レビュー
補助電源不要の消費電力66W版GeForce 9800 GTを検証する
GALAXY GF P98GT/512D3/LOW POWER
» NVIDIAのパートナー数社からアナウンスのあった,低消費電力版GeForce 9800 GT。先に登場した消費電力59W版「GeForce 9600 GT」カードと同様,補助電源コネクタ不要で動作するグラフィックスカードとしては最高のスペックを誇るが,その意義はどこにあるだろうか。Jo_Kubota氏による検証結果をお届けしたい。
補助電源コネクタを持たない仕様というと,最近では消費電力59W版「GeForce 9600 GT」(以下,9600 GT)が話題を集めたが,PCI Express x16の電力供給仕様となる75W以下で動作する,より上位のGPUを搭載したグラフィックスカードが登場するわけだ。
今回4Gamerでは,GALAXY Microsystems(以下,GALAXY)の販売代理店であるエムヴィケーから,4月中旬発売予定と発表されたばかり(関連記事)の「GF P98GT/512D3/LOW POWER」サンプル品を入手したので,気になる消費電力やパフォーマンスを中心に,テスト結果をお伝えしたいと思う。
特別な名前のない“消費電力66W版9800 GT”を搭載
カード長は186mmと,かなり短い
原稿執筆時点である4月3日22:00現在,NVIDIAの公式Webサイトにこれといった情報はないが,同社の広報担当者に確認したところ,「これは消費電力66W版となるバリエーションモデルである。Webサイトへの情報反映は今後行っていく」という旨の回答が得られた。これといった分かりやすいGPU名は与えられていないとのことなので,消費電力59W版9600 GTと同じく――それこそ今回の「LOW POWER」よろしく――カードベンダーが自前でそれっぽい名称を付けることになりそうだ。
なお,65nm版GPUを搭載したリファレンス仕様の9800 GTだと,公称消費電力は105Wなので,消費電力66W版9800 GTでは,公称消費電力が約40%下がった計算になる。
2スロット仕様のクーラーを搭載するカードの長さは実測で約186mm(※突起部除く)。通常版の9800 GTだと同228mmなので,40mmも短くなったわけだ。
GF P98GT/512D3/TT オリジナル基板にArctic Cooling製GPUクーラーを搭載した静音仕様 メーカー:GALAXY Microsystems 問い合わせ先:[email protected] 実勢価格:1万2000〜1万4000円(2009年4月4日現在) |
GALAXY製の通常版9800 GTカード,GF P98GT/512D3/TT(上)と,クーラーを外した状態で並べてみたところ。オリジナル基板を採用するGF P98GT/512D3/TTのカード長は実測約213mm(※突起部除く)と,リファレンスより短いのだが,GF P98GT/512D3/LOW POWERはさらに短い |
テスト環境は表2のとおり。今回は,先ほど紹介したGF P98GT/512D3/TT,編集部で用意したLeadtek Research製9600 GTカード「WinFast PX9600 GT S-FANPIPE」,そして,AMDの日本法人である日本AMDから貸し出しを受けたHD 4830リファレンスカードを比較対象として用意している。
ただし,これだけではさすがに少なすぎるため,今回は追加で,「Far Cry 2」に付属の「Benchmark tool」を,ゲーム内グラフィックス設定「Very High」で3回ループ実行した平均値と,「ラスト レムナント」PC版のベンチマークソフトを2回連続実行した平均値も求めることにした。
なお,ラスト レムナントは,Unreal Engine 3.0ベースなので,テストするのはアンチエイリアシング&テクスチャフィルタリングを無効化した「標準設定」のみとする。ほかのタイトルは,4xアンチエイリアシング&8x異方性フィルタリングを適用した「高負荷設定」でもテストを行った。
55nm版GPU搭載の通常版比で最大10%の消費電力低減
低消費電力化を実現した背景を探る
というわけで,まずは最も気になる消費電力から見ていこう。テストには,データロギングが可能なワットチェッカー,「Watts up? PRO」を利用し,OS起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,各タイトルごとの実行時として,各時点におけるシステム全体の消費電力を計測した。
その結果がグラフ1で,同じ55nmプロセス版の9800 GTを搭載した通常モデルと比べると,消費電力66W版9800 GT(※グラフ中は「9800 GT[66W]」。以下同)は,アイドル時で約10%,アプリケーション実行時に2〜7%ほど,消費電力が低減しているのを見て取れる。通常版9600 GTより,ほんのわずかに低いレベル,ともいえそうだ。
以上のことから,55nm版GPUを搭載する通常版9800 GTに対して,消費電力66W版9800 GTがより低い消費電力を実現しているのは,主にカードデザインの最適化と,動作クロックの引き下げによるものである可能性を指摘できそうだ。もちろん,「消費電力66W版は選別品」という可能性もあったりするため,断言はできないが,55nm版GPUを搭載した9800 GTから,劇的に消費電力が改善しているわけではないのも,また確かである。
ただし,2008年9月3日に掲載したテストレポートで,65nm版と55nm版の9800 GTを比較したとき,後者が20W近くも低い消費電力値を示していた事実を,忘れるわけにはいかないだろう。
「9800 GTに,65nm版と55nm版が混在している」という,NVIDIAのまいた種に振り回された結果,今回のテスト結果はそれほどのインパクトを持てていないが,消費電力105W版となる65nm版GPU搭載の9800 GTの存在を考慮すれば,十分に意義深いスコアが出ているといえる。
なお,通常版9600 GTとあまり変わらない消費電力ということで,PCI Express x16スロット側の電源供給能力限界に近づいているのではないかと思うかもしれないが,少なくとも,今回のテスト環境において,これといったトラブルは一切なかった。
これは,温度17℃の室内において,PCケースに組み込まないバラック状態で,GPU温度表示機能を持つ「HWMonitor」(Version 1.13)から計測したもの。GPUクーラーがまったくことなるので,あくまで参考となるが,66W版9800 GTのGPU温度が,大仰なGPUクーラーを搭載した通常版9800 GTとそれほど変わらない値に収まっている点は注目しておきたい。
筆者の主観になることをお断りしつつ付記しておくと,ファンの動作音は,どれも同じ程度。高負荷時にも,特別うるさくは感じなかった。
パフォーマンスは順当に下がるも
9600 GTに対する優位性は明確
Streaming Processor数も,ROP数も変わらないので,純粋にコア/シェーダクロック分だけパフォーマンスが低下すると推測される消費電力66W版9800 GTだが,実際のところはどうだろうか。グラフ1,2にまとめた,3DMark06の結果から見ていこう。
消費電力66W版9800 GTのスコアは,通常版9800 GTの96〜98%。クロック引き下げの影響は避けられないが,そう大きくもない,といった印象を受ける。高負荷環境に強いHD 4830に対しても,標準設定では互角以上に立ち回れているうえ,9600 GTには全般的に亘(わた)って完勝だ。
グラフ5,6は,実際のゲームタイトルから,Crysis Warheadの結果をまとめたもの。高負荷設定時は描画負荷が高すぎて,ほとんど比較にならないが,標準設定の,とくに1680×1050ドット以下では,3DMark06と同じ傾向を示しているのが分かる。
ベンチマークレギュレーションから外れて,Far Cry 2とラスト レムナントのスコアをまとめたのがグラフ7〜9だ。いずれも,標準設定の1920×1200ドットにおいて,GPUボトルネックによるスコアの乱れが生じているが,それ以外では「通常版9600 GT以上,通常版9800 GT未満」のところに落ち着いている。
間違いなく下がった消費電力とカードサイズが魅力
“補助電源なしカード”で最速を求めるなら
補助電源コネクタを必要としないグラフィックスカードとしては,疑いなく史上最速の製品であり,小型のPCや,電源ユニットの出力にあまり余裕のないPCで,できるだけ高い3D性能を得たいのであれば,消費電力66W版9800 GT,そしてGF P98GT/512D3/LOW POWERは,有力な選択肢となるはずだ。
予想実売価格も,1万1000〜2000円台が当たり前の通常版9800 GTと比べて「安価である」とまではいえないものの,まあ,許容できなくはないプレミアム(=価格の上乗せ)ではなかろうか。むしろ,ターゲットとなるPC環境を考えると,2スロット仕様のGPUクーラーを搭載することが,最大のネックになるかもしれない。
- 関連タイトル:
GeForce 9800
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