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太宰 治氏の小説「人間失格」を題材とした「桜花浪漫堂 朗読劇『人間失格』」ゲネプロ公演レポート。俳優陣の演技と和楽器の演奏で魅せられた
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印刷2023/11/06 12:00

イベント

太宰 治氏の小説「人間失格」を題材とした「桜花浪漫堂 朗読劇『人間失格』」ゲネプロ公演レポート。俳優陣の演技と和楽器の演奏で魅せられた

  劇団飛行船による純文学ステージブランド「桜花浪漫堂」。記念すべき1弾目となる演目「桜花浪漫堂 朗読劇『人間失格』」が,2023年10月27日から30日にわたり,東京・I’M A SHOWで上演された。

 朗読劇の題材は,昭和23年6月発行の太宰 治氏による小説「人間失格」。小説だけでなくさまざまな形で世に出てきた名作を,フレッシュな男性俳優陣による朗読,和楽器による重厚な生演奏で新たに描いていく。本稿では,公演初日に行われたゲネプロ公演の模様をお届けしよう。

画像集 No.001のサムネイル画像 / 太宰 治氏の小説「人間失格」を題材とした「桜花浪漫堂 朗読劇『人間失格』」ゲネプロ公演レポート。俳優陣の演技と和楽器の演奏で魅せられた


■公演概要
公演名:桜花浪漫堂 朗読劇「人間失格」
日程:2023年10月27日(金)〜10月30日(月) 全7公演
会場:I’M A SHOW

■出演者(※敬称略)
笹森裕貴 井澤勇貴 平賀勇成 / 北村健人(Wキャスト) 伊藤昌弘(Wキャスト) / 佐奈宏紀
声の出演:三森すずこ / 難波圭一
津軽三味線:小山清雄 尺八:瀧北榮山 Key.:山本真央 Key.:KeiTaro ※10月28日(土)のみ

■STREAMING
配信プラットフォーム
streaming+

配信公演
(1)2023年10月30日(月)12:00公演
(2)2023年10月30日(月)17:00公演

販売期間
2023年10月13日(金)21:00〜11月12日(日)21:00

視聴期間
公演開始時〜2023年11月12日(日)23:59

ライブ配信後に再配信処理を行いますのでご覧いただけない時間がございます。
販売価格
各回 3,850円(税込)

販売ページ
https://eplus.jp/nolongerhuman-st/



 客席側からキャストたちが登場し,続々とステージに集結して朗読劇がスタート。本公演は基本的に,マダムと堀木を演じる井澤勇貴さんがストーリーテラー的な立ち位置も担っており,彼の導くような語り掛け,和楽器の生演奏,プロジェクションマッピングを使用した演出などを交えて物語が進行していく。

着物デザイナーのキサブロー氏が手掛けた衣装に身を包んだキャストたち。女性役を担当したキャストは,より華やかな装いである。和装姿で台本を持つ姿が朗読劇にぴったりだ
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モダンな雰囲気漂うステージも見どころで,畳の部屋,書斎のような部屋が常にステージ上にあり,その中をキャストが動き回りながら物語を読み進めていく。上部には美しい桜のモチーフも見られて,中央には和楽器の演奏隊が位置する。情熱的な演奏にも注目だ
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 朗読劇の序盤では,笹森裕貴さん演じる主人公,大庭葉蔵の小学生時代から綴られていく。
 父につまらない奴と思われることに怯える葉蔵は,小学生ながらも自身の本心を偽って,道化を演じることを決意。そんな中,女中に一緒に寝ようと誘われて……。不安定な精神を持つ葉蔵の心に陰りが増していき,和楽器による生演奏で不穏な雰囲気もさらに醸し出されていく。

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大庭葉蔵(演:笹森裕貴)は,人間に対して極度な恐れを抱き,その思いから道化を演じることを,幼いながらも決意して行動する。笹森さんの儚くも美しい雰囲気,どこか虚無感を覚える憂いに満ちた表情に釘づけになった
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 時は進み,中学生時代へ。道化を演じている葉蔵が,クラスメイトを笑わせるために授業で「ハイ! 分かりません!」と堂々と声を張り上げて答えるシーンから始まった。シリアスに進んでいく劇中全体のなかでは,ちょっぴり元気な葉蔵の姿が見られる。

 しかし,平賀勇成さん演じる竹一から「ワザ,ワザ」と耳元で囁かれて,その表情は一変する。自分がわざと失敗したことを悟られたのではと思ったからだ。そこで葉蔵は,自分の保身のために竹一と親友になってしまえばいいと思い立ち,関係を作るチャンスをうかがう。

 そして雨が降る日,竹一を家に誘って交流を深めることに成功する。しかしこのとき,葉蔵は彼から「お前はきっと女に惚れられるよ」という,未来を見通したかのような,悪魔の予言を受けるのだった……。

竹一との場面では,絵を描くことに興味がある葉蔵が自画像を描く。大きなキャンパスにプロジェクションマッピングで,おどろおどろしい絵が浮かび上がる演出も見られた
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 中学を卒業して高等学校へ進学した葉蔵は,堀木と出会う。葉蔵のことを以前から目にかけていた彼は,葉蔵にお酒やたばこ,淫売婦のことまで,さまざまなことを教えてくれるのだった。

 それらのことは,人間の恐怖を一時でも紛らわす手段であることを理解していく葉蔵。そんな彼に堀木は,「女達者になったな」と声をかける。ここから,葉蔵の人生を大きく揺るがす,3人の女性たちとの出会いが待っていた。

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物語の語り手,マダム,堀木役を担当する,井澤勇貴さん。マダムは女性らしさを感じる優雅な振る舞いだが,堀木を演じる際は漢らしく豪快な演技で,その切り替えが見事であった。また,本作は基本的にシリアス路線だが,葉蔵を美男子,堀木自身を第二の美男子とお茶らけて評するシーンでは,その意見に反論(?)するかの如く急にBGMが止まって(和楽器奏者の手も止まる),ほんのりと笑いを誘うシーンも演じられていたのも印象的
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 最初に出会った女性は,平賀勇成さん演じるツネ子。彼女は堀木に連れて行ってもらったカフェで出会った人妻の女性で,葉蔵は自身と似ている彼女と一夜を共にして,その時間に幸福を感じる。一方で,財布を開いたとき,彼女から「それっぽちしか持っていないの? そりゃ生きていけませんわ」と笑われて,葉蔵は生きていられないほどの屈辱を味わう場面も。

 そんな彼女と一緒に心中することになったときには,2人で崖から身を投げるも,葉蔵だけが生き残ってしまう。彼は,彼女への恋心をあとになって自覚して,絶望の涙を流すのだった。笹森さんの迫真の演技も相まって,心の中で「なんてこった……!」と頭を抱えた,重いワンシーンであった。

はんなり関西弁が色気たっぷりだった,平賀勇成さん演じるツネ子
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余裕のある微笑みがお姉さんらしくて,葉蔵じゃなくてもドキドキ必須!
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 この出来事を経て,次に葉蔵が心を通わせた女性は記者のシヅ子。世間では自殺を疑われて騒がれている葉蔵を,家に泊めてあげると申し出て,優しく受け入れてくれる。娘のシゲ子と共に(姿は舞台上では見えないが,三森すずこさんの声がかなりキュート)3人で暮らすことに。

 シゲ子のために描いた漫画をきっかけに,月刊誌で漫画を描かせてもらえたり,シゲ子からも父のように接してもらえたりと順調な生活を送るが……。

 神様がいたら何をお願いするかという何気ない会話で,シゲ子は「本当のお父ちゃんがほしい」と口にする。これにショックを受けるが,さらにあとからやってきた堀木に追い打ちのような言葉をかけられて(タイミングの悪さにまた頭を抱える筆者),葉蔵は次第に酒に溺れて,シヅ子の私物を質屋で売ったお金で飲んだり,外泊を重ねていく。

 一度思い直して家に帰ろうと戻るが,シヅ子とシゲ子がつつましく楽しそうに過ごす姿を目の当たりにしてしまう。葉蔵は自分みたいな馬鹿者がこの2人をめちゃくちゃにしてしまうと自覚。2人の幸福を祈りながら,二度と家には戻らなかった。

伊藤昌弘さん演じる,快活な印象のシヅ子。はつらつとした爽やかな笑顔から,娘を育てながらも力強く生きる女性の強さを感じられた
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 物語終盤では,京橋のバーで毎日酒に溺れながら過ごす葉蔵は,ヨシ子という若い女性と出会う。ある日酔っぱらってマンホールに落ちてしまった葉蔵は,ヨシ子に助けてもらったことをきっかけに,酒をやめることを決意。また,やめたら自分の嫁にならないかとさらりとプロポーズ(?)! 結局,酒は飲んでしまうものの,よごれを知らない彼女に惹かれた葉蔵は再度結婚を申し出て,2人は結ばれる。

 信頼を寄せてくれる彼女に,自分はだんだんと人間らしいものになれていると希望を抱き始めるが,ヨシ子が商人の男に襲われる事件が発生して……。
 
佐奈宏紀さん演じるヨシ子は,言動がとにかくカワイイ♪ 葉蔵の「キスしてやるぞ」には「してみなさいよ,ほら!」,プロポーズには指切りげんまんで答えたり,佐奈さんの少女のような表情も相まって非常に愛らしかった
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 このように,3人の女性との関係を育みながらも葉蔵は,自身の心の弱さゆえに破滅の道への歩みを進めていく。そんな歩みの中で,一番のポイントはやはり,葉蔵の細やかな思考だ。自分の保身のために思考をめぐらせる彼の姿は,そんなに繊細ではない筆者的には,なかなか共感はできないけれども,彼をとおして人間の弱さを目の当たりにし,いろいろと考えさせられた。彼が最後に辿り着くほの暗い結末,それをより強く印象づける儚くも美しい表現は必見である。

 ちなみに,本舞台は期間限定でアーカイブの配信(外部リンク)もあるので,少しでも気になった人はぜひチェックを!

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「桜花浪漫堂 朗読劇『人間失格』」公式サイト

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