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ゲーマー向けディスプレイはウルトラワイドに注目! CES会場で見つけた2023年期待のゲーマー向けディスプレイやテレビを総ざらい
PCゲームが盛んで,なおかつ大型ディスプレイの設置スペースにも余裕がある北米の住環境では,ウルトラワイドのゲーマー向けディスプレイにかなり高い注目が集まる。CES 2023においても,いくつものブースでゲーマー向けウルトラワイドディスプレイの新製品が展示されていた。それらをピックアップしていきたい。
Samsungからは量子ドット有機ELモデルと8KミニLEDモデルが登場
まずは,アスペクト比32:9ディスプレイの先駆者であるSamsung Electronics(以下,Samsung)から。
Samsungは,2017年に業界初の32:9ゲーマー向けディスプレイ「C49HG90」(関連記事)を発売して以降,継続的に,このタイプの新製品を発表している。そして2023年は,「Odyssey Neo G9」(型番:G95NC,以下 型番表記)と「Odyssey OLED G9」(型番:G95SC)の2モデルを投入する。
G95NC最大の特徴は,ミニLED×量子ドット技術を適用した液晶パネルと,シリーズ初の57インチサイズで,解像度を7680×2160ピクセルに引き上げたところ。曲率は1000R(=半径1000mmの円を描くカーブ)という点は,既存製品と同じだ。
DP 2.1は,「UHBR 13.5」(Ultra-High Bit Rate)モードで54Gbps,より高速な「UBHR 20」モードでも80Gbpsなので,どちらにしろ100Gbpsの要求帯域を満たせない。そこで,HDMI 2.1やDP 1.4で採用済みの不可逆圧縮技術「Display Stream Compression」(DSC)技術の適用で,54Gbps未満に圧縮することで伝送を可能にするわけだ。
2023年1月時点で,DP 2.1/54Gbpsモードの出力に対応しているGPUは,AMDのRadeon RX 7000シリーズしかない。それもあってかAMDブースでは,この点をアピールする展示として,G95NCを目立つように展示していた。
49インチの従来モデルの没入感もすごかったが,57インチとなったG95NCは横長感がさらに増した印象で,没入感というか,映像パネルに囲まれている感が増したようだった。また,従来の49インチモデルでは,若干遠目に視距離をとった場合に,縦幅が物足りない感じが否めなかったが,57インチに大きくなった本機では,視界の縦方向にも十分な大画面感が得られるようになっている。
ミニLED採用機らしく,輝度も非常に明るくて,HDR表示スペックはVESAのHDR関連規格「DisplayHDR 1000」に準拠するとのこと。
ちなみに,従来の49インチ/アスペクト比32:9モデルは,画面サイズがアスペクト比16:9の27インチディスプレイを横に2台並べた大きさに相当した。一方でG95NCは,三角比で計算するとアスペクト比16:9の3840×2160ピクセル(以下,4K)の32インチディスプレイを横に2台並べた大きさに相当することになる。4Kの32インチディスプレイといえば,Windows環境で拡大率を100%で表示してもちょうどいいくらいの大きさなので,これがベゼルレス2画面分に相当する本機は,ゲーム用途のみならず,普段のPC用途においても相当に使いやすそうなディスプレイになりそうだ。
発売時期や価格は,ともに未定だが,先例どおりなら発売時期は夏頃か。価格は,従来モデルが登場時に2300ドルだったので,それを上回ることは間違いないだろう。Samsungは日本のディスプレイ市場に正式参入していないのが,なんとも残念である。ぜひとも日本での発売も行ってほしいものである。
もう一機種のG95SCは,Odyssey OLED G9という名称からも分かるとおり,Odyseey G9シリーズの有機EL版だ。
こちらは画面サイズが49インチで,解像度が5120×1440ピクセル,最大リフレッシュレートが240Hzとなっている。2022年モデルのOdyssey G9 Neo液晶モデルをベースに,スペックそのままで映像パネルを有機EL化した製品といったところだろうか。
有機ELパネルは,Samsung独自の「QD-OLED」パネルを採用する。これは本機を語るうえで最大の特徴だろう。
QD-OLEDパネルは,1年前のCES 2022で発表となった量子ドット技術を適用した有機ELパネルで,SamsungグループのSamsung Displayが世界初の量産化に成功したものだ。量産が始まって間もないこともあって,QD-OLEDパネルを採用した製品はまだ少ない。Samsung製品はいわずもがなだが,2023年1月時点では,国内メーカーだとソニーの「BRAVIA A95K」シリーズにしか採用されていない。
実際,裏に回ってボディを観察したところ,劇的に薄くなっていることを確認できたので,相当に軽量になったと思われる。従来の液晶モデルでは,スタンド込みの重量が約15kgだったので,筆者の予想では10kg以下になっていそうだ。
さて,アスペクト比32:9の液晶モデルと比べて劣るところはほとんどない本機だが,実は曲率が1000Rから,ひっそりと1800R(=半径1800mmの円を描くカーブ)へ引き下げられている。数値が大きいほど平面に近いので,曲率が緩やかになったわけだ。
バックライトも不要で,樹脂フィルム基板による有機ELパネルであれば,1000Rの実現は難しくないはず。1800Rで妥協した理由についてSamsung担当者に聞いてみたが,回答は得られなかった。もしかすると,ディスプレイ部が薄型になったゆえに,ディスプレイとしての強度確保といった事情があるのかもしれない。
発売日は未定であるが,2023年内発売とのこと。価格も未定であるが,既存製品以上ということなので,2300ドル以上になるとみられる。
TCLからさまざまなアスペクト比32:9ディスプレイが登場
テレビでは日本市場に参入している中国のTCLだが,CES 2023では数多くのゲーマー向けウルトラワイドディスプレイを展示していた。
ひとつめは,リモコンで曲率が変えられるアスペクト比32:9のゲーマー向けディスプレイから。
映像パネルは49インチサイズのVA型液晶パネルで,有機ELパネルでなく液晶パネルで可変湾曲を実現してしまったというのが売りだ。解像度は5120×1440ピクセルで,最大リフレッシュレートは120Hzといったスペックを有する。仕様的には,現行のアスペクト比32:9ディスプレイのほぼ上位に相当する仕様だ。
最も曲がっている状態は1500Rで,ここから平面状態まで無段階で曲げられるとのこと。ただ,残念ながら試作機ということで,筆者がブースを訪問したときは,平面から曲げ状態へのデモは見れなかった。発売時期,価格はともに未定だ。
次は,ミニLED×量子ドット液晶パネルを採用したアスペクト比32:9のゲーマー向けディスプレイである。発売時期,価格はともに未定だ。
映像パネルは49インチのVA型液晶パネルで,解像度は5120×1440ピクセルで,応答速度約1.9ms,最大リフレッシュレートは240Hzといったスペックを有する。ポイントは,ミニLEDによるバックライトを採用することで,バックライトのエリア分割数は5120にもなるという。さらに,ダイナミックコントラスト比は100万:1で,VESAの「DisplayHDR 1400」に準拠しており,ピーク輝度は1800nitに達するそうだ。
さて,ここまでの仕様は,2022年モデルのSamsung「Odyssey G9 Neo」とほぼ同等なのだが,「曲率で競合を上回る」というのがTCL側の主張である。曲率がOdyssey G9 Neoの1000Rを上回る800Rだからというのが,その根拠だ。
展示されていたデモ機を見ただけでは,展示機の800Rと競合の1000Rに差があるのかは実感できなかったが,アスペクト比32:9のゲーマー向けディスプレイでは,曲率競争が起きているという事実に筆者は驚愕してしまった。
そのほかにもTCLでは,ミニLED×量子ドット技術を採用した34インチで3440×1440ピクセル,アスペクト比21:9のミドルクラス市場向けゲーマー向け液晶ディスプレイや,49インチで3840×1080ピクセル,アスペクト比32:9のエントリー市場向け液晶ディスプレイを出展していた。
ちなみに,TCLには,傘下のTCL CSOT(China Star Optoelectronics Technology)という映像パネルメーカーがあり,とくに同社の高速応答を売りにしたVA型液晶「Fast-HVA液晶」は,価格対性能比に優れるため,ゲーマー向けディスプレイ向けとして強く訴求されている。上で紹介したTCLのゲーマー向け液晶ディスプレイは,すべてFast-HVA液晶パネルを採用しているそうだ。
またTCL CSOTは,2020年に,日本の有機ELパネルメーカーであるJOLEDと資本業務提携を締結しており,当時,JOLEDが不得意だったテレビ向けの大型有機ELパネルの製造に乗り出すという方針を発表している。CES 2023では,その成果とおぼしき展示も目に付いた。
JOLEDは,有機ELパネルの赤緑青(RGB)サブピクセルを形成するのに不可欠なRGB有機材の塗布に,インクジェットプリンタを活用する印刷式の製造技術を確立しているが,これまでに量産して製品化まで実現できたのは,最大32インチまでだった。それが今回,65インチ,8K解像度の印刷式有機ELパネルを実動展示していたので,隠れた展示の目玉だったと言えよう。
ウルトラワイドでは21:9に注力するLG
LG Electronics(以下,LG)は,ゲーマー向けウルトラワイドディスプレイの主力をアスペクト比21:9に据えており,32:9の製品には,それほど力を入れていない。実際,2019年以降,LGは32:9のモデルを製品化していない。
CES 2023においてLGがイチオシしていたのは,アスペクト比21:9の新製品「LG UltraGear OLED 45GR95QE」(以下,45GR95QE)だった。
解像度は3440×1440ピクセルなので,それほど高解像度というわけではないが,45GR95QEは,映像パネルに有機ELパネルを採用しているという点が最大の特徴になる。
画素応答速度は0.03msで,一般的なゲーマー向けディスプレイの30〜100倍以上速いのも売り。0.03msといえば,理論上は3万fpsの表示が可能となるわけだが,さすがにそんな高ビットレートでの映像伝送ができるインタフェースはないので,本機の最大リフレッシュレートは240Hzだ。
画面サイズは,LG製のアスペクト比21:9湾曲型ディスプレイとしては初の45インチを採用する。これまでLGの湾曲型21:9ゲーマー向けディスプレイの最大画面サイズは40インチだったので,かなり大きくなったわけだ。曲率も,LG製としては最も大きい800Rを実現している。これまでは,最も曲率の高い製品でも1500R止まりだった。ピーク輝度は1000nitで,有機ELパネルとしてはかなり明るい。
北米ではCES 2023の会期中に発売となり,LG直販サイトでの税別価格は1699ドル(約22万円)となっている。
ウルトラワイドではなくアスペクト比16:9だが,LGは,27インチサイズで2560×1440ピクセルの有機ELパネル採用ゲーマー向けディスプレイ「LG UltraGear OLED 27GR95QE」(以下,27GR95QE)も合わせて発表している。
27GR95QEは,45GR95QEを27インチ,16:9にしたような製品で,画面サイズや形状にかかわるスペック,具体的にはリフレッシュレートや応答速度,輝度,インタフェースなどは共通だ。
こちらも北米ではCES 2023会期中に発売となり,税別の直販価格は999ドル(約12万9000円)である。
そのほかにもLGブースでは,日本でも2023年1月下旬に発売予定の有機ELテレビ「LG OLED Flex 42LX3QPJA」も展示されていた。人気の秘密は,電動による曲率の可変機能だ。
こちらは,ウルトラワイドではなく,ゲーマー向けディスプレイでもない,アスペクト比16:9の42インチ4K解像度の有機ELテレビなのだが,カーブの曲率を完全平面から曲率900Rまで,リモコン操作で変更できるのが最大の特徴となっている。
テレビであるから,BS/CSデジタル放送用のチューナーを2基,地上デジタル放送チューナーを3基搭載しており,USB HDDへの番組録画にも対応するという。日本のチューナー仕様にも対応するそうだ。総出力40WのDolby Atmos対応スピーカーも搭載する。
LG独自の「Web OS」を搭載しており,NetflixやDisney+,Amazon Prime VideoやU-NEXTなど,一般的な動画配信サービスのアプリを利用可能だ。
逆に,テレビであるがゆえに,映像入力インタフェースはHDMI 2.1のみで,DisplayPortは備えていない。最大リフレッシュレートが120Hz止まりなのもそのためだ。応答速度0.1msというスペックを生かし切れないのは,少々もったいない。
LG OLED Flexは,日本でもすでに予約が始まっており,2023年1月上旬時点の実勢価格は約44万円である。画面サイズから考えると割高感は否めないが,世界初の電動湾曲ギミック搭載テレビとなれば,初物価格ゆえに致し方なしといったところか。
シャープは120インチの4KミニLED AQUOSプロトタイプを展示
最後に,ゲーマー向け製品ではないが,シャープの参考出展を紹介したい。
同社が披露していたのは,独自のミニLED方式バックライトシステム「XLED」を採用した120インチの大型AQUOSのプロトタイプだ。
重量はテレビ本体のみで約100kgで,チューナーは非搭載。量産に向けたプロトタイプだとのことで,販路も未定だ。仕様を聞いた感じでは,基本的には業務用ディスプレイとなるようだ。
価格も未定であるが,シャープ関係者は「3桁万円と4桁万円の境界あたりになるのではないか」と話していたので,1000万円前後あたりが目安となりそうだ。
ちなみにシャープは,2020年に,120インチ8Kの業務用ディスプレイ「8M-B120C」を,約1400万円で発売したことがある。8M-B120C比較すれば,今回の展示モデルは,解像度こそ4Kに下がりつつも,バックライトシステムが通常のLEDからミニLED×量子ドットになって,より高度な技術を採用しているので,先述した予想価格には,ある程度納得できる。
「ミニLEDの個数やエリア駆動のゾーン分割数は非公開」(シャープ)であるが,「販売中の『AQUOS XLED DP1/EP1』シリーズと比べて,ピーク輝度は1.5倍ほどある」というヒントはもらえた。
実際に映像を見た印象だが,輝度は非常に高く,画面の隅から隅までコントラスト感が強烈だ。ピーク輝度は最低でも2000nitはあり,3000nit以上でもおかしくない。量子ドットの効果もあって,原色の発色も鋭かった。プロジェクタ級の画面サイズを,この輝度と発色で見られるのは素晴らしいことだ。
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