今週のテーマ:10年経っても,怖いものは怖い
寒い冬こそホラー! なぜなら,今週の
「東京レトロゲームショウ2015」は,今からちょうど10年前の2005年にリリースされたホラーFPS,
「F.E.A.R.」を取り上げちゃうからだ。ああ,なんか怖い。
本作を開発したのは北米のMonolith Productionsで,1994年の創業以来,さまざまなタイトルを手がけてきた中堅デベロッパだ。同社の作品としては,
「Shogo: Mobile Armor Division」(1998年)を知っている人も多い(個人的には2人ほど)はずだ。日本の
アニメテイストを前面に押し出した,開発者の趣味が感じられまくるロボットアクションで,“Shogo”とは登場するロボットの名前だ。漢字だと「昇剛」になる。主人公の名前はSanjuro Makabe(マカベ・サンジュウロウ)で,ゲームには,昇剛を降りて自分の足で戦うFPSパートもある。
Paxton Fettelに率いられたクローン部隊が,突如反乱を起こすところからゲームは始まる
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同社がブレイクしたのは,たぶん2000年に発売された
「The Operative: No One Lives Forever」だろう。“NOLF”の略称で知られる同作は,1960年代に量産されたB級スパイアクションの雰囲気を再現した世界観の中で,女スパイである
ケイト・アーチャーが大活躍するFPSだ。発売と同時に大評判になり,数々のゲーム賞を受賞した。
ちなみに筆者はケイトの大ファンで,続編の
「No One Lives Forever 2: A Spy in H.A.R.M.'s Way」(2002年)では,彼女のポリゴン数もさらに増えて美人になったので,この連載でもぜひ取り上げたいと思っていた。ところが現在,シリーズの版権は相当ややこしいことになっているようで,オンラインゲーム配信サイトでも,買えない状況が続いている(
関連記事)。誰か,売っているところを知りませんか? まあ,パッケージ版を持っているからいいけど,シリーズの最新作ついてはかれこれ13年ぐらい待っている。もうケイトには会えないのだろうか。
彼がFettel。赤い服の少女に操られているようにも見える
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F.E.A.R.の隊員達。左から順に,Jankowski,Jin,Betters
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ともあれ,NOLF2のほか,
「Tron 2.0」「The Matrix Online」「Condemned: Criminal Origins」など,個性的な作品を作ってきたMonolithだったが,この「F.E.A.R.」以降,ヒット作がなく,2004年にはWarner Bros. Interactive Entertainmentに買収されてその傘下に入った。このまま終わってしまうのかな? と思っていたが,彼らの最新作
「Middle-earth: Shadow of Mordor」(2014年)はセールス的にもメディア/ユーザーの評価的にもたいへんベリーグッドで,華麗な復活を果たした。めでたしめでたし。あ,終わっちゃいけない。
全編,かなり血まみれ。ゴア表現もきつめだ
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登場するキャラクターはそれほど多くないが,みんな,何やら秘密を持っている様子
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さて,F.E.A.R.とは,
First Encounter Assault Reconの略であり,超自然現象に即応する特殊部隊の名前だ。超自然現象がそんなにしょっちゅう起きるとも思えないが,備えあれば憂いなし,ということだろう。
そんな折,大手兵器産業のArmacham Technology Corporation(ATC)で大事件が発生する。ATCでは,アメリカ軍と契約して
クローンスーパーソルジャー部隊を開発中だったが,彼らをテレパシーで指揮するために生み出された男,
Paxton Fettelが突如反乱を起こして,ATCの警備員らを次々に殺害していったのだ。えらいこっちゃ。かくして,わずか1週間前にF.E.A.R.に配属されたばかりの主人公(プレイヤー)は,逃走したFettelとスーパーソルジャー軍団を追っていく……という感じの設定だ。
全体的に,暗い画面が多い。マップは基本的に一本道だが,迷路のようになっており,やや単調でもある
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この記事のために,久々にプレイしてみたが,まず驚いたのはそのグラフィックスだった。すでに10年が経過しているというのに,ほとんど古びた感じがしない。ゲームエンジンは,Monolithが独自に開発した「LithTech」シリーズの(そのときの最新版だった)
「LithTech Jupiter EX」が使われている。前年(2004年)にリリースされた
「Half-Life 2」と
「DOOM 3」によって,FPSのグラフィックスは新たな次元に突入していたが,それらにも負けないほどの優秀なエンジンだったと思う。発売当時,設定をすべて最高にするとプレイできないほどのフレームレートになってしまったが,今なら問題なしでサクサク動くので,よく分からないけど,10年ぶりに勝った気がしている。
F.E.A.R.の特徴は,冒頭にも書いたように
ホラー要素がやたらと強いことだ。それも,アメリカンなショッカーというより雰囲気重視のウェットなもので,それを象徴するのが赤い服の謎の少女,
Almaだ。
主人公の行く先々で突然幻のように現れ,我々をビクッとさせてくれる彼女は,実体はないようだが,人間を一瞬で骨に変えたり,あたりを炎に包んだり,悪霊みたいなものを呼び出したりなど,かなり恐ろしい。視線の端で何かが動いたり,何の脈絡もなくちょいグロな映像がいきなり表示されたりと,演出はかなり凝っている。また,
スプラッター要素も割と濃厚で,主人公の行く先々で血の海が広がる。出血量は多く,ゴア表現もかなりきつめだ。
果たして彼女は何者なのだろうか? そして,Fettelの目的は? とっくのとうに知っている人も少なくないと思うが,ぜひ筆者と一緒に疑問に思ってほしい。あ,そこの人,言っちゃダメ。
Slow-Mo状態で敵を撃つと,あり得ない勢いでぶっ飛んでいったりする
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敵の種類はそれほど多くない。こいつは非常にすばしこく,しかも姿を消して殴りかかってくるという,やっかいなヤツらだ
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戦闘の特徴は,やはり
Slow-Mo(スローモ)だろう。これはいわゆる“バレットタイム”で,所定のキーを押すことで一定時間,周囲の動きがスローモーションになり,大量の敵が相手でも大丈夫になるというものだ。しかも,Slow-Mo中は弾丸の破壊力やパンチの打撃力も向上するので便利だ。ちなみに,なぜ主人公がこんな特殊能力を持っているのかについては,知っているけど言えない。
FPSの開発に経験が豊富なMonolithだけに,銃撃戦の爽快感は
非常に高い。曳光弾が飛び交い,撃たれた敵が血を噴き上げつつ吹き飛び,壁に穴が開き,あたりに粉塵が立ちこめて視界が悪くなる,といった感じで迫力満点だ。遮蔽物の影に隠れたり,仲間と協調して攻めてきたりと,敵のAIは優秀で,緊張感が高い。最低難度でも結構やられるオレ。
Fettelを追う中,赤い服の少女の正体や,ATCだけでなく政府までも関係しているらしい
「Origin計画」の全貌が次第に浮かんでくる。クライマックスは畳み込むような展開で,最後に出てくるAlmaの姿はかなりショッキングだ。うわー,怖い。
不意に,不気味なイリュージョンが出てくる
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というわけで,そんなF.E.A.R.は現在,「Steam」などのオンラインゲーム配信サイトで購入が可能になっている。ただし,参加者全員がSlow-Moを使えるというユニークなマルチプレイは,残念ながらすでに終了している。原稿執筆時点で,「Steam」での価格は980円で,しかも,拡張パックの
「F.E.A.R. Extraction Point」と
「F.E.A.R. Perseus Mandate」まで付いてくるっぽいので,まあ奥様,お得ね。1回夕食を抜くぐらいで買えてしまうので,未プレイという人はぜひ試してみよう。