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[CEDEC 2023]必要なのは明確な共通認識とそれを実現する環境作り。「Z世代に刺さる可愛さと使いやすさを両立したプリントシール機のゲームデザイン制作」聴講レポート
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印刷2023/08/25 18:43

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[CEDEC 2023]必要なのは明確な共通認識とそれを実現する環境作り。「Z世代に刺さる可愛さと使いやすさを両立したプリントシール機のゲームデザイン制作」聴講レポート

 2023年8月24日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2023」の2日目に,プリントシール機ならではのゲームデザインに関するセッション「Z世代に刺さる可愛さと使いやすさを両立したプリントシール機のゲームデザイン制作」が行われた。登壇したのはフリューの前口美穂氏右松 理氏で,プリントシール機におけるデザイン制作の流れや,同社で実施したデザインレビューの改革,プリントシール機ならではのUX(ユーザーエクスペリエンス)に特化したユーザーインタビューなどについて解説した。

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 プリントシール機とは,アミューズメント施設などに設置されている写真シール作成機。以前は撮影した写真でシールが作成できるだけだったが,年々進化を続け,今では撮影後に可愛く加工でき,加工済みの写真を印刷できる機械になっている。メインターゲットは女子中高生,いわゆるZ世代の女性達だ。なお,プリントシール機は通称“プリ機”や“プリ”と呼ばれている。
 撮影の手順は筐体外でクレジット投入後,メニュー(仕上がりや背景,柄など)を選択。その後,筐体内でアナウンスに従いカメラ前でポーズなどをとりつつ撮影。撮影終了後は,モニターを使ってらくがきやスタンプなどでデコレーションを行う。その後,筐体外で印刷されたものを回収するという形だ。機種によっては写真撮影時に動画撮影もできたり,撮影したデータをスマートフォンで受け取ったりもできる。

一昔前はカリスマ的なモデルや芸能人の影響で好みの方向性が似ている女性が多かったというが,Z世代をはじめとした近年の女性達は属性も好みも幅広く,流行の移り変わりも激しくなっているため,多種多様な女性に向けたプリが登場している
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プリのデザイナー体制と

プリのデザイン制作の流れ


 まず右松氏が同社におけるプリの開発チーム体制を解説。同社では開発全体を統括するプロジェクトリーダーとプリのコンセプトを作る企画を中心に,ハード担当とゲーム担当の2チームに分かれ,それぞれにデザイナーが存在するという。
 ハード担当は,ハードウェア構造や撮影空間の光学構造を加味して外装と内装のデザインを行い,ゲーム担当はタッチモニターやデジタイザーの画面UIデザイン,そして出力されるシールなどをデザインしているという。

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 今回はその中から,ゲーム担当の画面・シールデザインのプロセスについて解説が行われた。
 同社では常に複数のプロジェクトが進行しており,それぞれのプロジェクトにクオリティと進捗を管理するアートディレクターが存在。デザイナーはプロジェクトによって異なるが,平均2〜5人程度で,ゲーム画面やシールデザイン,らくがきのデザインなどを分担して開発しているそうだ。

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 プリのデザイン制作の流れは,まず商品「コンセプトの共有」から始まり,「実態調査」「デザインコンセプトの立案」を経て,実際の「デザイン制作」に取り掛かる。そして制作したデザインを使った「デザインレビュー」が行われ,最後に「ユーザーインタビュー」でユーザーの意見を聞くのだという。
 なお,ユーザーインタビューでは制作時に立てた仮説とデザインの検証を行い,ここで検証が終わったあと,デザイン制作からユーザーインタビューまでの工程を繰り返してデザインのブラッシュアップを行っていくとのことだった。

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 今回はその中から「デザインレビュー」と「ユーザーインタビュー」がピックアップされたが,まずデザインレビューがどのようなものなのかが気になるところ。前口氏によると,デザインレビューとは別のプロジェクトに関わるデザイナーも含めてざっくばらんに話し合い,アイデアを膨らませる場であるとのことで,参加者にとって有意義な時間を構築できているそうだ。

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 しかし,初めから有意義な時間になっていたわけではないという。そこで,現在と過去の事例を紹介しつつ,デザインレビューがどのように改善されてきたのかが語られた。
 最近のデザインレビューについては実例として,「Melulu」の後継機種「MELULU2」において,ユーザーが背景色を選択する画面をバージョンアップさせる際のデザインレビューが挙げられた。このバージョンアップでは,「選べる背景色が倍以上に増えたことを伝える」「多すぎて選べない人向けに時短機能もつける」「バージョンアップした感を可愛く表現してほしい!」といった要求仕様が出されており,それを満たすアイデアを出していくこととなったようだ。
 このとき,一人で限界を感じ悩んだら,定例のデザインレビュー会で相談できる。そうして相談した結果,一人では出てこないアイデアも取り入れられ,完成したUIはユーザーからも高い評価を得られたという。

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最終的に完成したUIは,半透明の枠により背景が増加したことが分かり,モデルを配置することで新機能に気付かせ,背景のアイコンをタグに見立てることで背景選びにも楽しさが感じられるようになっている
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 ところが,数年前はこのような環境になっておらず,レビュイーがUIを制作して発表しても,議題が定まっていないことも多かったため,レビュアー側もはっきりと言語化できないまま感覚で意見してしまうことが多かったという。
 また,それぞれの主観が入った感覚の話にもなるため,互いの認識にズレが生じ,何度やってもしっくりこないままという結果に。そうなるとモチベーションの低下やレビューへの恐怖心,さらに取りまとめるアートディレクターの負担増加などが発生。それが続くことで雰囲気が悪くなり,対立を引き起こすことさえあったという。まさに負の連鎖と言える状況だ。

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 この状況を打破すべくデザインレビューの改革が行われたのだという。そこではまず第一に,“ありたい姿をみんなで話す”ことを重視。これにより,感覚で話しがちな点をしっかりどこに向けて話すのかを明確にすることで,曖昧さの回避が可能になった。
 次に“共通認識を持つためのルールを作成”。これは作成したデザインがどのようなものか,作成の意図や経緯,ポイントを明確にすることで,レビュアーも意見がしやすくなる。また,レビュアーがどう思うかではなく,ユーザー目線でレビューすることを徹底させるの
も重要なポイントだ。
 そして,意見を言いやすくする“環境づくり”。これは,デザインレビューの時間を使ったコミュニケーションの一つで,ユーザーの気持ちに寄り添うことを目的にチームでプリを撮ってデコってみたり,時にはTikTokではやっているダンスを踊ってみたりと,さまざまな角度から取り組んでいるという。ほかにも,ボツになったデザインを持ち寄ってそれを供養する“デザイン供養会”も実施しているらしい。

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 こうした取り組みの末,雰囲気が悪く恐怖の場という認識にもなっていたデザインレビューが,目的の共有や改善の具体例も出しやすく,技術の開示と共有化でチーム全体のデザイン力がアップするような場へ変革を遂げたということだ。

これは同社だけでなく,チームで一つのものを作り上げていく組織,団体すべてに通じる内容ともいえるのではないだろうか。基本的なことではあるものの,決しておろそかにしてはいけないことでもある
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必要なのは,デザイナーが直接ユーザーの声を聞くこと

UXの向上を実現したユーザーインタビューの改善


 続いてユーザーインタビューについての解説が行われた。右松氏によると,同社が行うユーザーインタビューは年間約200回ほど実施されており,そこでは開発中のプリを実際に使用してもらい,写りに関する意見や感想,ゲーム中の様子などの観察が行われているという。

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 その結果,機能や写りに関するユーザーの好みや,ユーザーの動向から立案した仮説などを立てることもでき,それを参考に開発を進めていっているようだ。
 ところが,以前はこのユーザーインタビューにデザイナーは直接参加しておらず,デザイナーがユーザーの生の声を聞くことはできていなかったという。これではユーザーインタビューの内容を開発に活かしきれないばかりか,立てた仮説がゴールになってしまい,独りよがりな開発になってしまう。そんな危機感を覚えたという。

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 そこで,デザイナー発信のユーザーインタビューを始めることとなり,視線を追跡するカメラを使って録画し,録画した映像をユーザーと一緒に見ながら,UIの見やすさや使いやすさなどをヒアリング。こうすることで,ユーザーも自分のプレイを思い出しながら話せるため,よりUXに関する深掘りが可能となったようだ。

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 こうしたユーザーインタビューによる調査で,プリの新機能を紹介する動画はほとんど見られていなかったということ。らくがき画面では撮影したプリとその周辺しか見ておらず,画面下部の機能にはほとんど気付かれていなかったことなどが判明し,前もって立てていた仮説とは違ったUXに関する貴重な情報が得られたという。

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 得られた情報をもとに新たな仮説を立て,それを実行。その仮説がユーザーの関心を引くことで仮説の精度が上がり,さらなるブラッシュアップも可能になり,説得力を持った提案が可能になったそうだ。

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 右松氏はユーザーインタビューのまとめとして,デザイナーがユーザーの声を直接聞くことで,ユーザー目線での疑問を持つことができるようになり,詳細なインタビューによって事実を知ることで,想像の仮説ではなくなり,提案に説得力が生まれたと述べた。

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 そして,セッションの最後には「みんなの認識が揃ったデザインレビューを実施」「ユーザーの生の声・姿を元に仮説を立てる」という2点のポイントを強調し,今後もユーザーの生の声を聞きながら,誰もが楽しめる使いやすくて可愛いプリを作り続けていくと意気込みも込めて締めくくった。

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