業界動向
【山本一郎】「ゲーム依存症」問題から見るガチャ商法規制の今後
「App Store審査ガイドライン」が更新。ガチャにおける入手確率の記載を義務化
Electronic Arts社(以下,EA社)が2017年11月17日に世界同時リリースした「Star Wars バトルフロント II」では,ルートボックスにおける排出内容をめぐり大きな問題が発生し,ハワイ州議会議員であるクリス・リー(Chris Lee)氏が「略奪的行為である」という声明を発表,ハワイ州規制当局がEA社に調査を行いました。
また,EU加盟国であるベルギーでは,デジタルビジネスを扱うEU圏内でのルートボックス禁止令を要求する状況となり,早ければ2018年中にも,ルートボックスに対する非常に厳しい規制がEU取引指令に取り入れられると見られています。
デジタルデータが有価物(価値のあるもの)であり,一定額の現金を使ってガチャを回すことによって「欲しいと思っている当たりのレアキャラクターが出るかもしれない」というのは,日本では馴染みのある光景です。しかしながら,そのルートボックス(ガチャ)に何がどの確率で出るのかを表記することは「プラットフォーム事業者が消費者に対し行う最低限の義務」としたうえで,「あまりにも高価なデジタルデータを誘因材料にしてガチャを回させる行為は,事実上の賭博に当たる」ので「熱くなりすぎる消費者がのめり込まないよう,保護されなければならない」とEUで議論になるのも致し方ないと言えます。
一方で日本は,ゲーム業界団体のガチャ確率表示に関する取り決めはいまだ徹底されているとはいえず,世界の中で唯一ガチャ商法が野放しになっている状況です。まさか,市場の健全化で中国に負けるとは思っていませんでした。
オールアバウトで田下広夢さんや,Yahoo! ニュースで木曽 崇さんが,世界的なルートボックス(ガチャ)規制の趨勢について解説記事を掲載しておられますが,この世界的な批判の根拠の一つには,ゲーム依存症が,世界保健機関(WHO:World Health Organization)の国際疾病分類として認められる見通しであることが挙げられます。
このWHOの国際疾病分類にゲーム依存症が追加される件については,ルートボックスが消費者の射幸心を煽り,所得の多くをガチャに突っ込んで食費を削ったり,学業や仕事をそっちのけでゲームにのめり込んでいく消費者への対策もまた,今後は事業者(ゲームアプリ運営会社や,プラットフォーム事業者)に求められていくことになります。
Appleによるガチャ規制と、ルートボックス問題
(All About:田下広夢氏)
ガチャ=賭博?:世界同時多発的なガチャ規制論が勃発
(Yahoo! ニュース:木曽 崇氏)
ガチャを引くことや,ゲーム内でのバトルコンテンツなどにおいて,確率的条件は遊びの快楽を増幅させ,ゲームの根幹に位置する楽しさであることは言うまでもありません。勝てるか勝てないか分からないからゲームは面白いのであり,ガチャを引いて良いカードやキャラクター,アイテムが出て初めて「面白い」とプレイヤーは感じるわけですから,この確率的条件を伴うゲーム性はゲームの本質そのものであって,ここを否定するべきものではありません。
しかしながら,WHOがビデオゲーム/デジタルゲームを,依存症を引き起こす国際疾病分類の1つとして正式に認めようとしている背景には,このゲームの射幸性の強さや中毒性による快楽から逃れられず,長期間の依存状態となった結果,学業や仕事など日常の生活に支障をきたす人が決して少なくない割合存在する,ということがあります。
前述のベルギーにおけるEU圏内でのルートボックス禁止令は,ストレートに「ルートボックスによって,キャラなど価値のあるデータの当たり外れを生じさせる仕組みは,事実上の賭博である」として,ゲームプレイヤーである未成年・若年層を中心にギャンブル依存を引き起こす疑いがあると論じられています。
これらは,ゲームプレイへののめり込みは単なる趣味(嗜癖)の強さと判断せず,依存の対象であり,また依存させることでゲームを成立させる能動的な働きがあることを問題視していると言えます。
日本では,ギャンブル依存に関する調査はまだ途上ですが,概ね依存状態に陥った「患者疑い」の8割程度は,自力で依存状態から脱却しているといわれています。ギャンブル依存の定義は,ざっくり言うと「1年間ハマり続けていること」であり,例えばスマホゲームで言うならば,ダウンロードからの1か月以内の早期離脱率は,ゲームにもよりますが概ね8割前後とのことなので,ほとんどのプレイヤーにとっては「ゲームは趣味で楽しむもの」であり,ハマってもせいぜい数週間程度というのが一般的です。
巷には「沼」とか「3000円払えば無料で10連まわせる」などのワードが並びますが,このような人たちがスマホを取り上げられたり,何かの事情でスマホゲームができない状況に陥ったりすると,ゲームが気になってイライラしてしまうのが実情でしょう。
実際,疾病が進んだ状態で家族がゲームを取り上げたとき,反射的に子供が激怒したり,暴力的な行動を取るのは,常日頃からさまざまな形でゲームに接している4Gamer読者であれば,なんとなく想像が付くかもしれません。これこそが,典型的な依存の症状なのです。ゲームのことが頭から離れず,学業や仕事がそっちのけになるほどハマるのは,単なる趣味,嗜癖ではなく,アルコールやギャンブルにおける依存と同様であり,病気なのだというのがWHOの考えです。
ゲーム業界は,良くも悪くも昨今の話題の中心はスマホゲームですが,そのスマホゲームへの依存状態を指摘されるだけで強く反論したり,激怒したり,モノに当たったりするなどの症状を引き起こすのが典型例です。そんな人いないだろうと思うかもしれませんが,意外にも大勢います。そしていわゆる「重課金者」と呼ばれる人達の中には,そのような依存状態に陥ったまま,日常のすべてをゲームに捧げてランカーになっている人が一定の割合でいるのではないかと思われます。
「スマホゲーム依存症」という著書には,WHOの国際疾病分類に「ゲーム依存」を盛り込む方針を示した経緯や,スマホゲームの持つ問題に対する意識,さらにはスマホゲームの中毒患者を社会復帰させるワークショップやプログラムまで,ゲーム依存によって人生が崩壊している本人や家族が知っておくべき情報がまとまっています。
いつでもどこでもプレイでき「クリア」という概念を持たないスマホゲームには大きな依存リスクがあり,ギャンブル性の高いガチャの連続使用によって脳内の神経伝達回路が不可逆に破壊され,活動への意欲を司るドーパミンを受け取る受容体が減少していき,結果的に何事にも無関心になり,刺激に鈍感になっていく機序も解説されています。ゲームそのものやプレイヤーを攻撃しない淡々とした書き口は,4Gamer読者の皆さんにもお勧めです。
また別の先導研究では,ガチャを回したあとで排出されるセクシーな絵柄のキャラクターや動画が,一定の割合のプレイヤーにとって自慰行為のための報酬となり,依存の度合いが深まっていることもまた,明らかになりつつあります。つまり,高額のガチャ商法と性的嗜好・興奮が結びついた場合,併存障害や各個の性格によっては,スマホゲームによって人生が破滅するぐらいのマイナスのインパクトをもたらすこともあるでしょう。
ゲームメーカーやサービス元もまた,これらのゲーム依存症に対するモニタリングを行う必要に迫られるだけでなく,行き過ぎたガチャに対する適切なガイドラインと,業界の自主規制は遵守するよう徹底される必要があります。しかも,これらは性や暴力などの表現に対する規制ではなく,ギャンブルや依存に対する問題であり,スマホだけでなく,ガチャを扱うゲーム全体の問題であることは言うまでもありません。
アメリカでは先日,上院議員マギー・ハッサン(Maggie Hassan)氏が,同国のゲーム自主規制団体ESRBへと働きかけを求めました。アメリカでも,中国でも,EU圏でも,一定の歯止めをかける方向で進んでいるルートボックス問題が,日本でだけ野放しになっているのはどういうことなのでしょうか。
おそらくは,WHOの「依存症診断ガイドライン」をもとに,日本国内でも改めてゲーム依存の実態調査が進み,これに合わせる形でスマートフォンゲームのハマりすぎ防止に対する枠組みなどが組まれていくことになります。ゲームへの過剰な依存が社会問題になると,高額課金に対する賠償問題や立ち入り調査にも発展していくことは避けられないでしょうし,国内でも盛り上がり始めるであろうeスポーツの選手を含めた,ゲームプレイヤーのメンタルヘルス政策が議論されることになるでしょう。
悪い方向へとどんどん進んでいってしまう前に,業界はもちろんのこと,国や各種団体なども巻き込む形で,ぜひとも有効な手を打ちたいところです。
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