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[CEDEC 2015]アイデアの良し悪しは数値化できる。アイデアの「戦闘力」を計測する具体的な手法が語られた講演の模様をレポート
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印刷2015/08/28 17:49

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[CEDEC 2015]アイデアの良し悪しは数値化できる。アイデアの「戦闘力」を計測する具体的な手法が語られた講演の模様をレポート

 CEDEC 2015の2日めとなる2015年8月27日,「アイデアの戦闘力を計測するスカウターを作る-ゲームエンジンを使った開発におけるゲームデザインの評価基準-」という一風変わったタイトルの講演が行われた。登壇したのは,アメリカのモバイルゲームスタジオであるTinyCoでLead Game Designerを務める菊地麻比古氏で,同氏はまた「ファンタシースターオンライン」「ナイツ〜星降る夜の物語〜」の開発にも関わった経験を持つ人物でもある。

 果たして,「アイデアの戦闘力」とは何か? そしてまた,ゲームデザインに定量的な評価基準を導入することは,なぜゲームエンジンを使ったゲーム開発において重要になるのか? ゲーム制作以外の場面でも活用できるノウハウが詰まった講演の模様をお伝えしたい。

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「できる」からこその困難


 アイデアの戦闘力とは,菊地氏が考案したメソッドによって定量化(数値化)されるもので,「そのアイデアが,開発中のゲームにとってどれくらい有益か」を示す値だ。この数値(および定量化すること)を利用することで,開発メンバーの意志統一やアイデアのフィルタリング,あるいはゲームにきっちりとした背骨を通すことが容易になるという。

 菊地氏は,ゲームエンジンが普及したことによって,開発メンバーの意志統一やゲーム世界の一貫性を保つこと,さらには気軽に試行錯誤することなどが,かえって難しくなってきたと指摘する。強力なゲームエンジンが利用できるようになった結果,ゲームはより大規模かつ複雑になってきたからだ。

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 規模の大きなゲームが作れることで,制作に携わるメンバーの専門化も進んでいく。アメリカでは,例えばデザイナーと呼ばれる職種に限っても,システムデザイナー,レベルデザイナー,UIデザイナー,サウンドデザイナーなど,それぞれに特化した専門職がおり,専門的であるがゆえに,お互いの意志の統一を図るのが難しいと,菊地氏は指摘する。

菊地麻比古氏
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 同様に,世界観の統一にも苦労がつきまとう。ゲームエンジンのおかげで,さまざまなステージを容易に作れるようになったが,これはいわゆるレベルデザインにとどまらず,さまざまなゲームギミックにもおよぶ。極端な例を挙げれば,もはやプログラマーの手を借りることなく,何人かのメンバーだけで「主人公が2段ジャンプできるようにする」ことさえ可能なのだ。
 もちろん,そういった個々の努力によって,ゲームが面白くなる可能性がないわけではない。だが往々にして,「本当はしてほしくないことまで,やってくれてしまう」(菊地氏)という。より制作のハードルが低いカットシーンなどでは,多数のメンバーがそれぞれ勝手に「自分が思う,必要なシーン」を作ってしまい,「主人公が二重人格どころか,三重,四重人格になってしまっている作品になったこともある」と述べる。

 また,ゲームエンジンのおかげで,手軽に試行錯誤ができるようになったのは疑いない事実だが,ゲームの規模が大型化し,さまざまな要素が有機的につながってくると,「ちょっと試してみるか」というわけにもいかなくなる。
 例えば,ゲーム内に登場する車に耐久力を与え,耐久力がゼロになったら壊れるという仕様を追加することそのものは,従来より簡単になった。だがそれによって,「車がないとクリアできないステージ」におけるハマりを生む可能性が生まれてしまう。

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 このように,便利で強力なツールによって,できることが広がった反面,そこに関わる人や仕事の統一感を醸造することが困難になったと菊地氏は話した。


アイデアの戦闘力測定


 このような問題を克服するために菊地氏が考案したのが,「アイデアの戦闘力を測定する」という手法だ。
 アイデアの戦闘力を測定するためには,事前に以下の4つのステップが必要になる。

(1)良いコンセプトを用意する
(2)コンセプトを,5つほどのキーフレーズに分解する
(3)キーフレーズに「重み(数値)」を設定する
(4)(お好みで)コンセプトアートを添える


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 こうして作られたアイデアスカウターは,「5つ程度のキーフレーズ」「それぞれのキーフレーズに与えられた値」「(お好みで)それぞれのキーフレーズのコンセプトアート」によって構成される。

 さて,では実際にこれをどう使うのか。
 まず,ゲームを開発している途中で,何かしら新しい(おそらくはゲームをより素晴らしいものにするはずの)アイデアを思いついたら,そのアイデアが各キーフレーズにどの程度合致しているかを測定する(ある程度までは主観的な点数付けになる)。そして,それぞれの合致度に,各キーフレーズの「重み」の値をかけ合わせる。
 こうして算出された値をすべて合計したものが,「アイデアの戦闘力」になると菊地氏は言う。


コンセプトの限界


 この手法だが,真っ先に気になるのは「コンセプトが決まっているなら,アイデアがそれに合致しているかどうかを確認すればいいじゃないか」というところではないだろうか。
 これについて菊地氏は,かつて所属していたソニックチームで言われていた「コンセプトが良ければゲームは9割がた成功」という言葉を引用し,「まったくそのとおり」だとする。コンセプトはゲーム全体を貫くネタであり,ゲームを一発で伝える一文であり,偉い人がこれなら儲かると納得できるものでもあるので,これが重要であることには否定の余地がない。

 だが,実際のゲーム制作を考えたとき,「良いコンセプトから,魔法のようにゲームができあがるということは,もはやあり得ない」と菊地氏は述べる。大昔のゲームであれば,1つのネタからゲーム全体を立ち上げることも可能だったが,氏がセガに入社した2001年の段階ですでに,ゲームのコンセプトを一文で表すのは不可能になっていたという。

 これについて菊地氏は「『ゼルダの伝説』のコンセプトを一文にまとめる」という課題について,納得できる解答が帰ってきたことがないという現実を指摘した。大規模化するゲーム開発の現場で,一つのコンセプトだけで意志統一を図るのは,もはや不可能なのだ。
 現実を見たとき,コンセプトの存在理由は「偉い人がこれなら儲かると納得できる一文」に偏ってきたと氏は指摘する。その結果,コンセプトは実際の制作から遊離した,言葉遊び的なものになりがちだ。

「コンセプト」の重みの変化
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 菊地氏はこれに対し,「コンセプトの重要性は失われてはいないものの,その有効性を制作につなげるための仕組みが必要」と語る。


キーフレーズへの分解と,その重み


 となると,次に気になるのは,コンセプトをキーフレーズに分解するだけではダメなのか,というところだ。キーフレーズに分解することで,制作途中で出てきたアイデアがどれくらいコンセプトに一致しているかが具体的に分かるのだから,それで十分ではないのだろうか?

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 実際このことは,菊地氏もかつて感じていたという。だが開発者や開発環境の多様性が増大するにつれ,キーフレーズに分解するだけでは(あるいは「50%くらい適合している」という評価でも)不足するという。
 かくして氏が考案したのが,前述のようにキーフレーズに「重み」をつけ,アイデアを点数評価するという仕掛けだ。
 例えばいま,キーフレーズが4つあるとする。
 これに対し,フレーズ1は50点,2は30点,3は15点,4は10点と「重み」をつける。
 一方,問題になっているアイデアの適合度について,フレーズ1は50点(満点),2は30点(満点),3は10点,4は0点と評価されたとする。結果,このアイデアは合計で90点の戦闘力を持つ,というわけだ(ちなみに数値を100倍すると,より「戦闘力」らしくなるそうだ)。

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 さて,こうなってくると重要なのは,コンセプトをキーフレーズに分解する方法になる。分解方法として菊地氏は

・お客さんにどう遊んでほしいか
・どうシェアしてほしいか(Twitterで拡散,スクリーンショットの投稿,話題を呼ぶような変わった装備など)
・どこでお金を払ってほしいか(基本料金無料のゲームではとくに重要)
・チームがゲームをどう考えているか
・ゲームメカニクスをどう生かすか


といった要件を示した。

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 なかでも「チームがゲームをどう考えているか」というのは,他に負けず劣らず重要になる。というのも,開発チームのコアメンバーが,それぞれまったく違ったことを考えていることがあるからだ。
 こういうときは,主要開発メンバーを集め,「このゲームってどんなゲーム?」という質問をし,各人は与えられた付箋(1人5枚)に対して自分の意見をワンフレーズ程度で書いていくようにする。こうして集まった付箋をホワイトボードに貼り付けると,チーム内のイメージをビジュアライズできる。
 またこれによって,キーフレーズとなるような要素の重みを判断することもできる。単純に言えば,より多くのメンバーが付箋に書いて提出したキーフレーズは,より「重みが大きい」と考えることが可能になるのだ。加えて,内心では思っていたものの具体的に口にされなかった「チームメンバー内部における暗黙の了解」的なものが,明示的に共有されるチャンスとなる。


実際にスカウターを作ってみた


 以上,概念だけではなかなか理解できないかもしれないということで,菊地氏はこのスカウターをどのように作り,どのように利用し,どんな効果があったのかを,実際のゲーム開発を例に語った。

 ゲームのコンセプトとしては「1980年代のホラーテイストで,馬鹿馬鹿しいまでに残虐な暴力表現が楽しめるアクションゲーム」が掲げられており,氏はこれを,5つのキーフレーズに分解して重みをつけた。

(1)主人公は恐怖のモンスターである(25ポイント)
 ホラーゲームにおいて主人公はしばしば「狩られる側」の弱い存在だが,本作では凶悪なモンスターになる。

(2)極端なまでの流血アクション(25ポイント)
 菊地氏はこの開発に途中から関わっており,氏が前任のリードデザイナーからバトンタッチした段階で,リリースまで残り9か月。この状態で,ゲームの完成度はボンヤリしていて,チームの間での意識の共有も曖昧だった。
 ソニックチーム時代,氏はどんな企画であっても「それって,どこが世界一なの?」と聞かれたという。どの要素であれ,何か1つでも突き抜けたもの,チームメンバーが「やりきった」と思えるものがあれば,そのゲームを世にリリースする価値がある――それがソニックチームの思想だったという。
 この経験と現状から菊地氏は「流血の量だけは誰にも負けないゲームを作ろう!」と,チームに発破をかけた。その結果チームの勢いは回復し,記憶に残るゲームを作りたいという機運を盛り上げていくことに成功したという。

(3)圧倒的な武器(20ポイント)
 主人公が使う武器が,圧倒的であること。これが選ばれた理由は簡単で,「圧倒的な武器」がもうすでに作られていたからだ。

(4)身体破壊・切断(15ポイント)
 これもまた上と似たような事情で,選ばれたキーフレーズ。ただ,身体を破壊したり切断したりするギミックはすでにゲーム内に作り込まれていたが,氏が着任した段階ではその機能は使われていなかったという。

(5)ホラー映画へのオマージュ(15ポイント)
 ゲームのトーンを決定する要素で,アメリカ人はホラー映画を笑いながら見るので,そういうエログロナンセンスなテイストを重視する。

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 菊地氏はこの5つのキーフレーズに,それぞれコンセプトアートを添え,スタジオの部屋という部屋に貼っていった(なおコンセプトアートは残念ながら撮影禁止だったが,いずれも大変に迫力のあるものだった)。
 こうしてスカウターが制作され,共有されたことで,「ゲーム制作を進めていく中でおまえが何か素晴らしいアイデアを思いついたとしても,この条件を満たさなければ採用されない」という,チームのルールが完成したと菊地氏は振り返った。


15点……このゴミアイデアめ……


 このようにして完成したスカウターは,以下のように利用された。
 アメリカの開発者は,さまざまな場面で何かアイデアを思いつくと,「これはマジヤバイ!」という目つきで氏のもとにやってくるという。そんなメンバーに対して「まあ落ち着け」と諭すのが,このスカウターの働きの一つだ。

 その一例として,氏はメンバー(大のビンゴ好き)が提案してきた「ウェポンビンゴ」というアイデアを示した。
 このアイデアは,プレイヤーがゲーム内で武器を集めると,用意されていたビンゴシートが武器に応じて埋まっていき,一列揃うと景品が手に入るというギミックだった。
 これを聞いた菊地氏は,疲れていたのか,「悪くないんじゃないか?」と思ってしまった。だが,落ち着いてこのアイデアをスカウターにかけてみると……

(1)主人公は恐怖のモンスターである→武器を集めてビンゴで景品。実にチマチマしている。
 評価:0点

(2)極端なまでの流血アクション→武器を集めても血は出ない。
 評点:0点

(3)圧倒的な武器→まあ,ともあれ武器だが,圧倒感はない。
 評点:10点

(4)身体破壊・切断→ない。
 評点:0点

(5)ホラー映画へのオマージュ→ちょっとしたブラックな笑いはある。
 評点:5点

 なんと合計15点の,「雑魚アイデア」であった。

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 ここで菊地氏は,スカウターのもう一つの利点を示した。それは基準がはっきりしているために,ダメを出された相手が腐らないこと。そして問題点を把握し,自分からブラッシュアップしようとすることだ。
 事実,このアイデアは後に,ビンゴ好きの提案者本人によって「ボディパーツビンゴ」として再提案された。これは倒した敵の手や頭を拾うとビンゴシートが埋まり,一列揃うと景品,というアイデアだ。改めてこれをスカウターで見てみよう。

(1)主人公は恐怖のモンスターである→身体の一部をコレクションするのは,恐怖のモンスター。だが,ビンゴというのはいささかズレがある。
 評点:15点

(2)極端なまでの流血アクション→相手の身体を切断して流血させなくてはならないし,それを促進する。
 評点:25点

(3)圧倒的な武器→圧倒的な武器を駆使して切断する必要がある。
 評点:20点

(4)身体破壊・切断→まさにそのもの。
 評点:15点

(5)ホラー映画へのオマージュ→ビジュアルからして不気味でバカバカしい。
 評点:10点

 合計85点の,素晴らしいアイデアだったと菊地氏は語る。

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アイデアの選別だけでなく


 スカウターの効果としては,上記のものだけではない。順に見ていこう。

(1)まとまりにくいチームのために効果的
 キーフレーズを「みんなで決める」ことで,共通認識を醸造できる。「みんなで決めた」ことにより「俺達がこのゲームを作っている」「このゲームは俺のゲームだ」という意識が高まり,またチームがどんな面白さを作っているのかが共有されるので,全体のモチベーションが高まる。

(2)タイトなスケジュールに効果的
 ゲームを作っていくにあたっては,リリース日程との関係から,どうしてもカットしなくてはならない要素が出てくる。
 こうしたとき,何をカットすべきかを,スカウターに則って決定できるだけでなく,カットの精度をさらに高められる。上の作品では,海のステージをカットする際,「海のステージは流血に直結しない」という理由がチームで了解され,納得のうえでカットできたという。

(3)糞仕様に効果的
 ゲーム制作の規模が大きくなると,さまざまな引き継ぎ(そして引き継ぎミス)が発生するため,「なんでこれ作ってるの?」という仕様が残っていたりする。こういった謎の仕様を取り除けるだけでなく,例えば「75ポイント以上でないと,実装を試すことも許さない」というルールにすることで,全体の無駄な作業量を減らせる。
 そのうえで,前述のように自律的にアイデアを出し,自分でブラッシュアップしていくモチベーションは損なわれない。

(4)勝手発注・横槍防止に効果的
 ゲームは何かとビジュアルを動かすことが多いため,アーティストとプログラマがいつしか(そういう特別な悪意もなく)結託して,「ゲームをより良くするために」,勝手に仕様を追加したりしていることがある。これを氏は「勝手発注」と呼ぶ。
 こういった勝手発注に直面したプログラマーが,アーティストからの要求を断る防波堤として,スカウターは有効に機能する。
 同様に,偉い人や先輩からの「アドバイス」に対し,スカウターという盾をかざすのも効果的だ。

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 実に多様な局面で有用なスカウターだが,菊地氏はそのうえで,アイデアが生きるかどうかは,最終的には全体との調和が大事になると語る。スカウターで事前調査した段階では評価が低いアイデアであっても,結果的には良好な機能を果たすことは,やはりあるのだ。

 ここまで例として用いられてきたプロジェクトであれば,「ヒロインのプライベート写真がステージに隠されており,これを集めるとヌード写真が見られる」という仕様が,まさにこの典型だ。なるほど,ここには流血も切断もないし,恐怖や武器もないが,結果からいえばこの要素,恐怖と流血にまみれたこの作品における,一服の清涼剤になったのだ。

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 こういった要素を見抜くには,ゲームの全体像を見渡す視点が欠かせない。そしてリードデザイナーという立場は,ゲーム制作が追い込みに入ってメンバーが余裕を失っていく中,全体を見わたす目として重要なのだと氏は語った。


質疑応答


 最後に,質疑応答の時間が持たれた。興味深い質問が多かったので,簡単にまとめておこう。

Q:一服の清涼剤となったというプライベート写真の収集だが,チームルールに反するアイデアをなぜ採用できたのか。反発はなかったか。

A:会社からの要求として,コレクション要素は必須(最低でも10時間はプレイできるゲームでなくてはならない)というものがあった。そのことは全員が認識していたが,収集要素を作る時間がなく,ギリギリまで手がついていなかった。
 プライベート写真の収集は,例えば特殊な武器を集めるなどと比べて作業量が少なかった。ヒロインの裸の3Dモデルは当然,存在しているから,適切なポーズをとらせて撮影するのは簡単なことだった。
 このように,プライベート写真の収集には特殊な事情もあったのだが,キーフレーズを厳守するだけではダメだというのは,改めて強調したい。そこからちょっとだけ崩した,遊びを入れるのもまた重要だ。


Q:キーフレーズの重みポイントをつける,指針を教えてほしい。

A:チームのヒエラルキーを守るように重みをつけるのは,とても大事なことだ。一方でチームが崩壊しそうなときは,「みんなが決めた」ということが重要になるので,ポイントも投票で決めていったほうがいい。
 実際,例で示したゲームを作っているときは,前任者はスタイリッシュな主人公を目指していた。けれど実際にチームメンバーで投票を行ってみると,メンバーは重厚感のある主人公を作りたがっていた――というか,事実上,前任者以外,スタイリッシュで軽快な主人公を求めてはいなかった。みんなで決めることで,チームのモチベーションは大きく変わる。


Q:アメリカと日本で,ゲームを作るときの差のようなものはあるか。

A:我の強さや,自分のアイデアに対する自信は,アメリカの特徴のように思う。どう見ても「そんなの面白くないやろ」というアイデアでも,ゴリ押しでゲームに取り入れさせようとしてくる
 ただ,そういうアイデアを取り入れると,意外にも「本当に良かった」ということもある。取りこぼしをしないためにも,スカウターは有効だ。
 日本での開発経験は少ないが,アメリカほど我が強くないように感じる。というか日本のスタッフは本当に優秀で,ちゃんとディレクターから指示されたものを作ってくる。当たり前のことかもしれないけれど。
 ただ,アメリカのスタッフのように,キラリと光るアイデアをゴリ押ししてくるのも,これはこれで魅力的だ。そういう良さを,日本でもうまく引き出せたらと思っている。


Q:キーフレーズが妥当かどうかは,どう判断するか。

A:コンセプトに戻してみて,判断する。コンセプトは疑ってはいけない。「このプロジェクトは,このコンセプトを実現するためのものだ」ということで予算が下りている。だからコンセプトに示されたものを満たすのは,絶対の条件だ。
 そのうえで,具体的な方法については,チームごとに変わってくる。そこはケースバイケースで対応する必要がある。

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