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[TGS2023]セッション「日本テレビの考えるeスポーツビジネスの最前線と未来像」をレポート。eスポーツ事業に対する地上波テレビの強みとは
日本テレビのeスポーツ事業展開について
セッションの冒頭では,日本テレビ 社長室新規事業部 部次長 小林大祐氏が,同社のeスポーツに対する取り組みを紹介した。それによると,2017年に小林氏が社内イノベーション制度を使って,eスポーツ事業に関する人材募集を行ったところ,計18名の応募があったとのこと。そこで「これだけの数が集まったからには,研究を始めよう」と,2018年6月にeスポーツ事業を立ち上げたそうだ。
eスポーツ事業を開始するにあたり,小林氏は「地上波番組」「大会・イベント」「プロeスポーツチーム」という3つの軸を考えたと振り返る。地上波番組に関しては,日本テレビが地上波テレビ局なので当然だが,そこをゴールとするのではなく,eスポーツの大会やイベントを開催して,それをテレビ番組で取り上げ,かつそこで活躍するチームや選手を育てようというわけである。小林氏は,日本テレビも所属する読売グループがプロ野球球団「読売ジャイアンツ」を育ててきたことを例に挙げ,「eスポーツを,誰からも愛され,喝采と憧れを受け,ファンに支えられた興行ビジネスとして成立させる」というビジョンを紹介した。
日本eスポーツ連合(JeSU)によると,国内のeスポーツ市場は年率約20%で成長しており,2023年には約130億円規模に達すると見込まれている。小林氏は,2020年と2021年のコロナ禍において,音楽やスポーツのイベントが開催できなくなっていた一方,eスポーツはオンラインでイベントを続けることができたので市場が成長したことを指摘する。さらに2022年以降は,コロナ禍の落ち着きに伴いオフラインイベントが復活。アリーナクラスの会場でeスポーツ大会が行われるようになり,人気が一気に高まったと説明した。
eスポーツ市場のポテンシャルについては,小林氏はゲーム市場と比較しているという。日本のゲーム市場は2兆円規模となっており,この10年で約2倍となっているが,小林氏は「国内でそんなに成長したコンテンツビジネスはほかにない」とする。
また,その成長はオンラインプラットフォームが主導しており,その傾向は中国や韓国,東南アジアなどアジア市場全体にも当てはまるとし,「ゲームが次世代のコンテンツとして成長し,その中身がオンライン化している。その先には,人がゲームを通じてコミュニケーションや対戦をする。ゆくゆくは,メタバースの中で人々が競い合ったり,それを応援したりするような構造ができていく」と予想を述べた。そうした状況を踏まえ,小林氏は「eスポーツ市場の規模はまだまだ小さいが,自然成長の余地が大きい」とまとめた。
そうしたeスポーツ市場は,スポンサーである企業が支えている状況にある。しかし,そのスポンサーの大半は,ゲームそのものやゲーム機および周辺機器を販売して収益を得ているため,突き詰めるとゲームのプレイヤーなどゲーム体験に支出している層からの収益還元がeスポーツ市場を支えているとも言える。
小林氏は,日本テレビのeスポーツ事業が掲げるビジョンを達成するためには,スポーツ興業やライブエンターテイメント興業に近いモデルを目指さなければならないとし,「スポンサーから得られる収益と,たとえばチケットや飲食などの試合やイベントを観に行くための支出,そしてグッズやファンクラブなどのチームや選手を応援するための支出といった,ファンに支えられている収益の双方で成り立つ構造を作っていかなければならない」と説明した。
ただ,そうした構造は着々とできていると小林氏は感じているという。小林氏は「リーグ・オブ・レジェンド」の公式リーグ決勝ファイナルのチケットが2017年には2500円だったのに対し,2023年には6500〜1万500円となっていることを指摘。「かつてのeスポーツ大会は無料または安価で集客するのが当たり前だったが,今や1万円も払ってくれるファンがいる時代になった」とし,「『リーグ・オブ・レジェンド』の国内サーバーでβテストを開始したのが2016年。そのとき18歳だったプレイヤーが,今25歳になり,ファンとして1万円のチケットを買って観戦や応援に来てくれるところまで育ってきたのではないか」と分析していた。
「League of Legends」,日本サーバーによるオープンβテストは3月1日9:00スタート! 北米アカウントからの移行で「ブラッドムーン ヤスオ」がもらえる
Riot Gamesの日本法人であるライアットゲームズは本日,MOBA「League of Legends」の,日本サーバーでのオープンβテストを,2016年3月1日9:00より実施すると発表した。2月15日まで,日本サーバーを使用したクローズドβテストが実施されていた本作。今回は,同じく日本サーバーを使った,誰でも参加可能なテストだ。
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小林氏は,日本テレビが長年にわたって放送を続けてきたスポーツを引き合いに出し,たとえば箱根駅伝は,放送が開始された1987年当時はそれほど人気がなかったことを紹介。いずれのスポーツも,何十年もの歴史を積み重ねることによって,全世代的に認知されるような存在になっていったとし,「eスポーツも,Z世代やα世代が大人になり,その子ども世代が選手として活躍する頃が成熟期になるかもしれない」と展望を語った。
日本テレビグループ傘下に加わったJCGの展望とは
続いてJCG 代表取締役 松本順一氏が,同社の事業を紹介した。松本氏は,自社についてeスポーツのオンライン/オフライン大会やオフラインイベント,そしてそれらを効率的に運用するためのWebシステムを運営している企業と説明。対象となるのは公式のプロリーグやコミュニティ大会,学生大会,eスポーツを使ったプロモーションなど多岐にわたる。
松本氏は,ほかのeスポーツ企業との大きな違いとして,「JCGはeスポーツをエンターテイメントとしてだけではなく,社会課題解決のツールであり,人と人とのコミュニケーションが生まれる手段としても扱っている」ことを挙げた。
JCGのテーマは,「トータルコミュニケーションプランニング」とのこと。具体的にはeスポーツをツールや手段として捉え,たとえばある企業の「社員の交流を図りたい」,ある地方自治体の「地域活性化のために,若い世代を集めたい」,あるメーカーの「自分達のゲームの売上を上げるために,ユーザーのリテンションやプレイ時間などを上げたい」といった課題を一緒に解決しているそうだ。
松本氏はeスポーツの領域を「プロ」「セミプロ」「ファン」「ライト」「エンジョイ」の5つに分けて考えているという。エンジョイ層がもっとも裾野が広く,プロが一番少ないピラミッド状となっているわけだが,JCGがとくに強いのはセミプロとライト層,そしてエンジョイ層の3つの領域とのこと。
と言うのは,松本氏がもともと「1万人が観戦するより,1万人が参加する大会を実施したい」というコンセプトでJCGを立ち上げているからである。松本氏は,「多くの人達が参加することで,初めてeスポーツのエコシステムが回り,プロも含めた持続可能なeスポーツシーンが成立する。そのためのベースを作ることで,ひいてはJCGという会社の持続可能な状態を維持する」と説明を加えた。
一方,日本テレビは,小林氏が説明したとおりプロとファン層の領域に対して非常に強い。すなわち日本テレビとJCGが組むことによって,eスポーツの領域すべてをカバーできると,持論を展開した。
松本氏は,日本テレビグループにおけるJCGの役割を「地上波テレビでのeスポーツ大会の生中継を実現する」ことにあると捉えているという。ただ,その実現にはたくさん課題がある。大きなところでは「地上波という公共に近いメディアでコンテンツとして受け入れられるために,コンプライアンスを遵守する」必要がある点だ。
また,小林氏も言及していたとおり,「ファンベースの興業」であることも必要だ。そのために,eスポーツシーンのエコシステムをきちんと構築していきたいと松本氏は意気込みを語った。
そして「チームビジネスを成立させる」ことも必要となる。松本氏は,現在,一部のチームは好調で業績を伸ばしているものの,そうではないチームもまだまだいるとし,「チームが選手を育て,選手がファンを獲得し,そこで得られた対価がしっかり選手に還元される。そういったチームが増えていくこと,そしてそういったチーム達によってプロシーンが生まれていくことで,eスポーツ大会の生中継が実現する世界がやって来る」と説明していた。
日本テレビが手がけてきたeスポーツの大会・イベント
日本テレビが手がけてきたeスポーツの大会やイベントについては,日本テレビ プロデューサー 平野氏がプレゼンテーションを行った。同社は主催や共催,メディアパートナー,後援,制作協力といった形で,eスポーツの大会やイベントに関わってきている。
それらの取り組みでは,日本テレビの3つの強みを活かすことを心がけているとのこと。1つめの強みは「地上波番組を手掛けてきた制作クオリティ」で,平野氏は日本テレビが70周年を迎えたことに言及し,「長年培ってきた番組制作のノウハウをeスポーツの配信や大会に採り入れている」と説明。とくに地上波では放送事故を決して起こしてはいけないため,eスポーツ大会でも配信遅延が起きないよう配慮していると語った。加えて,視聴者に分かりやすく伝えることも意識しているそうだ。
2つめの強みは「地上波番組『eGG』との連動」だ。月に1回放送される同番組の中に特別コーナーを設け,eスポーツ大会の特集などを行っていることが紹介された。平野氏は「地上波で情報を出すことにより,多くの人に観てもらうことで,eスポーツを広めていく」と話していた。
3つめの強みは「日本テレビグループによるワンストップ制作」で,JCGが傘下に加わったことにより実現したという。ワンストップで大会やイベントの制作・運営が可能になり,今まで以上に臨機応変な対応が可能になったとのこと。
日本テレビがJCGを子会社に。eスポーツイベントの企画・運営に本格進出
日本テレビ放送網は本日,JCGの株式を取得し,子会社化することを発表した。eスポーツイベントの企画・運営に本格進出し,業界におけるビジネスの拡大を加速させることが狙いだという。JCGはオンライン大会のプラットフォームで知られており,eスポーツ大会を年間で1000回以上開催した実績のある企業だ。
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eスポーツ×法人ビジネス
日本テレビのeスポーツ事業における法人ビジネスについては,日本テレビ 社長室新規事業部 eスポーツ事業 法人ビジネス担当/AXIZ MOBA部門プロデューサー 岡本氏が,主にeスポーツチームにフォーカスしたプレゼンテーションを行った。
プレゼンのテーマは2つ。1つは「eスポーツチームにおける変化・トレンド」である。岡本氏は,日本テレビが2018年にプロeスポーツチーム・AXIZを立ち上げてから5年経った今,国内のチーム数がすごく増えたと実感しているとのこと。それは各タイトルの公式リーグが増えたからといった理由があるからだとし,「中学生,高校生の頃からプレイしていて,どんどんスキルを身に付けてきた人たちの活躍できる場が増えた」と話していた。
また,ここ1〜2年はファンビジネスに注力するチームが増えたという。ストリーマーやVTuberの起用,アパレルやグッズの販売はもちろんだが,とくにチーム主催のイベントが多くなっているそうだ。岡本氏はそうしたイベントについて,「それぞれのチームが抱く,もっとファンに楽しんでもらいたいという思いから出てきたファンビジネスなのではないか」と分析していた。
2つめのテーマは「チーム事業×イベント×番組」というもので,まずAXIZの協賛企業であるアイセイとの取り組みが紹介された。アイセイはカラーコンタクトの卸販売などを手がける会社で,AXIZのユニフォームに社名ロゴが入るのはもちろん,同社の製品を選手が実際に使用する,プレゼントキャンペーンを行うといった施策を実施したとのこと。
そうした取り組みの中でもっとも特徴的なのが,チーム主催イベントだという。スポンサーの協力のもと,ただチーム主催イベントを開催するならほかでもやっているが,AXIZの場合は地上波番組「eGG」で事前に告知したり,イベント後に「こんなことをやった」と報告したりすることで,より広い層にアピールできたと,岡本氏は語っていた。
eスポーツ×ファンビジネス
続いて,日本テレビ 社長室新規事業部 eスポーツ事業部/AXIZ WAVE(「第五人格」部門)プロデューサーの石井氏がプレゼンを行った。それによると,eスポーツチームにとって,従来のスポンサーから得る収益は,競合排除の観点などにより大きく伸ばすことが難しいとのこと。
また,大会で得た賞金も一部を選手に還元しなければならなかったり,翌年また賞金を獲得できるかが不明だったりするため,どのチームも新たな収入源としてファンビジネスに注力する傾向にあるという。
実際,AXIZでもさまざまなアパレルやグッズを展開し,eスポーツ人気の高まりとともに販売数を増やしているそうだ。2018年のチーム立ち上げの頃は,ユニフォームを筆頭にAXIZのロゴが入ったアパレルやグッズを展開していたが,2021年からは選手をキャラクター化し,それをプリントしたクリアファイルやアクリルキーホルダーなどを展開するようになったとのことで,石井氏は「スポーツチームというよりも,アーティストやアイドルに近い方向性に転換した」と説明していた。
石井氏によると,そのようにファンビジネスを展開することは,法人ビジネスにもつながるという。その具体例として,AXIZ WAVEのファンミーティングにて,協賛企業の新製品を露出し,その新製品と選手のブロマイドカードをセットにして販売したところ,最大売上を更新したことが紹介された。
AXIZ WAVEのグッズを購入したり,メンバーシップに加入したりするファンの属性も明かされた。一般的にeスポーツのファンというとほぼ男性というイメージだが,実際のところAXIZ WAVEも視聴ファンは10〜20代の男性が75%を占めているそうだ。中でも学生の割合が高く,配信コンテンツに対してのリピート率は低いとのこと。
それに対し,グッズを購入する,メンバーシップに加入するファンは,購買力のある10代後半〜30代の女性が60%を占め,コンテンツのリピート率も高いという。石井氏は,今後そういった女性ファンが増えることによって,eスポーツ自体が成長していくのではないかと見解を述べていた。
ファンビジネスの導線,つまりeスポーツチームの人気をいかに持続させるかについては,やはり選手の存在がもっとも大きいとのこと。選手が大会に出場すれば大会視聴者にアピールできるし,その選手が高い成績を記録する,ひいてはその過程にドラマが生まれれば,応援するファンも増えるというわけである。
また昨今では,チームの広告塔となるストリーマーの存在も欠かせないという。ストリーマーは競技のオフシーズンであっても配信を続けられるため,チームの人気を持続させることができるからだ。
加えて上記のグッズ展開や,あるいはSNSや動画コンテンツの展開も,ファンのロイヤリティを向上させるうえで必要になるとのこと。
最後に石井氏は,AXIZのロゴがリニューアルされたことを紹介。以前のロゴはエンブレム型だったが,昨今のeスポーツ大会の配信がスマートフォンなど小さな画面で視聴されるケースが増えていることを踏まえ,シンプルなものに変更したそうだ。
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