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[GDC 2015]プレイヤーが持っている「偏見」を逆手に取った,「This War of Mine」のゲームデザイン
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印刷2015/03/05 14:44

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[GDC 2015]プレイヤーが持っている「偏見」を逆手に取った,「This War of Mine」のゲームデザイン

画像集 No.007のサムネイル画像 / [GDC 2015]プレイヤーが持っている「偏見」を逆手に取った,「This War of Mine」のゲームデザイン
 戦時下における一般市民の過酷なサバイバル生活を描いた「This War of Mine」は,そのシリアスなゲームデザインゆえに,「鬱になるゲーム」として話題を呼んだ。
 そんな本作を開発した11 Bit StudiosのPawel Miechowski(パヴェル・ミエホフスキ)氏が,「This War of Mine: Raising Emotions From Unique Narrative」(This War of Mine:感情を呼び起こす独特な物語)と題する講演をGame Developers Conference 2015で行った。プレイヤーの感情に訴えかけるゲームの物語づくりについて解説があったので,その内容をお伝えしたい。

「戦争では皆が兵士というわけではない」という,印象深いキャッチコピーを掲げたThis War of Mine。テーマからストーリーまで,プレイヤー心理の裏をかいたような作り込みがなされている
画像集 No.002のサムネイル画像 / [GDC 2015]プレイヤーが持っている「偏見」を逆手に取った,「This War of Mine」のゲームデザイン

 ミエホフスキ氏は「皆さんは映画を見て,涙したことがありますか? くだらない映画を借りてしまったからではなく,映像を見て内面から感情が沸き起こったことがあるかということですよ」というジョークで講演をスタートした。
 「映画を見て悲しくなったり,大笑いしたりしたことは誰にだってあるだろう。それは各自の内面から発せられる感情であり,そうであるならばインタラクティブなゲームは,映画よりも人々の感情を引き出せるはずだ」というのが,This War of Mineの開発を始めた原点だったという。

11 Bit Studiosのシニアライター,Pawel Miechowski(パヴェル・ミエホフスキ)氏
画像集 No.003のサムネイル画像 / [GDC 2015]プレイヤーが持っている「偏見」を逆手に取った,「This War of Mine」のゲームデザイン
 ゲーマーが「戦争をテーマにしたゲーム」と聞けば,銃を持って戦場を走り回り,敵兵を条件反射でキルしていくようなタイトルを思い浮かべると思う。しかし,11 Bit Studiosは,1990年代のサラエボや現在の中東情勢を参考にして,「兵士ではなく,一般市民の視点で戦争はどう映るか」という観点から企画を立ち上げた。プレイヤーの目的は「戦時下で生き残ること」となったものの,その当時はストラテジーにするのか,シューティングにするのかといった明確なジャンルは想定していなかった,とミエホフスキ氏は語っている。

 そんな折,プロトタイプの段階にあるThis War of Mineを,これまでゲームをしたことがないという女性にプレイしてもらう機会があった。すると,その女性は民家から物資を盗むことに成功したものの,その後,引き返して半分だけ戻すという行動に出たという。「皆が生き延びるために必死。それなのにすべてを奪ってしまうのは心苦しい」という彼女の感情が,テキストにもストーリーにも存在していない行動を決めさせたわけだ。
 それを見た11 Bit Studiosのスタッフは「プレイヤーが自らの行動を判定する」というゲームデザインを思いつき,まだ明確なルールがなかったThis War of Mineのコンセプトに組み込むことを決めたのだという。

画像集 No.004のサムネイル画像 / [GDC 2015]プレイヤーが持っている「偏見」を逆手に取った,「This War of Mine」のゲームデザイン
プレイヤーが選んだ行動を自己評価できるようなゲームシステムが採用されている

 This War of Mine以外にも,こうしたモラルの要素が組み込まれているゲームは存在する。だが,それらは開発者がゲームデザインの都合で設定した範囲内で行動するものがほとんどだ。その点,This War of Mineではプレイヤーの行動が,それぞれのキャラクターの意識に反映されるシステムになっている。

画像集 No.005のサムネイル画像 / [GDC 2015]プレイヤーが持っている「偏見」を逆手に取った,「This War of Mine」のゲームデザイン
 たとえば,元アスリートの「Pavle」は足が速く,スカウトとしての利用価値は高いものの,怯える老夫婦から物資を強奪すると,隠れ家に帰ってきた後も「あの夫婦はどうしているのだろうか」と良心の呵責に苦しみ,さらには自殺にまで追い込まれることだってある。つまり,Pavleの感情がプレイヤーにもフィードバックされるというわけだ。
 また,別のイベントでは,男の子が薬品をもらいに隠れ家を訪ねてくるが,なぜ薬品が必要なのかは多くを語らない。プレイヤーは,「母や妹が苦しんでいるのか,それとも子供であることを利用した物取りなのか」というストーリーの裏を読み,自分なりに判断するしかないのだ。ここで薬品を渡そうが渡すまいが,その男の子は再び訪ねてくるが,そのときにも「前回,薬品を渡したから調子に乗っているのか」「薬品をあげなかったから,家族は死んでしまったのではないか」と想像することになる。

インベントリが「Our Things」になっているのも,プレイヤーとキャラクターは運命共同体であることを意識づけさせるための試みだ
画像集 No.006のサムネイル画像 / [GDC 2015]プレイヤーが持っている「偏見」を逆手に取った,「This War of Mine」のゲームデザイン

 さらに,ミエホフスキ氏は「戦争のゲームといえば,プレイヤーは目の前に現れるキャラクターを敵だと認識します。これが長年のゲーム経験から得られたものなのか,元々人間とはそういうものなのかは分かりません。しかし,戦争に対する視点を兵士から市民に変えただけでも人々はショックを受けます。我々はThis War of Mineで,このような,ゲーマーが持っている偏見をずらしてみるようなことを多用したのです」と続けた。

 本作では,物乞いのような男に遭遇する場面があるが,彼は何を要求するでもなく「やあ,元気かい?」と声をかけてくる。多くのプレイヤーは「貧しくて苦しんでいるだろうから,襲い掛かってくるに違いない」と身構えるかもしれないが,その思考がずれたときに,ミエホフスキ氏が「プレイヤーはそのときに初めてじっくり考えるようになる。感情は,潜在意識から生まれるものだから」と語るように,非ゲーム的な新鮮な感情が内面から沸き起こることを期待しているわけだ。

画像集 No.008のサムネイル画像 / [GDC 2015]プレイヤーが持っている「偏見」を逆手に取った,「This War of Mine」のゲームデザイン
This War of Mineは多くを語らず,また見せない。キャラクターの死さえ,プレイヤーの想像力に委ねられている

 こうしたThis War of Mineの意外性は大きな話題となり,リリースから2日間で開発費を回収できたという。当然ながら,そのゲームコンセプトも高く評価され,今年のIndependent Games Festivalでは大賞にノミネートされている(関連記事)。AAAタイトルを扱う大手パブリッシャからは発売されにくいタイプの作品だが,少しでも興味を持ったなら,遊んでみる価値のあるタイトルだ。

「This War of Mine」公式サイト

GDC公式Webサイト

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