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最終的に必要だったのは“気合い”。「FINAL FANTASY VII REBIRTH」のサウンド制作はなぜ“泥沼”にはまり,どうやって完成をみたのか[CEDEC 2024]
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印刷2024/08/25 20:04

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最終的に必要だったのは“気合い”。「FINAL FANTASY VII REBIRTH」のサウンド制作はなぜ“泥沼”にはまり,どうやって完成をみたのか[CEDEC 2024]

 2024年8月22日,ゲーム開発者向けカンファレンス「CEDEC 2024」で講演「ミッドガルを飛び出せ! 『FINAL FANTASY VII REBIRTH』における泥沼サウンド制作秘話」が行われた。

 同講演は2024年2月に発売された「FINAL FANTASY VII REBIRTH」(以下,FFVII REBIRTH)にて,前作「FINAL FANTASY VII REMAKE」で存在しなかった広大なワールドマップを舞台に,どうやってクオリティや密度を落とさずサウンドを作り込んでいったかを開発者自らが解説したものだ。

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 登壇したのは,スクウェア・エニックス サウンドディビジョンでサウンドディレクターを勤める伊勢 誠氏,FFVII REBIRTHでミュージックスーパーバイザーを勤めた河盛慶次氏,リードオーディオプログラマーの谷山 輝氏,そして同じくオーディオプログラマーの岡田滉太朗氏の4名だ。
 オリジナル版からはもちろん,前作にあたるFFVII REMAKEからも大幅に環境が変わった中で,ハイクオリティなサウンドがいかに完成していったかが語られた講演をレポートしよう。

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FFVII REBIRTHにおけるサウンド作成のテーマ


 まず最初にマイクを握った伊勢氏は,改めてFFVII REBIRTHについて簡単に解説したあと,全体的なサウンドデザインのコンセプトについて語った。

 それは「オリジナルをリスペクトしつつ,プレイしたことがない人でも楽しめる,懐かしさと新しさを融合させた表現の追求」なのだが,これは元々FFVIIのリメイクプロジェクトが3部作構成であることが決まっていたので,前作FFVII REMAKEから引き続き採用されているものだそうだ。
 FFVII REMAKE,FFVII REBIRTHともにフィールドからバトルへ,あるいはバトルからカットシーンへとシームレスに物語が展開していくが,そのような環境の中で内製のサウンドドライバをフル活用して,音楽,効果音,ボイスとすべてをインタラクティブ性にこだわったサウンドに仕上げているという。

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 FFVII REBIRTHは,FFVII REMAKEからの追加変更部分,つまり「ワールドマップの追加」「乗り物の追加」「連携技の追加」「膨大なカットシーン」などに対応する必要があったが,その中でもやはりワールドマップ周りの影響が一番大きかったと振り返る。

 制作において意識した部分は以下のスライドにまとめられていたが,ワールドマップの追加はアセットが増えるだけの状態とはわけが違い,“だいぶ別のゲーム”と言えるまでに変化したのだという。前作の機能は踏襲していたが,とにかく試行錯誤の繰り返しだったと語られていたのが印象深い。

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 最後に伊勢氏は,以下のスライドを表示しつつ,開発に使用したスクウェア・エニックスの自社サウンドドライバ「SEAD」(Square Enix Audio Driver)について簡単に解説したのち,次のスピーカーにマイクを渡した。

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「ボリュームによるBGM配置」と「多層レイヤー構造」でワールドマップの音楽を制御


 次に登壇したのはオーディオプログラマーの岡田氏で,まずは前作のサウンドコンセプトについて振り返った。
 それは「どのような状況でも美しく鳴り替わる」で,これはFFVII REBIRTHでも変化はないという。ただし前出のとおりにワールドマップが追加され,さらにロード後に音楽を更新すれば良かったオリジナルのFFVIIとも仕様自体が違うため,「ボリュームによるBGM配置」「多層レイヤー構造」という2つの仕組みを組み合わせて,BGMを制御しているそうだ。

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 ボリュームによるBGM配置を簡単に説明すれば,ワールドの空間をLocationVolumeという箱で区切り,そこに入ったときにはIDに紐付いた音楽が鳴る仕組みだ。同時にストーリーやクエストのフラグも管理しておき,たとえクエストを放置して別の場所に移動しても,また戻ってくれば同じ場所で同じ曲が再開される……という作りになっている。

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 一方の多層レイヤー構造は,端的に言えば曲の優先度を決めておき,状況に応じて“重ねる”ことで,曲をスムーズに切り替える機能だ。

 優先度が高い順にカットシーン,ミニゲーム,バトル,乗り物……と並んでおり,たとえば,ワールドマップで乗り物のチョコボに乗れば,優先度が高いチョコボの曲が鳴り,街中でミニゲームが始まれば,そちらが優先的に再生される。また乗り物から降りたり,ミニゲームが終わったりすれば,上位のレイヤーから曲が消え,もとの音楽に戻る。

 実際の順番は以下のスライドのとおりだが,試行錯誤の末にこの並びに落ち着いたという。

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講演では,チョコボの乗り降りでBGMが変わる様子がそのまま流された
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さまざまな工夫とギミックによりクオリティは上がったものの,リソース量が増大することに


 続いてマイクを握ったのは河盛氏。前作でも重要だったBGMの自然な遷移だが,FFVII REBIRTHではさらにパワーアップを遂げたという。キモはやはりワールドマップだったようで,動画を交えた具体例が公開された。

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 まず最初に話題に挙がったのが,通信塔解放前後によるBGMの変化だ。本作では各フィールドにある通信塔を解放すると,周囲のロケーション情報が明らかになるのだが,数として半分以上を解放すると,フィールド曲のアレンジが変更されるようになっているそう。
 例として流れたのは,グラスランドエリアのスケール感のあるアレンジから,スネアドラムが入る力強いアレンジの遷移だ。そしてゴンガガエリアではジャングルらしく,マリンバの入る躍動感溢れるアレンジに変わる様子が確認できた。見た目は同じ場所でも,雰囲気がグッと変わるのが興味深い。

スクリーンショットでは伝わらないのが残念だが,実際に聞き比べると,大きく雰囲気が変わっていることがわかる
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 こういったBGMの変化を採用したのは,同じワールドマップでも,ゲームプレイが進むことによる新鮮感を出したかったからだそう。またFFVII REBIRTHでは基本コンセプトとして,プレイ状況(特にクエストなど)に併せて,曲を切り替えるようにしているとも触れた。

 次に紹介されたのは,“BGMのエンディング”だ。フィールドの切り替え場所などまで移動してその曲が変わるとき,従来では無音を挟んだりクロスフェードをさせたりしていたという。
 しかし,FFVII REBIRTHではあえてきっちりと曲を終わらせることで(物語の進行に関係がある場所などで)“ここに何かある感じ”を強く出したかったそうだ。

 またこのBGMのエンディングのアイデアを出し,編曲も行った作曲家の島 翔太朗氏の「移動してきたことに対する“ご褒美感”を出したかった」というコメントも紹介していた。

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 実際に聴いてみると非常に綺麗に曲が終了し,なおかつ次の曲も自然に始まるのだが,ここの実装もかなり大変だったそうだ。

 その理由として,曲の終了場所がカットシーンと重なってゆっくり聴けなかったり,そもそも設定場所が難しかったり……といったものがあるのだが,何より「どこで曲が終わっても大丈夫なように,さまざまなエンディングセクションを力業で大量に用意しておく」という作成手法になってしまったことが挙げられた。

 グラスランドのフィールド曲だけでも,エンディングセクションが18種類にもなってしまったそうで,「ここで自動生成している! ……と言えれば格好良かったのですが」と当時の苦労を語っていた。

画面上にずらっと並ぶのは,エンディング用に作成したセクション
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 そのほかにも複数のBGM遷移のテクニックが紹介され,例えばフィールドでイベントが始まることが多いFFVII REBIRTHでは,「場所で曲を設定するのではなく,特定キャラとの距離で切り替える」ようにしたという。
 また,バトル曲とフィールド曲をそのままクロスフェードすると不協和音が発生するので,「クロスフェードのときだけ,コードを変更したGlue(接着剤)トラックを流す」という工夫を仕込む。あるいはチョコボレースで,「BGMに最終ラップだけ(盛り上がるように)チョコボのテーマを入れる」というファンサービスをするなど,音楽だけに目に見えないギミックを多数盛り込んでいるそうだ。

 結果,BGMが前作の2倍のリソースになったそうで,これがまた別の問題を生んだのだという。

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サウンドも“3D化”したことにより,とにかく管理が大変に


 ここで岡田氏が再びマイクを握り,環境が変わってリソースが増えたことにより,どのような問題が発生したかを解説した。

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 端的に言えば,とにかく不具合の調査が大変だったそうだ。曲を座標で管理するようになったので,通常の移動なら問題なくてもファストトラベルだとトラブルが発生したり,制作の都合上で地形などのオブジェクトの方が移動したり,サウンドの設定だけが古い場所に取り残されたりと,3D化によって発生したバグにとにかく悩まされたという。

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 こういった問題に対処するために細かくログを残したり,データを可視化したり,エラーチェッカーを作るなどの工夫をおこなって,徐々に状況は改善はしていったらしい。ただFFVII REBIRTHの開発規模では,サウンド関係のスタッフだけでも10人を超えるため,次回作ではさらにスムーズな開発を行いたいと岡田氏は振り返る。

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 ただし元々フラグ管理などが非常に複雑なうえ,相手にするのがサウンドだけに,結局は演出を理解している人間が耳で確認するしかない状態になってしまったらしい。スクウェア・エニックスの歴代タイトル中でも,間違いなくナンバーワンの大変さだったとし,最終的に一番重要だったのは“気合い”だったとこのパートを締めくくった。

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3D環境ゆえにさらに増えていく物量。大量の効果音は,最大同時発音数とのにらみ合いに


 次に登壇した谷山氏は,PS5という新しいハードへの対応や,各種の効果音についてまとめた。

 FF7Rの開発チームでは,FFVII REBIRTHが始めて本格的にPS5で開発する機会だったという。前作もPS5でリリースされているが,あくまでベースが移植ということもあり,本格的に性能を引き出して使うのは本作からとなったそうだ。

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 PS5への本格対応で重要になるのが,新たな技術の「3Dオーディオ」「ハプティクスフィードバック」だ。そのため前出のSEADを拡張し,新フォーマットへの対応を行ったという。
 またPS5の3Dサウンドでは,360度全方位から音声が聞こえるゲーム体験が楽しめる。つまり従来からある(前や後ろからといった)平面的な音源定位ではなく,高さを含めた音の定位が必要となる。ドライバ側にその機能が搭載されたため,いつもと同じ作りで大丈夫……かと思いきや,実際はうまくいかなかったそう。「高さ」が重要な要素である効果音,具体的には鳥の鳴き声や木々のざわめきなどは,通常の4CHにミックスすると期待したものには仕上がらなかったのだという。

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 そのため,高さが関係する効果音はモノラル音源として切り離し,実体のオブジェクトがあればそこに,なくてもそれっぽい場所(鳥の声なら木の上など)に実際に配置する必要があった。結果,サウンドオブジェクトの配置数がとんでもないことになり,通常でも500個ぐらい,多い場所では700個を超えてしまったと振り返る。ただしそれを無駄にするわけにはいかないので,負荷の分散などで工夫を行ったそうだ。

 その後,空中にヘリが飛び回るカームからの脱出劇や,配置されたサウンドオブジェクトが可視化された動画を閲覧できたが,実際に目で見えると“ここまで大量の音源を利用し,かつデータも処理しているのか”と驚きと同時に感心してしまった。

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 もう一方のハプティクスフィードバックは,一見サウンドと関係なさそうだが,音声と同じ波形データを利用してアクチュエータ(モーター)を細かく制御できるのだという。そのため,サウンドチームで振動用のパーツデータを作成したそうだ。強いものから弱いものまで,最終的に用意した振動用のデータは100種類にも及んだというから,こちらもかなりの力業だ。

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 この振動データの中には,振動フォーリーという内製の機材で収録したものもあり,例えばジップラインで移動したときの振動は,ギターの弦を擦ったときのものを使用しているとのこと。こちらの詳しい解説はCEDEC 2023年の講演で行っており,4Gamerに記事を掲載しているので,興味があれば一読してほしい。

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 最後に,物理オブジェクトの挙動音も実装したが,数と種類が増えたため同時発音数の制御にも苦労した点が語られ,谷山氏は「とにかく大物量への対応が大変だった」と振り返った。
 サウンド配置物の可視化などの複数の効率化手段やツールなども用意したものの,焼け石に水に近く,最終的には「ゲーム開発においては,泥臭く,がむしゃらに立ち向かわなくてはいけないときがある」とし,岡田氏と同じく“気合い”の重要性をアピールし笑いを誘った後,マイクを置いた。

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大量の物量とこだわったがゆえの“泥沼”


 最後にマイクは伊勢氏に戻る。伊勢氏は,最初はFFVII REMAKEの延長線上で行けると思っていたものの,ワールドマップの存在がとにかく大きく,さらにこだわったサウンドも実現したかったため,結果的に“泥沼”にはまってしまったと振り返る。

 効果音に関しては,3Dオーディオにおける立体的なサウンド設計を実装し,振動も作成手法などを確立できたが,BGMでは感情やシチュエーションに応じた変化をシステム面に落とし込むのがなかなかに難しく,結果的に手作業が増える泥臭い実装になってしまったとのこと。

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 次回作こそより効率的でバランスのとれた開発手法を探りたいが,とにかく今回は物量が多すぎた……と苦笑いしつつ,講演を締めくくった。

最後に総アセット数がスライドに表示されたが,なかなかに目を疑うような数字が並んでいた
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 筆者がFFVII REBIRTHをプレイしたとき,ゲームが進むにつれ「とにかくすごいボリュームだな」と感じていたのだが,今回の講演を聞いて,それはサウンド面でも変わらなかったのだと再確認できた。ゲーム開発の規模が増大するにつれ,伊勢氏の述べたように“こだわり”と“物量”のバランスを取るのはさらに難しくなっていくのかもしれないが,ぜひ次回作でも,プレイヤーの心に強く残るサウンドを提供してくれることを期待したい。

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