
インタビュー
[インタビュー]イラストから世界を創る。「VIRTUAL GIRL @ WORLD'S END」は,「ガルパ」キャラデザの信澤 収氏によるゼロ→イチの挑戦
本作は,2024年1月にブシロードの新たなガールズプロジェクトとしてティザー映像が公開されており,今回は続報としてゲーム情報の詳細が紹介された形だ。
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「ブシロード新春大発表会2024」開催。新作TCG「プロ野球カードゲーム DREAM ORDER」を中心に,ゲーム関連の最新情報をまとめて紹介

ブシロードは2024年1月6日,「ブシロード新春大発表会2024」を開催した。多彩なコンテンツのさまざまな情報がアナウンスされた同イベントから,ゲームタイトルに関する最新情報をまとめてお届けしよう。
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原案・アートディレクターは,「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」のキャラクターデザイン・アートディレクターなどで知られる信澤 収氏だ。また作品のプロデュースと脚本をブシロードの亀山武史氏が担当している。
「バンドリ! ガールズバンドパーティ!」に続く,ブシロードと信澤収氏のタッグによるプロジェクトの第2弾となる本作。本稿では,両氏にインタビューを行い,「VIRTUAL GIRL @ WORLD'S END」の世界,キャラクター,デザイン,そこに込めた想いなどを伺ってきた。
![]() 信澤 収氏(左),亀山武史氏(右) |
なお,物語そのものにはほとんど触れていないが,キャラクターや世界の説明などには,未発表の要素,ストーリーの展開を匂わせる部分が含まれている。読み進めるタイミングにはご注意いただきたい。
「VIRTUAL GIRL @ WORLD'S END」公式サイト
開発の経緯,デザインのポイントは?
少人数の開発体制で生まれた新規IP
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
「VIRTUAL GIRL @ WORLD'S END」は“終末系ビジュアルノベルゲーム”を謳っていますが,どのような作品なのかをお聞かせください。
亀山武史氏(以下,亀山氏):
「VIRTUAL GIRL @ WORLD'S END」(以下,バチャガ)は,終末世界で生きる少女の夢と絶望を描いた作品です。
終末世界とは,何かの原因で社会が崩壊し,文明の衰退と人口減少が起きている世界のことで,フィクションの物語における人気ジャンルです。世紀末系と言ったりもしますね。
物語がシリアスな展開になることが多く,ブシロードでは手を出していないジャンルでしたが,信澤さんが「終末世界×VTuber」というアイデアを持ち込んでくださりました。
ただの終末世界モノではない,終わりゆく灰色の世界と華やかな存在であるVTuberのコントラストが綺麗そうで,見てみたいなと思ったのが第一印象です。
信澤 収氏(以下,信澤氏):
「終末世界にVstar(バーチャルライバー)がいたら,どうなるだろう」というような発想を芯にしてスタートしています。この作品ではこのバーチャルライバーのことを「Vstar」と呼んでいます。
4Gamer:
終末世界とバーチャルライバーというのは,確かに相反する存在のように思えますね。そんなこの物語の主人公はどのような人物なのでしょうか。
信澤氏:
主人公は格差が広がった終末世界の下層にいて,「この世界は辛い」と絶望し,無気力に日々を過ごしている青年です。そんな彼が3人のVstarと出会い,変わっていく物語を描いています。主人公が最初に出会うのは“アイ”という自称Vstarな,正体不明の女の子です。
4Gamer:
公式サイトには,「廃墟のゲーム機の中で長い間眠り続けていた少女」とありますね。この子の正体が気になります。
信澤氏:
アイには実体がなく,デバイスを通じてARで姿が表示されています。バーチャルライバーであるVstarには,基本的に“ガワ”と“中の人”がいますが,アイは,いつでも配信者然とした態度で過ごしていて,中の人がどういう状態なのか分からない雰囲気なんですよ。
アイに中の人がいるのか,それともAIなのか,主人公は疑問を抱きながらも,彼女のパワフルで前向きな部分に引っ張られしまう感じです。
![]() 主人公 |
![]() アイ |
亀山氏:
アイのパワフルさは視覚的にも演出しています。主人公とアイの出会いのシーンは序盤にあるのですが,アイが登場するまでこの物語は灰色で鬱屈した雰囲気に包まれているんです。けれど,Vstarアイの登場によって主人公の見る世界は強制的にカラフルに色付くんです。
この世界にとってアイはものすごく異質な存在でありつつ,この世界を異質として見る側の我々にとってはすごく安心するというか,VTuberっぽい子が出てきた!とワクワクできるシーンでお気に入りですね。
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4Gamer:
この絵からも伝わりますが,アイは正体不明ながらもミステリアスというより明るくて楽しいキャラクターなんですね。
ほかの2人のヒロインはどうなんでしょう。ガワも中の人もいる設定なんでしょうか。
信澤氏:
Vstarのリンカは,割と早い段階で出てきます。中の人である片瀬 凛の存在も早いタイミングで分かるので,主人公とのやり取りは,比較的多いキャラクターになります。3人目のマキは,しばらく中の人のことは分からない状態で進んでいきます。
4Gamer:
3人のヒロインが出てくるとのことですが,物語は選択肢による分岐があるのでしょうか。
亀山氏:
分岐を設けるかは迷って,しばらくずーっと議論していた時期がありました。結論としては,本作では選択肢を作っていません。
キャラクターコンテンツとしては,物語が変化したり,いろいろなエンディングがあったりするほうがいい面もあるのですが,Vstarと終末世界の組み合わせ,そこで起きる事象,進んでいく未来を一本筋の通った物語で伝えたいと考えたんです。
記憶を失っているヒロインのアイは,歌いたいけれど歌詞も忘れています。ですが主人公と出会うことで,いろいろな記憶とともに,歌を思い出していきます。その辺りの理由や結末をどう迎えるのかが,この作品で一番に伝えたいことでしたので,シナリオの分岐という要素はそぎ落としました。
信澤氏:
この点は,かなり検討しましたよね。
亀山氏:
ええ。かなり悩みました。
信澤氏:
僕も,あえて落としたほうが面白い体験になるんじゃないかと思っています。ぶれることなく物語を伝えたい,それに集中してほしいという気持ちもありましたし。
それもあって,物語のクオリティをどれだけ上げられるかに集中できました。本作は,亀山さんにライターも兼務してもらっているので,そこに向き合ってもらったかなという感じです。
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4Gamer:
物語の制作は,どのように進めていたんですか。
亀山氏:
信澤さんが作ってきた原案とキャラクターを僕がシナリオとして書き起こすという,そういった役割分担でやっています。制作チーム自体も,非常に少人数のクリエイターで動かしています。
4Gamer:
少人数とのことですが,どれくらいの人数で開発していたのでしょう。
信澤氏:
コアメンバーは3人です。フルで手を動かしていたのは,私たち2人とメインのディレクターですね。
亀山氏:
3人で毎日のように成果物を持ち寄って議論して,それいいじゃん!みたいに言い合いながら前のめりに開発を進めてましたね。まるでインディーズ作品みたいな作り方。熱くて充実した時間でした。
信澤氏:
ですが,短期的には結構な数の方々が関わってくれています。例えば,イラストは膨大な数になるので,手分けして作っていますし。この辺りは,「バンドリ!」とかとも近いやりかたです。
4Gamer:
プロジェクトは,いつ頃からスタートしたのでしょう。
信澤氏:
動き始めたのは,1年半前ぐらいですかね。
亀山氏:
そうですね。2023年春夏くらいです。
信澤氏:
開発初期は,ほぼシナリオを考える時間でした。それがある意味で“全て”となるタイトルだと思うので。一番大変な時期でもありました。
亀山氏:
信澤さんは,原案としてゲーム開発のプロジェクトに関わるのは初めての挑戦なんです。また私も,商業作品で物語をまるごと1本執筆するのは初めての挑戦でした。でも,事業として会社に承認してもらった時に,社長の木谷からは「1年でリリースしろ」という指令がありまして(笑)。
なんやかんやで1年半くらいかかってしまいましたが,作品の出来には自信を持っています。イラストレーターが原案を作り絵を描いた作品ですから,イラストを筆頭にエフェクト,UIなど,見た目は非常にこだわって作ってもらっています。ぜひたくさんの方に,触れて,見てほしいと願っています。
4Gamer:
あらためてにはなりますが,イラストレーターの信澤さんが原案作りにチャレンジしたのはどんなきっかけがあったのでしょうか。
信澤氏:
昨今,新規IPを作る敷居は高い状態です。そんな中,ブシロードさんの方で「比較的小さいチームで,短期間で世に出せるような作品を作れないか」という計画があったんです。
ブシロードさんには,「バンドリ!」で関わらせていただいていますが,ある日「何かアイデアない?」と尋ねられたんですね。で,その時に考えていた案を複数出したうちのひとつが本作だったんです。
4Gamer:
なぜ,信澤さんに聞いてきたんでしょうね。
信澤氏:
不思議ですよね(笑)。でも,「バンドリ!」などでは,自分がキャラクターデザインをするときに,キャラのバックボーンとなる設定や物語にも結構口を出すというか,一緒に考えていた部分があったので,そういうことが好きなのかなと思われていたのかもしれないです。
実際,ゼロ→イチで原作づくりをするということに対して興味関心は強くあったので,挑戦してみたいと思いました。
亀山氏:
会社側の意図も色々あると思いますが,信澤さんにはこれまでブシロードとIPを生み出し育んでくださった信頼と実績があるのは大きいと思います。
私自身,信澤さんがゼロから作る作品はどんな世界観でどんなイラストになるんだろう,とワクワクしたのを覚えています。
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4Gamer:
そうして一昨年から,本格的にプロジェクトが始動したわけですね。
亀山氏:
一緒に開発していて気が付いたんですが,信澤さんは“絵”から作品を作っていくんです。「こういうシーンがあったらかっこいいだろうな」とか,「終末世界を背景に,華やかなVTuber(的な存在)を描いたらかっこいいんじゃないか」みたいなところから,物語が面白くなる発想をどんどん用意してくれて。
そのうちに私自身がその世界観のファンになり,この作品が世界に伝えたいことってなんだろうと夢中になって考えるようになりました。考えた結果,ひとつの問いかけとして物語の中に綴ったのは「エンタメは必要なのか?」。
人が絶滅に向かっていく終末世界ですが,その疑似体験を,僕らもコロナ禍でしたのではと思っています。その時期,ブシロードはライブを中止にせざるを得なかったということもありました。緊急事態宣言によって,さまざまなイベントが中止になっていく中,「エンタメは必要なのか」というのが,エンタメを作る我々,そしてファンの皆さんも感じていた部分かなと思っているんです。
そういった終末世界で,Vstarという存在がどう輝けるのか,本当に必要なのか,必要だと信じたい,という思いでこの作品を作ってきました。
4Gamer:
絵から作られた世界がそうやって形作られたんですね。
亀山氏:
はい。アイ,リンカ,マキという3人のヒロインとどのように出会うかも,絵で描いてくれました。
信澤氏:
僕は物語を詰めていくときに,考えることと絵を描くことを行ったり来たりすることが多いんです。いくつか原案となる絵を描きましたが,3人の女の子と最初に出会うシーンは象徴的なコントラストが生まれるところでもあるので,まず一番に描きました。
4Gamer:
各ヒロインは,どんなイメージでデザインされたのでしょう。
信澤氏:
アイは,キービジュアルに出したときに目に入ってきやすい,センターにいる存在としてデザインしています。アイドル的な存在の配信者でありながら,終末世界にいても馴染むようにもしていますね。
透明な素材などを身に着けるなど,SF的な要素もありながら,塗りの彩度を全体的に落として世界のトーンに合わせたり。また変化球として入れている要素は,左右非対称なところです。
4Gamer:
髪型やストッキングの色など,アシンメトリーなデザインですよね。シアーなタイプの衣装も,今までにない感じがします。
信澤氏:
アイの謎,今の状態などの示唆というか……,それをデザインで表現しています。「何かあるな」と思ってもらえたら,というのが狙いです。
衣装は,みんな描きづらかっただろうな,って思います。よく見ると露出度が高いのですが,それは作中でも結構擦られてます。いったいどういう恰好なんだと(笑)。
4Gamer:
リンカは,王道アイドルな感じですね。
![]() リンカ |
![]() 凛 |
信澤氏:
その通りで,“アイドル”の側面を強めてデザインしました。この世界の表の側における,トップのバーチャルライバーをいう立ち位置を想定しているので,明るい黄色系の色合いにしています。
またアイとは違って,左右対称の三角形みたいなシルエットになっていて,見る方に安定感を与えられるようにしました。四角星をモチーフにしたアクセサリーをいくつか体につけているんですが,それは中の人の過去に関連したアクセントです。
4Gamer:
リンカの“中の人”である凛は,リンカと趣向が全く違った落ち着いたデザインですね。
信澤氏:
リンカと凛,同じでありながら違うといった二面性を表した作りにしています。凛は,寄り添えるというか,近くに感じられるように意識したデザインにしました。
Vstarのデザインは,親しみがありつつも手の届かないような“配信者然”としていてほしいというところがあるので,双方との違った距離感を感じてもらえたらうれしいです。
4Gamer:
凛は落ち着いた雰囲気を持っていますが,何歳なんですか。
亀山氏:
17歳です。作中でも年齢は出てきます。
信澤氏:
主人公のミライが,ふたつ上の19歳ですね。
4Gamer:
ふたりとも大人っぽい! でも,終末世界では多少大人びていないと生きていけないのか。
亀山氏:
こういう殺伐とした生存競争になってしまう世界では,現代人と比べると精神的な成長が早いのかなと,シナリオを書きながら想像していました。でも凛は,シーンによっては子供っぽいようなところや年齢相応なところもあります。
4Gamer:
3人目のヒロインであるマキは,どんな子ですか。
信澤氏:
この世界は,山手線の中に囲われた上の階層の人たちの世界と,山手線の外側のスラム的な世界,大きくふたつに分かれているんです。
マキは基本的に内側で活動をしているのですが,アイドル的な配信はせず,Vstarの姿を使い,社会体制に対する抵抗運動をしているレジスタンスです。この世界においては特殊な立ち位置ですね。
格好も,ちょっとストリート的な要素が入っていて,地べたを這いつくばって頑張っている側のひとりというところを伝えられるといいかなと思ってデザインしました。髪の白いメッシュも大事なアクセントです。
4Gamer:
マキのようなレジスタンスが活動をしているということは,恒常的に争いがあちこちで起こっているような状態なのでしょうか。
亀山氏:
デモなどが起こってはいるものの,基本的には抑圧する側の力のほうが強いです。為政者が弾圧できてしまうくらいの力関係をイメージしています。
レジスタンス的な,立ち上がる人たちはいますが,それによって社会全体がひっくり返るところまでは,まだまだ到達できていないんですね。
![]() マキ |
![]() マイ |
4Gamer:
キャラクターをデザインしたとき,苦労した点はありますか。
信澤氏:
「バンドリ!」との対比する観点で言うと,「バンドリ!」は,それぞれが悩みを抱えている現代の女の子だという点をデザインにも出るようにしています。
「バチャガ」の舞台は,それとは全く違います。先ほども,キャラクターが大人っぽいという話がありましたけど,そうならざるを得ないみたいな社会のベースがあります。
でも自分が描くからには,「可愛い」と女の子に対して思ってもらいたいという面もあるので,双方のバランスをどう取るかを,最初に考えました。
なお初めにデザインしたときは,もう少し頭身が低くて目も大きく,「バンドリ!」に近かったですね。描いていくうちに方向性が定まってきた感じがあります。2つの作品のキャラクターを比べると,だいぶ違うのが分かると思います。
4Gamer:
キャラクターのイメージはシナリオに影響すると思いますが,そのような絵作りがあったうえで,シナリオの軸に置いていたことはどんなことだったのでしょうか。
亀山氏:
本作のキャッチコピーである「絶望で、かがやけ」,その言葉をすごく大事にして,物語を書いていきました。絶望にぶち当たって心が折れかける,でもそれを乗り越えて自分の信念や成長,そういったものをキャラクターが獲得していく。そういう人生の浮き沈みみたいなものも意識しました。
信澤さんが用意してくれた原案には,具体的な事件やエピソードはあまり書かれていないんですよ。それよりも,キャラクターを包み込む環境とか世界の状況みたいなものが書いてあったので,エピソードはシナリオライター側に委ねていただいた形です。
4Gamer:
物語は,設定を事細かに用意してから作っていくタイプですか。
亀山氏:
ある程度の設定はありますが,自分の場合,頭の中でキャラクターが勝手に動いて物語を作ってくれるので,それをエンディングまでの道のりに乗るようにチューニングするだけという形です。
構成をガチガチに決めることはせず,ミライやアイが勝手に好きなことをしゃべって行動をして,事件が起こって……。なので書いていて刺激的で楽しかったですね。
4Gamer:
キャッチコピーですが,絶望的な世界なのに“希望”といった言葉がないのが面白いなと。
亀山氏:
そこは信澤さんのスタンスというか,思想ですよね。
信澤氏:
終末世界や戦争ものの映画が好きでよく見るのですが,そういう極限状態になると,人間の醜い部分とかが見えるじゃないですか。でも,「なぜそこで一歩踏み出せる人がいるんだろう」と思うんです。
今世界では,良くも悪くもいろいろなことが起きていますが,自分は基本的に平和な世界で今まで生きてこられているので,その前に進むことができる理由にもっと共感したいという気持ちが,自分の根底にあります。
物語を作りながらキャラクターを詰めていくと,だんだん彼らに共感していけるんですね。「なんでこの子はここでこういう行動が取れるんだろう」とじっくり考察して,そこに共感したいんです。キャラづくりの最初のステップだったかもしれないです。
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4Gamer:
キャラクターの内面を決定するのは,おふたりのどちらですか。
信澤氏:
キャラクターを詰めてくれるのは亀山さんで,作中での行動やセリフも全部考えてくれています。自分は,どちらかというと動機とか,「この子の行動の前にはこういうことがあったかもしれない」みたいな,エピソードの前段のところを一歩引いて考えて,具体的なところはお任せすることが多いですね。
亀山氏:
僕は高校から芝居をやっていたせいもあるのか,セリフとか行動とかを考えるのは好きなんですよね。
信澤氏:
えっ,知らなかった!
亀山氏:
その経験から,物語が人に与える影響ってすごいと感じていました。
4Gamer:
執筆時に,大変だなと思ったことはありますか。
亀山氏:
最初の頃は,「絶望で、かがやけ」という信澤さんが出してくれたキャッチコピーを理解していなかったんですよ。「絶望でもかがやけ」というニュアンスだと思っていて……。
この2つは似てますけど全然違くて,最初は「絶望の中でも踏ん張ることが人間の美学」みたいな,どっちかというと苦しい状態を考えていました。
けれど信澤さんと毎日話す中でそうじゃないんだなと気づきました。今は,「暗闇の中でこそ光は輝ける。」というニュアンスで理解しています。
人が持ってる輝きは絶望の中でこそ外に見えるというような,ポジティブなメッセージだったんです。すごくいいキャッチコピーだと思っています。
信澤氏:
自分としては,ふたりで一緒に考えたっていう感じなんですけどね(笑)。
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キャラクターに命を吹き込む声優たち。開発スタッフに負けないほどの大きな愛
4Gamer:
各キャラクターの担当声優は,どのように決めたのでしょうか。
亀山氏:
オーディションです。ありがたいことにたくさんの応募をいただきました。
そういえば,ヒロイン3名の声優さんは,苗字が全員“タチバナ”さんなんですよ。
4Gamer:
そんなことがあるんですか!?
亀山氏:
ネットでは,これも何かの伏線なんじゃないかって言われているのも見ました。全くそんなことはないですけど(笑)。
4Gamer:
起用判断や配役は,どのような基準で決めましたか。
亀山氏:
メインヒロインのアイは最もセリフ量が多いですから,「何時間でもこの声を聞き続けたいと思えるかどうか」という点を一番に考えました。そしてピッタリの声を持っていたのが,橘 杏咲さんなんです。
リンカは,カリスマ性のある外側と,道に迷いつつある中身の弱さとのギャップを演じるのが難しいキャラクターです。その演技がずば抜けてハマっていたのが,立花日菜さんでした。
マキ役の橘 めいさんは,応募いただいた中でも一番くらいに若い方で。当時15歳だったかな。昨年3月にオーディションを行ったのですが,4月から高校生になると言ってましたから。
彼女からは,マキのことが好きだという気持ちを強く感じました。収録中ずっとマキと向き合ってくれていますし,歌の現場では,歌い終わったあとに感極まって泣いてしまったりするくらい感情移入しているんですよ。
4Gamer:
真っすぐな想いが眩しいですね。
亀山氏:
その作品・キャラクターへの愛っていうものが,このプロジェクトに関わっているメンバーは大きいです。こんないい現場は見たことないなって思うくらいに。
音楽の制作陣も,50万字くらいあるシナリオを全部読んだうえで,曲のアイデアを出してくれました。
みんな忙しいのに,「時間がかかるんでやめときましょう」というような話は,一度も出なかったんじゃないかな。「面白いからやってみよう。チャレンジしてみよう」そういう言葉が溢れていましたね。
4Gamer:
そういった情熱で人を牽引していく方々は,Vstarの存在に近いものがありそうですね。
亀山氏:
確かに,そうかもしれません。
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4Gamer:
主人公にはボイスがないんですね。よりプレイヤーに身近な存在としてミライがいる,という感じでしょうか。
信澤氏:
ここも議論した点ですが,良い選択だったと思っています。
4Gamer:
ヒロインには,それぞれにオリジナルの持ち歌があるそうですが,そちらについて話を聞かせてください。
亀山氏:
この企画はゲームありきで作っていましたが,やっぱり歌も必要かなと思い,ヒロインたちに歌ってもらうことにしました。
キャラクターを好きになるときは,まずビジュアルから入ると思うんですけど,性格や考え方に共感できるとか,同じ悩みを持っているとか,そういう要素が分かると,もっと深く好きになってもらえると思っています。
その内面をゲームリリースまでに伝えたかったんですが,キャラクター紹介文のような文字情報だけで紹介したところで,あまり届かないかなと。だから音楽が必要でした。
各キャラクターの持ち歌は,彼女らの信念が込められた曲になっています。何を考えて生きているのか,どんな苦しみがあるのかっていうのが,曲を聴いていただければ分かるはずです。なお歌の方は,ゲームの中だけでなく,今後アップする予定のYouTubeでも聞くことができます。
4Gamer:
作中では,その世界の人々がその歌を聴いているということですか。
亀山氏:
そうです。ゲーム中にキャラそれぞれのライブがあって,お客さんが聴くシーンもあります。
4Gamer:
BGMや楽曲といった音楽は,どなたが担当されているのでしょうか。
亀山氏:
堀江晶太さんらで活動されているクリエイター集団PHYZに音楽を制作していただいています。ボカロPとして活動されているクリエイターさんに関わっていただいており,物語から曲を書き起こすそのセンスにはただただ尊敬の念を抱きました。
4Gamer:
楽曲は何曲ぐらいあるのでしょうか。
亀山氏:
BGMが20曲くらいで,各キャラクターに持ち歌が1曲ずつです。
4Gamer:
メディアミックスプロジェクトとして,今後どんな展開を視野に入れていますか。
亀山氏:
Vstarたちは配信者ですので,彼女たちによる“歌ってみた”とかを考えています。オリジナル曲だけでなく,「このキャラクターだったらこの曲を歌いたがるだろう」という観点で曲を選定してまして,もう収録も進んでいます。
4Gamer:
設定が活きている部分ですね。MVみたいな感じで出していくんですか。
亀山氏:
はい。基本的には,2Dで演出をつけたミュージックビデオになります。そういえば2月の後半には,リンカとマキのオリジナル曲は世の中に出ているはずです。ものすごくいい出来なので,ぜひ聞いてほしいです。
4Gamer:
「バンドリ!」など,ほかのタイトルに登場しているキャラクターが本作の曲を歌うとか,逆のパターンがあっても面白そうですね。
亀山氏:
タイアップのような取り組みはさせていただきました。今回の主題歌は,バンドリ!プロジェクトの“夢限大みゅーたいぷ”というバンドの皆さんに歌っていただいています。
これがめちゃくちゃ,この作品とシナジーが強くてですね。どちらもバーチャルの側面を持つアーティストですし、信澤さんが絵師をされています。さらに言えば音楽制作もPHYZです。
4Gamer:
親和性が高いどころの話ではないですね。そのほかのメディアミックスプロジェクトとして,今発表できることはありますか。
亀山氏:
基本的にはゲームと音楽といった2本の柱でプロジェクトが進行しています。まだ言えない企画のほうが多いですけどね。あと,発売の前後でどこかのイベントに出させていただくとかも検討しています。
4Gamer:
開発に関わっていく中で,裏話というか,心に残るエピソードがあれば教えてください。
亀山氏:
本作の開発に携わったメンバーは,このプロジェクトのことが大好きなんだなって思っているんですけど,とくに信澤さんが,すごくって(笑)。
信澤氏:
確かに好きですけど,みんなと変わらないと思いますよ(笑)。
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亀山氏:
一般的なビジュアルノベルゲームに入っているスチル絵は,だいたい20枚くらいなんですよ。本作も,それくらいを想定していて,どこのシーンにスチルを入れていくかを考えて進めていたんですけど,信澤さんに「ここに絵があるといいかな」と話すと,どんどんと追加で描いてきて。
さらに,「これも必要だと思うんで描いておきました!」って……。結局,50枚くらいになりました。
信澤氏:
自分のタイトルですからね!
亀山氏:
僕は僕で,シナリオを勝手に書き進め「こういうシーン追加しときました!」みたいなことも多くて。
また開発会社のヘッドロックさんも,事前に打ち合わせを何もしてないけれど,「こういう機能を実装させました!」「こういうエフェクトを作っときました!」っていうテンションで,α版を持ってきてくれたりとか。みんなが前のめりに作っていたというのが,ひとつポジティブないい点でしたね。
4Gamer:
そんな良い雰囲気の中で生まれてきた作品なんですね。
信澤氏:
この規模感のプロジェクトだからこそ,できたことかもしれないですね。インディーゲームっぽいというか。
開発に関わる人たちが楽しくやってほしいということは,プロジェクトを立ち上げた側の気持ちとしてもありましたから,自分が率先して勝手にやろうと思ったところもあります。
亀山氏:
僕はライター兼プロデューサーなので,ディレクターさんは別にいるんです。なので,シナリオを納品したらあとは監督やディレクターに任せるのが普通なんですけれど,演出についてなどのインプットを1000件くらいしちゃって……。
信澤氏:
自分でデバッグもしてますからね。
亀山氏:
デバッグしながら「ここの演出はこうだな」「このSEが鳴るタイミングはこのセリフじゃなくて,もうひとつ後だな」とか。とか。そういう細かいところの演出づけをディレクターさんと共有してました。
ヘッドロックの開発の皆さんも,その意志を全力で汲み取ってくださってギリギリまで頑張ってくださいました。
信澤氏:
働きすぎだって会社から怒られてましたよね(笑)。
4Gamer:
ところで,おふたりは元々VTuberの配信を見ていたり,お好きだったりするんでしょうか。
信澤氏:
僕は,軽く見ている程度ですね。夢限大みゅーたいぷとか,別のイラストの発注を受けたりすることとかもあったので,縁があった方々の配信を楽しむくらいでしょうか。
亀山氏:
特定のVTuberさんを追ったりはしていないですが,仕事を兼ねて見ることはあります。コンテンツをメディアミックスで展開するブシロードとしては,声優さんにキャラクターを演じてもらい,さらにライブやYouTube配信も……ということが多いです。
そんな職業的な観点で言うと、VTuberという存在は脅威に感じています。ものすごい頻度で配信をする,もう週に6,7回くらい,常に今を語り続ける。視聴者と高い接触頻度を保った状態で,双方向のつながりが作れている。
信澤氏:
より多くの視聴者と繋がり続けられるVTuberだからこそ,終末世界の本作では為政者のメッセージを代弁し民衆をコントロールするためのプロパガンダとして利用されてしまう,という設定を用意してみました。
亀山氏:
そんな状況に対して徐々にライバー側が,誰のために配信をしているのかわからなくなっていく不安定さだったり,ほんとに配信が好きだったんだっけ? ああそれでも今日も配信しなくちゃ,と追われるし追い詰められていくし,ということはありえそうだなと想像してシナリオに起こしました。
4Gamer:
本作に登場するVstarも,リアル社会のVTuberに近い存在なんでしょうか。
亀山氏:
ですね。リアルの話ですが,コロナなどによって不安が大きくなった社会の中で,“今隣にいてくれる人”が大事だと皆が思い始めたのではないでしょうか。そういったときにVTuberが毎晩配信をしてくれて,自分のコメントにレスを返してくれて,さらに一緒に同じものを見て楽しむっていうのは,すごく支えになったのだろうと感じています。
「バチャガ」という作品においても,不安定な世界の中で寄り添ってくれる存在がVstarだったんだろうと思っています。広く浅くたくさんの人と付き合おうというより,隣にいる人を大事に。やっぱり最後はそこに行き着くのかなっていうのは,作品を書いていて感じましたね。
先行きが見えない不安の中にいるなら,せめて今見えている,隣にいてくれている人の手だけは放しちゃいけない。「キミが笑顔にしたい人はだれなの?」という論点は,ストーリーの中でも出てきます。
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4Gamer:
最後に,本作を楽しみにしている人へメッセージをお願いします。
亀山氏:
終末世界ということを全面に出してお話しましたが,読んでいてニヤニヤすることもできる作品です。
主人公と女性ヒロインたちのちょっと“ドキドキ”ワクワクするコミュニケーション,もう絶望しかないような“ドキドキ”する事件や心の変化,そういう2種類のドキドキが混在するスリリングな絶望と希望のストーリーになっていると思います。また,笑っていただけるシーンや,逆にちょっとホロリとくるシーンもあります!
モチベーションの高いクリエイターたちが,全力で作りたいものを作ってできた作品です。ぜひお話を読んで,その熱量を感じていただきたいです。「本当にこの世界にエンタメって必要か? いや,必要なはずだ!!!」みたいな。そういう思いをかけて作品を作ってきました。
皆さんの人生にほんのすこしの彩りを与えられる作品になれたらいいなと思っています。作品情報を追いかけて,できれば手にとって遊んでいただければうれしいです。
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信澤氏:
今回は原案からしっかり作品に関わってきたこともあり,いつもと違う立場での開発を経験しました。そのおかげで,自分とは異なる立場で開発に携わっている方々の考えも,より深く分かるようになったかなと。また相手が何を求めているのか,その理解度が上がったことで,今後絵の仕事にも良い効果が出てくると思っています。
作品に関しては,僕も亀山さんと本当にほぼほぼ同じ気持ち,意気込みで取り組んでいます。発売までまだ少しありますが,「バチャガ」に登場するキャラクターたちの魅力をもっと多くの人に届けられるように頑張っていきます。
イラストなどもアップできればと考えていますので,ぜひ公式X(@virtualgirl_pj)をフォローしてください!
4Gamer:
本日は,ありがとうございました。
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