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[CEDEC 2013]人間とは何か? アンドロイド研究から分かった“人間の存在感”とは
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印刷2013/08/27 20:39

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[CEDEC 2013]人間とは何か? アンドロイド研究から分かった“人間の存在感”とは

大阪大学特別教授 石黒 浩氏
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 CEDEC最終日の2013年8月23日,大阪大学特別教授 石黒 浩氏による「アンドロイド・ロボット開発を通した存在感の研究」という基調講演が行われた。
 ロボット研究というと,ASIMOのような自立歩行型ロボットや産業用ロボットを想像する人が多いかもしれないが,石黒氏が行っているのはそれらとはまったく異なる「人間に近い」ロボット(アンドロイド)の研究だ。氏の開発による,人間に近い表情などを再現したシリコン製のロボットは,ニュースなどで取り上げられることも多いので,見たことがあるという人も多いだろう。
 この講演では,そのような人間に似せたロボットの開発などを経て分かった,人間性や人間の存在感に関する氏の考えや取り組みが紹介された。本稿ではその内容をお届けしよう。

 石黒氏の代表的な研究成果は,「ジェミノイド」と呼ばれる,人間そっくりに作られた人工の“双子”だ。モデルとなった人の分身となる外見を持ち,表情なども変わる。ある程度自動的に動く部分もあるようだが,基本的には人間による遠隔操作型のロボットだ。大阪大学や国際電気通信基礎技術研究所(ATR)が参画する文部科学省グローバルCOEプログラム「認知脳理解に基づく 未来工学創成」(拠点リーダー:石黒 浩)において開発されており,石黒氏自身のジェミノイドも作られている。

50個のアクチュエータが使用された石黒氏の分身ジェミノイドHi-2。お値段は約1000万円也。出張時などには頭部だけ手荷物で運んでおり,毎回手荷物検査で大騒ぎになるとか
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こちらはジェミノイド-Fさん。石黒研究室のWebページでは普通にスタッフとして紹介されている
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Copyright (C) ATR Hiroshi Ishiguro Laboratory
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遠隔操作型ロボットは人々の生活を変えていくか


 石黒氏が1999年にロボットの国際会議IROSで発表したのは「可動式台車にPCを載せてSkypeを走らせる」というシンプルなものだった。当時はあまり注目されなかったようだが,現在のアメリカでは,それと同様のシステムが多く使われている。
 最も普及が進んでいるのは医療用の「InTouch Health」だ。ホームドクター制が基本のアメリカでは,検査をするためには医者と患者が検査施設に移動しなくてはならないといった無駄が多く,こういったデバイスが活用されているとのこと。

 また,Googleの子会社であるWillow Garageでも,よく似た「Texai」などが開発されており,実際に社内で使われている。遠隔地にいる社員が社内のロボットを操作して「出勤」しているのだ。
 ある社員は,テキサスからこのデバイスを使ってミーティングに参加しているとのこと。テキサスとカリフォルニアでは物価や給与相場が倍くらい違い。テキサスに住んで,カリフォルニアの企業に勤めると,4倍豊かな生活ができるのだそうだ。

左が石黒氏開発の遠隔操作型ロボットで,右上はInTouch Healthのロボットとその使用風景。下はそのほかの企業から発売されている遠隔操作型ロボットで,その中央にある細い端末がWillow Garageのもの
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 このような遠隔操作型ロボットは今後さらに普及していくだろうというのが石黒氏の見解だ。そしてシンプルなロボットにはもっと人間らしい形が必要だと石黒氏は語る。「棒みたいな外見だといじめられるから」と茶化していたが,要するに人間扱いされない=存在感が低い,ということが問題なのだろう。


 とはいえ,人間らしさを実現することは難しい。石黒氏は,ロボットを人間に近づけるための段階として,まず,「見かけ」,そして「動作」「知覚」などを挙げている。
 しかし,その先の「対話」となると途端に難しくなる。さらに自律的に発達するソフトウェアやニューラルネット(脳神経をモデルにした情報処理システム)などを使った柔軟性のあるシステムとなると,まだ道は遠いと言わざるをえないそうだ。
 石黒氏は,そもそも「人間らしさ」とは何かについて研究している人が誰もいなかったと振り返り,いろいろな仮説を立て,それを検証するためのロボットを作っていった過程をいくつか紹介した。

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ロボットはどこまで人間らしくあるべきなのか


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 2004年に作られた女性型ロボットは,シリコンの皮膚や空気アクチュエータを使った本格的なものだった。これはNHKのアナウンサー藤井彩子さんがモデルで,見かけだけでなく動作についてもこだわって作られたとのこと。外部からのインタラクションにも反応するようになっており,伸び縮みする柔らかな皮膚センサーを作るために億単位の費用をかけたという。

 このロボットには無意識の動作(ゲーム的には,プレイヤーが操作をしていないときにキャラクターが見せる「待機モーション」といったほうが分かりやすいだろうか)も実装されている。モーションキャプチャ装備をつけた学生をただ椅子に座らせて取った「何もしていない」ときのデータを再生するという仕組みだ。
 しかし,その様子を脳科学の専門家に見せると,即座に「たしかに人間らしいけど,これは脳に障害があるね」と言われるのだという。待機モーションとはいえ,モーションキャプチャデータをランダムに再生しているだけでは不自然な挙動になってしまうのだ。

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 人間の場合,脊椎に運動パターン生成のメカニズムがあって身体を制御していることが分かっているという。そのような仕組みをベースにニューラルネットを組んでやればもっと自然な挙動になるのではないかといった研究も行われているようだ。

 また,ロボットの肩を叩くと振り向くという動作映像も示され,石黒氏はどこが不自然かを会場に問いかけた。その答えは「そんなに何度も肩を叩かれると,普通怒る」というもの。つまり,感情モデルも人間らしさにとって重要というわけだ。
 ロボットに感情というものを導入するのは難しいと(SFなどでは)相場が決まっているのだが,そういったものに対応した処理をロボットに入れて「人間らしい」と感じられれば,そのモデルは正しいと評価できると氏は語る。仮説と実験,そして評価の繰り返しで,「人間らしさ」や「心」といった漠然としたものを少しずつ解明していくわけだ。

 では,心とはなにか? 石黒氏は,心には歴然としたメカニズムがあるわけではなく,「相互作用に宿る主観的な現象」と定義していた。これでもまだ漠然としているが,そういうものが実現できれば,ロボットも心を持っていると言えるようになるだろうと氏は語る。とはいっても,中身は見えないので,「そう信じさせられればOK」なのだそうだ。

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 外見については,よく言われる「不気味の谷」の問題がついて回る。これが発生する原因については,「側抑制効果が働いているのではないか」と仮説を立てているという。
 これは神経が受けた刺激に対し,閾値からちょっとだけ外れた情報を強く抑制する(閾値が8だった場合,実際には7の入力を-1くらいと認識するような)システムで,パターンマッチングの精度を上げるとされている。これが不気味の谷の効果と似ているというのだ。

グラフではかなり不気味とされている「USBリサちゃん」ことReplee-R。石黒氏の娘さんをモデルにしたものだという。ショッピングモールで使うロボットをどうすれば人間らしくできるかと思い悩んでいたとき,当時4歳だった娘さんが,ちょうどロボットと同じサイズの身長110cmだったため,「今やるしかない」と思い「ジブリ博物館に行こう」とだまして型を取ったのだそうだ
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 石黒氏は,人が対象を人間らしいと感じるのは複数の感覚(モダリティ)を統合した結果であって,そのうちどれかのバランスが崩れていると,極端にネガティブに感じられるのだろうと仮説を立てていた。不気味の谷が発生しているときに,脳のどの部分が関わっているのかといった脳科学の分野にまで研究は広がっている。

左から人間,人間によく似たアンドロイド,まったく人間に見えないロボットを目にしたときの脳の活動の様子。アンドロイドを不気味だと思う処理は,脳の赤くなった部分で行われている
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ジェミノイド,ビデオ映像,スピーカーから音声を聞いたときの印象の違い。ジェミノイドを使うと存在感(presence)が高い一方で不気味さ(uncanny)も高い数値になっているが,これには「近づきがたい」といったニュアンスが混在しているのではないかと石黒氏
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 人が見たものをどのように受け入れるのかという問題は,アンドロイドだけではなく,ゲームやCG,メディア一般についても共通する課題だろうと石黒氏は語る。人間理解という意味では,すべてが脳科学,心理学の関わる分野であり,オリジナリティの高いものを作るうえでは脳科学の知見を無視できないのではないかとしていた。

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アンドロイドによる実験から分かったこと


 続いて,アンドロイドを使ったいくつかの事例が紹介された。まずは,人間国宝である桂米朝師匠の芸をアンドロイドで再現するという「落語アンドロイド」だ。石黒氏は,アンドロイドによる再現は,ビデオなどと比べても迫力が違うと語る。年月をかけて完成された匠の技を保存することができ,アンドロイドの活用法として意味のあるものと言えそうだ。

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 次に紹介されたのは,マネキンやコンパニオンとしての用途だ。新宿高島屋のショーウィンドウの中にアンドロイドを置くというものが最初で,その後には,高島屋大阪店の売り場の中にスペースを設けて,液晶端末で簡単な会話ができる展示が行われたという。

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 デパート内は騒音がひどくて到底音声認識ができる環境ではない。また,人間以外のものに声をかけるというのはかなりハードルの高い行為のようで,氏は「大阪のおばちゃんにも無理」なくらいだと表現した。そこで液晶端末が用意され,質問などの会話文を選択するとアンドロイドが受け答えするというシステムが採用されたという。アンドロイドに対してかける話はかなり限られていそうなので,現実的な選択と言えるかもしれない。

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 実際に展示が始まると,かなり限定的なコミュニケーションしか取れないにもかかわらず,「ミナミちゃんと友達になったわぁ」という感じで,アンドロイドがつけていた高価なスカーフなどを購入する人が続出し,あっという間に売り切れたのだという。
 また,前述のマネキンアンドロイドはずっとデパートのショーウィンドウ内にいるわけだが,深夜に「さみしい」とツイートすると「すぐに行きます」と10人くらいが駆けつけてきたという逸話も紹介された。

 どうしてそんなに簡単に親近感を得られるのかに対する石黒氏の見解を紹介しておこう。
 例えば人間の女性だと,いきなり触ったりするといろいろ大変なことになるのだが,相手がアンドロイドだと触っても犯罪にはならない。さすがに人目があると触ったりする人はいないが,触っても大丈夫な相手であることには変わりがない。この状況は,現実の恋人となんら変わらないと石黒氏は述べる。気兼ねする必要のない相手であれば心を許しやすくなるということだろう。
 先の展示が行われたデパートでは,アンドロイドの店員に売り子をさせて,人間の売り子と売り上げを比較するようなことも検討されているとのこと。

 マネキンアンドロイドでは液晶端末を使った会話方法が紹介が採用されていたが,音声による会話の研究も進められている。自然会話を研究している海外の研究者と合同で開発されている,(英語のみだが)アンドロイドに話しかけると音声で会話できるというシステムが紹介された。ある意味,多くの人がアンドロイドに最も期待しそうな研究かもしれない。
 で,どれくらい使えるのか? 内部処理としては,会話パターンをベースに反射的な会話をしているだけとのことだが,それだけでも結構話せるそうで,「飲み屋のおばあさんとの対話くらいは大丈夫」とのこと。現在は,ネット上から対話パターンをたくさん探しているところだという。

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同じプログラムを走らせた2体のロボットを側に置いておくと,いつのまにかとんでもない会話を繰り広げていることがあるのだとか
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 ただ,あくまでも反射的会話なので,2つの方法でもっと人間らしくすることを考えているとのこと。その1つは感情だ。分からないことがあったら感情的になればよいと石黒氏は説明する。賢いロボットに感情が加わると人間らしくなると考えている人が多いが,そんなことはなく,むしろ理解や判断ができない場合に便利なのが感情というものなのだそうだ。
 しかし,もっと賢くしたいという要求もある。そこで,似たような話題が出たときに同じ話を繰り返すのでは芸がないので,Wikipediaなどで単語の意味を調べつつ,違った言葉を使って表現していくというものが検討されているようだ。こういったクラウドの力を導入することで,ロボットとの会話はかなり改善されると見込まれている。

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 次に「社会的に制約をかけるとどうなるか」という実験が紹介された。ちょっと分かりにくいが,社会的な役割に当てはめたときにどうなるかということを調べるものだ。
 紹介されたのは美容師にアンドロイドの髪の毛を切ってもらうという公開実験で,あらかじめ登録してある会話文を遠隔操作で状況に応じて再生というスタイルのものだった。アンドロイドにはわざと不気味な外見のものが選ばれたようだが,それなりに会話が成立していたようだ。
 これについて,石黒氏は,美容院では髪を切るほうも切られるほうも社会的にその役を演じているので会話が成り立つのだとしている。人間社会にはそのようなフレームがたくさんあり,そのフレームの中に入れてしまえば,たとえ相手が不気味なアンドロイドであっても関係なく,役を演じてしまえるのだという。
 石黒氏はこれはゲームでも同様ではないかと語っていた。社会的な状況といったコンテキストにプレイヤー(キャラクター)をはめてしまうと,その後の展開はずいぶんやりやすくなる。

誰かが遠隔操作用のアンドロイドに触ると,アンドロイドの操作者が同じ部分を触られているような気になる,という興味深い発表も行われた。もちろん,触感を伝えるような機構はついていないにも関わらずだ
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石黒氏は,学会の日程が重なると,自分の代わりにジェミノイドを送り込むこともあるという。たいてい本人が行くより喜ばれるそうだ
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心を持つと感じられるロボットやアンドロイドは作れるか?


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 「心を持ったアンドロイドを作る」というのは,非常にハードルが高く,可能かどうかすら分からないというか,そもそも心って何? の世界なので,とりあえず,「心を持っているように見せられるか」という問題に対する実験が行われている。それがアンドロイドによる演劇だ。

 結論から言うと,アンドロイドも役者も一緒ということになるらしい。
 アンドロイド演劇に協力した演出家の平田オリザ氏は,「役者に心はいらない。俺の言うとおりに動けばいい」と言ってはばからない人なので,人間の役者とアンドロイドでまったく同じ指導がされるという。出演者の半分くらいはアンドロイドでもいいと言うのが平田氏の考えだ。
 その指導の下に作られた演劇からは,ちゃんとアンドロイドの心を感じることができるという。演劇ではアンドロイドからも役者からも同じように感情や心を感じるというのが石黒氏の感想だ。単にスクリプトで動いているだけのものなのだが,脚本や演出の技量によるところが大きいのだろう

 アンドロイド演劇は技術開発の点でも重要だったと石黒氏は語る。人間らしく見せるにはどうすればいいのかという研究がどこでも行われていないというのは先のとおりで,「この状況だと,どのように視線を向けて,どれくらい間を取ると自然になるか?」などといったことは心理学では扱わない。そういうのを知っているのは演出家だけなので,アンドロイドを人間らしくするためには,むしろ演出家の感性のほうが役に立つのだ。ゲームでも演出家の力を借りるとよいのでは? と石黒氏は語っていた。

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 この実験は,心の存在を実証できるかという課題に挑んだものとのことなのだが,その課題自体はクリアできなかったようだ。ただ,心を持っているように見せることは十分に可能だと分かり,そうこうしているうちに,「人間より人間らしいアンドロイドを作りたい」という思いが強くなったのだという。

 そこで,どうせなら綺麗なものを作ろう,演劇の力も借りて理想的な人間を作ろうと,最高の条件を揃え,特定の状況でなら人間を超えるものを目指した演劇プロジェクトが始められた。

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 その演劇がどんなものだったかは下のムービーを見てほしい。


 この実験は概ね成功で,「こんなに綺麗な人を見たことがない」というのが多くの人の感想だったという。
 この演劇が評判になってヨーロッパから招待を受けたのだが,そのときに「大聖堂を用意してくれ」と無理難題を吹っかけたら,それが通ってしまったのだそうだ。本来は人間しか入ってはいけない場所であり,怒られるかと思ったのだが,そういったこともなく「マリア様とかぶって見える」と大好評だったようだ。
 予想外だったのは「綺麗すぎる」という意見が出てきたことだという。結局,この実験で分かったのは,「人間は不完全である」こと,そして「完全だと人間らしくなくなる」ということだ。

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抽象度を上げたロボットの思わぬ人間らしさとは


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 人間は複雑であって,見かけだけで相手を判断しない。結局のところ,「人間は自分のイメージも他人のイメージも想像で作り出して,想像で関わっているので,想像の余地を残した最低限のデザインのほうがいいのではないか」という考えから,次のプロジェクトが始まっている。
 人間と分かる最低限の形状を残しつつ,年齢も性別も分からないような形状をしたロボット(?)の開発である。

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 「テレノイド」は,上の写真のような形態の身体を持った音声端末だ。電話が掛かってきたときに,この身体から声が聞こえると,相手のイメージを投影して円滑なコミュニケーションができるらしい。この写真を見るだけではまず不気味だろうと思うのだが,これがどうして,さまざまなところで成果を挙げているのだという。
 とくにお年寄りに対しての効果が顕著であると石黒氏は語る。高齢者になればなるほど普通の大人としゃべることに対してプレッシャーが高くなるそうで,医者ともボランティアともしゃべらないお年寄りはかなり多いのだという。しかしテレノイドを使うとみんなデレデレになって話だすのだそうだ。これは国内,海外を通じて例外はないとのこと。

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 デンマークは福祉に力を入れている国だが,お年寄りとのコミュニケーションが深刻な問題になっている。話をしないと健康状態も分からないし,話をすること自体が健康維持につながるため,「テレノイドは最適なツール」だということで国家的なプロジェクトが立ち上げられ,実証実験が行われることになったそうだ。

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 テレノイドでの成果から,さらにミニマルにできるのではないかと作られたのが,「ハグビー」だ。
 これは顔もなく,テレノイドからさらに単純化されて,抱き枕にスマートフォン用のホルダーが付いただけのものだ。音声端末はただのスマートフォンなので,仕様上,会話をするときには抱きつかないといけないのだが,この「相手の声が出るモノに抱きついて話をする」という行為が相当興奮するらしい。

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 何度も実験しているとのことだが,男女2名をそれぞれ個室に入れてハグビーで会話させると,数十分後には2人とも茹でダコのようになって出てくるという。いきなり異性に抱きつくというのは心理的な壁があって難しいものだが,その壁が崩れるのだそうだ。また,阪大医学部との共同実験ではコルチゾール(副腎皮質ホルモン。ストレス時に多く分泌される)の低下が実証されたそうだ。
 この製品はなぜかロボットショップで市販されており,石黒氏は「悪いモノじゃないです」と怪しい調子で聴衆に勧めていた。
 ハグビーでロボット(?)の単純化もかなり行き着いた感はあるのだが,これらの実験で分かったのは,人間ぽく感じさせるのには最低2つの感覚要素が必要だということだったそうだ。目で見ただけではダメで,目で見てさらに感触がある/感触を想像できるといった2つ以上の感覚に訴える必要があるという。

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 上のスライドで説明されている「声+体」というのがハグビーのことと思われるので,体というのは実際に触れるもののことであろう。明記されてはいないが,なんとなく,「声+見かけ」でもいいような気がするので,画面内だけで完結するゲームにも適用できるかもしれない。

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 ハグビーやテレノイドの体験をモバイルでも使えないかという実験も行われている。「エルフォイド」はテレノイドを手のひらサイズにしたような端末で,携帯電話端末のあるべき姿ということらしい。「我々の脳は人間に話しかけるのが自然なので,黒い箱に話しかけるなんておかしい。スマートフォンは本来このような形であるべきだ」と石黒氏は主張している。将来的には文字通りアンドロイド形のAndroid端末なども登場してくるのかもしれない。

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ツッこんだら負けな気がする人形型携帯端末。右は,死者との通信に使われたという説もある土偶。5000年前からこういう“端末”が使われていた?
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 ここまで紹介してきたように,石黒氏はロボットの開発を続ける傍らで,人間の中身についても研究している。複雑な人間の仕組みもバイオロジーなどを駆使してアンドロイド上で再現すれば,さらに人間に近づいていき,いつかは人間との境界がなくなるのではないかと石黒氏は語っていた。

 人間とは何か。石黒氏は,心,意識,感情といった問題について,ロボット研究,ゲーム,メディア,CGのすべての領域で知識を共有すれば,新しい未来を作っていけるのではないかと聴衆に語りかけて講演を終えた。

ロボットを進化させるためにさまざまな研究が行われている
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(c)石黒浩 大阪大学・ATR
Hiroshi Ishiguro Osaka University and ATR
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