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VR技術を駆使してチェルノブイリ原子力発電所近郊を歩く――「Chernobyl VR Project」が進行中
また,VR観光には「普通なら行くのが困難な場所」への旅行を可能にするという方向性もある。エベレスト山頂や極点といった特別な訓練なしでは行けない土地をはじめ,宇宙空間や宇宙ステーションといった場所をも擬似的に体験できるのは,VR技術の大きなメリットと言えるだろう。
そんななか,現状において「普通なら行くのが困難な場所」の一つをフィーチャーした作品が登場した。「Chernobyl VR Project」(以下,CVP)と題されたこの作品は言うまでもなく,1986年に重大な事故が発生した「チェルノブイリ原子力発電所」をテーマとしている。
ポーランドで開催されたゲームイベント「Poznań Game Arena」にて,CVPを試遊してきたのでレポートしてみよう。
「Chernobyl VR Project」公式サイト
「Poznań Game Arena」公式サイト
放棄されたプリピャチの街を歩く
コンテンツの構造やインタフェースに目を向けると,CVPはいたって標準的なVR観光コンテンツである。
まずプレイヤーはプリピャチの街のどこに行きたいかを,空撮映像から選ぶ(ドローンで撮影したようだ)。有名な観覧車のある遊園地,小学校,コミュニティホール,さらには発電所のオペレーションルームまで,カバーされている範囲はとても広い。
向かった先では,2つのコンテンツが用意されている。1つは視点が固定された360度映像,もう1つは3Dで構築されたVR空間である。
360度映像の場合,プレイヤーは定点から周囲を見渡すことしかできない。
一方,VR空間の場合,プレイヤーはその中を自由に移動できる。HTCのVive版であれば,ルームスケールの範囲内を実際に自分の足で歩き回れるうえ,「テレポート移動」も可能だ。
VR空間は(場所にもよるが)かなり広い。学校であれば,複数の教室と長い廊下,さらに廊下の先のドアの向こうには講堂らしきスペースまで存在する。
また,CVPには「チェルノブイリの祈り」の著者であるノーベル文学賞受賞者のスヴェトラーナ・アレクシエーヴィッチ氏,現キエフ市長のビタリ・クリチコ氏といった有名人も姿を見せる。本作は教育コンテンツでもあり,こうした人々の言葉を通じて,チェルノブイリ原発事故がどのようなものであったのか,また現在の状況がどうなっているのかを知ることができる。
独特な「空気の重たさ」
Poznań Game Arenaの出展までに,スタッフは12回にわたってプリピャチの街を訪れたという。そして,「あと最低でも8回は足を運ぶ」とのことだ(ちなみに出展の3日前にも取材に行っていた)。
CVPの3Dデータは大量に撮影された写真から機械的に起こされたものだが,綿密な取材に基づいており,その再現度は極めて高い(もちろん,テクスチャも写真がベースだ)。 また,取材にあたっては,当時の原子炉作業員や除染作業員にもインタビューを行っているという。
何人ものプレイヤーがCVPをプレイしていたが,いずれもルームスケールの範囲内を歩く足取りがとても重たい。多くの場合,まず棒立ちになり,それから非常にゆっくりと歩き始める。これには移動のためのUIの影響もあるが(テレポート移動なので,大きい動きは不要),やはり「見えている」風景の重たさによる影響は否定できないだろう。
筆者も独特な「空気の重たさ」を感じた――同時に「ここ,『S.T.A.L.K.E.R.』で来たなぁ」とも感じていたのは,ここだけの秘密だ。
Viveのほかに,RiftやGear VR,PlayStation VRに対応するとのことで,ぜひ一度体験してほしいコンテンツである。
「Chernobyl VR Project」公式サイト
「Poznań Game Arena」公式サイト
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