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Oculusによってクリエイティブの世界は万人に開放される。VRコンテンツ「Oculus Medium」を開発したBrian Sharp氏によるプレゼンテーション
会場では,同ツールの開発者であるBrian Sharp(ブライアン・シャープ)氏によるプレゼンテーションも実施されたので,その内容をレポートしよう。
「Oculus Medium」の開発者であるBrian Sharp氏。本ツールは,Oculus RiftやRift Sを使用して,VR空間の中で立体物(3Dモデル)を作ることができる |
はじめに語られたのは開発の経緯だ。Brian Sharp氏によると,VRやARのためのコンテンツを制作する環境が,従来の2Dモニターであることは不自然かつ非効率だと感じていたため,ならば「制作環境もVR空間にしてしまおう」という発想で生まれたものが「Oculus Medium」だそうだ。
コンセプトは明確で,本ツールを利用すれば,わざわざ広いアトリエや材料,高価な道具を用意しなくとも,彫刻や粘土細工を作るような感覚で3Dモデルを作ることができる,といった利便性にある。
これらの説明が終わると,ステージには新たに2人のアーティストが登壇。VRヘッドセットのOculus Riftを装着し,「Oculus Medium」を使った制作のデモンストレーションを始めた。
3Dモデルを制作する2人を横に,Brian Sharp氏はプレゼンテーションを続けた。「リアルな造形を早く,簡単に作れるだけでなく,カッコいいカメラアングルも探りやすい。また,3D映像の実制作に入る前に,3Dのイメージボードを作り,イメージ共有に使うこともできるのです」と。
アーティストのひとり,Gio氏が作っていたのは,ブルース・リーのような格闘家が異形の軍勢と対峙している場面。筋肉の凹凸や,皮膚に浮き出た血管のリアルな描写が,誇張抜きで瞬く間にできあがっていく |
また,作業の初期に全体像を小さめに作っておき,のちほどそれを拡大してディテールを整えていくという,現実世界の彫刻や粘土では不可能な作業手法も,「Oculus Medium」なら可能となるそうだ。
「現実世界で同じやり方で彫像を作るとしたら,本当に目のいい人にしか作れないし,像を見る側も虫眼鏡が必要になる。そんな立体物を『Oculus Medium』なら簡単に作れます」といったジョークも飛び出した |
なお登壇したアーティストのひとりRaz氏は,もともとは2D系のアーティストで,「Oculus Medium」を使うまでは3Dモデリングの経験はなかったとのこと。技術の習得のしやすさも「Oculus Medium」の大きな強みであるようだ。
Brian Sharp氏は,続けて「Oculus Medium」の理念や,彼らが見据える未来について,「クリエイティブやアートは,最も普遍的で,感動的でもある人間の体験です。だからこそ,Facebook社とOculus社は,それを媒介にしたコミュニティも作り上げることができると信じています」と述べた。
たとえば毎年開催されている「リミッツ」も,そんなコミュニティのひとつと言えるのだろう。今大会では「Oculus Medium」を使った「VR Sculpting Battle」という競技が初めて行われ,ニューヨーク,カリフォルニア,ロンドンの3都市で行われた予選の勝者たちが東京に集い,決勝トーナメントを戦ったのである。
「VR Sculpting Battleは本当に激しい。でも戦いの1日が終わると,選手たちは膝を突き合わせ,それぞれのアートの話や,Oculusの話などで大いに盛り上がるのです」と氏は言葉を続けた。
VR Sculpting Battleが行われた会場では,来場者がOculus Rift Sを使って「Oculus Medium」を体験できるコーナーもあった。Oculus Rift Sはすでに発売されているが,国内で体験の場が設けられたのはこれが初 |
最後にBrian Sharp氏は,「私達がOculusを開発してきたのは,コンピュータが人々の暮らしをより豊かに,シンプルにしてくれると信じているからです。これまで3Dモデルを作るのは大変な仕事でした。でも『Oculus Medium』を使えば,ヘッドセットで見て,手を動かすことで,誰でも3Dモデルを作れるようになるのです。ARとVRの技術は,未来のアートを万人に開放しています。未来がどこに向かっていくのか,私自身ドキドキしています」と語り,プレゼンテーションを締めくくった。
なお,今回実施された「VR Sculpting Battle」に参加した選手たちの多くは,3Dでの制作は「Oculus Medium」が初であったようだ。
VRヘッドセットは,ゲームや映像など「すでに完成しているコンテンツを楽しむデバイス」というイメージが強い。だが同時に,クリエイティブの環境を変えたり,表現に携わる人々を大きく増やす可能性を秘めたデバイスでもある。そして,そのことを伝える取り組みを,Facebook社やOculus社はこれからも続けていくようである。
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