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バーチャル空間やメタバースなどのデジタルコミュニケーションは,心身にどのような影響を及ぼすのか。IVS 2023 KYOTOのセッションレポート
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印刷2023/07/07 08:30

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バーチャル空間やメタバースなどのデジタルコミュニケーションは,心身にどのような影響を及ぼすのか。IVS 2023 KYOTOのセッションレポート

 サイバースペース――いわゆる電脳空間とも呼ばれるものだが,その形はさまざまだ。メタバースやVR,あるいはライブ配信など,インターネット上の空間を指して呼ぶことが多い。そして,それらはほとんどが「コミュニケーション」がセットになっている。

 サイバースペースでのコミュニケーションが,私たちの心身にどのような影響を及ぼすのか。京都で開催されたスタートアップイベント「IVS 2023 KYOTO」にて,この疑問をテーマにしたパネルディスカッション「サイバースペースと心身の調和――ロボット、VRアバター、キャラクターが描く新たなデジタルコミュニケーション」が行われた。

 登壇者はミラティブ代表取締役の赤川隼一氏,クラスターの代表取締役CEOの加藤直人氏,CharacterBank代表取締役の三上航人氏,オリィ研究所の代表取締役所長 CVOの吉藤オリィ氏である。モデレーターは医療VRスタートアップのBiPSEEに所属し,アバターやコミュニケーションを使ったVRでの治療に携わる小松尚平氏が務めた。

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 最初のテーマ「サービスと心身」では,登壇者の各社が提供しているサービスのアイデンティティやコンセプトが語られた。

 赤川氏のミラティブは,ライブ配信サービス「Mirrativ」を提供しているが,「好きでつながり,自分の物語が生まれる居場所」というビジョンを掲げている。サイバースペースは「なぜそこに集まるのか」という理由がないとうまく機能しないが,同社ではその理由を「同じゲームが好き」と設定し,そこが居場所になるように考えているという。

赤川隼一氏
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 高校時代,赤川氏はチャットルームに入り浸って音楽の話をずっとしていたそうだ。好きでつながるものは,自分の別のアイデンティティを確立させることにつながると語る。
 また,コミュニティに対して,つながりが1つしかなければ離脱しやすい。それは現実世界も同様で,仕事や学校などのコミュニティが1つしかないと,ここからドロップアウトしたときに追い込まれるが,ライブ配信などのつながりがあれば救われることがあるかもしれない。自分の好きなものでアイデンティティを持てる場所があれば,現実を生きる糧にもなると,そうしたつながりの重要性を強調していた。

加藤直人氏
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 加藤氏はガンダムが好きで,自ら作りたくて,京大に入った。しかし,「このままでガンダムを作れるのか」と疑問に思い,プログラミングに傾倒した結果,休学を経て大学を辞めている。休学中は3年間,引きこもっていたそうだが,その生活に不便さを覚えたそうだ。
 「その辛さが何なのか」と考えたとき,その根底には「身体性」があると気づいたという。その時期にバーチャルリアリティに出会い,身体性をバーチャルの世界に委託できるサービス「cluster」を始めたと語った。

吉藤オリィ氏
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 「身体性」について,吉藤氏は逆のアプローチをとっている。吉藤氏は体が弱く,入院などもあり,学校に通えなかったという。修学旅行に行けなかったとき,友達から写真を見せてもらうことで参加したような気分になれるが,友達の記憶には存在しない。
 そこで吉藤氏は,“吉藤人形”を旅行に連れて行ってもらうことで,友達の中では「吉藤が修学旅行に行っている」という認識になるかもしれないと考えたという。「存在している」とは,自分の記憶と,周りの人の「そこに吉藤氏がいる」という認識が一致することであり,その状況を作れば「いる」を作れると説明する。
 こうしたアプローチから,分身ロボット「OriHime」は生まれた。バーチャル空間にアバターを持つのではなく,現実世界にアバターを置く。それをインターネットを介してモニタリング,操作することで「そこにいる」という状態を作り出している。

三上航人氏
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 三上氏もまた,独自のアプローチでアバターとコミュニケーションを扱っている。CharacterBankは2021年にVR人狼ゲーム「ANSUZ -アンスズ-」をリリースしたが,その開発の根幹には三上氏の体験があるという。
 当時,三上氏には人とコミュニケーションをとりたいという欲はあったが,現実でうまくいかなかった。VRデバイスが登場したときに,現実でしたかったコミュニケーションができるツールであると考えたそうだ。そこで,しゃべってコミュニケーションをとる必要のある「ANSUZ -アンスズ-」を開発した。
 現実でうまくいかなかったコミュニケーションがサイバースペースでは可能になり,それを現実でもできるようになったという感想も届いたそうで,VRにさらなる可能性を感じたと語った。

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 続いてのテーマは「効能と病の発見」。各社のサービスがどのような効能を持ち,逆にどのようなデメリットがあるのかを話し合った。
 赤川氏はライブ配信の効能として,「話していくことで救われる」ことを挙げた。これは心理学の領域で「ナラティブアプローチ」と呼ばれており,教会の懺悔のように発話することがセルフフィードバックになり,自分が救済されていくことにつながるという。そこに視聴者からの反応があれば,実感を得られて自己存在を認知するのではないかと語る。

 一方,三上氏は「居場所を作る」ことを挙げた。VR人狼ゲームなどで「集まる理由を作る」と,そこには居場所ができる。サイバースペースだからこそのできることを増やし,人とのコミュニケーションをとれる場所を整備したいと展望を語った。

 また,吉藤氏はOriHimeのサービスには3つの効能があると述べた。
 1つ目は「アバターを被ることで話せる」。先生が目の前にいるとうまく話せない人でも,OriHimeの姿であれば緊張せずに話せるそうだ。
 2つ目は「知識力の向上」とのこと。OriHimeを利用すると,ツールを介して海外の人とも交流できる。その際,Googleで調べたり,台本を用意したりしても,相手には見えないため,それらを利用してコミュニケーションをとると同時に知識が得られる。
 そして,3つ目は「身体性」だ。複数のアバターを同時に操作できるため,複数の場所に同時に存在することが可能になる。

OriHimeを利用して参加していたマサさん。寝たきりの状態だが,視線でOriHimeを操作しているという。「実際に会うと,多くの人がギョッとすると思うが,OriHimeを使うと可愛いと言われる」と述べ,可愛いと言われることが仕事のモチベーションになっているとのこと
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 加藤氏はclusterの効能として,VRはデフォルメされている世界でリアルに比べていろいろな情報が削げ落ちているが,そこでしかとれないコミュニケーションがあることを挙げた。だからこそ,とれるコミュニケーションもあるという。
 また,バーチャル空間では,自分にとって気持ちのいい空間や都合のいい場所が選べたり,会いたくない人に会わないことが簡単にできたりするため,「分断」が生まれてしまうと指摘する。加藤氏は効能にも病にもなる分断こそ,バーチャル空間の構造的な欠陥だと考えているが,その答えはまだ見つけられていないと続けた。

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 最後のテーマ「さらなるサイバースペースの発展」は読んで字のごとく,これからサイバースペースを発展させていくために必要なものが語られた。
 加藤氏は,サイバースペースにおける最後の砦は「脳」だと語る。今,作ろうとしているのは「ナーヴギア」(「ソードアート・オンライン」に登場するフルダイブ型VRデバイス)のようなもので,そのアプローチ方法はいろいろあるが,MRIの小型化を目指し,大学と連携しているという。

 吉藤氏も脳波の解明による新たな身体の獲得に興味を示し,それが実現すれば難病の患者などが身体を取り戻せると期待を寄せる。
 さらに加藤氏は,脳をアップロードすることで不老不死の獲得に言及し,三上氏もそうした世界の到来を夢見ていると同意した。

 一方,赤川氏は脳が鍵になることに共感したうえで,不老不死になれたとしても分かり合えていないと幸福度が低いと語る。そのため,人類が分かり合える世界を作っていきたいと展望を語った。

 ここで,パネルディスカッションは終了の時間を迎えた。情報がそぎ落とされるからこそできるコミュニケーション,アバターを利用して認知されることで得られる存在,サイバースペースに居場所があることで救われる現実など,実に興味深い内容だったと思う。
 いつの日か「脳」のメカニズムが解明され,「脳」のメカニズムが解明され,フルダイブVRシステムが実現することにも期待したい。

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