レビュー
2023,個人的クィアゲーム大賞。「クィア」の意味を知っていても知らなくても,年末年始にプレイしてほしい9本
●近藤銀河さんプロフィール
1992年,岐阜県生まれ。アーティスト,ライター,美術史研究者。中学時代に難病CFS/MEを発症し,以降車いすで生活している。ライターとしては,「ユリイカ」「現代思想」や書籍「『シン・エヴァンゲリオン』を読み解く」(河出書房新社)に寄稿。ゲームを扱った連載に,Wezzy「フェミニスト,ゲームやってる」がある。
マジック:ザ・ギャザリング アリーナ
価格 | 基本プレイ無料+アイテム課金 |
ジャンル | カードゲーム |
メーカー | Wizards of the Coast |
公式サイト | https://mtg-jp.com/mtgarena/ |
「Magic: The Gathering」(以下,「MTG」)が2023年のクィアなゲームとして名前が挙がるのは,意外なことかもしれない。「MTG」は今年ちょうど30周年を迎える,TCGの元祖ともいうべきゲームだ。
どちらかといえば,保守的なゲームと思っている人は多いかもしれない。
しかし,「MTG」はTCGの中でも極めて意図的にクィアフレンドリーであろうとしているゲームでもある。
私が「MTG」を遊び始めたのはデジタル版の「Magic: the Gathering Arena」(以下,「MTGアリーナ」)からで,もう1年以上プレイし続けている。私はなにかと飽きやすく,対戦型のオンラインゲームを数か月以上,プレイし続けられたことがない。
そんな私が「MTG」に触れ続けているのは,このゲームがクィアな要素をゲームの中に取り入れているからだと思う。私は「MTG」から受け入れられ,歓迎されていると感じられた。特に2023年の「MTG」は,メインストーリーにクィアなキャラクターが登場することが多かった(現在の「MTG」では,新しいカードセットが出るたびに公式サイトにそのストーリーを語る小説がアップされる)。
数年にわたって展開されたシリーズの締めとなった拡張セット「機械兵団の進軍」のラストでは女性同士の恋愛が描かれ,そのエピローグとなった「機械兵団の進軍:決戦の後に」では彼女たちのその後が濃厚に語られた。
それに続く新シリーズの「エルドレインの森」では,ノンバイナリーのキャラクターであるアショクが活躍していた。アショクは従来,トランスジェンダー表象の悪い定番である謎めいた悪役として描かれてきた。「エルドレインの森」でも残念ながらその方向性は変わらなかったが,私はアショクの権威を否定し茶化すような性質がとても好きだ。今後,もっとたくさんのノンバイナリーをはじめとするやトランスジェンダーのキャラクターが登場すれば,私はもっとアショクを好きになるだろう。トランスジェンダーの表象が増えれば,謎の多い悪役というステレオタイプは,属性の中の多様な人格の一つという位置に代わっていくからだ。
11月に発売された「イクサラン:失われた洞窟」でも,メインキャラクターとして女性同士のカップルが登場した。これで2023年に発売された「MTG」のメインの拡張セットの大半にクィアなキャラクターが登場していたことになる(1セットのみクィアなストーリーを含まないものがある)。
また,周縁化されたジェンダーのプレイヤーに向けて有志によって開催されている「VML Championship」という大会が行われているが,こうした大会も公式からサポートを受けている。この大会の告知が「MTGアリーナ」のメニュー画面にドーンと大きく出ていたのを見たときは,とても嬉しかった。
クィアなキャラクターが登場する対戦ゲームは珍しくないが,付随するストーリーの中でセクシュアリティやジェンダーのことがメインで描かれることはまだ少ない。その点で2023年の「MTG」は,他の対戦ゲームと一線を画す表現を行っていた。
Thirsty Suitors
価格 | 3750円 |
ジャンル | アクションRPG |
メーカー | Annapurna Interactive(発売) Outerloop Games(開発) |
公式サイト | https://store.steampowered.com/app/1617220/Thirsty_Suitors/ |
実写映画にもなった漫画「スコット・ピルグリム」がNetflixでアニメ化されて,話題を呼んでいる(「スコット・ピルグリム テイクス・オフ」)。「スコット・ピルグリム」は主人公が恋人の元カレや元カノと戦う物語だが,ここで紹介する「Thirsty Suitors」は,主人公のジャラが自分自身のために元カレや元カノと戦っていくゲームだ。
主人公のジャラはアメリカで暮らす移民二世のバイセクシュアル女性だ。ジャラは恋人とともに地元の町を出たが,彼女とうまくいかなくなり,実家に帰ることになる。
このゲームでは,嫌になって捨てた地元に戻ることになったときの微妙な空気の悪さがとてもよく表現されていた。彼女のセクシュアリティに対する差別は,彼女を街と家族の中で孤立させるが,その核心に直接触れてくる者は誰もいないのだ。
そして同時にジャラは,アメリカではマイノリティのアジア系移民の子どもでもあり,アジア系の文化を受け継いでもいる。その点でジャラは家族との間に強い繋がりがある。ジャラはアイデンティティに由来する力学が行き交う交差点に立っているのだ。
このように「Thirsty Suitors」は,クィアな移民の経験を真摯に描き出しているのと同時に,すごく変でユーモラスなゲームでもある。
プレイヤーはゲームの中でスケボーをしてトリックをきめ,クールなQTEアクションで料理を作り,祖母が送り込んでくる見合い相手とフィールドでエンカウントしJRPGのようなターン性バトルで戦い,ボス戦も繰り広げる。
フラットな色面によって表現されるイラスト風の3DCGも相まって,これらの要素はとても愉快に描かれる。料理や戦闘のときに現れるエフェクトはインドの織物を思わせてとても美しく楽しげだ。
しかし,それらの要素は単に愉快なだけではなく,ジャラの規範への反抗やセクシュアリティ,そして家族を通したアジア系としてのアイデンティティの継承,同時にある伝統的なものへの抵抗といったシリアスなテーマとも結びついている。
「Thirsty Suitors」はメチャクチャなゲームだ。でもそのメチャクチャさは,ジャラという人物の抱えるアイデンティティの交差と,それへの複雑で引き裂かれるような応答に満ちたメチャクチャさでもある。
彼は私の中の少女を犯し尽くした(※成人向け)
価格 | 無料 |
ジャンル | ビジュアルノベル |
メーカー | Taylor McCue |
公式サイト | https://store.steampowered.com/app/2293660/__HFTGOOM/ |
ゲームは個人的なことを語る手段でもある。小規模で作られるインディーゲームは特にそうだ。語りにくいことや語り自体が難しいことを,ゲームという形で叙述していく。それは特にマイノリティにとって重要な営為だ。
「彼は私の中の少女を犯し尽くした」もそうしたゲームの一つである。このゲームでは,トランスジェンダーである作者の経験したセックスワークの記憶が語られていく。タイトルの通り,ゲームの内容はとても辛く,重いものでもある(ゲームにはトラウマを想起する内容に関する注意喚起もつけられている)。
本作がクィアなのは,ゲームの内容がトランスジェンダーであることと結びついているからだけではない。トラウマの語り方,記憶の示し方,それ自体もきわめてクィアなものになっている。
ゲームが語っていくのは記憶それ自体だけではなく,差別されている人間のトラウマ化した記憶を語ることの難しさだ。本人の痛みを伴う記憶の開示は,それを語った相手に性的なものとして読み取られ,また本人ごと拒絶される。ゲームの冒頭では作者のそうした経験が抽象的な表現とともに示される。
トラウマとなった記憶は様々な余波をもたらし,過去から今を縛り続けてしまう。
ゲームの中では過去の回想の合間合間に,現在の自分の感情や考えが挟み込まれる。何度も過去と今を行き来するようなそうしたナラティブは,トラウマがもたらす苦しみを語るものであり,同時にそれを癒そうとするものでもある。
本作はゲームボーイでも動作するのだが,クラシックなドット絵の見た目も,過去と今の距離を溶かそうとしているように思える。
回想シーンではプレイヤーが選択肢を選ぶ場面がいくつか出てきた。それにも過去と今の関係を乱すような感覚がある。マイノリティとしての体験は,規範がないために一貫した語りになるのが難しい。また,トラウマは今の中で想起され,ありえた可能性の存在が心を悩ませる。
どの選択肢も,痛切なトラウマの記憶とその影響に結びついた選択肢で,選ぶことも読むのも辛いことも多い。
でも私はプレイしながらなんだかホッとしてもいた。形は違うが,私も自身のクィアさと結びついた語ることの出来ない経験を持っている。でもゲームはそうした経験を語ることができるし,語る必要があるのだ,と教えてくれる。沈黙に殺されず生きるために。
「彼は私の中の少女を犯し尽くした」はクィアな人間のトラウマ的な体験を語るゲームであると同時に,差別と苦しみの中で生き延びようとする意志そのものでもある。
最後に申し添えておくと,このゲームは2022年5月にリリースされたもので,2023年のクィアゲームではない。だが,日本語版は,2023年4月にゲーム翻訳者の鳥の王国氏によって公開された。
この企画は2023年に印象に残ったクィアゲームを選ぶものだが,日本語での記事であるということから,日本におけるクィアゲームという観点も重要だと考える。その意味で本作が有志によって日本語に翻訳されたということ自体まで含めて,私はこのゲームを2023年のクィアゲームとして記録したい。
総括
2023年のゲーム界は本当に大作ラッシュだった。次から次へとクオリティの高いゲームが出てきて,情報を追っかけるだけでお腹いっぱいだ。「ストリートファイター6」とか「Wo Long: Fallen Dynasty」など今年の前半に出たゲームは,もう何年も前のゲームに思えてしまう。
そんな中で,2023年はクィアな表現,あるいはジェンダー自認を尊重する描写が定着してきた年でもあった。コーエーテクモゲームスの「Wo Long: Fallen Dynasty」のような日本のゲームでも,主人公のキャラメイク時に代名詞を選ぶことが出来るようになっていた。
任天堂の「ピクミン4」も,同社の「スプラトゥーン3」に続いてジェンダーを選ばずキャラメイクできるシステムが導入されていた。
大作でも「Marvel's Spider-Man 2」にレズビアンカップルが登場したし,注目作のRPG「バルダーズ・ゲート3」はクィアなゲームとしても好評を博した。同作は実写映像を使用しないゲームとしては初めて,インティマシーコーディネーターが参加したゲームでもあった。インティマシーコーディネーターは,主に映画などで性的なシーンを撮影する際に演者の様々な安全性を保つため,現場を管理しアドバイスを与える役職だ。ゲーム業界の働き方の改善は近年の重要トピックだが,こうした取り組みが進んだのも2023年だったと思う。
2023年はクィアなゲームが楽しい年でもあったが,同時に日本での紹介や翻訳のあり方が気になることも多かった。「Thirsty Suitors」は前述のとおり元カレや元カノと戦うゲームだが,Steamの日本語紹介ページには元カレとの表記しかなかった。
また「Wo Long: Fallen Dynasty」で代名詞を選択できるのは良かったが,「男」「女」「そのほか」という三択になっていたのは,代名詞の選択肢として疑問が残った。またBethesda Softworksの話題作「Starfield」では代名詞としてThey/Themを選ぶことができたが,これは日本語では「彼ら」として訳出されていた。They/Themに対してはすでに彼人,是人などの訳が出されているし,一部のゲームではすでにこれらの訳が使われている。今後ゲームの翻訳がどのような形でなされていくべきなのかという議論も進んでほしい。それは日本のゲーム業界がどうクィアに向き合っていくか、という議論でもある。
- 関連タイトル:
メディテラネア・インフェルノ
- 関連タイトル:
Milky Way Prince:The Vampire Star
- 関連タイトル:
Butterfly Soup
- 関連タイトル:
Butterfly Soup2
- 関連タイトル:
マジック:ザ・ギャザリング アリーナ
- 関連タイトル:
マジック:ザ・ギャザリング アリーナ
- 関連タイトル:
マジック:ザ・ギャザリング アリーナ
- 関連タイトル:
Thirsty Suitors
- 関連タイトル:
彼は私の中の少女を犯し尽くした
- 関連タイトル:
Stray Gods: The Roleplaying Musical
- 関連タイトル:
Stray Gods: The Roleplaying Musical
- 関連タイトル:
Stray Gods: The Roleplaying Musical
- 関連タイトル:
Stray Gods: The Roleplaying Musical
- 関連タイトル:
Tchia
- 関連タイトル:
Tchia
- 関連タイトル:
Tchia
- この記事のURL:
キーワード
- PC:メディテラネア・インフェルノ
- アドベンチャー
- Eyeguys
- Lorenzo Redaelli
- Santa Ragione
- シリアス
- プレイ人数:1人
- 欧州
- 恋愛
- PC:Milky Way Prince:The Vampire Star
- PC:Butterfly Soup
- PC:Butterfly Soup2
- PC:マジック:ザ・ギャザリング アリーナ
- /:マジック:ザ・ギャザリング アリーナ
- Android:マジック:ザ・ギャザリング アリーナ
- Android
- PC:Thirsty Suitors
- PC:彼は私の中の少女を犯し尽くした
- PC:Stray Gods: The Roleplaying Musical
- :Stray Gods: The Roleplaying Musical
- Nintendo Switch:Stray Gods: The Roleplaying Musical
- Nintendo Switch
- PS4:Stray Gods: The Roleplaying Musical
- PC:Tchia
- PC
- :Tchia
- PS4:Tchia
- PS4
- 編集部:町田
- ライター:ラブムー
- ライター:近藤銀河
- ライター:まきちゃん
- レビュー
(C)2023 Santa Ragione / Eyeguys
(C)2020 Wizards of the Coast LLC
(C)2020 Wizards of the Coast LLC
(C)2020 Wizards of the Coast LLC
(C)2023. Humble Bundle, the Humble Bundle logo, and the Humble Games logo are among the trademarks and/or registered trademarks of Humble Bundle, Inc. throughout the world. All rights reserved.
(C)2023. Humble Bundle, the Humble Bundle logo, and the Humble Games logo are among the trademarks and/or registered trademarks of Humble Bundle, Inc. throughout the world. All rights reserved.
(C)2023. Humble Bundle, the Humble Bundle logo, and the Humble Games logo are among the trademarks and/or registered trademarks of Humble Bundle, Inc. throughout the world. All rights reserved.
Tchia(C)2023 Awaceb. "Tchia", "Awaceb" and the Awaceb logo are all trademarks of Awaceb. Developed and published by Awaceb, a member of the Kepler Interactive group. All rights reserved.
Tchia(C)2023 Awaceb. "Tchia", "Awaceb" and the Awaceb logo are all trademarks of Awaceb. Developed and published by Awaceb, a member of the Kepler Interactive group. All rights reserved.
Tchia(C)2023 Awaceb. "Tchia", "Awaceb" and the Awaceb logo are all trademarks of Awaceb. Developed and published by Awaceb, a member of the Kepler Interactive group. All rights reserved.