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[GDC 2023]元Naughty Dogのテクニカルアーティストが語る,生成系AIと共に生きるクリエイティブな未来とは
マキシモフ氏は,大学生だった10代の頃に出身地ベラルーシのゲーム企業だったWargaming.net※に3Dアーティストとして雇用され,その後はいくつかのディベロッパーを渡り歩きながら2014年にはNaughty Dogのテクニカルアート・ディレクターとして「アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝」や「The Last of Us: Part II」の開発に深く関わった人物だ。GDCにおけるビジュアルアーツ・サミットの発起人としても知られるマキシモフ氏だが,2018年には独立して仲間とともに,Promethean AIを起業。その年には,Forbes誌によって「世界を変える30歳未満の30人」にリストアップされている。
※Wargaming.netの創業はベラルーシだが,現在の本社はキプロス。ベラルーシとロシアに開発拠点を持っていたが閉鎖し,両国の事業から撤退している(外部リンク)
「Promethean AI」は,卓越したアセットマネージメントにより,アーティストにテクニカルな要求をすることなく,チーム内でのデータの共有やワールド生成までを行うというAI補助ツールだ。そんなバックグラウンドから,生成系AI(Generative AI)の利用について,アーティストの間で意見が真っ二つに割れているような状況の中では“促進派”と思われるかもしれない。しかし,アート生成AIの学習に自分たちの作品が無断で利用されていることについては,「AIは全ての人にとってフェアで倫理的であるべき」と表明。権利を侵害されていると主張するアーティストたちが「Stable Diffusion」(画像生成系AIの1つ)に対して訴訟を起こした際には,原告のアドバイザーとして活動するなど,アーティストの権利を保護するスタンスを保っている。
その一方で,AIツールの利用は止められないと考えており,「自分の夢が奪われた」と憤慨し拒絶しているだけではダメだと話す。「3年の間,1200万円をかけて開発してきたアートツールが,実は当初思っていたような重要なものでなかった(ツールの進化に追い付かれて,自分のノウハウの価値が低下した)と気付いた時,誰でも嫌になってしまうでしょう」とアーティストの気持ちを代弁しつつ,「ツールはそれだけでアートの質を上げるのではなく,ゲームアートのベースを引き上げるものでしかないのです」と力説した。つまり,アーティストはテクニカルな部分でも常に自分を教育し続けることを怠らず,今後も進化していくであろうツールについては,「常に最高の知識をもって扱っていく」ことが,アーティストの未来であると述べている。
実際,4年前のGDC 2019でも,同じ「人工知能と共に生きるクリエイティブな未来」というタイトルのセッションを行っているが,自社開発のAIツールを説明する中で話していたのが,「アートの未来は,アートディレクションである」(Future of Art is Art Direction)という言葉だ。生成系AIを完成形として認識せず,自分が構想するゲームアートの基礎やアイデアの補足として利用することで,独自のアートスタイルや他のアーティストの作品を侵害することを避け,それと同時に効率的な作業を行っていくというテクニカルアーティストらしい未来図を描いているようだった。
今回の講演には,マキシモフ氏が自社製品であるPromethean AIの開発意図を明確にするという目的もあったようだ。最後に同製品の内容を紹介し,ツール内限定で用意された何百種ものアセットを,例えば「丸いもの」とか「木製品」といった平たい言葉でサーチし,該当するアートアセットの検索や管理をAIで補助しているのが理解できた。ワールド生成については「古ぼけた農家に到達する直前で,倒木のために歩かざるを得なくなった3Dシーン」を,ほんの5分ほどで作り上げていくライブデモが余りにも早くて驚いたが,こちらについては製品紹介のビデオを見ておくと良いだろう。
わからないものについては誰もが恐怖を抱くが,それを理解し,フェアで倫理的な道筋を整えた上で,自分たちのアート制作のために利用していく。そんなクリエイティブな未来のために,より多くの人が生成系AIの知識を深めていくべきなのかもしれない。
「Promethean AI」公式サイト
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