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企画記事
現実世界にさようなら。「VRChat」を今さら始めたら,あっという間に美少女に堕ち,100万円近く飛んでいった
いえ,心当たりはいっぱいあるんですけど,とにかく危険な世界なんですよ,VRChatは。多くのプレイヤーは平和に楽しく過ごしているのだと思うのですが,恐ろしいことに,私のようにあっという間に壊れてしまう人もいます。何があったのかを,ここに残しておきましょう。お砂糖の話とかではないですよ。
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最初は正気だったんです
少々時を戻して,VRChatを始める前,まだ筆者が正気だったころ。
何年もサービスされているVRChatを今さら始めることになったのは,TRPG仲間と「VRでTRPGを遊んでみたいよね」という話をしていて,たまたま卓の募集を見つけたからだ。2024年の夏ごろから,VRChatには有名配信者の影響で大量の新規プレイヤーが増えたが,それとはまったく関係がないのに,似たような時期に紛れ込むこととなった。
もともと筆者は,VRに目新しさを感じるタイプのゲーマーではない。“VR元年”だなんだと盛り上がっていた時代から,HTCの初代「Vive」を所持しているような人間だし,2024年の初頭にはお買い得になっていた「Meta Quest 3」を購入して,存分にVRゲームを楽しんでいた。
主にプレイしていたのはVR版の「The Elder Scrolls V: Skyrim」であり,MODをぶち込んで散々遊び倒したものだ。
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そのため,とくにVRChatに期待はなく(なにせ何年も手を付けてなかったわけだし),SNSとしての機能にもあまり関心はなかった。感覚としては,TRPGのオンラインセッション用ツールに近い。TRPGの卓だけ楽しんで,ほかは別にいいや,と思っていたほどだ。
とはいえ,きっかけが「TRPGに参加する」だったため,適当な気持ちで始めたくはなかった。いかにも「何も分からないけど卓だけ参加しにきました」な状態に見えるのは,進行してくれるゲームマスターに失礼だと思ったからだ。せめて,卓に合わせたアバター(3Dモデル)ぐらいは準備しておきたかった。
しかしVRChatは,始めたばかりの状態ではアバターのアップロードができず,これを可能にするにはしばらくプレイして,ランクを「Visitor」から「New User」に上げる必要がある。そのため,とりあえずログインだけして,人のいないホームで放置してランクを上げることに。これはこれで「人に話しかけてもらいやすい初心者期間を自ら手放した」ことになり,後悔するのだが……。
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ともあれ,もともとTRPG仲間と始めたこともあってフレンドも確保できていたので,とくに交流もないまま,アバターがアップロードできるNew Userにサクっとたどり着いた。
VRChatのアバターアップロードというと,主にBOOTHで購入したものをUnityで導入することになるため,初心者はここで苦労する。実際,何も知らない状態から卓に向けて準備するのは大変だったが,筆者としてはSkyrimでMODを動かすほうがよほど辛かったので,「まぁなんとかなるか」という気分。初心者でもアップロードできるよう,先人が築いてくれたアバター環境と,膨大な情報に感謝しかない。
“癖”に素直に従って,露出多めなお姉さん系のアバターを入れ,卓に合わせて武器のギミックも導入した。
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ついでに,筆者はもともと初代Viveを所持しているのだが,実はこれ,一式揃っているとコントローラを無理やりトラッカーに変えて利用できる。VRChatでは,VR機器(ヘッドマウントディスプレイとコントローラ)以外に,トラッキングできる機材(トラッカー)を体にくっつけることで,バーチャル空間で全身を動かすフルボディトラッキング,いわゆるフルトラが可能だ。
フルトラはけっこうなお金がかかるため,基本的にヘビーユーザー向けなのだが,筆者の場合はトラッカー2つぶんの追加コストがゼロ。頭と腕だけでなく,足も動く環境を構築できた。
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つまり,最初からVR機器を持っていて,アバターも武器ギミックも導入済みで,しかもフルトラという,初心者らしさの欠片もない初心者が生まれてしまったわけだ。VRChatに慣れた現在,こんな初心者に遭遇しようものなら「は?」と驚きそうなものだが,今にして思えば,筆者はこの時点でそこそこおかしかったのかもしれない。それでも気持ち的にはまだフレッシュで,正気である。
そんな感じで,準備万端で参加した初めてのVRでのTRPGは,大変楽しいものだった。
VRでとくに印象的だったのが高低差の表現だ。例えば,高いところを調べようと思ったら,通常ならなんらかの行動を宣言して,判定のダイスを振って成否を決めるといった形になる。それがVRの場合,箱などを持ってきて足場を作ったり,ほかのプレイヤーの上に乗ったりと,まったく異なる物理的(?)なアプローチで解決できるのが面白かった。
こうしたVRならではの体験は,確かに通常のオンライン/オフラインセッションではできないなと,感心したものだ。
素敵な体験をしたのだし,ここで満足しておけば……よかったのにさぁ。
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声を可愛くしたくって
楽しいTRPG体験を終えた後,1つだけ,どうしても心残りがあった。声だ。
見た目はキレイなお姉さんだし,フルトラでいい感じに動けるのだが,どうやったって声は男性。それがどうしても気にくわない。
もっとも,VRChatにおいて,女性アバターから男性の声が聞こえるなんてことは,いたって普通のことである。それを否定するつもりはないのだが,筆者は何が何でも,自分の声をどうにかして見た目通りの女性にしたくなってしまったのだ。だってそのほうが可愛いじゃん!
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というわけで,足を踏み外したポイントその1。ボイスチェンジャーの導入が始まった。
ボイスチェンジャーは,VRChatで男性が女声を出すために用いられる一般的な方法だ。なかには,そうした外部ツールを利用せずに,自力で女声を出せる男性,いわゆる“両声類”と呼ばれる方々もいるが,一朝一夕で実現できるものではない。どう考えても自分にできる気はしなかったので,ツールの力を頼ることにした。
ボイスチェンジャーは主に3種類に分類される。ソフトウェアボイスチェンジャー,ハードウェアボイスチェンジャー,AIボイスチェンジャーだ。ざっくりそれぞれの特徴をまとめると,以下のようになる。
■ソフトウェアボイスチェンジャー
- ソフトウェアを導入するだけで簡単に使える
- 導入コストが低い
- 基本的には声の高さと質を変えるだけ
- 男性の地声が女声になるようなものではない(重要)
- 声の変換には多少の遅延がある
■ハードウェアボイスチェンジャー
- 専用の機材や,それに接続するためのイヤフォン,マイクなどが必要
- 機材が高価
- 設定も複雑
- 基本的には声の高さと質を変えるだけ
- 男性の地声が女声になるようなものではない
- 遅延をほぼなくせる(重要)
■AIボイスチェンジャー
- 好みの学習モデルを購入して導入する
- 価格はピンキリだが,ソフトウェアボイスチェンジャーより基本的に高い
- 自分の声を学習モデルの声で上書きするため,地声が女声になる(重要)
- 学習モデルによって発音が苦手な音などがあり,活舌が悪くなる
- 声を変換するための遅延が大きい
言ってしまえば,ボイスチェンジャーとはいえ,基本的には「声を作る」ことが必要だ。導入が簡単で安価なのはソフトウェアボイスチェンジャーだが,どうしても遅延は避けられず,声でコミュニケーションを取ることが多いVRChatではちょっと不便。ただ,そこを解消するには,お金と手間をかけてハードウェアボイスチェンジャーの環境を構築するしかない。
一方,AIボイスチェンジャーはだいぶ別物で,地声でしゃべっても可愛くなれるという圧倒的なアドバンテージがあるが,活舌の悪化と遅延という大きな弱点がある,という感じだ。
当時の筆者は,フリーのソフトウェアボイスチェンジャーを試してみたものの,「これは声を作るのが大変そう」と即見切りをつけて,AIボイスチェンジャーを選択した。設定さえできてしまえば,手軽に可愛い声が手に入る。
ただし,手軽といっても,それはあくまで「女声を出す」ということだけ。サンプルボイスを聞いて選んでいるのに,自分の声を変換したらサンプルとだいぶ違う,なんてこともよくあるので,好みの学習モデルを見つけようと思うと,けっこうな沼だ。いくつか試してみるのに,割と散財したのは忘れたい記憶である。
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しなのちゃん
続いて,足を踏み外したポイントその2。人気アバターの導入だ。
先述のとおり,筆者は癖に従ったお姉さんアバターを購入していたわけだが,尖ったアバターであればあるほど,“改変”しづらい傾向にある。VRChatでは,アバターのほかに髪型や衣装,アクセサリーなどを別途購入して,Unityを用いてアバターに装着していくことになる。というと難しそうだが,流行のアバターであれば衣装側が対応している(体系に合わせて最初から調整してある)ため,ちょっとした操作で簡単に導入できる。
ただし,そうでないアバターの場合は,対応していないものを力技で合わせる必要があり,けっこうな手間がかかるわけだ。
筆者が購入していたアバターは,衣装がさっぱり対応していないタイプのお姉さんだったので,初心者だったこともあって衣装変更には相当苦労した。せっかく声が可愛くなって,「あー,着せ替えしてえなぁ」という気持ちが湧いてしまったため,ここで流行のアバターを導入することに。もともと,お姉さんはTRPG用として購入したものだったので,改めて己の“魂の姿”を探し始めた。
もし,これからVRChatを始めて,アバターを購入したいという人に個人的にオススメしたいのが,まずは衣装の対応が幅広い人気アバターで,顔のシェイプキー(表情や輪郭などを調整する項目)が多いものを選ぶことだ。衣装が対応しているほど着せ替えが楽だし,シェイプキーが多ければ好みの顔を作りやすい。
まぁ,癖に刺さるなら改変しやすさなんて無視しても構わないのだが,筆者はすでに苦労したあとだったので,そんな感じの基準でアバターを決めることに。
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ここで購入したのが,当時,発売からそれほど経っていないにも関わらず,人気を博していた「しなの」だ。改変しやすそうだし,販売ページのサムネイルの時点ですでに可愛いし,デフォルトで着ている服も好みだったので,あまり迷わなかった気がする。
そして,この選択は間違っていなかった。いや,沼から抜け出せなくなったという意味では,めちゃくちゃ間違っていたのだが,とにかくしなのちゃんを買ってしまったのだった。
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私ってもしかして可愛いのでは?
しなのちゃんのほかに,髪型や衣装やアクセサリーを購入&導入して,色味も変更して,顔も好みに調整して,アップロード。「流行のアバターってこんなに改変しやすいんだ!」と感動しつつ,とりあえずVRChatにログインして,鏡を見てみる。
か,可愛い!!!
めちゃくちゃ可愛い。好みに改変しているのだから当然なのだが,とにかく自分に刺さる。フルトラで手足を動せば,可愛いポーズもバッチリ決まる。AIボイスチェンジャーも入っているので,もちろん声も可愛い。こ,これが私……? こんなに可愛い美少女になってしまっていいの……?
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あとはもう,坂を転がり落ちるだけである。美しいワールドやエモいワールドに足を運んでは,美少女となった自分を撮影し続けるモンスターの誕生だ。自撮りが楽しい。とにかく楽しい。スクリーンショットフォルダの容量は一気に膨れ上がり,それに呼応して私のXは,突如として自撮り写真を垂れ流す別のSNSのようになっていく。
可愛い自分を演じるのが楽しいのだから,衣装も欲しくなる。いろいろな服を着た私が見たいし,自撮りがしたい。BOOTHを覗けば,たくさんの可愛いお洋服。次々にポチる手が止まらない。
一着ずつ購入する仕様上,クレジットカードの明細にはBOOTHの購入履歴がひたすら並び,決済回数が明らかにおかしい。もちろん,衣装だけでなく,気に入った髪やアクセサリー,ギミックやツールなど,いろいろなものがあっという間に増えていく。
「なんか毎日違う服着てない?」
これはフレンドに言われた言葉だが,実際,1日1着以上のペースでアップロードしていた期間もあるので,彼は正しい。必然的にUnityをいじっている時間も長くなり,Unityとログインしての動作テスト,そして自撮りを行き来する毎日だ。
この服可愛い,私が可愛い,この服も可愛い,私が可愛い,この髪可愛い,私が可愛い,私が可愛い,私が可愛い,私が可愛い!!!!!
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そんな日々のなか,もはやAIボイスチェンジャーすら捨て去ってしまった。先述したように,AIボイスチェンジャーは活舌が悪くなるという欠点があり,どうしても「今,私は可愛くないな」と思う瞬間があったからだ。しかし,AIボイスチェンジャーをやめて女声を出すには,声を作ってしゃべれるようにならなければならない。
じゃあ,作ればいいじゃんということで,ソフトウェアボイスチェンジャーに切り替えることに。幸い,私にとって「ボイスチェンジャー用の声を作る」ことのハードルは低く,少し練習したら女声で会話を続けられるようになった。
しかし,女声が出せればそれでいいというものではない。男性がそのまましゃべるようでは,イントネーションなどの関係で,女性的な話し方にはならないからだ。もっと可愛く。もっと女性らしく。アバターに見合った声と仕草を手に入れたい。
そうして私は,修行と称して,1対1で会話ができるワールドに足を運び,知らないプレイヤーを相手に,ひたすら可愛い自分を演じる練習を続けるのであった。
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現実世界にさようなら
ここまでののめり込み具合を説明すれば,待ち受ける結果は考えるまでもないでしょう。私は美少女として,堕ちるところまで堕ちてしまったのです。
ログイン時間も延びていき,夜更かしの頻度も増えました。普段就寝していた時間から,1時間,2時間,3時間と過ぎても,VRChatに入り浸り,睡眠時間を削ってでも可愛い自分であり続けています。そんな遅くまで,毎日何をしているのかと言われると,自撮りと中身のない雑談なのですが,それがまた楽しい。時間の浪費という気持ちは常に心の片隅にありつつも,やめられないのです。
Steamに記録されているプレイ時間も,VRChat関連が圧倒的な数値になってしまいました。今や生活の一部であり,今後これを超えるゲーム(というよりはSNSですけど)が出てくるとは思えません。あっという間に時間が溶けていく危険な世界なんですよ,VRChatは。
もちろん,お金も溶けました。分かりやすいのはBOOTHの課金です。アバターは1体6000円ぐらいしますが,衣装なら1着1000〜2000円程度と,お手頃なお値段で販売されています。
そのぐらいなら……と気軽に購入していると,ついつい買いすぎて,いつの間にかすごい金額に膨れ上がっているんです。一度,総額を計算したら真顔になりました。始めて数か月しか経っていないのに,渋沢栄一の描かれたお札の枚数で数えてみると,両手を使っても足りません。この原稿を書いている段階となると,両足を含めても怪しい……。
でもいいんです,可愛い私が見られるなら。
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可愛さを演出するのはお洋服だけではありません。私はもともとフルトラですが,トラッカーを導入していたのは足先だけ。全身を自由に動かせたほうが可愛いに決まっています。あれあれ,まだ空いていますね,胸,腰,肘,膝が。
私のフルトラ環境は,Viveのベースステーションを用いて構築しているため,最新のトラッカーは1個足すだけで1万9000円します。これが各部位(肘や膝なら左右にも)必要になります。体に固定するためのベルトや,トラッカーを接続するためのUSBハブ,充電するためのケーブルなど,さまざまな機材も追加で必要です。
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ついでに,初代Viveに付属するベースステーションは旧型のため,高性能な新型に買い換えると1台2万5000円程度。これが最大4台設置できます。普通に使うだけなら2台もあれば十分ですが,台数を増やしたほうがトラッキングしやすい(=見失って可愛くなくなる事故が起きにくい)ので,それはもう買いますよね。可愛いはお金で作れるんです。止まれません。
それと,たくさんログインするなら,快適な環境にしたいですよね。ずっとMeta Quest 3を使っていましたが,けっこうな重量があるため,二桁時間のログインとなると首が痛くなります。軽いVR HMDが欲しいなぁ……。
というわけで,2月に発売されたばかりの軽量で高級なHMD「MeganeX superlight 8K」を購入しました。25万円の出費はお財布に痛すぎますが,これも健康のためです。止まれません。
え,コントローラは別売りで,サウンドも別途イヤフォンが必要なんですか? 分かりました,買いますね。
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MeganeX superlight 8Kは有線接続のHMDですが,それならマイクもイヤフォンも有線で別途つないでよいのでは? と,ボイスチェンジャーもハードウェア処理のものに買い換えました。AI,ソフトウェアと経由して,結局全部使うことになってしまいましたね。
遅延がほとんどなく女声が出せるというのは,ほかのボイスチェンジャーには戻れなくなる魅力があります。
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……などと,VRChatを始めてから,たくさんのお買い物をしてきました。今回,記事の執筆にあたり冷静になって計算してみたところ,5か月ほどで使った金額は100万円近いことが分かり,頭を抱えています。しかも,この金額にはVRChatと関係のない買い物だったMeta Quest 3などは含まれていません。VRChatのための出費が100万円です。
ここまで来たら,もうVRChatで生きていくしかないですよね。現実世界にさようなら。私の魂の姿は美少女なので,よろしくお願いいたします。
ちなみに,本当に現実世界にも影響はあって,一人称や声の出し方を間違えそうになることがありますし,オンライン会議をしているときは,ループバック(ボイスチェンジャー使用時に自分の声を確認するために聞いている,自分の女声)がないことにすごく違和感があります。「あれ!? ボイチェン忘れてない!?」と焦るのです。ループバックのない通話自体を,おかしなものとして認識しているんですよね。重症です。
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ところで,今さらですがVRChatはVR SNSです。そのメインコンテンツは人との交流にあります。今回は私が可愛くなった話をしただけで,人間関係はノータッチ。おそらく私は特殊な例であって,VRChatにハマって沼に沈むなら,この交流部分が大きいと言えるでしょう。
VRを用いた,現実感のある会話。素敵なアバター。フレンドと出会う頻度の高さ。そしてVRChat特有の距離感。それらは愛憎渦巻く濁った感情を育む温床となり……というのは,誰しも経験するようなものではないですが,大げさというわけでもなく。いろいろな意味で心に響いてしまうSNSではあります。ハマる人は本当にハマってしまうでしょう。
楽しいですよ,VRChat。皆さんも,私と一緒に可愛くなりましょうね。そして沼に沈みましょうね。うふふ。
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