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インタビュー

「泡沫のユークロニア」メールインタビュー。各ルートのテーマやキャラクターデザインのポイント,作品への想いを聞いた

 2024年4月11日に発売予定のNintendo Switch用ソフト泡沫のユークロニアは,ブロッコリーとティズクリエイションによるゲームブランド「LicoBiTs」のプロジェクト第1弾となる恋愛アドベンチャーゲームだ。

 カラクリ仕掛けの空中都市「凍玻璃」(いてはり)を舞台に,そこで生まれ育った名門貴族の少女(主人公)と,記憶を失った青年「矢代」(やしろ)の出会いをきっかけに,秘められた街の謎に迫る物語が描かれる。

 本稿では,本作のディレクターを務める高村 旭氏,原画を手がけるRiRi氏,メインシナリオを担当するかずら林檎氏に,開発経緯や注目してほしいところ,作品への想いなどを聞いたメールインタビューをお届けする。

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ディレクター高村 旭氏


4Gamer:
 まずは,ブロッコリーとティズクリエイションが一緒に新ブランド「LicoBiTs」を立ち上げることになった発端から教えてください。

ディレクター高村 旭氏(以下,高村氏):
 ティズクリエイションを立ち上げた際,スタッフのメンツ的にもこれまでもコンシューマゲームを作ってきたスタッフが多かったので,やはりゲームは作っていきたいなと思っていました。ただ,正直なところ中身を作ることはできてもそれ以外の経験は……(笑)。

 開発から販売,広報などすべてを自分たちでやるにはスタッフの人数も経験もまったく足りないですし,そもそも新作ゲームを作るためにはある程度開発に集中できる環境も当然必要。自分たちにできること,できないことを考えて,足りない部分はお力を借りよう! とダメ元でお声がけしたのがきっかけです。

ティズクリエイション(TIS Creation)は2022年1月に設立された新会社(関連記事
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4Gamer:
 「泡沫のユークロニア」を企画した経緯を教えていただけますか。

高村氏:
 新ブランドの第1作ということでどういった作品にするかはかなり悩みました。いくつかの企画を考えている中で,ふと,そういえば以前RiRiと雑談の中で「和風要素のあるスチームパンク」をやってみたいと話したことがあったなあと思い出しまして。RiRiに以前少し話したこのテーマはどうだろう? と提案したのが始まりです。

 自分としては初挑戦のジャンルなので,どういったものがベストなんだろうと考えていくうちに「ディストピア」といったキーワードなどが出てきて,そこから女性向けという部分も鑑みながら整えていくうちに今の形になりました。

4Gamer:
 制作のうえでどんなやりとりが行われたのでしょうか。

高村氏:
 ゲーム制作に関しては,いわゆる企画・原案はもちろんですが,シナリオやイラスト,ゲームシステムの提案やクリエイターのアサインなども含め,弊社で自由にやらせていただいています。発売元であるブロッコリー様には広報やプログラム周りなどを中心に,開発のサポートをお願いしていて,お互いの得意な分野だったり,経験のある部分をそれぞれ生かす形で進めさせていただいています。

 とはいえ,宣伝だったり商品展開などについてもさまざまなご提案をいただいて,一緒に考えさせていただく機会もありますし,逆にこういったことをしてみたいという提案をさせていただくこともあります。非常にタイトルへの愛情を持って取り組んでいただいている印象で,自分たちにないアイデアもたくさん共有してくださるので,とても楽しくやりとりをさせていただいています。

4Gamer:
 「和風ファンタジー」な世界観やストーリーについてどのように構築していきましたか。

高村氏:
 ファンタジー作品は,やはりどうしても初見ではとっつきづらさが出てしまうので,どうやって馴染みやすい世界観を作るか,というところを一番初めに考えました。

 「和風」作品なので日本語の美しい響きを取り入れたいと思い,一見すると聞き馴染みのない言葉でも,完全な造語やオリジナルの単語はできるだけ避けるようにするなど工夫を取り入れました。「違う歴史を歩んだ日本」というイメージで,歴史の転換点を設定し,物語の舞台となる凍玻璃が属する「東瀛(とうえい)」という国の設定から作り始めました。

 ストーリーについては,ファンタジーという題材が初挑戦だったのもあり,自分たちの作風やカラー的にはあまり馴染まないのかなと最初は思っていて,どういった方向性にするかはかなり悩みました。ただ,せっかくなら普段あまりファンタジーを遊ばない方や得意じゃない方にも楽しんでいただける作品にしたいなと思っていたので,自分たちらしくどこか地に足のついたリアリティのある作品を目指しながら,各ルートのストーリーを練り上げていきました。

4Gamer:
 キャラクターデザインにRiRi氏を起用した理由を教えてください。

高村氏:
 RiRiとは実は初めて組んだときから10年が経つんです。当時すでに原画デビューをしている先輩だったので,初めてディレクターを担当する自分と組むのは相当負担があったかと思うのですが,ラインを支えてとても頑張ってくれていました。

 一緒に仕事をしてない期間も半年くらいはあったと思うのですが,長い期間ともに物作りをしてきたので,一番安心して任せられる存在。なので,RiRiを起用したというよりは「今度はなにする?」という感じでもともと一緒に作ることありきで企画を考えた感じです。

 あとはシンプルにRiRiのイラストが好きと言いますか……ファンなんです(笑)。彼女の作り上げるイラストの世界観が好きで,もっとたくさんの人にも知ってもらいたい。だから,自分もより面白い作品を作らなければ,といつも気合いを入れ直しています。

4Gamer:
 メインシナリオにかずら林檎氏を起用した理由は何でしょうか。

高村氏:
 メインシナリオのかずらさんとは,以前担当した作品でご一緒したのですが,そちらも長いこと展開させていただいていたので,なんだかんだ長い付き合いになります。

 信頼関係があったのはもちろんですが,一番の理由はどこまでも付き合ってくれるから,でしょうか。これは自分の悪癖なんですが,結構ギリギリのタイミングでも「ここをこうしたらもっと面白くなるんじゃない?」と提案してしまうんです。それに対しても常に前向きに,作品をより良くする方法をギリギリまで一緒に考えてくれるので非常に頼もしいんですよね。

 また,お互いに得意なところ,苦手なところも違うので,シナリオを作り上げていく際に,補い合ってブラッシュアップしていくことができる。そのあたりは単純に相性が良かったんだと思います(笑)。

 でも,一番の理由は一緒にやっていて楽しいから,なのかもしれません。本当にずっと作品の話をしていて,やりとりをしない日は年に数えるくらいしかないんです。

4Gamer:
 「泡沫のユークロニア」というタイトルに込められた想いをお聞かせください。

高村氏:
 泡沫は“はかなく消えやすいもの”,ユークロニアは理想社会が完成したがゆえに“時間の止まった国”という意味で,ユートピア(理想郷)と同様の意味を持つ言葉です。一方から見れば理想郷,けれど他方から見たときにも果たしてそうなのか。そこに存在するであろう歪みや側面を描こうと思い,本タイトルをつけました。

4Gamer:
 本作でこだわったことや注目ポイントを教えてください。

高村氏:
 今回はミニゲームなどを搭載せずに,シンプルなADVゲームとして制作しています。それもあって,立ち絵には実験的にLive2Dを搭載しました。これまで自分の携わってきた作品ではやったことのない試みだったので,かなり苦戦もしたのですが,RiRiの繊細なイラストが動くのはなかなか良かったんじゃないかなと思います。

 とはいえADVゲームはテキストを読み進めていくものなので,腕や顔の角度など,あまり大きな動きをつけると集中できなくなってしまうという懸念もありました。画面がうるさくならないようにはしたい,けれどそこに息づくキャラクターを表現したい,というある意味矛盾したふたつの意図の間を取るのは難しかったです。

 試験的な試みなので,今後ほかタイトルを展開していく際には「もっと動いていたほうがいいのかな」とか「やっぱりいらないんじゃないか」となることも当然あるとは思うんですが,今回に関してはひとまず納得いく形まで持ってこられたかなと思います。

4Gamer:
 矢代,帷,淡雪,依,露草の各ルートについて,それぞれのルートテーマを教えてください。

矢代ルートテーマ【欠落】
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高村氏:
 記憶を失っている矢代が持つ「凍玻璃」への知識や,彼が抱くことになる疑問はユーザーの皆様とおそらく同様のものだと思うので,序盤の彼は皆様の道先案内人のような存在なのではないかと思います。飄々としていて,どこか掴みどころのない人ではありますが,欠落というテーマが記憶以外にもなにか指すものがあるのか,ぜひプレイして確かめていただけたらと思います。

帷ルートテーマ【篝火】
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高村氏:
 若くして花街の顔役を務める帷は,やや強面でとっつきづらい印象かもしれませんが,彼の周囲には人が集まる,まさに篝火のような人。けれど,彼にとっては主人公もまた自分の闇夜を照らす「篝火」のような存在ではないのかなと思います。抱えているものが多い人でもあるので,個別ルートがめっちゃ長いです。初めて凍玻璃の世界に触れるにはぴったりの人だと思います。

淡雪ルートテーマ【執着】
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高村氏:
 キャッチコピーに「隷属」なんてつけてしまったのでよくつっこまれるようになってしまいましたが,一番まともな大人だと個人的には思っています。ナチュラルに自分を「もの扱い」するし,主人公も彼を「自分のもの」と公言して憚らない主従なので,執着というテーマはお互いにかかっているもの。障害のある恋に惹かれる方におすすめです。

依ルートテーマ【反転】
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高村氏:
 賛否が分かれる人だと思いますが,一筋縄ではいかない人が好きな方に楽しんでいただけるのかなと。キャラ紹介文で「性格が悪い」と書かれるのは伊達じゃないなという感じのルートになっていると思います。ただ,とても自由なキャラクターなので書くのは楽しかったです。

露草ルートテーマ【葛藤】
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高村氏:
 この人も抱えているものが多い人ですね。「ワケ有り」の部分が判明したときには,ルートテーマにも納得いただけるんじゃないかなと思います。主人公と同い年でメインキャラの中では最年少です。いろいろなことに葛藤しながら主人公と共に成長していく過程を楽しんでいただけたらと思います。

4Gamer:
 高村さんが作品やゲームを作るうえで,大切にしていることは何でしょうか。

高村氏:
 ゲームはエンタメなので,最後は必ず気持ちよくプレイを終えていただきたいと思っています。昨今では,より過激な展開や描写が求められることも多くなってきた印象です。もちろんストーリーを描くうえで,それが必要であれば描きますが,日常にはただでさえ大変なことやしんどいことも多いと思うので,最後の最後には「楽しかった!」と終えていただけるような構成にすることは心がけています。

 そのうえで,ユーザーの皆様の日常に華を添えられるものになればうれしいなと。あとは自分たち自身も作っていて楽しいと思えるものを作るようにしています。

4Gamer:
 発売を楽しみにしている読者へのメッセージをお願いします。

高村氏:
 発表から長らくお時間をいただきましたが,お陰様で無事にマスターアップもしまして,予定通り4月11日に皆様のお手元に届きます! 過去に自分たちの携わった作品を遊んでいただいた方はもちろん,はじめましての方にも楽しんでいただける作品になったんじゃないかなと思っています。

 気づけばキャラクターたちも最初の予定よりも一癖も二癖もある感じに育っていて驚きました。この作品の中に「この人幸せにしたい」とか「この人と一緒に生きていきたい」とか,誰かひとりでも皆様の心に残り続けるようなキャラクターを見つけていただけたら,とても幸いに思います。

 空中都市,凍玻璃に隠された真実。そして,泡沫の恋の物語。ぜひ,楽しみにしていただけましたら幸いです。


キャラクターデザイン RiRi氏


4Gamer:
 RiRiさんがどのような経緯で「泡沫のユークロニア」に関わられたのかお聞かせください。

キャラクターデザインRiRi氏:
 前作の制作中,打ち合わせ終わりに(深夜の会議室だったのをよく覚えています)高村ディレクターと雑談していた際,「和風スチームパンクっていいね」「珍しいし,ビジュアルも華やかにできそう」という話が出まして。のちに,LicoBiTsブランド立ち上げの際に1作目はそれをもとに作ろう,となったのがいきさつです。個人的にも和風ファンタジーが好きなので,念願かなってついに描かせていただける時が来た! とわくわくしたことが思い出されます。

4Gamer:
 主人公「雛菊」の描き方について意識していること,こだわっているところはございますか。

RiRi氏:
 お姫様ですので,見た目にしても動きにしても「可憐」という言葉が似合う佇まいになるよう心がけています。かわいさだけでなく華やかさやお上品であるとか,綺麗であるとかの空気も感じていただけるようにしたかったので,デザイン作業の際には,よくばり盛りに! という気概で細部までこだわってデザインさせていただきました。

 外見は少し大人びてはいますが,内面は年相応で無邪気なところも多いので,表情や動作でその一面を見せられるようにも描いています。その点も合わせてご注目いただければと思います。

4Gamer:
 矢代,帷,淡雪,依,露草のキャラクターデザインのポイントを教えてください。

矢代(CV:小林千晃)
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RiRi氏:
 飄々としていて捉えどころがない空気感を感じていただけるようデザインしました。たれ目で黒目がちの大人過ぎない青年顔ですが,のんびり風な印象にはならないように,きゅっとつりあがった眉や,シャープなシルエットと配色で全体の印象を引き締めています。上着裏地の大きな柄でアクセントと華やかさを加えました。

帷(CV:岡本信彦)
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RiRi氏:
 くせのある長髪に刺青,表裏柄の上着や装飾品,赤と黒の配色――派手な要素は多くありながらも,浮つかない,男らしさのある佇まいになるように意識してデザインしています。個人的に猛禽類がイメージでしたので各所にデザインやモチーフで落とし込みました。目の下の点々はほくろです。

淡雪(CV:斉藤壮馬)
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RiRi氏:
 真っ白にするしかない! と名前を見たときから決めていました。その名の通り,色素の薄いアンニュイ美人枠なイメージで描いていますが,体つきはしっかりしていたり,芯にはちゃんと男らしさを感じていただけるバランスでデザインしています。主人公の従者ということでしたので,並んだ時にどことなくセット感が出るようにも意識しました。

依(CV:江口拓也)
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RiRi氏:
 ハンサムな雰囲気を目指しました。軍人なので体格はしっかりめにしています。柔和な空気も感じさせるけれど優男にはならない塩梅,というのも重視した点でした。所属組織が「黒鶴」なので,安直かもですが黒主体の配色に。腰辺りの銀装飾は階級章イメージで,黒鶴所属のほかのキャラにも入っています。

露草(CV:松岡禎丞)
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RiRi氏:
 カジュアルな和風アレンジで個性強めの要素を盛ることができましたので,デザインが楽しかったです。猫背,ぼさ髪に半目気味の表情と,少々もっさりした佇まいではありますが,よく見ると瞳の大きい可愛めの顔つくりをしています。この点は年齢からのイメージに加えて,高身長なのに可愛めのお顔,というギャップも狙いました。

4Gamer:
 キャラクターのファッションもとてもステキです。こだわりを教えてください。

RiRi氏:
 ありがとうございます。シャープでやや現代的なシルエットをベースにしつつも,和の雰囲気を感じていただけるバランスを大事にしています。一部を除いて和風の要素は主張しすぎない程度に形や柄で取り入れ,配色も華やかさは意識しながら,あえてメインの色数を絞ることですっきりとした印象に持っていけるように設定しました。

 加えて,レザーや金属などの素材感でスチームパンク的要素も取り入れています。和,洋――それぞれのいいところをミックスした面白さのようなものを感じていただけますととてもうれしく思います。

4Gamer:
 RiRiさんが作品やゲームのキャラクターをデザインするうえで大切にしていることがございましたらお聞きしたいです。

RiRi氏:
 まだまだ勉強中ではありますが。一目見た際に,まずそこでキャラやタイトルの雰囲気を掴んでいただけるように,世界観やキャラ性が伝わるデザインにする,という点はやはり一番に心がけています。

 また,楽しんで描くこともとても大切だと思っています。求められているキャラ性の意図や根本は汲んだうえで,趣味や好みの要素を加えてみたり,あえてフィーリングを重視して組み立ててみたり。自分自身が楽しんで,納得して描けたかどうかは意外とデザインの結果にも出るものだと思っています。

4Gamer:
 発売を楽しみにしている読者へのメッセージをお願いします。

RiRi氏:
 「泡沫のユークロニア」制作のご報告以降,早いもので,発売がもう間近に迫ってまいりました。皆様の心に残る1本をお届けできるよう,スタッフ一同精いっぱい努めさせていただきましたので,今しばらく楽しみにお待ちいただけますと幸いです。

 ビジュアルの面からですとキャライラスト(今回はアニメーションもします!),イベントCGなど,細部にこだわって一枚一枚大切に描かせていただいたので,プレイした際にはぜひご注目いただけるととてもうれしいです。謎を秘めた天空の都市・凍玻璃でお会いできるのを楽しみにしています!


メインシナリオ かずら林檎さん


4Gamer:
 かずらさんがどのような経緯で「泡沫のユークロニア」のシナリオ制作に関わられたのかお聞かせください。

メインシナリオ かずら林檎氏:
 ディレクターの高村さんとは以前,別の作品でご一緒させていただき,そのご縁で今作のシナリオのお誘いをいただきました。

 ちょっと突然の自分語りで照れるのですが……。ゲームのシナリオを書くたび,どれだけ頑張っても「もっと良くできたんじゃないか」「言葉足らずな部分があったかも,いや,説明しすぎて情緒がなかったかも」と完成後に悶々としてしまいがちです。

 でも,高村さんとご一緒したときは欠片の後悔もなく,心底満足しました。最後の最後まで全力を尽くすことができたと思えるほど,ライターが全力投球で取り組めるようにとたくさんサポートしてくださったおかげです。

 本当にたくさんご迷惑をおかけしています。なので,今作のお誘いをいただけて大変光栄でした。お声がけいただけるなら全力で応えよう! と,夜,ちょうど車の中だったんですが,「え,いいの? 書く書く〜!」くらいのテンションでお返事したのを覚えています。

4Gamer:
 本作のシナリオはどのように制作されているのでしょうか。

かずら林檎氏:
 注意書きのような前書きから入るのはどうかと思いつつ……。これはあまり一般的な作業工程ではなく,さまざまな条件が合致しないと破綻する流れなので真似をしないでください(笑)。


(1)高村ディレクターと打ち合わせをします。
 ここで意思疎通に失敗していると後半で事故が起きるので,世界観と人物についてしっかり話します。高村さんは企画段階からこまめに相談してくれるので,私も正直な意見をお伝えしています。

(2)物語の鍵になる展開を相談しながら「あらすじ」を決めます。
 相談→書く→相談……の繰り返しで,本作のあらすじは1ルート4万文字程度の長さになりました。

(3)プロットを詰めていきます。
 展開を詳細化しながら矛盾しないように布石を打ち,言わせたい台詞,入れたい描写なども盛り込みます。世界観に沿った描写ができるように「凍玻璃」の文化レベル設定に合わせた時代についてもたくさん調べます。高村さんにも繰り返しチェックをしてもらい,面白ければ完成,つまらなければひたすら揉み続ける作業に入ります……。

(4)シナリオ執筆はもう体力勝負です。
 弊社の社員総動員でひたすら書きます。

(5)初稿を納品したら高村さんと2人でひたすらシナリオをブラッシュアップしていきます。
 言い回しなどは直接修正していただいていて,展開そのものの変更,大きな加筆が必要なリテイクをいただくと私が頑張ります。最終的に初稿の原型がなくなる場合もあります。


 例えば,依のルートは締切の数日前に大規模な設定変更をして,がっつり書き直しました。でも,修正後のシナリオのほうがずっと良いものになっている自信があります。

 ブラッシュアップ作業はお互いに「できた!」と思ったら終わります。だいたい,締切の数時間前です。「あと30分しか待てないけど,いけるか」「いける!!」みたいな熱い展開が朝方に発生したりもします。

 前回ご一緒したとき,高村さんが「長生きしたい……」と言っていたのはまだ記憶に新しいです。本当にすみません。私も長生きしたいので,次こそ余裕を持って優雅にやりましょう。

4Gamer:
 シナリオを執筆するうえで意識したことがあればお聞かせください。

かずら林檎氏:
 「泡沫のユークロニア」は恋の話です。凍玻璃の謎,登場人物たちの抱える秘密なども物語に関わってきますが,主軸は紛れもなく恋。人が人を好きになるという感情がなければ起こり得なかった物語です。

 「好きだよ」と伝えることさえ難しい世界観でもあるので,ちょっとしたことでうれしくなったり,切なくなったりする心の動きを追体験していただければいいなと思いながら執筆しました。だって,乙女ゲームですから。恋を楽しむためのジャンルですから!

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かずら林檎氏:
 また,今回は「凍玻璃」という独自の発展を遂げた空中都市が舞台です。知らない世界なので説明がないと何も分かりませんが,説明ばかり続くと読者側は退屈になってしまいます。そのため,早く説明が欲しい情報,後半でも構わない情報など優先順位をつけて,いいタイミングで話題に出していくようにしました。

 とくに序盤は,凍玻璃のことがほぼ何も分からない状態の矢代と同じ目線で,楽しくシナリオを読み進めていただける展開になっているんじゃないかと思います。

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かずら林檎氏:
 物語に関係ない部分は説明しすぎないようにする,というのも気をつけました。設定は作るけど,言うべきでないことは言わない。おかしなミスリードが生じてしまうと,シナリオを読む側のストレスになってしまうからです。

 物語に没頭できなくなるような余分はできるだけ削りました。ついつい詳しく書きたくなるので,よく高村ディレクターに止めてもらいました。とくに料理描写とか。どんなふうにふわふわしているとか,もちもちしているとか,じゅわっとしているとか,ひたすら書いてしまう性癖があるので……。

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4Gamer:
 主人公「雛菊」の見せ方について気を付けていることはありますか。

かずら林檎氏:
 とにもかくにもバランスを取ることです。今作の主人公はお姫様。優しく言えば無垢,厳しく言えば無知なところがあります。年相応に趣味があり,甘いものが好きで,街歩きが大好きで,興味が向いたものにはよく食いつく。同時に,貴族としての義務を果たそうという気持ちは人一倍。

 年齢的にもちょうど過渡期です。未完成な彼女が何を知り,どんなふうに成長していくのか。それを楽しんでもらえるように,「大人になりきれていない幼さ」の塩梅を心掛けました。

 ちなみに,彼女がどう成長していくかは「選択肢」の結果に影響を受けます。大事な局面で積極的な選択肢を選んでいると,それ以降も主人公が前向きに行動するとか。周囲に頼りすぎていると,いざというときに自分で決断できないとか。その積み重ねが致命的な結末に分岐する場合もあります。

 恋愛面でも,たとえば攻略対象にとって致命的な地雷を踏んでいたら,好感度が高くても良いエンディングに行けない(本当の意味で心を許してもらえていない)とか。

 皆様が選んだ行動の影響で,物語が,恋の結末が変化する。これこそ「乙女ゲーム」ですよね。

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4Gamer:
 かずらさんが作品やゲームのシナリオを執筆するうえで大切にしていることがございましたらお聞きしたいです。

かずら林檎氏:
 1人でも多くの方に喜んでもらえるように頑張ること。そのために客観視を忘れないこと。良いと思うもの,ステキだと思うものを詰め込んでシナリオを書いていく中で,「これは本当に面白いんだろうか,喜んでいただけるだろうか」と常に意識するようにしています。

 人の趣味嗜好は千差万別なので,全員に刺さる物語を作るのは不可能だとしても,そこを目指す気持ちだけは忘れないように。

4Gamer:
 発売を楽しみにしている読者へのメッセージをお願いします。

かずら林檎氏:
 このたびは「泡沫のユークロニア」にご期待くださり,ありがとうございます。理想郷と謳われる豊かな街。その影に巣食う,根深い闇。大切に育てられた姫君が初めて知る現実。そして,初めての恋。誰かを想うことは幸福でもあり,時に苦しいことでもあると思います。美しい夕陽を見たときの胸が切なくなるような恋を,凍玻璃に生きる彼らと共に育んでいただければうれしいです。泡沫のひとときをお楽しみください。

4Gamer:
 ありがとうございました!

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