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イベント
「FINAL FANTASY XV」の開発を手がけるLuminous Productionsが協力した「東京藝術大学ゲーム学科(仮)『第0年次』展」内覧会をレポート
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「東京藝術大学ゲーム学科(仮)『第0年次』展」公式サイト
この展示会は,「東京藝術大学にゲーム学科ができたら」という仮定のもと,東京藝術大学大学院映像研究科修了生から選出された5人のディレクターが,ゲーム学科の「第0年次」の研究生となり, それぞれの制作した5つの作品を成果として展示するという内容だ。ディレクター達は,ゲームを「表現」として捉え,ゲームの概念や可能性を広げることを目指して,約6か月間にわたってコンテンツの制作に挑んだという。
展示会の実施にあたっては,産学協同の試みとして「FINAL FANTASY XV」の開発を手がけるスクウェア・エニックス・グループのスタジオ,Luminous Productionsのクリエイター達が,選出されたディレクター5名に制作のアドバイスをするメンターとして協力した。
東京藝術大学とスクウェア・エニックス・グループとの産学協同の取り組みは2017年に始まっており,昨年は,「ゲームと芸術に垣根はあるのか,そしてゲームとは何か」を考える試みとして,「アニメーションからゲームを作る」(Animation to Game)をテーマに,学生達が7つのアニメーション作品をゲームとして制作する試みを行っている。また,それらの作品を展示した「ゲーム学科(仮)展」も開催された。
今回は,開催前日となる11月2日に関係者・メディア向けの内覧会が開催された。本稿では,内覧会で紹介された各作品の概要とディレクターの解説,そしてメンターとなったLuminous Productionsのクリエイターのコメントなどを紹介しよう。
「たいふうのよる」
ディレクター:福地明乃(アニメーション専攻 2018年修了)メンター:畠山清香(Luminous Productions)
エンジニア:藤田至一
本作品は,上記のAnimation to Gameの一環として,ディレクターの福地明乃氏が制作したアニメーション「たいふう14ごう」をもとに制作されたVRコンテンツだ。元になったアニメーションは10分前後の長さだが,本作品はその中の,台風で停電した部屋にいる姉妹のシーンをピックアップした。制作にあたっては,部屋の中に1つだけ光源のろうそくを置き,そのろうそくから見た姉妹の様子を描き出すことに注力したという。
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メンターの畠山清香氏は,福地氏のアニメーションをVR化するにあたって独特の画風を活かすべく,本作品では2Dグラフィックスによる表現を用いたと解説した。制作中は,2Dでの奥行きや影の表現,さらにインタラクションをどう持たせるかといったことが課題となったという。
![]() ベースとなったアニメーション作品「たいふう14ごう」 |
![]() 進行表も展示された |
「here AND there」
ディレクター:小光(アニメーション専攻 2018年修了)メンター:長岡愛子(Luminous Productions)
テクニカルディレクター/エンジニア:木村優作(CANOPUS)
本作品は,イラスト調の風景の中に配置されたさまざまなオブジェクトにタッチすると,小さな変化が起き,変化に伴うアニメーションを楽しむというもの。風景は家,街,海の3つが用意されており,それぞれに異なる変化が発生するのだが,何となくつながっているように感じられるところもある。
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こちらもAnimation to Gameの一環として制作されており,ディレクターの小光氏によると「“遊び心”をコンセプトとしている」「ゲームというよりは“おもちゃ”として遊んでほしい」とのこと。
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メンターの長岡愛子氏は,小光氏の表現したい世界は,「ゲームのような駆け引きではなく,子どもがいつまでもクルマのおもちゃで遊んでいるような,繰り返しのあるもの」だったと説明した。また「“おもちゃ”として遊ばせたい」という部分を実現するために,可能なかぎり多くのオブジェクトにインタラクションを用意し,遊ぶ人のストレスを少なくすることを提案したと述べた。
なお本作品は現在,App StoreでiPad版が無料配信されている。
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「ゲーム学科(仮)展 -続きから-」
ディレクター/エンジニア:薄羽涼彌(メディア映像専攻 2017年修了)メンター:貫田将文(Luminous Productions)
ここでは,ディレクターの薄羽涼彌氏が上記の「ゲーム学科(仮)展」に出展した作品から続く,一連の流れを紹介した。薄羽氏によると,最初の作品はAnimation to Gameの取り組みで,かつゲームとして遊びやすくする試みだったという。結果として,「同じシステムでも,視覚化の手法が異なれば,異なる体験になる」「プレイヤーが操作している対象への意識の集中は多様で,柔軟性がある」という発見を得たそうだ。
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そうした発見をもとに薄羽氏は,いくつかの実験を行った。その結果,プレイヤーが操作すると何らかの反応が返ってくるものが量産されたが,同時に「これらはゲームと呼べるのか?」という疑問が生まれたという。
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そこでゲームを「プレイヤーの操作による入力を待つだけでなく,ゲーム内に自律的に動くシステム(敵,NPCなど)を含んでいるもの」と定義し,制作されたのが「クシャミのシステム」だ。
この作品は,下の写真のように人の顔の左右に4つ1組のボタンが配置されており,各ボタンを通過するハエを,対応するコントローラのボタンを押して退治する。退治できなかったハエは顔に当たり,クシャミを誘発する。
また画面左上のマップ上にある黒い正方形は,プレイヤーが押したボタンに対応して上下左右に移動する。うまく操作すれば,ドアを通って次の部屋に進む,というダブルタスクによって,上記の定義を実現したという。
しかし,状況に対する嫌悪感やダブルタスクの難度にムラがあるなどの課題も生じた。
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そうした点を踏まえ,現時点の最終成果物として制作されたのが「Imaginary Dungeon(α版)」だ。
この作品は,「(テレビが壊れて)ゲームが遊べなくなったので想像でゲームを遊ぶ人を操作して遊ぶ」というゲームで,具体的には,画面左上のマップでゲーム内ゲームにおけるキャラクターを操作して,部屋を探索しながら上階への鍵を探す。途中,床の穴に落ちると,画面右側に表示されたテレビの画面からゲーム内ゲームの自キャラが出てきて,画面左下のキャラクター(想像の中で遊ぶ人)が目覚め,最初からやり直しとなる。
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さらにゲーム内ゲームには敵キャラも登場する。ぶつかった敵キャラは,やはりテレビから出てきて自分のキャラクター(想像の中で遊ぶ人)目がけて飛んでくるのだが,こちらはうまく操作して避けることでゲーム内ゲームを続けられる。しかし敵キャラを避けることだけに集中すると,連動して動くゲーム内ゲームの自キャラが穴に落ちてしまう……ということになりかねない。こうした形で,薄羽氏の定義したゲームを実現しているわけだ。
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怪獣縁起
ディレクター:谷 耀介(アニメーション専攻 2018年修了)メンター:菊池 咲(Luminous Productions)
エンジニア:小楠竜也
本作品は,タブレットなどでプレイしたミニゲームの結果が,別途用意されたジオラマに影響をおよぼすというもの。例えばタブレットである操作をすると,それに連動してジオラマにホログラムで表現された雨や雷が発生する。反対に,ジオラマに雨が降ることで,タブレットでできることが増えるという効果もある。
ディレクターの谷 耀介氏によるデモプレイでは,ミニゲームをプレイしてジオラマに雨を降らせるとやがて草が生え,そして花が咲くという例が示された。
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実は本作品,ジオラマ中央に表示された(タブレットに表示させることもできる)怪獣の霊体の中を旅するという設定となっている。上記のようにミニゲームを通じてジオラマに変化を起こすことで,最終的に怪獣の霊体を昇天させれば,真のエンディングに到達するという。
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メンターの菊池 咲氏は,谷氏の表現しようとするテーマを実現するべく入念なヒアリングを行い,さまざまなやり取りの中でじっくりと本作品の構想を練り上げていったと話した。そして,仕事で自分の表現したいものを最後まで作り上げる機会はなかなかないので,今回の取り組みはいい経験になったと続けた。
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「中の人たち」
ディレクター/エンジニア:曽根光揮(メディア映像専攻 2014年修了)メンター:江波戸天仁(Luminous Productions)
これは,ARとVR,そして観客の3つの立場で,情報が断片的に共有される状態を体験するというコンテンツだ。ARプレイヤーは抽象的に表現された魚に上から餌を落とす。一方,VRプレイヤーは仮想空間上のリアルな渋谷で,空から降ってくるクルマなどのオブジェクトを避けたり,撮影したりする。
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重要なのは,ARでプレイヤーの落とす餌が,VRで空から落ちてくるオブジェクトと連動している点だ。しかしVRの世界に落ちていくものが何なのか,ARプレイヤーには分からないし,反対にARプレイヤーが何を落としたのか,VRプレイヤーには分からない。
さらに,観客が見られる画面には,コンテンツ内でのARプレイヤーとVRプレイヤーの位置関係が示されるが,具体的に何が起きているのかサッパリ分からない。
![]() ARプレイヤーが,抽象的な画面上で魚に餌を与えると…… |
![]() リアルに表現された渋谷の街にクルマが降ってきて,かなりカオスな状態に |
ディレクターの曽根光揮氏は,「ゲームのマルチプレイをうまく使い,新しいものを作ることに挑戦した」と語り,「位置こそ共有しているが,操作しているプレイヤーがどんな人なのか,どんな立場で世界を見ているのかは分からない。それぞれが,まったく異なる経験をすることになる」「コンテンツの外にある,リアルな空間が含まれていることが大きな特徴」と説明した。
観客視点については,「ARとVRのプレイヤーはアクターという立場で,それをいかに劇場化するかを考えた」と話した。
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メンターの江波戸天仁氏は,曽根氏が話した「人間は他人から見られることで自分になる」との発言を引用し,「このコンテンツも,AR側から見たVR,VR側から見たAR,そして,それらを見る第三者としての観客と,他人から見られることで立場が変わるということを表現している」とコメントした。そして,「商業的にはチャレンジしにくいコンテンツだが,こういったコンテンツに携わる機会を得らてよかった」とも語った。
会場では,今回の取り組みにおいてLuminous Productions側の主導的な立場にある長谷川朋広氏から話を聞くことができた。
長谷川氏によると,そもそもの発端は2012年頃,「FINAL FANTASY XV」のディレクターである田畑 端氏がアートチームに「我々の作るアートは,一般的な人にとっての芸術なのか?」「芸術の場で,我々のアートを見てもらったらどう評価されるのか?」という疑問を投げかけたことにあったという。
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東京藝術大学でアニメーションを専攻する学生の中には,表現の一つとしてゲームを扱ってみたい学生も少なくないという。しかしゲーム制作のイロハを知らない人が,ゼロからゲームを作るのはかなりハードルが高い。
そこで2017年,ゲームの要素を分解してアニメーションに取り込む上記のAnimation to Gameの取り組みを行ったところ,商業的なゲーム開発とはまったく異なる視点や発想が学生達から出てきたという。
その成果を披露したのが,「ゲーム学科(仮)展」だが,それが好評だったため,第2回の取り組みとして今回の「東京藝術大学ゲーム学科(仮)『第0年次』展」の開催が決定。
さらに2019年度からは東京藝術大学 大学院映像研究科に,インタラクティブな表現が学べ,単位も取れる正式な学科として「ゲームコース」が設けられることも決まったという。
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長谷川氏はこの取り組みについて,「“商品を作る”という我々のアプローチからはたどり着かない,まったく違う切り口からの発想が新鮮。例えばアナログの立体物とデジタルコンテンツの組み合わせは,大量生産を前提としない,一点ものを作るという発想だからこそ生まれる。我々も,これくらい自由にやってみたいと,うらやましくなる」「皆さん,アーティストなので,ものを作ることについてすごく考えている。メンターになったLuminous Productionsのスタッフも,いい刺激を受けたのでは」と述べていた。
「東京藝術大学ゲーム学科(仮)『第0年次』展」公式サイト
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