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FF7Rの3作目は“真正面から飛空艇に挑む”。北瀬佳範氏,浜口直樹氏が「原作版&リメイク版FF7の狙い」を語る[G-STAR 2024]
表題を訳すと「ファイナルファンタジーVIIから見る,不朽のゲーム作りへの挑戦とリメイクプロジェクト」などとなる。
北瀬氏は1990年にスクウェア(現スクウェア・エニックス)に入社後,主に「ファイナルファンタジー」シリーズの開発に携わってきた。
「ファイナルファンタジーX」ではプロデューサーとなり,後続作品にも多様な役職で従事。現在はシリーズのブランドマネージャーのほか,FF VIIのディレクター経験をもとに,「FINAL FANTASY VII REBIRTH」(以下,FF7リバース)のプロデューサーを務めている。
北瀬氏は同社の王道路線なタイトルにはだいたい,なにかしらの肩書でクレジットされている。そのため,ゲーム業界スタッフとしては「実はこれも関わってました」がとくに多い1人だ。実際,経歴を調べたものなら,往年のスクエニファンは確実にお世話になっているだろう。
一方,浜口氏はFF7Rでディレクターに抜擢され,これまで開発チームを統括してきた。その成果物として提出されたリメイク版の出来栄えに関しては,プレイヤーであれば知ってのとおりだ。
今回の講演では「開発チーム」「コンセプト」「世界観」「広大な世界」をテーマに,原作版の思想とリメイク版で大切にしたことなどが順に解説されていった。
北瀬氏が原作版を,浜口氏がリメイク版を解説する流れだ。
まずFF7の開発当時,ゲームを取り巻く環境はガラリと変化していた。シリーズ前作の「ファイナルファンタジーVI」は2Dゲームであり,開発チームも(当時としては規模は大きくとも)相応の人数で作られたが,時代は次世代ゲームハードへの移り変わりの時期。FF7もまたPlayStationでの3Dゲーム制作に舵を切っていた。
以降,ゲーム作りの現場には多種多様な「3D制作スタッフ」が参加するようになり,開発の規模感も膨れていった。ありし日のコンパクトなゲーム開発は一転,FF7ではCG業界の10社以上と協業し,当時としては破格なスケールで開発されることとなった。
そのうえ,“今思えば”それすらもコンパクトな開発の範疇だ。現在は3D系のリソースやムービーの制作人員が最も多くなるほどに,ゲーム開発のための人手は大人数化していると北瀬氏は述べる。
肥大化した開発の先端にいると言える,FF7Rの制作に際して浜口氏は,開発チームに対して2つの想定を立てた。
1つは,原作クリエイターと関わるうえで「リメイク作品に対しての意義を定める」こと。もう1つは今世代のクリエイターたちが「その意義を実際にゲーム作品として再創作する」ことだった。
浜口氏自身,原作版のファンであったが,「大ファンで好きだから」の気持ちだけでは開発の指針にはならない。そのため氏は,名作のリメイクではなにを求めるべきなのかを最初に定義にしたという。
具体論として考え出されたのは,「グラフィックスをファイナルファンタジーVII アドベントチルドレンのクオリティまで引き上げ,ゲームとして対戦できる」ことと,「ストーリーは原作を準拠しつつ,先の読めない新要素を加える」,この2点だったとのこと。
物語については北瀬氏のほか,原作のキャラクターデザインおよびストーリー原案の野村哲也氏,シナリオ担当の野島一成氏に信じて預け,浜口氏自身はそれを盛り込んだあとのゲーム性やグラフィックスを想像し,ゲームデザインを設計していった。
対して若手スタッフたちは,FF7がRPGの原体験にあたる人が多くいたことで,もの作りをするにはとても刺激的な環境だったという。
続いてコンセプトの話に移る。原作版の物語のコンセプトは「命」だ。これは坂口博信氏が好んだガイア理論から生まれた発想で,FF7では“惑星自体が命を持つ”という概念を根底に据えた。人や動物が朽ちても,それらは星にエネルギーとして残り,また別の形で還元される。最大の表現はエアリスの存在で,彼女が命をなくし,その志が継承され,残された願いを残された人たちがかなえることをテーマとしていた。
一方,リメイク版では原作のコンセプトをさらに昇華すべく,上記の発想をストーリーのみならず,ゲームデザイン全体と融合させることを目指した。浜口氏は「コンセプトとデザインが融合した作品は,長く愛されるものが多いと思っている」とし,FF7リバースでは命の還元(=ライフストリーム)をバトルシステムなどにも波及させていった。
ストーリーの新要素については,野島氏のプロットを読み込み,FF7Rでは「再会」と「懐かしくて新しい」を狙いとした。
前者は,登場人物たちが(新たな作品の場で)また出会う,そしてユーザー自身がFF7とまた出会う,といった意味を込めた。
後者は,原作の魅力を損なわず,それでいてゲーム自体を今どきにカルチャライズして,古くささを感じさせなくする試みだ。
バトルの改修はもちろん,グラフィックスやマップ構造も原作設定を生かしつつ,基本は“いかにディテールを付け加えるか”で考える。
例えばセフィロスは,原作では登場する機会が限られていたが,もっと再会してもらうために出番を増やしたという。FF7Rのラストを改変して“ああした”のも,すべてはユーザーの満足度を考えてのこと。
なお,初期プロットでは“ああではなく”,北瀬氏も最初に知ったとき困惑したのだとか。今は「結果的によかった」と口にしていた。
FF7リバースに関しては,「絆」をコンセプトとした。こちらは物語の進展とともに,登場人物たちの絆が広がっていく様子を,ストーリーだけでなくバトルでも感じられるようにしたかったという。実際,浜口氏はこの狙いがユーザーにしっかり届いたと考えているようだ。
続く「世界観」の話では,魔晄都市ミッドガルに焦点が当てられた。ミッドガルはタワー型の建造物で,上層には高層ビルが建ち並ぶ都市が,下層にはあぶれ者が集うスラム街が広がっている。
こうした重層的なデザインも,FF7Rではディテールの付加という目標で再構築。とくに魔晄炉のシルエットにはこだわった。
なお,浜口氏は北瀬氏に「リメイクなんだから,もっとドラスティックなシルエットにしていいんじゃないか」と言われたそうだ。浜口氏は見た目を変えすぎることの影響を想像し,2時間ほど討論を続けた。
その結果,ドラスティック寄り,かつ保守的なバランス感でディテールを深めていき,最良と言える今の形に落ち着いたという。
ちなみに今回は一例として「浜口氏が考えた,北瀬氏が想像していたであろうドラスティックな魔晄炉のデザイン」も披露された。
ミッドガルの風景に関しては“スラムから見上げた上層”を意識した。原作版ではトップ/クオーター視点のカメラとあり,スラムの上空の様子はうまく映されなかったが,FF7Rでは現代ハードの性能を生かして実現。浜口氏は「この見上げる構図を生み出せたことが,リメイク版プロジェクトにおける私の一番の功績だったと思います」と言って笑った。
なお,浜口氏の個人的なお気に入りは“森羅ビルから見下ろす七番地市街地崩落跡地”とのこと。原作だとすぐに通りすぎてしまうロケーションだったが,がれきを登って高度300メートルにまで行く困難さ,そこから見下ろす凄惨な跡地と,それを見ているクラウドたちの葛藤。FF7Rではこの場面がより印象に残るよう磨いたという。
最後は「広大な世界」をテーマに語られた。
ゲームにおいて広大な世界を表現するためによく用いられるのは,「ワールドマップ」だ。マップにはそうした表現手法に加え,ゲームの進捗を示唆する役割もある。ここからFFシリーズの歴代マップを掲示しつつ,それぞれの機能性やストーリーテリングの手法が語られていった。
初代「ファイナルファンタジー」と「ファイナルファンタジーII」は,ワールドマップとしてはオーソドックスな構成だ。けれど飛空艇や船といった乗り物の存在,FF2で登場させたチョコボは世界の広さを伝える役割とともに,シリーズの名物にまでなっていった。
続く「ファイナルファンタジーIII」ではストーリーの仕掛けとして,1つの大きな世界での冒険と思わせつつ,そこが実はさらなる大きな世界のほんの一部でしかなかった,という隠しネタを用意した。
当時のプレイヤーは,これに衝撃を受けたことだろう。
さらに「ファイナルファンタジーIV」「ファイナルファンタジーV」「ファイナルファンタジーVI」では,ワールドマップの多層化に挑んだ。第三世界や世界崩壊後など,複数枚の巨大マップを用意する方法だ。こちらは力技の産物だろうが,効果的だったのは間違いない。
そして上記の右画像は,FF7の“初期構想マップ”である。FFシリーズにおいてワールドマップは,シナリオとともに描いていき,ゲーム全体の流れを決定づけるものだという。またマップを制作できるのはディレクターだけで,北瀬氏はFF7の制作当時,「ようやく自分にも描けた」と感動したらしい。こうしてFF7は広大なマップを用意しつつ,ゲームとして遊びやすいよう縮尺して,旅する世界を形作っていった。
しかし,それができたのも「ファイナルファンタジーX」までだった。FF10からは対応機種がPlayStation 2となり,ゲーム業界ではさらなるリアリティとクオリティが求められるようになった。
ゆえに,従来型のワールドマップでは制作コストが膨大になってしまうため,FF10では「世界全体の一部をピックアップして,ファストトラベル的な動きで冒険する構造」にするしかなかった。
それゆえの魅力は,ファンならフォローできるコメントがいくつも思い浮かぶだろう。だが開発事情による制限だけに,マップ作りに憧れを持っていたほどの北瀬氏は,当時は残念がったという。
そのうえで,時代が進んで技術も進歩した現代。FF7リバースではワールドマップを重要視した。これは原作版(と同等のゲーム進捗)にて,初めてマップに出たときの開放感が,決して無視してはいけない要所だと見なしたからだ。ここをファストトラベル的な移動で処理したなら,ユーザーに残念がられる。そのため本気のマップ制作に臨んだ。
ここで「試作段階のワールドマップの映像」も流された。全体の広さに関しては“プレイヤーに広いと感じてもらえるギリギリなライン”を求めていったという。マップは広すぎても,相応の密度のコンテンツがなければ意味を成さないからだ。その点,FF7リバースでは,ストーリー上の関連が薄いエリアに探索要素・クエストなどを付加した。
これらはあくまで物語に関わらないサイドコンテンツである。プレイヤーに対しても同作は,「自分の好きなものだけ楽しんでもらえればいい,ビュッフェ形式なゲームにしたい」と浜口氏は述べた。
また北瀬氏も,FF7リバースでまた従来型のワールドマップが復活したことで,個人的に感謝しているという。
最初に提示されたテーマが消化され,最後は次回作の話題へ。リメイク版は三部作で構想されており,次がラストの3作目となる。
3作目については現在,プロットが仕上がり,コンセプトを定めて,開発チームも動き出しているとのこと。今回はコンセプトの大切さも語られた講演だったが,3作目のコンセプトをこの場で発表するのは会社的に難しいとして,明かされることはなかった。
しかし,3作目には大きな期待がかかっているからこそ,浜口氏は1つだけ話せることとして「FF7リバースでは広大なマップを提供しましたが,原作版で考えると3作目にはハイウインド(飛空艇)が出てくるので,世界をより高い視点で体験させる必要があります」と言った。
続けて,次回作でもここまでの論旨を覆さないよう,「飛空艇はシステムでごまかすことはなく,マップ中を自由に飛び回れるよう,真っ向勝負で挑戦します」とコメントし,本講演を締めくくった。
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