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Gen Con最高責任者が語る日米アナログゲーム事情。グループSNE・安田 均氏との対談から紐解く,日本の強みと未来の潮流
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印刷2024/09/05 16:26

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Gen Con最高責任者が語る日米アナログゲーム事情。グループSNE・安田 均氏との対談から紐解く,日本の強みと未来の潮流

 アメリカはインディアナポリスにて,2024年8月1日から4日にかけ開催された北米最大のボードゲームイベント「Gen Con 2024」。元々はRPGやTCGなどが主体のイベントだったGen Conだが,近年はボードゲームが主流を占めるようになり,時代と共に大きな変貌を遂げつつある。来場者数でもヨーロッパ最大のアナログゲームイベント「Essen Spiel」に伍するまでになったGen Conだが,この先はどこへ向かおうとしているのか。

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 今回4Gamerでは,Gen Conの最高責任者であるDavid Hoppe氏に話を聞く機会を得たので,本稿ではその模様をお伝えする。またGen Conを30年以上にわたって見続けてきたグループSNE代表の安田 均氏にも同席いただき,両氏による対談が実現している。
 海を隔てて日米の市場を俯瞰する二人には,今のボードゲーム業界がどう見えているのか。それぞれの所感と展望を語ってもらった。

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Gen Con公式サイト(英語)



アナログからデジタル,そして再びアナログへ


4Gamer:
 本日はよろしくお願いいたします。Gen Conの最高責任者であるHoppeさんにお話をうかがえる機会ということで,とても楽しみにしてきました。しかも安田先生との対談でもあって,貴重な話が聞けるのではと期待しています。

David Hoppe氏(以下,Hoppe氏)
 こちらこそ。私も大変光栄です。

4Gamer:
 まず,Hoppeさんのご経歴を簡単にお聞かせいただけますか。

Hoppe氏:
 私がゲームと関わるようになったのは,ビジネスがきっかけでした。その始まりは1995年で……その年にWizards of the Coastに入り,「マジック:ザ・ギャザリング」(以下,マジック)のイベント運営を担当することになったんです。予選から決勝まで,すべての計画を組み立てました。

4Gamer:
 では,それ以前はあまりゲームをプレイされなかった?

Hoppe氏:
 ええ。ほんの少し「マジック」に触れたぐらいでした。

2017年よりGen Conのプレジデントを務めているDavid Hoppe氏。日本のアナログゲームを北米市場に届けるため,今回のGen Con 2024では日本のアナログゲームメーカー5社による共同出展ブースJapan Pavilionを誘致したという
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4Gamer:
 なるほど。本当に仕事での関わりだったんですね。その後もずっとWizards of the Coastにおられたのですか。

Hoppe氏:
 はい。北米での「ポケモンカードゲーム」の流通に数年ほど関わり,それからWizards of the Coastを辞めることにしたんです。ちょうど「ポケモンカードゲーム」が勢いを失い,「遊戯王オフィシャルカードゲーム」が盛り上がりを見せはじめた時期でした。それでUpper Deck Companyに移ったのです

※「ポケモンカードゲーム」は,2000年代初頭まで北米での販売をWizards of the Coastが担っていた。また同様に,Upper Deck Companyは2009年まで,北米での「遊戯王オフィシャルカードゲーム」の販売を担当した。

4Gamer:
 Upper Deck Companyは,スポーツ系のトレーディングカードで有名な会社ですね。では,「遊戯王オフィシャルカードゲーム」にも関わられていたのですか。

Hoppe氏:
 そうです。北米とヨーロッパにおける「遊戯王オフィシャルカードゲーム」の日程編成などを担当していました。それからXboxに5年ほど携わることになって……。

4Gamer:
 Microsoftにですか? ずっとアナログゲームを手がけてきて,急にデジタルゲームの分野に転身されたわけですか。

Hoppe氏:
 むしろ,それからはずっとデジタルゲーム畑です。モバイルゲームやカジュアルゲームを7年ほどやっていました。それである日,久しぶりにPeter Adkison(ピーター・アドキンソン)に会ったら,彼がGen Conのオーナーになっていたという。

※Peter Adkison……Wizards of The Coastの創設者で元CEO。2001年に同社を離れたあと,ハズブロが持っていたGen Conの権利を2002年に購入。以後オーナーを務めている。

安田 均氏(以下,安田氏):
 Adkisonさんはお元気ですか? しばらくお会いできていないんですが。

グループSNE代表の安田 均氏。黎明期から海外のアナログゲームを数多く日本に紹介してきた先駆者として知られる。今回は,Japan Pavilionの共同出展社の一画としてGen Conに参加
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Hoppe氏:
 彼は今,ちょうど体調を崩してしまっていて。今回のGen Conにも来ることができませんでした。

安田氏:
 あらら。それは大変だ。

4Gamer:
 「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下,D&D)の50周年を祝うパネルセッションにも参加予定でしたが,欠席されていましたね。

安田氏:
 なんだ。じゃあ彼は会場には来られていないんだね。よろしくお伝えください。

Hoppe氏:
 分かりました(笑)。で,そのAdkisonが私に言うんです。「君はデジタル分野の経験も積んだのだから,テーブルトップゲームに凱旋して戻ってきなさい」って。それで彼の誘いに乗る形で,Gen Conのプレジデントに就くことなったのです。

4Gamer:
 それが2017年のことですね。デジタルゲーム業界での経験が,Peter Adkison氏に買われたということでしょうか。ちなみに,今もゲームとの関りはビジネスだけなんですか。

Hoppe氏:
 今はプライベートでもゲームを遊びますし,好きなゲームもたくさんあります。最近だと「ルート」がお気に入りですね。拡張もたくさんあって,ハマっています。

Hoppe氏のお気に入りだという「ルート 〜はるけき森のどうぶつ戦記〜」。かわいい動物たちが森の支配権をめぐって争う戦略的ボードゲームで,氏が言うように10種類以上にも及ぶ豊富な拡張セットが展開されている
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パンデミックを経て拡大するアナログゲーム市場


4Gamer:
 4日間にわたって開催されるGen Con 2024も,すでに3日目を終えるところですが,今のご感想はいかがですか。

Hoppe氏:
 おかげさまで,Gen Conは来場者数延べ20万人を超える,世界でも有数のイベントになりました。

安田氏:
 北米市場もずいぶんと様変わりしましたね。Gen Conには30年以上前から足を運んでいて,今回が確か14回目だったと思いますが,昔はGen ConといえばRPGのイベントだったんですよ。もう,7:3くらいの比率でRPGが多かった。

4Gamer:
 2000年代くらいまでは,Gen ConといえばテーブルトークRPGという印象でした。

安田氏:
 そうそう。でも2015年に来てみたらボードゲームが7で,RPGが3の割合になっていました。Gen Conがインディアナポリスに移った2003年頃は,そんな空気は感じなかったのに。ボードゲームの躍進を強く感じますけど,この変化はアメリカのゲーム市場の変化によるものですか?

Hoppe氏:
 まさしく市場の変化を反映したものですね。その後にパンデミックを経たことで,アナログゲーム市場が大きく拡大したというのもあります。

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4Gamer:
 パンデミックの時期は「人と人の接触」が制限されていたわけですから,ボードゲームにとっては逆風のように感じますが,なぜその時期にボードゲーム市場が拡大したのでしょうか。

Hoppe氏:
 理由は二つありまして,一つは「ファミリーでゲームを楽しむ」というニーズが生まれたことです。

4Gamer:
 なるほど。家にこもっているので,家族と過ごす時間が増えわけですね。

Hoppe氏:
 そうです。そしてもう一つは,これは主にRPGの話ですが,パンデミックの間にオンラインでプレイする環境が急速に普及したのです。そうしたプレイスタイルはパンデミック収束後も,すっかり定着しています。

安田氏:
 そのおかげもあってか,RPGもまだまだ元気で安心しました。とくに今年はD&Dの50周年ですしね。

Hoppe氏:
 ええ。50周年を迎えたD&Dのように,歴史と伝統を重んじながらも,Gen Conはこれからもゲームの行く末を見守っていきたいと思っています。ただコンベンションとしての規模は,そろそろ限界を感じているところです。

安田氏:
 もう増やせないということですか? 今の参加者数はどのぐらいなのでしたっけ。

Hoppe氏:
 数え方にもよりますが,ユニーク(複数日参加を数えない)で7万人ぐらい。延べ人数だと25万人でしょうか。

安田氏:
 ドイツの「Spiel Essen」が20万人だそうだから,ほぼ同規模ですね。

Hoppe氏:
 これだけの規模になりましたから,開催地であるインディアナポリス当局も力を入れてくれています。(窓越しに見える建設現場を示しながら)会場周辺で行われている工事が見えると思いますが,ああいった新しい建物もGen Conの参加者のためのホテルになる予定です。

4Gamer:
 周辺のホテルがすべて会場と直結していて,すごく便利ですね。しかし,それならまだ拡大の余地があるのでは?

Hoppe氏:
 関係者の間では“Gen Con Hilton”なんて呼ばれてますが(苦笑),まあ,そうやって受け皿を増やす方策を講じてはいます。ただ,そういったものを含めても,イベント会場としては現在の来場者数ぐらいが限界だと感じているわけです。

4Gamer:
 開催地を移すといった選択肢は考えていないのでしょうか。

Hoppe氏:
 米国内のほかの都市に会場を移すことは考えていません。Gen Conは長らくここインディアナポリスで開催されてきましたから,手狭になったからといって動くのは難しい。しかし,開催機会そのものを増やすのは,あり得ると思っています。例えばですが,「Gen Con Euro」とか「Gen Con Japan」といった具合にね。

観光案内サイト「Visit Indy」より。コンベンションセンターを中心として,空中回廊で直結されたホテル群が周囲を取り巻く。ここにさらに新規で建築中のホテルが加わる予定
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北米市場が求める“日本らしさ”と,トレンドの相違


4Gamer:
 Gen Conが日本で開催されるかも,というのは確かに夢のあるお話ですが,日本のアナログゲーム市場についてはどのようにお考えですか。

Hoppe氏:
 東京で開催されたゲームマーケットに参加したことがありますが,実際に行ってみて,日本には豊かなゲーム市場があるのだと実感しました。

安田氏:
 日本には将棋や花札など,古くからボードゲーム文化がありますからね。伝統的なゲーム文化が根付いている自負はあります。ですが現代的なボードゲームとなると,果たして海外に通用するかどうか。

Hoppe氏:
 日本のゲームの海外ニーズは,間違いなくあると思いますよ。例えば日本のアニメやカルチャーに興味がある参加者はGen Conにもたくさんいますし,求められているとも感じます。また実際にGen Conに出展して活躍されている日本のメーカーもありますから。

4Gamer:
 北米で人気のある日本のメーカーというと,どんなものがありますか。

Hoppe氏:
 Gen Conで言うなら,オインクゲームズですね。彼らは「ちいさい」「かわいい」といったブランドイメージをしっかり確立できていて,非常に存在感があります。ゲームにとって,やはり見た目はとても重要ですからね。少しだけ日本っぽくすることで生まれるユニークさが,ここ北米ではとくに大切なのだと感じます。

統一されたデザインラインとブランドイメージを持つオインクゲームズ。Gen Conにも積極的に出展しており,存在感を示している
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4Gamer:
 差別化が大事ということですか。

Hoppe氏:
 ええ。あまりにも欧米のゲームに似たデザインでは埋もれてしまいかねません。かといって,あまりに「日本っぽい」ものにも馴染めない人が多いので,難しいところではあります。そのバランスが重要ですね。

4Gamer:
 アニメや漫画のテイストが強すぎると,ウケが悪いということでしょうか。

Hoppe氏:
 そうですね。日本のイラストやグラフィックスデザインは,それがほかの国にはない,完全にオリジナルなものだというのが強みです。しかも,非常に多様であるという。そのテイストがうっすらと感じられる……ぐらいがいいんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 なるほど……。日本のアナログゲームには,まだまだ可能性があるのですね。

安田氏:
 我々としても,日本のゲームがGen Conで存在感を示せるよう,がんばっていきたいと思っています。ところで,アメリカでは今,どんなゲームが人気なんですか。

グループSNEも参加したJapan Pavilionのブース。同社作品の販売のほか,イクリエの新作「真・女神転生 THE BOARD GAME(仮)」の展示も行われ,来場者の注目を集めていた。写真はJapan Pavilion代表の高橋宏佳氏
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Hoppe氏:
 「ウイングスパン」や「カスカディア」のような,自然をテーマにしたタイトルの流れが来ているように感じますね。

安田氏:
 そういった流れは,ヨーロッパの影響ですか?

Hoppe氏:
 「ウイングスパン」はアメリカのゲームですから,これはアメリカで生まれた動きだと思います。ヨーロッパ向けの拡張があるぐらいなので。

安田氏:
 日本だと,自然がテーマの作品というのは,あまりないかなあ。トリックテイキングを作る人が多い印象で。あとはやっぱり,マーダーミステリーですね。そうそう,日本ではミステリーをテーマにしたゲームが新しい潮流になっているんですよ。

Hoppe氏:
 ミステリーものは2018年頃に世界的なブームがありましたね。でもあまり広がらず,一時的なものとして収束してしまった印象です。

安田氏:
 ええ。でも日本では,それを受けて新しいものがどんどん生まれてきたんです。

4Gamer:
 日本と,あと中国ではマーダーミステリーが人気ですね。そこからストーリープレイングといった派生ジャンルも生まれるくらいに。

安田氏:
 そうそう。ミステリーを起点にして,ボードゲームやRPG,謎解きゲームなんかが融合していっている状態なんですよ。あと演劇とも相性が良くて,俳優さんが演じるような形のものも出てきています。

Hoppe氏:
 アメリカでも,俳優がゲームをプレイするスタイルのものは人気がありますよ。こちらではRPGの文脈ではありますが。

4Gamer:
 「Critical Role」のことでしょうか。D&Dが躍進する切っ掛けにもなったという。


Hoppe氏:
 そうです。本当は彼らをGen Conに招きたいくらいなんですが,断念せざるを得ませんでした。ファンの熱量が高すぎて……大混乱になってしまうでしょうから(苦笑)。

4Gamer:
 確かに(笑)。「Critical Role」ほどではありませんが,日本でも配信の影響力は大きいと思います。ただ,トレンドにはかなり違いがありますが。

安田氏:
 トレンドの違いは,Hoppeさんの話を聞いていても感じるところです。なので,日米の交流によって,ゲームの裾野がどんどん広がっていくことを期待しています。

Hoppe氏:
 もちろんです。そのためにGen Conに来ていただいたわけですから。出展した感触はいかがでしたか。

安田氏:
 我々が持ってきた在庫は,ほぼなくなってしまいましたね。Japan Pavilionとして一緒に出展しているイクリエさんの「真・女神転生 THE BOARD GAME(仮)」も,大変好評のようですし。

Hoppe氏:
 それはよかった(笑)。

安田氏:
 お互いに違った部分を取り入れることで,さらなる発展を遂げたいものです。刺激を与えあって,がんばっていきましょう。

4Gamer:
 日米の交流の先に,アナログゲームの未来が切り拓かれることを期待します。本日はありがとうございました。

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――2024年8月3日収録

Gen Con公式サイト(英語)

  • 関連タイトル:

    真・女神転生 THE BOARD GAME(仮)

  • 関連タイトル:

    ダンジョンズ&ドラゴンズ 第5版

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