インタビュー
[インタビュー]萩原一至氏はハクスラRPG「QUESTER」にどう向き合ったのか。そのゲーム遍歴と作り込みに,クリエイターの魂を見た
本作は,ハック&スラッシュをコンセプトに,懐かしくも新しいビジュアルと,キャッチーでバラエティ豊かなキャラクターデザインが注目を集め,クラウドファンディングを成功させたインディーズゲームだ。すでにアニメイトゲームスおよびDLsiteでの販売がスタートしており,そのほかのストアでも順次販売予定とのこと。価格は2200円(税込)となっている。
レトロなPCゲームへのオマージュと尖ったゲームデザインが目を惹く同作だが,生みの親である萩原一至氏が,いったいどんなことを思って進めたプロジェクトだったのか。その背景と想いの丈を語っていただいたので,本稿ではその模様をお届けしよう。
今回のインタビューはリモートで行われ,萩原一至氏に加え本作プロデューサーであるサウザンドゲームズの桑原敏道氏にも同席いただいた。漫画「BASTARD!!」の制作秘話に関わるお話も聞かせていただけたので,ファンの皆さんにはぜひご一読いただきたい。
萩原一至氏原案のハクスラRPG「QUESTER 〜失われた世界の真実を探究する物語〜」本日リリース。コンセプトガイドブックも発売
サウザンドゲームズは本日,PC向けダンジョン探索RPG「QUESTER 〜失われた世界の真実を探究する物語〜」をリリースした。本作は,「BASTARD!! -暗黒の破壊神-」などの作者・萩原一至氏が原案・キャラクターデザインを担当する“ハクスラRPG”だ。荒廃した世界で生きる“クエスター”の姿が描かれる。
「QUESTER」公式サイト
ハクスラの面白さを追求して,システムで楽しむゲームに
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。まずは本作,「QUESTER」の制作経緯からうかがわせてください。
萩原一至氏(以下,萩原氏):
サウザンドゲームズの桑原敏道さんとお引き合わせをいただく機会がありまして,何か一緒に仕事をできないかと2020年頃から考えていた企画の一つに,最初期の「ウィザードリィ」のような,ワイヤーフレームのダンジョンを探索するゲームの案がありました。いわゆるハクスラ(ハック&スラッシュ)がコンセプトのRPGということで,桑原さんから聞いたときには「ハクスラ良いですね!」と即答した覚えがあります。発端はここですね。
4Gamer:
それが「QUESTER」として結実したわけですね。萩原さんご自身は「原案・キャラクターデザイン」とクレジットされていますが,実際の開発にはどの程度関わられているのでしょうか。
萩原一氏(以下,萩原氏):
僕はもともとゲームが大好きで,たくさん遊んではいるのですが,さりとてプログラムができるわけではありません。だからゲームデザインや実際の開発は,現場のスタッフの方にお任せしています。一方,世界観やデザインの面ならば関われるだろうということで,そうした方面からお手伝いしている形です。
4Gamer:
ハクスラ自体もよく遊ばれていたわけですか。
萩原氏:
もちろんです。まず「トルネコの大冒険 不思議のダンジョン」(以下,トルネコの大冒険)にドハマリして,年単位で遊びました。もう,毎朝目が覚めて最初にすることがゲーム機の電源を入れることくらいに。
「トルネコの大冒険」は達成感と,一歩間違えばすべて失われてしまう緊張感のバランスが絶妙なんですよね。このまま続けていたら僕は壊れてしまうと思い,二度とプレイしないようソフトを水没させては,気づくとまた買ってきてしまうという。そんな,実に危険なゲームでした(笑)。
4Gamer:
ええっ,そこまで!?
萩原氏:
あとは「ディアブロ」も相当長く遊びましたね。ハクスラの基本は,あの時点でほぼ完成していたんじゃないかって思います。スキルと集めた装備の組み合わせで,ビルドを組み上げていく楽しさが詰め込まれていて。ストーリーに頼らず,ゲームシステムが生み出す面白さとでも言いますか。
4Gamer:
そこがハクスラの魅力だと?
萩原氏:
ハクスラだけでなく,どんなゲームにも共通することですけどね。それがゲームの一番おいしい部分だと思うので。でも手軽であることはハクスラの強みだと思います。前置きがほとんどないので,ゲームを起動したらすぐにフィールドに出られる。例えばシナリオ重視のRPGだったりすると,そうはいきません。
4Gamer:
なるほど。好みのゲームのタイプが,少し分かってきた気がします(笑)。
萩原氏:
ああでも,シナリオ主体のゲームも好きですよ。ただ,それはゲームそのものの面白さとはちょっと違うんじゃないかという気持ちがどうしてもあって。ゲームはやっぱりシステムの中で能動的に遊ぶのが楽しいわけで,シナリオを楽しむなら漫画やアニメでもよくないですか。
4Gamer:
おっしゃることは分かります。シナリオはなくとも,システムが生み出す偶然のドラマがあって,そこに独特の中毒性がありますよね。
萩原氏:
「トルネコの大冒険」のランダム生成ダンジョンや,「ディアブロ」のアイテム生成の仕組みなんかは,まさにそれだと思います。単に偶然というだけでなくて,それがゲームを続けるモチベーションにつながってるのが,こうしたタイトルのすごいところだと思います。
4Gamer:
「QUESTER」も,まさにそういうタイトルを目指したという理解でいいでしょうか。
萩原氏:
ええ。「ウィザードリィ」もシステム重視のゲームですし,物語はプレイヤーの中にこそ生まれるタイプのタイトルですよね。そのうえで,世界の奥行きを感じさせる要素を散りばめておけば,ゲームにいっそう没入できるんじゃないかと。
だから「QUESTER」では,僕自身が「ウィザードリィ」や「ディアブロ」で遊んだときの感覚を思い出しながら原案を作っていきました。ただストーリーラインを追わせるのではなく,デザインやディテールから世界観を構築していく作業は得意なので,進みは早かったですね(笑)。
サウザンドゲームズ 桑原敏道氏(以下,桑原氏):
実際,めちゃめちゃ早かったんですよ(笑)。
萩原氏:
それだけ,面白い仕事だったということで(笑)。
4Gamer:
実際に完成したゲームをプレイしてみて,萩原先生はいかがでしたか?
萩原氏:
さっきもお話ししたように,僕はゲームデザインそのものにはほとんど関わっていないので,いちプレイヤーとして楽しませてもらっています。探索しながらじわじわマップを広げていくのが楽しくて,長く遊べそうな予感がしますね。「QUESTER」は戦闘後にダメージが自動回復するし,拠点への撤退もアイコンをクリックするだけなので,そのお手軽さがいいですね。
桑原氏:
そのあたりの割り切った仕様は,ゲームデザインを担当した加藤ヒロノリさんならではの部分ですね。「つまらない作業に時間を取らせたくない」ということで,かなり割り切った作りになっています。あとは鍵が1種類しかないのもそうですし,謎解きの要素も面白いのは最初だけということで切り捨てて,周回プレイにフォーカスしたデザインにしました。
4Gamer:
そもそもなんですが,加藤氏へのお声がけは,どういったいきさつからだったのでしょうか。
桑原氏:
加藤さんとは,前職で「ソード・ワールド mobile」という携帯端末向けのローグライクゲームを開発したときに,監修いただいたのがきっかけです。そのとき「ものすごい熱意をもったクリエイターだな」と思ったのが,とても印象に残っていたんですね。
そしていざ「QUESTER」を制作することになったとき,「ウィザードリィ」的なシステムのRPGを一番面白くできるのは誰だろうと考えて,思い至ったのが加藤さんだったというわけです。
4Gamer:
なるほど。加藤ヒロノリ氏はグループSNEのクリエイターでもありますし,確かに納得の人選です。あと,言われてみれば,本作のバトルシステムにはテーブルトークRPGやTCGの要素が多分に感じられます。
桑原氏:
加藤さんは「モンスター・コレクション TCG」や「DARK SOULS TRPG」なども手がけられていますし,作っていくうちに自然にそうなったみたいですね。あとは敵のパラメータが基本オープンなのもアナログゲームの設計思想だと思うんですが,デジタルで遊ぶとそれがかえって新鮮なんですよ。こう,古くて新しいとでも言いますか。
4Gamer:
ああ,分かる気がします。では加藤ヒロノリ氏は,プロジェクトには後から参加されたわけですか。
桑原氏:
そうですね。萩原先生が基本的なデザインをひととおり終えたあとに,加藤さんが参加して引き継がれたという流れですね。
ゲームと漫画で違う,世界の創り方
4Gamer:
ところで,「ウィザードリィ」にせよ「ディアブロ」にせよ,これまで名前の挙がったタイトルはどれもベースがファンタジーの作品でしたが,「QUESTER」はそうではありません。これには何か理由があるのでしょうか。
長らく「BASTARD!!」を描いてきたこともあって,魔法というものに飽きちゃったんですよね。むしろ,魔法はもう見たくないというか(笑)。それに,古いものをただそのまま甦らせるのではなく,僕なりのアレンジを加えたかった。現代日本の延長線上にある「QUESTER」の世界観は,そこから考えていきました。
4Gamer:
ポストアポカリプスものの雰囲気がありますよね。
萩原氏:
そうですね。でも,発想としては「ウィザードリィ」をかなり踏襲したものになっています。回復呪文を使う僧侶は,現代日本だったら和尚かなとか。あとは魔法のかわりに化学薬品で攻撃したり,戦士のシールドのかわりに機動隊員が使うジュラルミンの盾があったりとか。そのほうが分かりやすいですし,ある種の遊び心でもあります。
4Gamer:
ああ,なるほど(笑)。確かに理解しやすくて,遊びやすいと思います。クリーチャーのデザインも,これは萩原先生が手がけられたのですか?
萩原氏:
ええ。ファンタジーっぽくはしたくなかったので,SFやホラーのテイストでまとめてみました。例えば序盤に登場する「ちょビット」というクリーチャーはキューブ状でかつ目が無い造形で,ホラーを意識したものになります。
4Gamer:
いかにも意思の疎通が不可能そうで,確かにSFホラーな印象を強く受けました。何か参考にした先行作品はあったでしょうか。
萩原氏:
何かを参考にしたというよりは,やっぱりファンタジーとどう差別化するかを,ずっと考えていたように思います。ドラゴンやスライムのような生物を登場させると,どうしてもファンタジー色が強くなってしまいますから。そういったものを除外していった結果,生まれてきた世界観ですね。
4Gamer:
なるほど……これは本作に限らない質問なのですが,萩原先生はこうしたクリーチャーをデザインするときに,ビジュアルを先行して考えるのでしょうか。それとも設定を考えてから,造形に反映していくのでしょうか。
萩原氏:
どちらも並行して考えますね。文章で考えていて煮詰まったときなんかは,絵にするとスッとできちゃうことがあります。一方で,美術ボードをいっぱい描き起こすよりも,クリーチャーの生態や分布なんかを考えることで,世界全体が見えてくることもある。
4Gamer:
世界全体,ですか。
萩原氏:
クリーチャーのデザインって,世界観と密着しているものなんですよ。例えば先ほど名前が挙がった「ちょビット」なんかは,ウイルスのキャリアという設定なんです。作業時期が新型コロナウイルスのまっ最中だったこともあって,ウイルスで人類がクリーチャーに変異してしまった世界を思いついて,そこから発想を膨らませていきました。
そうなれば世界の人口は激減しているだろうし,国家というものも崩壊しているに違いない。人々は自分の身を自分で守るために,そこらに転がっているハンマーや金属バットで武装することになります。
4Gamer:
ああ,だからキャラクターの装備が日用品なんですね。
萩原氏:
そうです。そんな具合にイメージを転がしていき,荒廃した未来世界という本作の骨格ができあがりました。そんな中で,なぜか地下に迷宮があることが判明して,生き残った人々が手近なものを武器にしながら裏庭の穴からダンジョンに潜り始める……というのが「QUESTER」の出発点になりました。だからプレイヤーキャラクターは,冒険者じゃなくて探索者なんですよ。
4Gamer:
面白いですね。クリーチャーの設定から,キャラクターのクラスやアイテムなんかも作られていったわけですか
萩原氏:
そう,芋づる式なんです。例えば泥棒と博士の探知能力の違いはレーダーとソナーの違いだとか,電源さえ確保できたら釘バットを改造していろいろ作れそうだとか。ポーションのかわりに健康ドリンクが充実したら面白いかなとか。アイデアがどんどん湧いてくるという。
4Gamer:
それだけ世界観が固まっていたら,ゲーム以外にもいろいろと発展させられそうです。ところで,デザインにおいて漫画とゲームで違う部分というのはあったりするのでしょうか。
萩原氏:
漫画はキャラクターが重要ですので,彼らを同じ舞台に立たせたうえで,会話を成立させる――いわば漫才コンビのようなユニットを作ることが大切だと思っています。会話によってストーリーが生まれてくるので,そこが漫画のコアな部分なのかなのと。
一方で,ゲームはシステムで遊ぶものですから,必ずしもストーリーは必要じゃない。だから会話にこだわる必要がなくて,むしろ漫画より自由度は高いと思います。
4Gamer:
なるほど……一つ一つの設定から,キャラクターの関係性が想像できるような?
萩原氏:
そうですね。キャラクターの装備やアイテムの来歴とか,考えていて楽しかったです。この装備は廃墟になったスポーツ用品店から持ってきたとか,薬局の倉庫で見つけたとか。食べ物についても,実は敵のクリーチャーに食べたら美味しいのがいたりとか。
ああ,「ダンジョン飯」みたいな。
萩原氏:
そうそう。あと「ダンジョン・マスター」とか。単に倒すだけの存在じゃなくて,食料にもできるというほうが愛着が湧くじゃないですか。「うおお,美味しいヤツ登場!」とかね(笑)。
4Gamer:
確かに(笑)。では,反対に漫画ならではの強みというと,何があるでしょうか。
萩原氏:
漫画のいいところは,面白いことを思いついたら,次の展開にすぐに活かせるところですね。ゲームや映画,アニメだったら,そうはいきません。それに漫画の場合――これはどんな大作でもそうだと思うんですが――そんな先の話まで,最初から作っておいたりはしませんから。
4Gamer:
そういうものですか。
萩原氏:
少なくとも僕の場合,最初に考えたとおりに「BASTARD!!」を描いていたら,きっと面白くなくて,どこかで連載が終わっていたと思います。そのときどきで感じた,新鮮で面白い要素を取り込んでいったからこそ,連載が続けられたんじゃないかと。そうした柔軟さは,漫画ならではのものかもしれない。
作家・萩原一至のゲーム遍歴
4Gamer:
「QUESTR」そのものからは少し話がズレますが,お話をうかがっていると,萩原先生はかなり熱心にゲームをプレイされているご様子です。ご自身のゲーム歴について,もう少し詳しく聞いてもいいでしょうか。
萩原氏:
そうですね……ファミコンからスーパーファミコン,PlayStationにPCまで,創作の資料にすることも兼ねて,さまざまなゲームをプレイしてきました。古いところだと,専門学校時代に「ドラゴンクエストII」をプレイして,それを題材に漫画を描いたりもしました。
ただシナリオを遊ぶゲームって,いつか終わってしまうんですよね。「ウィザードリィ」が良かったのは,ボスであるワードナを倒したあとも,いくらでもダンジョンを歩き回れるところです。
4Gamer:
「ディアブロ」の頃は,もう漫画家として大活躍されていた時期ですよね。
萩原氏:
ええ。いちばんハマったのは「ディアブロ III」ですけど,初代の「ディアブロ」もPC版とPS版を持っていて,どちらもやり込んでましたね。PC版なんか,一人で20体くらいキャラクターを作っていたくらいです。PK(プレイヤーキラー)に対抗するために,専用のPKK(プレイヤーキラー・キラー)を育てたりね。MMORPG前夜だったので,掲示板なんかを介してほかのプレイヤーとアイテムを売買したり,コミュニケーションを取ったりしたのも楽しかったです。
4Gamer:
おお。じゃあ萩原先生だとは気付かずに交流していたファンもいたかもしれませんね。
萩原氏:
そうですね(笑)。あとはMMORPGが出て以降だと,「ファイナルファンタジーXI」にも熱中しました。リンクシェルというギルドみたいなものがあるんですけど,「私はどっかのおじさんです」みたいな感じで,こっそり混じって楽しく遊ばせてもらっていました。
4Gamer:
あの当時は,そういうクリエイターも多かったと聞いています。
萩原氏:
ただオンラインゲームを長く遊んだことで,人と関わるのは面白くもあるが恐ろしくもあると思うようにもなったので,最近は一人で遊ぶほうが多いですかね。対人要素がないぶん,システムの中でゲームが完成しているような気がしていて。「トルネコの大冒険」なんてまさにそれで,絶対に一人でしか遊べないですから。あの楽しさを思い出して,自分なりに原点を模索して生まれたのが「QUESTER」だと思っています。
4Gamer:
なるほど。まさに無限に遊べるゲームですね。
萩原氏:
「トルネコの大冒険」も,さすがに今となっては遊び尽くしたと思ってますけど。でも「ウィザードリィ」なくして「ディアブロ」はなかったでしょうし,「QUESTER」もまた,それらや「トルネコの大冒険」なくしては生まれなかったと思います……とか考えてたら,今年また「ディアブロ IV」が出ちゃうんですよね。困るなあ(笑)。
4Gamer:
(笑)。ちなみに最近のゲームはいかがですか?
萩原氏:
国産だと「ファイナルファンタジーXIV」ですかね。「ELDEN RING」はまだクリアできていなくて,攻略を見ながらがんばってます。悲しいことに,年齢のせいか高難度のアクションにはなかなか体がついていかなくて(笑)。あとは桑原さんに勧められて,「Ghost of Tsushima」もけっこうやり込みました。「これなら僕でもできる」って感じで,楽しかったですね。
4Gamer:
「BASTARD!!」には,「ダンジョンズ&ドラゴンズ」(以下,D&D)からの引用も見られますが,テーブルトークRPGも遊ばれていたんでしょうか。
萩原氏:
テーブルトークRPGは,知り合いの漫画家さんと一緒に少しだけプレイしています。キャラクターシートのイラストも自分で全部描いたりしてね。ただ当時は連載中でしたし,なかなか皆で集まって遊ぶというのは難しく,そこまで深入りできなかったのが残念でしたね。危険なくらい面白かったですから。
4Gamer:
それは豪華ですね。今ならオンラインでも遊べるので,それこそ「QUESTER」をテーブルトークRPGで遊んでもいいかもしれません。それこそ,加藤ヒロノリさんにGMをお願いしたりして。
萩原氏:
ああ,それは大いにアリですね。ぜひやってみたいです!
4Gamer:
しかし,そうだとすると当時D&Dを熱心にプレイされていたわけではないんですね。
萩原氏:
当時は「ベーシックルールセット」(赤箱)から「イモータルルールセット」(金箱)までの一式を友人から借りて,設定を熟読していました。ただやっぱりゲームなので,ちょっと設定が細かすぎるんですよね。あそこまで決められていると,漫画ならむしろ縛りになってしまう。
4Gamer:
確かにそうかもしれません。
萩原氏:
なので,刺激を受けたのは設定ではなくて,むしろ考え方のほうです。まずもって,「こういうのを作った人がいる」「こういう部分まで見られている」というのを知っておくのは,創作の背骨として非常に重要なんです。世界の構造や種族の成り立ち,モンスターの生態に政治形態まで,古今東西のファンタジーを一切合切集めて,いいとこ取りしたかのような,あの世界観。キャラクターが普通に暮すのは物質界で,魔法はイセリアルプレーン(物質界を取り巻く次元界)を利用しているとまで書かれおり,「ああ,ここまで決めてあるんだ」って,感動したくらいです。
だからD&Dのルールブックはすごく面白かったですし,漫画への影響も相当あったと思います。
4Gamer:
「BASTARD!!」の設定や,絵の描き込みにも通じるお話ですね。
萩原氏:
恐縮です。だからプレイはしてきませんでしたが,テーブルトークRPGのルールブックは読み物としてかなり好きでした。あとは「トンネルズ&トロールズ」の武器リストなんかにも圧倒された覚えがあります。
漫画にはそういったものからも刺激を受けつつ,そのときどきで自分が面白いと思った,さまざまな要素を取り入れてきました。キャラクターにもそういう要素をぶつけたほうが,新鮮な反応をしてくれますから。半ばストーリーが自動的に紡がれていくというか。
4Gamer:
クリエイターとして,ゲームから少なくないものを受け取ってきたと?
萩原氏:
一番は,やっぱり日々冒険に出かけるのが純粋に楽しくて,ゲームをプレイしてきたわけですけどね。ただ,こういうことを言うとまた怒られちゃうかもしれませんが……連載の仕事が忙しい時期のほうがいっぱい遊んでいるんですよね。不思議なことに(苦笑)。
4Gamer:
ああ(笑)。
萩原氏:
でもクリエイターの養分として必要なことだと思うんですよ。仕事に拘束される時間が長ければ長いほど,インプットって減っていくものなんですよね。そこでほかの作品に触れることは,創作にとってのエネルギーになるんです。ゲームも同じで,面白いゲームには長く遊ばせるだけの“何か”があるんだと。そう,自分は思っています。
常に最前線に身を置くために
4Gamer:
「BASTARD!!」にはゲーム以外からのインプットと思われるものも多く見られます。そうした作品は今でも追いかけているのでしょうか。
萩原氏:
今は連載をしていないので,映画やドラマはむしろたくさん観てます。というか,それが仕事みたいになってると言いますか(笑)。映画に海外ドラマ,国産アニメで評判になっているものは,少なくとも最初の何話かまでは必ず味見して,趣味と実益を兼ねて感想を書くんですよ。こうやって感じたことや考えたことを残しておくと,漫画のネームを作るときに役に立つので。
4Gamer:
感想ですか! それは内容がすごく気になります(笑)。
萩原氏:
個人的な覚え書きなので,とても外に出せるようなものではありません。むしろ「僕が死んだら処分してね」と遺言しているくらい(笑)。ただ,感想を書こうにも書き尽くせない,あるいは書けない作品というのがいくつかあって……そういうのは世間の評判に関係なく,何度も観てしまいますね。
4Gamer:
それは自分の中で評価が定まらない,ということでしょうか。
萩原氏:
まだ飲み干せない,あるいはまだ何か出てくるんじゃないか,みたいな感覚ですね。とくに何も起こらない,いわゆる日常系の作品でも,例えばバイクに乗っているときの感覚だったり,空気感が描けているようなものは面白いと思いますし。
4Gamer:
ちなみに音楽はいかがですか。きっとヘヴィメタルがお好きだろうなと,勝手に思っているのですが(笑)。
萩原氏:
ああ,ヘヴィメタルはずっと好きだったので,作中の固有名詞を決めるときなんかによく使わせてもらいました。最近では,ファイヴ・フィンガー・デス・パンチとかディスターブドとか,新世代のヘヴィメタル・バンドが気に入っています。
ファイヴ・フィンガー・デス・パンチ「AfterLife」(リンクはAmazonアソシエイト) |
ディスターブド「Divisive」(リンクはAmazonアソシエイト) |
4Gamer:
なるほど。今も最前線を追いかけてますね。
萩原氏:
そうするように意識しています。ずっと同じオールドスタイルばかり聴いていても飽きちゃいますから。それに,今はオールドスタイルとされるものも,登場したときは新しいものだったということを忘れてはならない。音楽もアートも,新しいものが始まって,進化していく中に面白さが生まれるんです。
4Gamer:
おっしゃるとおりですね。しかし歳をとると,つい古いものをリピートしたくなります(笑)。
萩原氏:
見方が変わるので面白いんですよね。若いときに励まされたアーティストの歌詞も,歳をとってから聴くと,「ひよっこが何言ってやがる」って反論したくなる。とくに自分が親になると,世界がガラッと違って見えてくるじゃないですか。家族ものに弱くなっちゃって,海外ドラマで毎回泣かされてます(笑)。
4Gamer:
海外ドラマは,確かに家族ものが多い印象ですね。
萩原氏:
あれは分かっててやってるんでしょうね。その点,日本のアニメには,まだそういうところが足りないんじゃないかって思います。もっと大人が楽しめて,かつ新しさのあるアニメが増えたらいいなあ,と。
4Gamer:
確かに……。すいません,だいぶ話が脱線してしまいました(笑)。そろそろお時間のようですので,「QUESTER」の今後について,現時点で何か決まっていることがあれば教えてください。製品版では先日行われたβテスト版からキャラクターが増えているのですよね。
桑原氏:
製品版ではキャラクターは24人になり,クラスも全8クラスが開放になります。周回プレイ可能になるなどプレイアビリティも向上していますので,クラウドファンディングに参加しなかった人も,ぜひ手に取ってみてほしいです。
4Gamer:
アニメイトゲームスでの先行販売ですね。
桑原氏:
はい。まずアニメイトゲームスでの先行販売からスタートしますが,そのほかのストアでも順次購入できるようになります。また,いずれは多言語対応のSteam版とSwitch版の展開も行いたいですね。
4Gamer:
ああ,それはいいですね。
萩原氏:
「QUESTER」に限らずですけど,このくらいの開発規模のゲームが日本でもっとたくさん出るようになったらいいですよね。
4Gamer:
というと?
萩原氏:
今のゲームは予算も開発期間も長大で,そういう大作もそれはそれで面白いのですけど。ただ僕みたいなイラストレーターが気軽に参加できるようなものではないので,もっと気軽に関われるプロジェクトが増えてくれると,楽しいことになるんじゃないかと。そして僕の漫画を「トルネコの大冒険」みたいなローグライクゲームにしてほしい(笑)。
4Gamer:
ああ,それは面白いかもしれません。最後に,4Gamerの読者に向けてお二人からメッセージをいただけますか。
桑原氏:
まずは皆さんに「QUESTER」をお買い上げいただいて,それで萩原先生に漫画化をお願いしたり,加藤さんにテーブルトークRPGの制作をお願いするのが当面の目標です(笑)。ですので,皆さんぜひよろしくお願いします。
萩原氏:
「QUESTER」の仕事は良い意味で終わりが見えなくて,いくらでも描けてしまうんですよね。クラウドファンディングでご支援いただいた人向けにキャラクターを描きおろすのも,そこから設定を広げていくのも楽しいので,ゲームをプレイした後には,プレイヤーの皆さんもぜひファンアートや同人誌を作って,世界を広げてもらえたら嬉しいですね。
4Gamer:
萩原先生は,自分の生み出した世界観をファンやほかのクリエイターが拡張していくことに,抵抗を感じたりはしないのでしょうか。
萩原氏:
全然アリだと思いますよ。一人の作家がすべて抱えるよりも,分担したほうが作りやすいですから。僕が設定を作っていくと,明らかにゲームに落とし込めないフレーバーテキストが増えていくんですよ。なんならそれをまとめて自分で同人誌を出してもいいくらいですし,むしろこちらのインスピレーションにもつながると思っています。
4Gamer:
分かりました。ちなみに「BASTARD!!」について,何かお話しいただけることはあったりするでしょうか。
萩原氏:
これが今の僕にとっての一番の難物なんですよね。もう,どうしたもんかなと。ずっと地獄編の続きのネームに取り組んではいるんですが,それでも進まないのは自分自身が何か違うと思っているからなんじゃないかと。むしろ100年前とか,もっと昔の話は思いつくので,そういうものを忘れずノートに書き留めるようにはしているんですけど……それらもおいおい形にしていかなきゃとは思っています。
先にも言ったように,作家としてのエネルギーの蓄えはむしろ増えている状況なので,いつの日か皆さんにお届けしたい気持ちに嘘はありません。そのときには,「これが『BASTARD!!』なの?」と驚かれるような,斬新なものにしたいですね。
4Gamer:
「QUESTR」ともども,期待しています。本日はありがとうございました。
「QUESTER」公式サイト
- 関連タイトル:
QUESTER
- この記事のURL:
(C)萩原一至氏・加藤ヒロノリ・ Thousand Games