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Access Accepted第779回:MicrosoftのActivision Blizzard買収は結局なんだったのか。これまでの流れをおさらい
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印刷2023/12/18 12:00

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Access Accepted第779回:MicrosoftのActivision Blizzard買収は結局なんだったのか。これまでの流れをおさらい

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 2023年のゲーム業界を沸かせた大ニュースと言えば,1年9か月近くに及ぶ各国公正取引委員会の審議の末に,10月13日にMicrosoftによるActivision Blizzardの678億ドルという巨額買収が,公的機関により正式に承認されたことだろう。「コール オブ デューティ」「ディアブロ」,そして「World of Warcraft」や「キャンディ・クラッシュ」などがMicrosoftの知的財産となったわけだが,これまでの流れを本誌関連ニュースや連載記事を集めておさらいしておこう。


Microsoftが世界第3位のゲーム企業に


 Microsoftが,アメリカのゲーム企業大手であるActivision Blizzardを687億ドル(当時7兆8000億円,現在10兆円前後)で買収することをアナウンスしたのは,2022年1月18日のことだ。そこから1年9か月ほど後となる2023年10月13日に,各国の公正取引委員会の承認を受けて正式にこの巨額買収が完了した。
 これによりMicrosoftは,世界的人気を集めるFPSシリーズ「コール オブ デューティ」,ハードコアなファン層を抱える「ディアブロ」や「World of Warcraft」,eスポーツタイトルである「オーバーウォッチ」,人気モバイルゲームの「キャンディ・クラッシュ」といったIPを正式に手中に収めることとなった。この結果,ゲーム企業としてはTencentとソニーに次ぐ,ゲームパブリッシャとしての立ち位置を強固なものにしたのだ。

Activision Blizzardの巨額買収が正式決定し,多くのゲームIPを手に入れたMicrosoft。1株当たり95ドルでの買収で,ほぼすべてがキャッシュというのが驚きだ
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 Activision BlizzardのCEOであるボビー・コティック(Bobby Kotick)氏は,買収発表後に行われたIT業界紙VentureBeatによるインタビューの中で,「Tencent,NetEase,そしてAppleやGoogle,さらにはソニー,Meta,Netflixといった資金や技術力のある企業と,機械学習やデータ分析という次世代技術で切磋琢磨していくことの不安」を述べている。
 これは,当連載「第725回:Electronic Artsが自社の買収/合併を積極的に持ち掛け? その背景にあるもの」で紹介したElectronic Artsの立場と通じるものがある。テクノロジーが急速に更新されていく中で,もはや普通のゲーム企業であっては生き残れないという不安があり,今回の買収につながっていったのではないだろうか。

 また,こうした大手企業同士による買収の際には,その業界での独占的な地位に成長する可能性があるかどうかを審査するため,各国の公正取引委員会が動くのが通例であり,今回の取引に関してもアメリカの連邦取引委員会(FTC/Federal Trade Commission)やイギリスの公正取引委員会である競争・市場庁(CMA/Competition and Markets Authority)が動いていた。

一度は,MicrosoftによるActivision Blizzardの買収を却下したイギリス監督機関のCMA。その最大の懸念は,すでにMicrosoftが有するクラウドゲーミングに関するテクノロジーとノウハウにあった
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 4Gamerでは,最初のアナウンスから買収が承認されるまでの期間で発生した買収劇に絡むイベントについては何度も報じてきたので,今回は主だったものをここにリンクしておきたい。

2022年1月18日
MicrosoftがActivision Blizzardを買収することで合意。買収金額は約7兆8700億円
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20220118082/

2022年1月19日
MicrosoftによるActivision Blizzardの約7兆8000億円買収の話題を解説。数々のビッグタイトルを手に入れる今後の狙いはメタバースか
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20220119010/

2022年1月20日
Activision Blizzard,CEOのボビー・コティック氏が社員に送ったメールが公開に。Microsoftの買収に伴う労働環境の刷新やゲーム開発について語る
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20220120047/

2022年1月21日
「コール オブ デューティ」シリーズは引き続きPlayStationでも提供したい――と望んでいることをフィル・スペンサー氏が明かす
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20220121005/

2022年1月21日
Blizzard Entertainmentのトップ,マイク・イバラ氏が従業員にあてたメッセージが公開に。今後の方針を語る
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20220121107/

2022年1月31日
Access Accepted第712回:「メタバース」を機軸に,MicrosoftとActivision Blizzardの買収合意を考える
https://www.4gamer.net/games/036/G003691/20220131005/

2022年2月10日
Microsoft,「Call of Duty」シリーズなどActivision Blizzardタイトルは,今後もPlayStationに提供されると発表
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20220210231/

2022年3月1日
Activision Blizzardの大口株主がMicrosoftとの買収合意に関して同社取締役会及び同社を提訴
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20220301027/

2022年3月14日
Access Accepted第717回:Activision Blizzardの買収合意に絡みインサイダー取引疑惑が浮上
https://www.4gamer.net/games/036/G003691/20220314002/

2022年3月28日
MicrosoftとActivision Blizzardの統合についての審査結果を公正取引委員会が公開
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230328087/

2023年5月1日
Access Accepted第756回:待ったがかかったマイクロソフトによるActivision Blizzard買収計画。巨額買収劇の行く末は果たして……
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230430007/

2022年6月9日
Xboxはこれからの20年を見据えて,さらなる進化を目指す。Microsoftのバーチャルブリーフィング「What’s Next for Gaming」で語られたこと
https://www.4gamer.net/games/544/G054454/20220608074/

2022年9月2日
Activision Blizzard買収についての見解をフィル・スペンサー氏が発表。買収はプレイヤーと業界にとって有益
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20220902016/

2022年9月12日
Access Accepted第735回:「コール オブ デューティ」を巡ってMSとSIEの思惑が交錯
https://www.4gamer.net/games/036/G003691/20220912009/

2022年12月5日
Access Accepted第743回:MicrosoftによるActivision Blizzardの買収が難航。16の国や地域で審査され,アメリカでは独占禁止法違反による提訴も視野に
https://www.4gamer.net/games/036/G003691/20221205013/

2022年12月7日
Microsoft,「Call of Duty」シリーズを任天堂に10年間提供するコミットメントを締結。より多くのゲームを,より多くの人々に届けるため
https://www.4gamer.net/games/636/G063608/20221207028/

2022年12月9日
米国の規制当局がMicrosoftによるActivision Blizzard買収を阻止するため訴訟を起こす
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20221209023/

2023年2月22日
Microsoft,ブリュッセルで開催された欧州委員会に出席し,Activision Blizzard買収を認めるように求める
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230222168/

2023年3月15日
Microsoft,クラウドゲームサービス“Boosteroid”との10年契約を締結。「Call of Duty」シリーズ含むActivision Blizzardタイトルも提供予定
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230315121/

2023年4月26日
英国の監視機関がMicrosoftによるActivision Blizzardの買収を却下。クラウドゲーム市場への懸念を理由に
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230426077/

2023年5月1日
Access Accepted第756回:待ったがかかったマイクロソフトによるActivision Blizzard買収計画。巨額買収劇の行く末は果たして……
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230430007/

2023年6月24日
Microsoftが進める買収が承認された場合,SIEはPS6の情報をActivisionと共有できない。CEOのJim Ryan氏が述べる
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230624008/

2023年7月12日
MicrosoftのActivision Blizzard買収について,FTCの仮差し止め請求を米連邦地裁が棄却
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230712022/

2023年7月15日
MicrosoftによるActivision Blizzardの買収完了が秒読み段階に。FTCの申請が却下され,一時的接近禁止命令も解除。残りはイギリスCMAとの対話次第
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230715012/

2023年7月17日
MicrosoftとSIE,Activision Blizzardの買収後も「Call of Duty」シリーズをPlayStationに向けて供給する契約を締結
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230717001/

2023年7月13日
MicrosoftのActivision Blizzard買収に関してFTCが裁判所に控訴。買収完了は予断を許さぬ状況に
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230713011/

2023年7月18日
英CMA,MicrosoftのActivision Blizzard買収に関する係争について,調査期限を8月29日まで延長
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20230718012/

2023年10月13日
英CMAがMicrosoftによるActivision Blizzard買収を承認。10兆円を超える巨額買収の完了は間近か
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20231013045/

2023年10月14日
Microsoft,Activision Blizzardの買収を完了したと発表。イギリス競争・市場庁の承認を受けて
https://www.4gamer.net/games/999/G999905/20231014001/

2023年11月4日
BlizzCon 2023が4年ぶりにオフラインで開催。Microsoft傘下として初のイベントにはXbox部門の責任者フィル・スペンサー氏も登壇
https://www.4gamer.net/games/484/G048447/20231104005/


 Microsoftにとっては,かなりエピックな法廷クエストとなった今回の買収だが,今後のゲーム業界にどのような影響を与えていくのだろうか。まず,「コール オブ デューティ」シリーズに関しては,PlayStationおよび任天堂プラットフォーム向けの10年間のリリースが保証されており,しばらくの間は大きな変更はない模様だ。

 結局,今回の騒動で最も割を食ったのは,ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE),そして同社社長兼CEOのジム・ライアン(Jim Ryan)氏だったのかも知れない。SIEは,2023年3月にCMAに対して提出した資料(PDFファイル)の中で「Microsoftはバグやエラーが残ったコール オブ デューティをPlayStation向けにリリースする可能性がある」と民意や審査官を煽るような発言を行う一方,EU傘下の欧州委員会(European Commission)が同5月に公開した調査報告書(PDFファイル)では,参考人として登壇したライアン氏が,「コール オブ デューティに関しての新しい契約が欲しいわけではない。私はただ,両社の合併を阻止したいだけなのです」とまで言ったとされる。

ActivisionのCCO(チーフ・コミュニケーションオフィサー)のXでは,ブリュッセルで行われた欧州委員会の答弁におけるジム・ライアン氏の発言が糾弾されていた
画像集 No.004のサムネイル画像 / Access Accepted第779回:MicrosoftのActivision Blizzard買収は結局なんだったのか。これまでの流れをおさらい
 事実,委員会によると過去10年にわたるコンシューマ機市場においてはPlayStationとXboxのユーザー比率は「80:20」(おそらく欧州のみの数値と思われる)だったとされており,つまりSIEは現在も独占的な市場を獲得した立場にあると言える。仮に「コール オブ デューティ」がリリースされなくなるとしても,これだけのプレイヤー数と数々のエクスクルーシブIPを誇るSIEにとって,MicrosoftによるActivision Blizzardの買収はそれほど怖いものではない,と判断していたのかもしれない。

 買収が認可される2週間ほど前の9月28日には,ライアン氏が2024年3月末に退職する予定であることが発表された(関連記事)。筆者の邪推にはなるが,これまでの騒動の責任を負う形で,ライアン氏が辞任したようにも見えないだろうか?
 どのプラットフォームでゲームを遊んでも楽しい筆者としては,これ以上PlayStationとXboxコミュニティが険悪になったり,E3のようなイベントで隣同士のブースを構えているのを見ることがなくなったりしないでほしい,そう願うばかりだ。

 一部の海外報道によれば,2024年中(ウワサでは1月1日付けで)でコティック氏が退陣するという話も出ており,Activision Blizzardの経営陣も一新するのではないかとされている。Activision Blizzardとしても,新体制での再スタートを切りたいということだろうか。
 今後は,「コール オブ デューティ」などBlizzard EntertainmentタイトルのGame Pass対応も期待されるところ。たったの月々1000円程度で数々の人気作品を楽しめるなら,魅力を感じるゲーマーもさらに増えていきそうだ。

 大型買収を完了したMicrosoft,そして一緒に歩んでいくことになったActivision Blizzardが今後どのような施策を打っていくのか,これからも注目していきたい。

著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
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