるのはいいかもしれない。あとは,インディーズゲームは海外のタイトルが多いんですけど,英語だからと敬遠してしまっている人がいるのがもったいないとは思っています。

4Gamer:
 現状のインディーズゲームというと,どうしても触れる人がコアなゲーマーになりがちなのもあって,余計にローカライズしづらい(コスト的にペイできない)って問題もありますからねぇ。

吉田氏:
 PlayStationのタイトルであれば,SCEでローカライズすることもあるんですけどね。なんかもっとね,ユーザーさんには海外のゲームにも目を向けてほしいとは思うんですよね。世界には面白いゲームがたくさんあって,それに触れられないのはもったいない。そういう意味でも,日本のプレイヤーさんは損してるんじゃないかなって思いはあるんですよ。

4Gamer:
 「クラッシュ・バンディクー」のプロデュースを手がけられてきた吉田さんだから,なおさらそう感じられるんでしょうね。でも,例えば「バイオハザード」にしろ「メタルギア」にしろ,昨今の国産大作ゲームは,いまや半分くらい欧米人の方を向いて作られているじゃないですか。その意味でいうと,国産ゲームと海外ゲームの垣根はなくなっているのかなとは思うんですけど。

吉田氏:
 そうですね。費用,期間共に規模の大きいものになると,どうしても海外市場を意識せざる得ないですからねぇ。

4Gamer:
 ああいった作品が日本人に受け入れられて,海外のタイトルはダメという話はないと思うんです。たぶん,昔の映画みたいなもので,今ではハリウッド映画を普通に日本人が見るように,海外の超大作を遊ぶのがもっと当たり前になっていくんだろうなという予感はあります。まだ壁はあるかと思いますが,「Call of Duty」などは,すでに日本でもけっこうな本数が販売されるようになっていますから。

吉田氏:
 そうですよね。ジワジワと「海外ゲームっていいよね」という層は増えてきている気はします。SCEにも海外のタイトルをローカライズするチームがいるんですが,私は「今は苦しいだろうけども,将来は絶対に君達の時代がくるから頑張ってね」って,よく声をかけているんですよね。

画像集#007のサムネイル/“魅力”と“可能性”があるから,我々は「PlayStation 4」を作る――SCE吉田修平氏 特別インタビュー


それでもSCEはゲーム専用機を作る


4Gamer:
 話をPS4に戻しますが,PS4の発表を受けての,日本と欧米の反応の違いってありますか?

吉田氏:
 かなり違いますね。欧米だと,「(しっかりしたゲーム機で)ホっとした」「やっときた!」という声が多いです。現世代のコンシューマゲーム機って,全世界で見ると,普及するスピードがPS2の世代よりもかなり速かったんですよ。ハイエンドゲームの市場という意味で言うと,PS3とXbox360を合わせて,現状で1億5000〜6000万台くらいだと思いますが,そこに到達するまでが,PS2よりもずいぶんと早かったんですね。HDテレビの普及などと相まって,リッチコンテンツに対するニーズが高かったんだと思います。
 そのせいか,サードパーティのメーカーさん側も「高性能なハードであればもっとすごいものが作れるし,準備もできているから,早く出してほしい」という状態でした。ユーザーさんも「そろそろ,もうひとつ上のゲームを楽しみたい」と思っているような感じで。

4Gamer:
 欧米の方が,性能アップやグラフィックスクオリティの向上を,すんなりと受け入れている印象はありますよね。でも日本だと,「これ以上綺麗にならなくてもいいや」みたいな反応が根強くないですか?

吉田氏:
 それは,やっぱりゲームに求めるものが違うからなんだと思います。欧米の場合,非常にリアルな表現を求める傾向が強く,最終的には,実写と変わらないくらい域まで追求したい。ゲームといえども,映画を見るようなストーリーや演出を楽しみたいというニーズはかなり強いです。
 一方で日本は,アニメやマンガといった文化が発達しているためか,リアルさが第一というわけではありません。それに,今の日本はどちらかというと,携帯型ゲーム機が中心の市場になっていますよね。大きなテレビでリアルなグラフィックスを楽しみたいというより,手軽に遊ぶとか,どこかに集まってわいわい騒ぐとか,そういう遊びの方への欲求が強いのだと思います。

4Gamer:
 そうなると,改めて吉田さんにお聞きしてみたいんですけど,そもそも据え置きのゲーム機って必要とされているんでしょうか。

吉田氏:
 そうですねぇ。その質問は,逆に日本のメディアさんらしい質問ですね(笑)。

4Gamer:
 そうなんですか?

吉田氏:
 ええ。欧米では,おそらくそれは出てこない質問だと思います。なぜかというと,欧米人はでかいテレビがみんな大好きだから(笑)。

4Gamer:
 ははは(笑)。

吉田氏:
 いや,実際にそうなんですよ。これはゲームだけの話ではなくて,「リビングでエンタテインメントを楽しむ」ニーズというのかな。そういう需要が確固たるものとしてあるんです。だからこそ,ValveさんにしてもBlizzardさんにしても,PCゲームの市場からリビングに出て行きたいと思っているわけですよね。

4Gamer:
 なるほど。

吉田氏:
 リビングにある大きなテレビが自慢で,そこに集まってみんなで映画を見たり,ゲームをするのが好きなんですね。そこで没入する,ゲームの世界に浸る。そういう,グラフィックスにしてもサウンドにしても,あるいはSHAREボタンを使ったプレイの共有にしても,専用機ならではの体験というものには,まだまだ進化の余地があると思っています。

4Gamer:
 いかにリッチなゲーム体験を提供できるかが重要だ,ということですか?

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吉田氏:
 ええ。ただそれは,何もイコールで「コアなゲーム」という話にはならなくて。例えば,「ギターヒーロー」のようなゲームであったり,ウチで言えば,EyeToyなんかの需要もそうなんですけど,ファミリー向けで,ライトなゲームをみんなでリビングで遊ぶっていう需要もあるわけじゃないですか。そういうものが,スマートフォンが出てきて全部無くなるかといったら,やっぱり無くならないだろうと思っているんですよ。

4Gamer:
 ホームシアター市場なんかと同じように,リビングに大きなテレビとソファーがあって,そこでじっくりとコンテンツを楽しむ――そういう環境というかニーズが,ゲームでもそう簡単に無くなるわけではないってことですか。

吉田氏:
 そうそう。そういう意味では,映画とかだって同じですよね。家のリビングに大きなテレビがあって,どんなにDVDやBlu-rayが普及していても,映画館に足を運ぶっていうのはやっぱり特別な面白さがあります。巨大なスクリーンや個人では用意できないような音響,あるいはデートのような特別なシチュエーションなどがあるから,映画館に行きたいというニーズは簡単には無くなりません。

4Gamer:
 では,質問の仕方を変えさせていただきます。吉田さんは,そもそも「据え置きゲーム機の価値」というか,その本質はなんだとお考えですか?

吉田氏:
 そうですねぇ。これは逆説的になるんですけれど,今っていろいろなデバイスでゲームが遊べる時代じゃないですか。動画を見るだけなら別にPS4である必要はないし,セットアップボックスみたいな端末からでも,今はゲームがプレイできる時代ですよね。スマートフォンについても,今さら説明は無用でしょう。

4Gamer:
 はい。

吉田氏:
 それでも,我々(SCE)はゲーム機というものを作るし,ゲームを中心にビジネスを展開していくわけですよね。それは一体なぜなのかって話だと思うんですよ。

4Gamer:
 なぜなんですか?

吉田氏:
 それはやっぱり,まずゲームというエンタテインメントには大きな魅力があって,多くの人を惹きつける力があるからだと思うんです。そして,ゲーム自体にもまだまだ発展の可能性があるから,我々はPlayStation商品を展開し,ゲームを中心にしたビジネスをやっていると思うんですね。
 今は,スマートフォンやソーシャルゲームがもの凄くはやっていますが,私もあれは,ゲームの進化の一つの方向性だと思っています。でも,ゲームの可能性がそこですべてまかなえるわけじゃない。据え置き機――PS4ならではの面白さやニーズも必ずあると考えているんです。

4Gamer:
 ただ,ゲーマーとしての視点で見ると,やっぱり「コンシューマゲームはこの先どうなってしまうんだろう」という不安感が拭えないところもあると思うんです。PS Vitaにしても,現状は苦戦していますよね。

吉田氏:
 苦戦しているのは確かですけど,「ソウル・サクリファイス」の売り上げが好調で,最近は,PS Vita本体の販売も非常に良いです。また,パブリッシャさん/デベロッパさんから,PS Vitaでゲームを出したいというお話もどんどん頂けるようになってきました。

4Gamer:
 確かに最近,パブリッシャさんがプラットフォームとしてのPS Vitaを見直す動きが出てました。

吉田氏:
 ええ。そういったお話がいろいろ出てきたので,感触としては良い傾向になってきたなと思っています。まだまだ我々がやれること,やるべきことはたくさんあると考えていますよ。

4Gamer:
 思い返せばPSPの時も,SCEさんはかなり粘り強い戦いをされていましたよね……。

吉田氏:
 しぶといんですよ,我々は(笑)。

4Gamer:
 話を戻すと,ゲーマーだってみんなスマートフォンを持っているし,ソーシャルゲームだって普通に遊びます。だけど,“それだけになってほしくない”とは,やっぱり思うんですよね。一プレイヤーとしては,いろんなゲームが遊びたいんです。

吉田氏:
 PlayStation Meeting 2013では「Consumer focus」という言葉を何度も繰り返しましたよね。PS4の開発テーマは「ユーザーさんがどうやって遊ぶのか」という点にあります。ゲームを遊びたいときに遊べるですとか,家にいないときでも,今持っているデバイスでゲームの世界とつながれるですとか,もっとゲームそのものを皆さんの生活の中に溶け込ませていく。そんなゲーム環境を実現したくて,さまざまな工夫やサービスを盛り込んでいます。もちろん,SCEの,あるいはPlayStationのアイデンティティとして,ハードウェアの進化にも妥協はしていません。
 ゲームが好きでもっと遊びたい人が,いかに気持ちよく遊べるか。そしてさらに,ゲームを作りたい開発者の人にとっても,いかに作りやすい環境を構築するか。PS4は,そういった部分に力を注いでいます。

4Gamer:
 これもまた,いじわるな問いかけになってしまいますが,今は,コンシューマゲームの企画が通りにくいのも確かだと思うんです。

吉田氏:
 そうですねぇ。上司から「それで,いくら儲かるんや!」とか言われてしまうと,なかなか企画が通りにくいって話は聞きますよね。上司を説得できないと。

4Gamer:
 ええ。でも,クリエイターさんの「作りたい!」っいう情熱の行き場がないっていうのは,凄くもったいないんじゃないかって,最近よく思うんですよね。

吉田氏:
 おっしゃる通りですね。その意味でいうと,PS4について,私がパブリッシャさんやクリエイターさんに常々お伝えしていきたいと思っているのは,「PS4向けのタイトルだからといって,みんながみんなKILLZONEのようなタイトルを作る必要はない」というところなんですよ。確かにPS4では,スペックがぐんと良くなって,リアルで凄いゲームが作りやすくなりました。でも,PS4の良さは何もそれだけではありません。
 これまでお話してきたように,ゲームが好きな方がより快適に遊べるところであったり,簡単に作れるところであったり。我々がハードウェアを頑張ってたくさん売って市場を広げるってところも含めて,「ゲームのプラットフォームとしてよりよい形」を目指すというのが,我々がPS4で志すところなんです。

Killzone Shadow Fall
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4Gamer:
 うーん。そういうお話でいうと,今,ゲームビジネスを“専業”にするプラットフォーマーに求められる役割って,いったいなんなんでしょうねぇ。

吉田氏:
 個人的には,やっぱりゲームは常に進化しなければならないと思っています。技術的にも,ビジネス的にも,あるいは遊び方の幅にしても。その意味で考えれば,スマートフォン向けのソーシャルゲームも,それはひとつの進化の形であって,据え置き型のゲーム機では実現しづらいような手軽さ/間口の広さだったり,ほかのユーザーさんとのつながりであったり,良い面がたくさんあるわけじゃないですか。

4Gamer:
 そうですね。

吉田氏:
 我々としては,そういった良さを否定するのではなく,全部取り入れていって,そのうえで「『ゲーム専用機』でないとできない体験/環境」を実現していきたいんです。PS4には,そのためのいろいろなアイデアを盛り込んだつもりですし,ゲーム業界の皆様にも,PS4という新しい環境で,いろいろな遊び方を提案していただけることを期待しています。

4Gamer:
 ゲーム業界全体がより豊かになるためにも,PS4の成功を期待しております。本日はありがとうございました。

吉田氏:
 こちらこそ,ありがとうございました。

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 PS4にまつわる吉田氏との対話から,ゲーム市場の未来,そして可能性について探ってみた今回のインタビュー。ゲーム「も」遊べるさまざまな汎用デバイスが広がるなかで,PS4がどういったビジョンを持ち,ゲームビジネスを展開しようとしているのか。そのいくつかは拾えたのではないだろうか。

 これは,以前のPS Vitaについてのインタビューでも感じたことだが,ゲームビジネスに対する吉田氏の見解は,方向性が非常に明確で,ブレがない。それは一言で言うなら,ゲームこそが最先端のエンターテイメントであり,まだまだ発展の余地が大きいということ。そして,だからこそ,いろいろなニーズと可能性がある分野なのだ――という視点である。
 スマートフォンがいかに普及しようとも,映画が映画であり続けるように,ゲームもまたゲームであり続けるという氏の見解は,非常に納得できる一方で,映画産業が踏んできた轍をゲーム産業が踏みつつある(というか,すでに踏んでいる)という話でもあり,いろいろと考えさせられてしまった。

 個人的には,PS4のアーキテクチャ変更がPC/オンラインゲーム市場を念頭に置いた結果というわけでなかったというのが予想外ではあったが,現状の動向を見る限り,(結果としては)PS4がPC/オンラインゲーム市場に対して大きな影響を及ぼす可能性は高いように思える。
 Blizzardのタイトルを筆頭に,RTSやMMORPGのような,これまでPCオンラインゲーム市場を中心とした作品群がコンシューマゲーム市場でもっと展開されるようになるかもしれない――というのは,少なくともゲーマー的には明るい未来図であるように感じられた。

 7年ぶりに刷新のタイミングを迎える据え置きゲーム機市場。すでに発売されている任天堂の「Wii U」に加え,マイクロソフトからは5月22日に次世代Xboxが発表されることもアナウンスされており,再びの激戦が予想されている。
 莫大な開発費が掛かる超大作ゲームをどう扱い,逆にインディーズゲームのような分野にどう向き合うのか。Free to Play,オンラインゲーム,動画配信などなど,さまざまな要素が交錯していくなかで,PlayStation 4は停滞するコンシューマゲーム市場のカンフル剤となれるのか否か,注目していきたい。

「PlayStation 4」公式サイト


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    PS4本体

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