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「ドルフロ2」羽中氏が語る創作論。急速に変化するゲーム市場における“感情的価値”とは[G-STAR 2024]
主題を要約すると「急速に変化するゲーム市場において,多面的な感情的価値のニーズに対応する意味とは」といったところだ。
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羽中氏はこれまで,「少女前線(=ドールズフロントライン)」(iOS / Android)の生みの親として,同IPをもってゲーム市場で成功を続けてきた。中国のみならずの2次元ゲーム(=美少女系スマホゲーム)で,ポストアポカリプスの世界観を爆発的に流行させた発端ともされている。
現在はシリーズプロデューサーとしてドルフロIPのあり方をけん引し,直近ではドルフロ2のチーフプロデューサーを務めている。
なお,同作はG-STAR 2024の期間中,ちょうどクローズドβテストを実施している。事前予約は世界累計で300万人を突破したという。
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韓国訪問は今回で4回目だという羽中氏はまず,少女前戦を通じて感じている「昨今の市場の変化」について語った。
同作のリリース以降,ゲーム市場は変化を続け,とくに2020年頃から中国・韓国でもサブカルチャーが発展した(日本以外でも2次元作品が一般化した,といった意)。それらは大作タイトルとは異なる独自領域で拡大していき,現代ではメインストリームの1つと化した。
さらに開発予算も増加した。以前は1000万元(約2億1000万円)で済んでいたものが,今では1億元に暴騰したという。
おかげで大作も次々と生まれ,2次元ゲームも多面的になっていった結果,それを遊ぶユーザー側の経験も多様化が進んだ。
また,現代のゲームの多くは3Dを導入している。2次元ゲームも含めてだ。求められる体験としても,ユーザーがキャラクターとの出会い・接点を重視し,自分だけのコミュニケーション体験を望んでいる。
これらの狙いがまたゲームデザインやビジネスモデルと組み合わさり,それゆえに多彩なキャラクターとストーリーがより求められるようになっている――というのが羽中氏が見ている業界の現状だという。
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近年は“自分の目線でコンテンツを評価する”傾向が強くなっているからこそ,より高い達成感と没入感が要求されるとのこと。これは機能面ではなく,感性の領域とも言い換えられる。
とくにゲームは,総合的な体験がうまくかみ合っていなければ良い評価を得られにくいコンテンツだ。なかでも運営型ゲームでは,これらのニーズと向き合うことが成功の道であり,課題となっている。
そこで羽中氏が考えたキーワードは「運営型ゲームでは“キャラクターの成長物語”が重要」であった。登場人物が成長していく過程を見せるストーリーは最近とても強いらしく,ユーザーにもより強い没入感を与えやすい。とどのつまり,「日本では成熟型アイドルより,成長型アイドルが注目されやすい」と同じ論理だろう。
そのために考えるのが,以下の4点だ。
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■1.人物の内在的な成長を受け入れさせる
ストーリー中の出来事は,ユーザーも一緒に経験するものである。ときには目に見えないところで成長させる場合があるが,それでも認知してもらえる流れを考えて,受け入れてもらいやすくする。
■2.キャラクターとの感情交流
作中における登場人物の変化の過程を「キャラクターアーク」と呼ぶ。人物の成長は,高値と安値を行き来しながら見せるべきもので,彼女らをさまざまな環境に置くことで,さまざまな共感を生みやすくする。
■3.キャラクターグループの構築
IPが継続すれば,キャラクターも増えていく。しかし,登場人物は単一的な視点で増やしてはいけない。その人が置かれる意味や立場,ほかの人物との関係性を考慮し,いかにグループを形成するかが重要。
■4.キャラクター自体の成長性
ゲームが進歩するにつれて,キャラクターも成長させていく必要があるが,当の成長に共感させられなければ価値にはつながらない。成長の結果,どのような楽しみをもたらすかを考えるのが最重要だ。
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少女前戦シリーズでは,異なるタイトルに“同じキャラクターを登場させる”ケースがある。そこに成長や変化と受け取ってもらえる背景がある場合,ユーザーは(いわゆる越境を)容易に受け入れる。
キャラクターを受け入れてもらうようにすることが最大の課題ではあるが,これを成すことでIPの存在価値は高まっていく。
一例として戦術人形「クルカイ(416)」は,キャラクター設定を明確に定義しておいたことで「どんな作品で,どのように出しても,クルカイはクルカイだという印象を与える」ことにつながった。
これに必要なのは“人物のコアの設定”で,そこを(成長に応じた変化の影響があったとしても)ぶれずに見せることが重要だという。
実際,当初のクルカイはエリート的存在であったが,心理的には幼い部分もあった。少女前戦の時点では,彼女には乗り越えられない困難な状況も設けたが,後続作品では内面的成長を遂げさせた。
そのときもキャラクターとしての芯はぶらさず,成長と変化に納得感を生み出せたことで,彼女は人気キャラクターになったと語る。
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もう一つの例は「ベティ(IDW)」だ。彼女は独自の特徴と外見で多くのユーザーに好まれた。少女前線ではイメージに寄せて,外見も猫のような姿に近づけた。ただし,(未来の世界の)「逆コーラップス:パン屋作戦」では成熟した姿を見せた。
もとは人気が高いわけではなかったが,シリーズを重ねることで段々とキャラクターとしての「生命力が増した」という(出番などの機会を増やしやすいキャラクター,などの意かと思われる)。
これは先に成長の結果(未来の姿)を見せても,そこから成長の過程(過去の姿)に逆行すれば,成長物語として成立する一例だろう。
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キャラクターが成長すると,既存の特徴が変わることもある。しかし,あまり大きく変えてしまうとユーザーの混乱を招く危険性がある。性格の変化はストーリーにうまく溶け込ませなければならず,それに適したキャラクター性もうまく創作しなければならない。
また,成長物語はユーザーの想像を超えすぎてはいけないという。例えばクルカイが突然敵になるなど,つまり“ハズす”とユーザーを不安・不快にさせてしまうため,適切なラインも考えなければならない。
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キャラクターとプレイヤーの感情的な距離も重要だ。羽中氏は「ただ引き寄せればいいのでは,と思われるかもしれませんが」と前置きしつつ,あらためてキャラクターアークに触れていった。
物語を通すと,キャラクターの目標はその都度変わる。弱い人物も,挫折を経験させることで強くなるためのプロセスが生まれる。また最も重要なことは,“(心情的・物理的に)距離が離れているとき,ユーザーに同情させることができるどうか”だという。これに成功すると,ユーザーは協力者・支持者として一緒に歩んでくれるようになる。
こうしてキャラクターとユーザーに経験・価値観を共感させることで,運営型ゲームなればこそ深い関係性を持たせるためのアプローチも可能になる。一方,単純なキャラクター設計ではそれも難しい。
例えば(限定イベントで)瞬間的に緊密な好感を稼ぐことはできるが,運営型ゲームだからこそ,長い時間をかけて交流させることができる。ただ近づけるだけでなく,あえて距離を遠ざけるのも手らしい。
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少女前線は中国ローンチから数えると9年ほど運営を続けており,今では300以上のキャラクターが存在する。一方で,単一のキャラクターの魅力だけではユーザーの興味を引き出すのはなかなか難しかったという。そこで羽中氏が,キャラクターとプレイヤーの関係構築で最も効果的だと実感したのは,「キャラクターのグループ化」だったとのこと。
例として挙げられた「404小隊」のメンバーは,それぞれの個性が際立っている。それでもキャラクターを1人ずつ出していたら,長大なストーリーに溶け込ませるのは困難だった(「ポッと出」と思われるなど)。ゆえに,キャラクターをグループ化することで化学変化を生み出した。これもまたアイドル業界では身近な話かもしれない。
グループ化の際は,相性のいい関係性にだけ着目するのではなく,相性の悪いキャラクター同士でも構わない。そうすることで避けられなくなる衝突もまた,登場人物たちの成長と挫折を生み出しやすい。
課題は「グループ化によりキャラクターが固定されること」だという。要は完成しすぎて,変化の可能性が見えなくなったパターンだろう。そのときはキャラクターやグループの創作時のロジックを見直して,“いつも見ている姿ではないからこそ”を目指すのがいいとのことだ。
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作中に複数のグループを作ると,登場人物たちの関係性はネットワーク化されていく。その際,ユーザーの立ち位置は以下に区分される。
■1.主人公の役割を果たす
物語の状況をユーザー自身がコントロールする視点。グループ間の障壁をユーザー主体でつないでいく。キャラクター主体では解決が難しいケースも,広い視点を持ったユーザーならストーリーを引っ張る立ち位置を与えやすい。同時に,ユーザー自身に使命感を持たせられる。
■2.指揮官の視点
物語の推進役としてストーリーをリードするほか,判断力・計画力・執行力・実行力を見せることで,登場人物たちに影響を与え,それらの成長と変化に納得感を与えやすくなる視点。この立場を持った主人公は,人物たちの関係性を主体的に変化させやすくなる。
■3.探偵の視点
ユーザーが核心的な立ち位置にいられる視点。探偵役は物語全体を見通し,決定を下すことが可能で,展開をより強固にできる。ポジティブとネガティブの両方の流れを生み出せるほか,傍観者的な視点もおかげで,自身に関わるキャラクターたちの側面も解釈しやすくなる。
これらをまとめると,キャラクターやストーリーで感情的価値の満たすには複雑な設定が必要であり,簡単なことではなくなる。成長可能で生命力に長けたキャラクターを生み出す方法も,挑戦しかない。
しかし,こうして情緒的な需要を満たしていくことこそが,2024年から先の運営型ゲームに求められることだと,羽中氏は述べた。ここで会場に感謝をひと言伝えたあと,質疑応答の時間となった。
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――より簡単にドーパミンを得たい人のための戦略はありますか。
羽中氏:
いいゲームを作るには,コンテンツの基盤制作に努力しなければならないと思います。一部の人が好きなものではなく,誰でも好きになれるものを目指す。こうした判断で作られた作品は強いと思います。
それと,今の時代は“1つのゲームがすべてのユーザーのニーズを満たすことはできません”。我々は提供作品をベースに,できるだけ多くのユーザーを取り込む改善に挑んでいるわけです。
ですから我々もその戦略の一環として,サブカルチャーに興味のない大多数の人たちを引き込もうとするより,良質なストーリーを好む人たちを引きつけようと努力してきました。
――少女前戦の制作時に,サブカルチャー以外でインスピレーションを受けたものがあれば教えてください。
羽中氏:
少女前線のころは開発者の直接的な経験のほかに,たくさんの古典的な物語,例えば第二次世界大戦の歴史的資料も参考にしました。なかには個人的な実体験も溶け込ませてきたため,そうしたリアリティがキャラクター作りに寄与していたのではないかと思います。
それとコンテンツの制作時は,私は2次元ゲームを作るのではなく,IPを作るのだと考えてきました。このような観点だと,世界全体を見渡せる単一のキャラクターではなく,自然と複数の人物を用意したくなることで多様な背景も生まれ,彼女らが成長しやすい環境につながりました。
――少女前線ではたくさんのキャラクターの成長過程を見ることができ,戦術人形とはなにか,勢力とはなにかを考えさせられました。そこには多くのテーマがあると思いますが,なぜこのような複雑なテーマを創作しようと思ったのでしょう。きっかけが知りたいです。
羽中氏:
最初のころは,チーム内で生まれたアイデアが大きかったです。それからゲーム全体の創作過程で,キャラクターの成長や衝突の価値に気付きました。当初はアートデザインをキレイに作れば,それだけで注目を集められると思っていたのですが,運営を続けて気付いたのは「アートは長期的な部分にはあまり影響しない」ということです。
長期的にユーザーの反応を得られるのはやはり,キャラクターの成長でした。キャラクター作りもストーリー作りも,とにかく魂をもって挑戦することが重要でした。私たちの目標はずっと,そうした先にある「キャラクターたちが実際に存在するように感じさせること」なんです。
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質疑応答の終了後,羽中氏は「また韓国でお会いする機会があれば,よろしくお願いします。ありがとうございました」と会場に伝えた。
本講演は事前に聞いていた表題のとおり,いやそれ以上に同社の創作論に迫っていた。成長の見せ方の構想についてはある意味,新興のプロダクト,クリエイター,あるいはメーカーにとっては「結果的に続けられたからできたこと」と思わせる一面もあるにはあるだろう。
しかし,これを彼らがどのタイミングで考え,また彼らに対してそう思ったとしても,誰しも「まずは1作」を立てないと挑戦もできない。しかも,そうやって「IP」を御旗に突き進んだ結果,望まれぬ廃棄場にしかたどり着けなかったものも多い。IPという概念はそんな実情を知ってなお,希望と理想の甘ったるさで誘惑してくる美女なのだ。
それをどんな形でも成している者の言葉は,届く人には届く。
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