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経営者はプロデューサーをやるべき? コーエーテクモゲームスのシブサワ・コウが語るゲームの作り方[G-STAR 2024]
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印刷2024/11/19 17:34

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経営者はプロデューサーをやるべき? コーエーテクモゲームスのシブサワ・コウが語るゲームの作り方[G-STAR 2024]

 韓国・釜山で2024年11月14日〜17日に開催されたゲームイベント「G-STAR 2024」では,カンファレンスイベント「G-CON」も同時に実施され,11月15日にはコーエーテクモゲームスのエグゼクティブプロデューサーであるシブサワ・コウこと,襟川陽一氏による「Game Development by Kou Shibusawa」と題されたセッションが行われた。

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 1950年に栃木県で生まれた襟川氏は,将来的に父親から繊維関係の会社を引き継ぐ予定だったが倒産によってなくなり,自身が光栄を設立することになる。その後,奥様の襟川恵子氏からPCを購入してもらえたことをキッカケにしてソフトウェアの開発を始め,1981年に通信販売で発売した「川中島の戦い」が1万本以上の売り上げ,さらに「三國志」シリーズが大ヒットすることになった。

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 こうした襟川氏の経歴については,これまでも多くの場で語られているのでご存じの読者も多いだろう。そんな襟川氏が,韓国でどのようなセッションを行うのか興味深いところだ。


コーエーテクモゲームスの発展をけん引した経営方針


 襟川氏は現在のゲーム産業マーケットについて,業務用ゲームから始まった市場がずっと右肩当たりで成長しており,2000年に入ってからは携帯ゲーム機,スマートフォンが世界中を席捲したと話す。ゲーム機のシェアは約50%がスマートフォン,30%が家庭用ゲーム機,そして20%がPCのマーケットになっており,市場規模は約25兆円に達している。
 その中で,最近はPCのマーケットが伸びてきており,家庭用ゲーム機もNintendo Switchの後継機種について今期中に発表があると任天堂から公表されていること,スマートフォンのゲームもインドや中東,アフリカなどの国で拡大していくであろうことから,世界のゲーム産業マーケットはまだ伸びていくのではないかと述べていた。

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 一方,韓国では「Stella Blade」が,中国では「黒神話:悟空」が大ヒットしたことから,マーケットの内容が変わりつつあると襟川氏は話す。これはスマートフォンでも起きつつあり,ゲームが高精細になるにつれて大きな画面でプレイしたいというニーズが広がっており,家庭用ゲーム機のシェアが伸びていくのではないかと期待しているそうだ。

 続いて,コーエーテクモグループの精神(スピリッツ)についての紹介が行われた。
 同社では,「Level up you happiness」というコーポレートスローガンを掲げていて,これにはゲームのキャラクターがレベルアップしていくように,コーエーテクモゲームスのゲームを通じてプレイヤーの幸せもレベルアップしてほしいという思いが込められているそうだ。

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 そんな襟川氏の経営方針として,いつも大切にしていることが「最高のゲームを作る」「経営基盤を安定させる」「社員の福祉の向上を実現する」「新しい分野への挑戦」の4つだという。
 最高のゲームを作ることで,会社の成長性や収益性に結びつき,それによって経営基盤が安定する。分析と福祉によって活力あふれる会社にして,新しい分野に挑戦していくというわけだ。

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 また,コーエーテクモグループでは,KPIとして営業利益を重視していると襟川氏は話す。営業利益というのは,ゲームソフトを販売して得た利益であり,その利益が次のタイトルを開発するための資金となるからだ。営業利益が出ないということは,売れていない,つまり期待されていないということになる。


自社IPをワールドワイドで楽しんでもらうための「グローバルIPの創造と展開」


 今でこそ「コーエーテクモ」と呼ばれる同社だが,元は1978年に創業したコーエーと,1967年に創業したテクモという,歴史ある会社同士で2009年に経営統合したことによるものだ。それから13年間は一貫して成長を続けているそうで,その理由を経営方針である「グローバルIPの創造と展開」だと襟川氏は話す。
 自社のIPを国内だけではなく,グローバルIPとしてワールドワイドで楽しめるようにしようということで,そのために「プラットフォーム」「ジャンル」「コラボレーション」「ライセンス」「タイアップ」といった5つの展開を行うとした。

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 「プラットフォーム」の展開は,ハードウェアとソフトウェアそれぞれのプラットフォームにIPを展開させていくというものだ。PCはもちろん,PS5やXbox,Nintendo Switchといったハードウェア,そしてiOSやAndroid,Steam,Epic Storeなどのソフトウェア上のプラットフォームがそれにあたる。
 そのために,さまざまなプラットフォームに展開するための基盤技術を安定化,成長させていくことが第1だと襟川氏は述べた。

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 続いて「ジャンル」の展開は,例えば三国志がテーマであれば,シミュレーションゲームの「三國志」だけではなく,RPGや「Wo Long: Fallen Dynasty」のようなアクションゲームなど,さまざまなジャンルで展開していくというものだ。

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 3つめの「コラボレーション」の展開は,コーエーテクモゲームスが非常に力を入れているところで,とくに他社のIPのコラボタイトルが広がっていると襟川氏は話す。
 例えば「無双」シリーズと「ゼルダの伝説」シリーズのコラボタイトル「ゼルダ無双 厄災の黙示録」であったり,「ファイナルファンタジー」とのコラボタイトル「STRANGER OF PARADISE FINAL FANTASY ORIGIN」,「ペルソナ5」とのコラボタイトル「ペルソナ5 スクランブル ザ ファントム ストライカーズ」などだ。

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 「タイアップ」展開は,ゲームだけではなく,アニメ,コミック,おもちゃ,飲料,映画出版,TV,あるいは自治体との無料でのマーケティングなどに自社のIPを使うことだ。これは大きな効果があり,実績を上げているという。

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自分の経験からゲームは作られる


 続いて襟川氏は,プログラマとしての44年間で感じた大切なこととして,「好きなことを一生懸命やること」だと述べた。

 ゲーム好きでも知られる襟川氏だが,いまも朝5時に起きて,「Fate Grand Order」「勝利の女神:NIKKE」「三國志 覇道」をプレイして,会社では開発中のゲームを,自宅に帰ったら「メタファー:リファンタジオ」「FINAL FANTASY VII REBIRTH」,さらに最近は「Call of Duty: Black Ops 6」もプレイしているそうだ。

 また,アイデアは体験から生まれてくると襟川氏は話し,「三國志」を例に挙げて,戦いだけだった「川中島の合戦」に対して,三國志は内政や外政,人事といった戦略面が導入され,それがマネージメントゲームでもあると述べた。
 そもそも襟川氏自身が会社の社長であったことから,営業だけではなく,財務,在庫管理,社員への給与,新人の採用などさまざまなことを経験しており,それが三國志というゲームを作る糧になったようだ。
 これは競馬SLGの「Winning Post」も同様で,襟川氏が競馬で馬主の経験があったことから,その醍醐味をゲームの中で楽しんでもらえればいいと考えての制作になったのだという。

 このように,自分なりにしてきた多くの経験が最終的にゲームで表現されていくと信じていると襟川氏は述べ,いろいろなことを好奇心を持って取り組んでいけば,ゲームの幅が広がるのでチャレンジしてほしいと述べた。

プロデューサーに必要なもの


 続いて襟川氏は,「プロデューサー」についての持論を展開した。
 プロデューサーは,優秀なディレクターやプログラマー,プランナーなどをまとめることが役割であり,氏は1つの価値観のもと喜びも悲しみも共有,共感してプロジェクトチームを運営してきたという。
 最近ではMetacritic(ゲームを含めさまざまなエンターテイメントの評価を収集するサイト)で高い評点を取ると,仲間と肩を抱き合いながら祝うということをやってきたそうだ。

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 また,プロデューサーは営業利益を生み出すために,品質,納期,予算をキッチリとコントロールする能力が絶対に必要だという。映画のプロデューサーの話として,脚本を読んだときにどれだけ予算がかかるのか,どれだけの客が来てくれるのか,どれだけの収益になるのか,どれくらいの年月が必要かを読み取れることがプロデューサーの能力であり,ゲームのプロデューサーもこれに当てはまるのではないかと襟川氏は述べた。

 さらに,コラボはお互いの会社とIPをリスペクトしているからこそできると氏は話す。
 実際に「ゼルダの伝説」というゲームに対して,自身は初代からずっとプレイしていて大好きなゲームであり,任天堂の宮本 茂氏も三國志などのタイトルをすごく面白いゲームだと評価しているそうで,お互いの会社のゲームをリスペクトしあっているのだという。それが最終的に「ゼルダ無双」の開発に結び付いたそうだ。
 ほかにも,ドラゴンクエストであったり,ファイナルファンタジーであったりのコラボをするときも,それらのシリーズが好きな人を集めて制作してきたそうで,コラボタイトルは好きな人を集めて作ることが成功の秘訣だと語った。
 互いにリスペクトできる関係を作り,質の高いコラボタイトルを制作できるスタッフを集めること,それもプロデューサーには必要な要件なのだろう。

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 さらに襟川氏は,社長もしくはプロデューサーとしての決断に迷ったときは,物事を長期的に,そして多面的,本質的に考えて決めるようにしているという。そして,それをCEOだからではなく,本質的にいつも準備し,訓練として決断するようにしてきたそうだ。
 実際に決断をして最善の策を選んだとしても,それが良くなければ次善の策を,それもだめなら次々善の策をというように,一歩でも前に進むことが大切で,それを心がけているという。

 また,“経営者はプロデューサーをやるのがいい”と襟川氏は話す。というのも,品質の予算(品質/納期/予算)の3つを考えるのは経営者も同じだからだ。そのため,コーエーテクモゲームスの役員は全員がプロデューサーなのだという。
 襟川氏は,コーエーテクモゲームスの生き方は氏自身の生き方そのものを具現化したもので,ゲーム開発を楽しみながら毎日を過ごしているとした。

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 今回のセッションのまとめとして襟川氏は,「好きなことを頑張ること」「成長する業界で思いっきり働くこと」,そして自身が襟川恵子氏からPCを買ってもらえれなければ,いまのコーエーテクモグループはなかったということから「幸せな家庭を作ること」を挙げ,幸せな家庭を作ると必ず何か大きなものになって返ってくると話していた。

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 最後に襟川氏は「みなさんの大きな夢,“野望”を持ってゲーム業界で活躍していただきたい」と話して,セッションを締めた。

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