
インタビュー
「須田さんと同じくらい頭おかしくなりたいです」――自分が本当に好きものだけを,好きなように,好きなだけ形にする,suda51+「昭和米国物語の羅」が語る,ゲームを作るということ
前回4Gamerでインタビューしたときは,羅氏その人そのものについていろいろ聞いてみたが,「ただの重度な日本のゲームオタク」だということだけはよく分かった。なんなら,そのへんの日本のコアゲーマーより遥かに詳しい気がする。
彼が子供のころからずっと見てきて,好きで好きでたまらない日本のゲームや日本文化などに,最大限のリスペクトを払いながら作っているのが「昭和米国物語」だと筆者は解釈している。
予備知識なしにそのPVを観ると,BGMと,その緻密に描かれた馬鹿げた世界観に圧倒されるが,このちょっとなんともいえないフリーダムな,それでいてまとまってる感じは,誰に似てるんだろう……と思っていたが,そう,須田剛一氏だ。
現在グラスホッパー・マニファクチュアの代表取締役である須田剛一氏の開発者経歴は,1993年にヒューマンに入社したときから始まる。
2年後の1995年に,「スーパーファイヤープロレスリングスペシャル」でディレクターと脚本を担当し,そのストーリーと結末は,当時のプロレスファン/ゲームファンに大きな衝撃を与えた。
その後1998年にグラスホッパー・マニファクチュアを設立して独立。「シルバー事件」「killer7」「No More Heroes」「シャドウ オブ ザ ダムド」など,「あぁ須田ゲーだな」と誰でも分かる個性的な作品を世に送り出してきた奇才だ。
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前回羅氏にインタビューしたときに「好きなものを好きなように好きなだけ出してるんです」みたいなことを言っていて,あぁこの人は(良い意味で)変な人なんだなぁと思ったのだが,世界のsuda51も,たいがい変な人だ。
とくに欧米でカルト的な人気となっている氏は,向こうのメディアだと大変丁重に扱われているスーパークリエイターだが,プロレスとロボットとガンダムとドリルの話を始めると止まらない,変なおじさんである(筆者とはクルマの話が非常に盛り上がる)。
そんな二人に共通しているのは,「好きなものを譲らない」というその姿勢だ。誰かの顔色をうかがったり,誰かに言われて意見を変えたり,そういうことはせず,ひたすらに自分が信じる,自分が好きなものへと突き進む。ある意味ではとても古風なクリエイターなのだが,昨今ではもしかしたら,一周回って“ニュータイプ”なのかもしれない。
そんな二人のダラダラした雑談が見たいなぁ……と思って場をセッティングしてみたのだが,案の定話が右へ左へと振られまくって,大変長い“雑談”になった。
結果的にはただの雑談で終わっているわけではなく,お互いのゲーム作りに対する姿勢がチラチラ見える,そんな記事になっている。グラスホッパー・マニファクチュアのオフィスがある後楽園で行われた座談会の様子を,最初から最後までお伝えしよう。
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4Gamer:
実はここ(グラスホッパーのオフィスがある文京区後楽)に来るの初めてなんですよ。
須田氏:
そうだ,そういえばそうですね。ようこそ。
4Gamer:
なんでここなんですか。プロレスを観るため?
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それもありますね。聖地だし(笑)。
道路一本向こうが千代田区なので,あっち側はめっちゃ高いんですが,文京区はそうでもないので助かります。安くて広くて,あとなにより夢のスタバが! 一階に!
4Gamer:
1階にスタバがあることを,オフィス決めの理由にする業界人多いですよね(笑)。
羅氏:
え,プロレスの競技場がここにあるんですか?
須田氏:
すぐそこでやるんですよ。本当に「日本の聖地」と言われる場所が。
羅氏:
えーと,スイドウバシですか?
須田氏:
そう。水道橋の後楽園ホール。
まぁ実は,ここ選んだ理由は風水も大きいんですけどね。
4Gamer:
おや。僕もそういうの好きですが,須田さんは,ちょっと意外でした。
須田氏:
形がいいんですよ。四角いビルで。
4Gamer:
形は大事ですよねえ。
須田氏:
形すごい大事ですもんね。間取りも見てもらって,これなら問題ないよと。あと「社長の席はここだからね」って(笑)。
4Gamer:
まぁ全部決まりますしね。
羅氏:
西洋のプロレスから,急に東方の風水に(笑)。
須田氏:
いろんなものがミックスされてます(笑)。
羅氏:
以前から,須田さんがプロレスのカルチャーが大好きと聞いてます。
須田氏:
ありがとうございます。そうなんです,特に昭和プロレスです。
羅氏:
群馬の「自動車博物館」※に行ったことがありまして,そこの館長もプロレス関連のものをコレクトしてました。それはやはり,昭和時代にすごく流行ったカルチャーなんですか?
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須田氏:
うん,そうですね。
自動車といえば,昭和にはスーパーカーブームというものもあって,僕の子供の頃の話ですね。岡田さん(注:筆者)も,同じ世代でしょう?
4Gamer:
そうですね。だからいまでもクルマ好きなんだと思います。
そういえば「昭和米国物語」には,スーパーカーの要素は?
羅氏:
もちろんあります。
須田氏:
おお,楽しみ(笑)。
4Gamer:
あるんだ(笑)。
羅氏:
自分自身も日本のクルマ文化すごく好きなので。
4Gamer:
群馬の「自動車博物館」に行くのはかなりの通ですよ。
須田氏:
いや本当に(笑)。
4Gamer:
僕いま地元ですけど,僕だってまだ行ってない。東京都民は東京タワーに行かない法則です。
須田氏:
そうだ群馬にお住まいですよね。「頭文字D」の聖地。
4Gamer:
ええ,走り屋の聖地。家から見て南方向以外は全部峠です(笑)。
須田氏:
聖地だなあ。
羅氏:
僕がこの前群馬に息子と行ったのも,息子が「頭文字D」が好きだからですよ。
須田氏:
息子さん,いい趣味ですね!
4Gamer:
ということは,峠も行きました?
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そうそう。車を借りて,息子に“五連ヘアピン”を体験させてあげた。
須田氏&4Gamer:
榛名の五連ヘアピン!?※
羅氏:
息子を榛名湖に連れていって,あのボートを漕ぎたかったんです。拓海となつきがデートしたところ。でも残念ながら行ったときは凍ってました。
須田氏:
あらららら。
4Gamer:
いやいやちょっと待ってください。冬に行ったんですか?
羅氏:
はい。
4Gamer:
地元だから言いますが,冬にあの峠走るの危ないですよ。
羅氏:
そうなんですよ。まだ雪があったし。
4Gamer:
雪降ってるのに五連ヘアピンって(笑)。
羅氏:
運転手にもクレイジーだって言われました。
須田氏:
まさかドリフトは……。
羅氏:
ないない(笑)。
須田氏:
よかった,びっくりした(笑)。
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4Gamer:
今度群馬に来るときは事前に教えてくれれば,頭文字Dの峠を全部案内しますよ(笑)。
須田氏:
え,峠を案内できるようなクルマに乗ってるんですか。
(クルマの話がすごく長いので省略)
須田氏:
うわMFゴーストの世界の住人だ(笑)。
羅氏:
(通訳が入る前に)「頭文字D」の続編ですね。
須田氏:
詳しい(笑)。
羅氏:
ふふふ,大好きです(笑)。
4Gamer:
いろんなことに詳しい人だなぁ……。
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日本自体がアメリカの影響を強く受けているので,日本のものかと思ったらアメリカのものだった,みたいなことが多いです
羅氏:
それで話戻しちゃうんですが,プロレス関連は僕全然詳しくなくて。
須田氏:
大丈夫ですよ! 大丈夫です! これからじっくり教えてあげますよ!
4Gamer:
危険だから「はい教えてください」って言わないほうがいいですよ。
羅氏:
(笑) あ,でも須田さんが初期に作ったプロレスのゲーム※をプレイしたことがあります。
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燃えよ,ファイヤープロレスリング! 〜亡きヒューマン,そして増田雅人氏に捧ぐ男達のバラッド〜

シリーズ第一作「ファイヤープロレスリング コンビネーションタッグ」が1989年に発売されて以来,多くのゲームファン,プロレスファンから愛されてきた「ファイヤープロレスリング」シリーズ。その生みの親である故増田雅人氏をしのび,シリーズに携わってきた須田剛一氏ら6名のクリエイターに,当時の思い出を語り合ってもらった。
[GDC 2019]純須杜夫の遺伝子は「ファイヤープロレスリング ワールド」に生き続ける。25年ぶりの続編「チャンピオンロード2」の物語を描く須田剛一氏にインタビュー
![[GDC 2019]純須杜夫の遺伝子は「ファイヤープロレスリング ワールド」に生き続ける。25年ぶりの続編「チャンピオンロード2」の物語を描く須田剛一氏にインタビュー](/games/373/G037324/20190322023/TN/011.jpg)
「ファイヤープロレスリング ワールド」のDLCとして,ストーリーモードである「チャンピオンロード2」の配信が決定した。シナリオを担当するのは,初代「チャンピオンロード」で若きプロレスラー・純須杜夫の生涯を描いた須田剛一氏。25年ぶりとなる続編はどうなるのか,話を聞いてきた。
須田氏:
ファイプロ,ありがとうございます!
羅氏:
はい。格闘ゲームでも,仮面やプロレスの格好をするキャラクターを見かけますよね。
須田氏:
そうですね。
羅氏:
そういうキャラを見ると,面白いなと思います。仮面をかぶっている分,ちょっとした変態で,でもそれもまたかっこよくて,なんか融合した感じがとても面白いです。
なので僕も,プロレス文化にとても好奇心があるんですけど,自分の周りには好きな人も詳しい人もいないから,どこから入ればいいのかが全然分からないです。なので須田さんからいろいろ教えてほしいです。どこに行けばプロレスの情報があるのか,どうやってプロレスを楽しく味わえるか……。
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じゃあまず動画を送りますね。まずは……うーん,タイガーマスクかな。タイガーマスクから入るのが一番いいと思います。アニメもあるんですけど,実際のプロレスもあって僕は(以下略)。
(プロレスの話がすごく長いので省略)
4Gamer:
しかし中国って,確かにプロレスの話は聞かないですね。
羅氏:
全然流行ってないんです。
須田氏:
うん,聞かないですね。中国遠征とかなかったし。
羅氏:
人生の中で1度も触れたことないです。
須田氏:
カルチャーとして全く存在しなかったんですね。
羅氏:
本当に知らないんですよね。
4Gamer:
ということは,プロレスみたいな要素は「昭和米国物語」には入っていない?
羅氏:
“仮面”なら入ってます。
須田氏:
なるほど,マスクマン。
羅氏:
でも全部変態扱いです(笑)。
須田氏:
変態属性が付けられた(笑)。
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4Gamer:
何をゲームに入れて,何を入れてないのか,その線引きが個人的にはちょっと気になってます。「何を入れているのか」というのは,言葉を変えると,たぶん羅さんが経験した“昭和の日本”が形を変えてアウトプットされてるわけで,それってなんか,中国から見た日本みたいな感じですよねきっと。
羅氏:
うん,そうですね。僕の成長過程の中で体験できたものに由来しています。
でも僕気付いたんですが,日本は,より強く西洋に影響される部分が多く,中でも特にアメリカ文化の影響があります。そのためか昭和の作品には,アメリカ文化が融合されていて,アメリカの文化が入っているものも多いです。そしてそれは,僕にとってはとうてい区別が付けられません。
4Gamer:
あぁ……それはそうですよねえ。逆の立場だったら絶対分からない。
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ええ。僕は成長過程で日本の作品を摂取したものの,その中のどれが日本オリジナルで,どれがアメリカ文化の転用なのか分からないのです。
例を1つ挙げてみます。「昭和米国物語」にはバイクを入れています。それは鳥山明さんの「Dr.スランプ」によってインスパイアされたものです。中国では「アラレ」という作品名なんですが,漫画には暴走族の親分※がいます。
作品中で彼はハーレーのバイクを乗っていたので,僕にとっては,そんなバイクは「昭和の暴走族」の代表なのです。でもこれ,実はアメリカのカルチャーだったというのは,後で別の人から聞いた話です。
須田氏:
あぁなるほどね。
羅氏:
ときたま「なるほど,これはアメリカのものだったのか」と自分の知識をリニューアルするときがあります。
4Gamer:
一番最近で気づいたものはなんですか。
羅氏:
例えば,中国ですごく流行っている「カリフォルニアロール」とか。見た目は寿司ぽいですけど,でも実際のところ日本では全然見かけないですよね。
須田氏:
あぁ,ないですねえ。
4Gamer:
僕は日本で買ったことはないですね,少なくとも。
須田氏:
デパ地下とか行かないとないかも。
羅氏:
いや本当に全然見かけないです。
4Gamer:
でもなるほど,羅さんの場合は,その前段階の日本がすでにアメリカからいろんなものを吸収して,それがそのまま中国に行ってるから,両方の要素が入ってるわけですね。
羅氏:
そうです。今回のゲームスタイルにはぴったりです。
須田氏:
うん,本当にそうですね。
日本の昭和って,本当にアメリカを呼吸するように吸い込んでた時代ですもんね。だから「昭和米国」っていうタイトルそのもの。
4Gamer:
だからあれを「うおおお」って思うのは,一定以上年齢が上だと思うんですよね。たぶん本当に若い人には,イマイチ刺さらない。
須田氏:
まぁそうですね(笑)。
羅氏:
前回のインタビューの時にも話しましたけど,昭和のカルチャーで中国の我々も経験したことだったから,日本の人はきっと誰でも知ってることでしょう……と思ってました。でもそうでもなくて,日本でも全然分からない若者が多くいて,すごく驚きました。
須田氏:
確かに日本の若い人には分からないかもしれませんねえ。
4Gamer:
逆に,須田さんはそういうことないんですか。須田さんのゲームが,アメリカの若い子に伝わらないとか。あれも言うならば,須田さんがリアルタイムに吸収したアメリカをゲームの形で出してるわけじゃないですか。
須田氏:
そうです,そうです。でも,まったく伝わらないことを,あえてやってますよ。
例えば,三池崇史※さんのネタをずっと語るじゃないですか。絶対伝わらないですよね(笑)。逆に彼らが興味を持ってくれて,三池さんの映画を観るようになったりとかして,そういう逆説的なやり方しか僕はやってないですね。
※「No More Heroes2 デスパレート・ストラグル」に登場する“ビショップの親友”のモデルは映画監督の三池崇史氏。声はなんと三池氏自身があてている。
4Gamer:
なるほど。
須田氏:
「No More Heroes2」にあるカットシーンは,「機動戦士ガンダム めぐりあい宇宙」に出てくるアムロとララァが出会うシーンで,そことまったく同じカットで作ってもらったんですよね。まぁ全く伝わらなかったですけど(笑)。
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「ビデオゲームは極上。だから世界中の人達にそう思ってもらえるものを作りたい」――グラスホッパー・マニファクチュアの須田剛一氏に,新作にかける意気込み(とプロレス&格闘技への思い)を聞いた

須田剛一氏率いるグラスホッパー・マニファクチュアは,最近,飯田和敏氏や山岡 晃氏といったクリエイターを迎えるなど,従来とは違った動きを見せている。そこで今回,須田氏がゲーム作りにおいて考えていることや,GhMが目指す方向性,新作にかける意気込みなどを聞いてきた。プロレスや格闘技の話をしながら。
羅氏:
(通訳が話す前に)アムロとララァと言ってるの聞き取れましたし,僕はあのシーンをプレイしたときにすぐ分かりましたよ(笑)。
須田氏:
さすがだ……。もうね,そういう人たちに届けてる感じです。
羅氏:
僕もガンダム大好きなんです
須田氏:
おお,そうなんですね。
4Gamer:
それを知ってたので,だから今日はガンダムの話を絶対にしないぞ,と心に決めて来てます。
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了解です(笑)。でも1つだけね,今回日本に来たわけで,ジークアクスは観るんですか? ってそこだけ確認を……。
羅氏:
最新作がどうなるのかすごく気になってます。
須田氏:
もうぜひ楽しみに劇場に行ってください。
羅氏:
前回のシードの時も,映画館で観ましたよ!
須田氏:
おお,すごい。ちゃんと観てる。
4Gamer:
しかしお二人,年齢的には確か10年以上違いますよね。
羅氏:
そうですね。でも意外と,好きなものにおいては共通しているものが多いですよ。プロレス以外は。
須田氏:
ね。そうなんですよ。年齢の差を埋めてくれるんですよね。
4Gamer:
中国は何年ぐらいブームが遅いんだろう? そのズレが幸いしてる気がしますね。
まぁ最近はほぼ同じでしょうけど。
羅氏:
確かに今は,インターネットがその差を埋めたかもしれません。
須田氏:
10年くらいのギャップがある感じですかね。
4Gamer:
つまり今回の差がちょうど埋まる感じですね。
羅氏:
あぁ,なるほど。
自分の好きなものを,ただただ全部表に出して作っていこうと思っています
羅氏:
でもすごく面白いですよね。「昭和米国物語」のPVのコメントに,“須田さんのゲームぽい”と書いている人もいました。なので本当のところ,須田さんがそのPVを観たときにはどういう感想だったのか,実はすごく気になっています。
須田氏:
あー,すごい面白いことやってる作品が出てきたなぁ……と思って観てたんですけど,コメントのとこ見たら,なんか「須田ゲーみたいだな」みたいなことがいっぱい書いてあって。
4Gamer:
いや確かに須田さんが作ったと言ってもバレないかも。
須田氏:
ウチの新作にしましょう。
4Gamer:
「日本版No More Heroes」的な。
須田氏:
ありですね。なので書かれてるのは嬉しかったですね。そういう風に言ってくれるっていうのが。
あと,いろんなネタがあるじゃないですか。アクションでもそうなんですけど,中途半端にやってなくて,思いっきりやってるんですよ。そこがやっぱり潔いというか。
4Gamer:
あぁ振り切ってる感じはしますよね。
須田氏:
ああいう,ネタ的な要素みたいなものを入れるゲームって結構あるんですけど,大体中途半端なんですよ。本質的なものがなかったり魂がなかったりとかするんですけど,“昭和米国”はPV観た時に,「あぁこれは本物のおかしな奴が作ってるな」っていうのは分かりましたね(笑)。
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4Gamer:
しかもなんか,ぎゅうぎゅうに詰め込んであるんですよ。その辺も須田さんっぽい。
須田氏:
あー,密度がですね。
4Gamer:
これ,好きなものを全部入れただけでしょう?
羅氏:
そんな感じです(笑)。
僕も須田さんの作品が大好きで,今までの作品はほぼプレイしています。なので作る時にも須田さんの影響を受けていて,今の作品になりました。
須田氏:
わお,ありがとうございます。嬉しいです。
4Gamer:
須田チルドレン。
須田氏:
国も世代も超えて。
4Gamer:
商業であのカラーを出してくる須田チルドレンは珍しいですよ。
須田氏:
確かにね。インディには多いんですけどね。
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僕は以前から須田さんのことを,ゲーム業界のタランティーノだと思っています。彼もすごく濃厚な個人スタイルを,B級テイストの商業映画の中に融合していて,興行的にもいい成績を出しながら,個人スタイルをすごくはっきり出しています。それができるのは,本当に素晴らしいことですよね。
須田氏:
そういう風に言ってもらう機会は多いんですけど,自分ではあんまり意識したことないんですよね……。
羅氏:
須田さんの個人スタイルは,どうやって作ってるんですか?
須田氏:
難しいな……たぶん,あんまり深く考えてないと思うんですよね。
例えば分かりやすい例では「No More Heroes」がいいと思うんですけど,あれは,自分の吸収したものを“全て”出そうというコンセプトで作ったので,もう本当になんかダダ漏れみたいなゲームなんですよ。全てのアイデアに,自分が影響されたものを恥ずかし気もなく入れるというのがNo More Heroesなんです。トラヴィスというキャラクターがそれを許してくれてるというのもありますしね(笑)。
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羅氏:
ノーモアを作った時の須田さんと,昭和米国物語を作っている僕の心境が,とても似ています。
須田氏:
あぁ,そうかもしれないですね。たぶんですけど,影響を受けたものもね。
羅さんも,このタイトルで全て出そうっていう気持ちで作ってるかな,と。
羅氏:
そうです。そのとおりです。
4Gamer:
外から見ると,「自分の好きなものをただただ全部表に出して,一人がそれらを全てを束ねてる」と言えばいいですかね,そういうところもたぶん似てるんだろうな,と思ってます。須田作品で言うと,killer7の方がもしかしたらそういうカラーが強いかもしれませんが。
須田氏:
あぁ,killer7は確かにそうですね。でも逆に言うと,killer7は影響を受けたものがたぶん見えづらいと思うんですよ。
あとあのゲームは作ってる最中に,どういう設計図でどういうゲームになるのか,誰も分かってなかったですね。スタッフがみんな,何をやらされているのか分からないまま作ってて,僕だけが頭の中に最終系がある。
4Gamer:
それそれ! そういうところです。たぶん似てるんじゃないかなぁ,と。
羅さんのとこのスタッフが,作っているものが最終的に「どういう作品になる」のかを理解してるとは思えなくて(笑)。
須田氏:
みんなデバッグしたときに,「あぁこういうゲームだったんだ」って(笑)。
羅氏:
確かにすごく似てます……。
4Gamer:
ですよねえ?
須田氏:
え,本当ですか(笑)。
羅氏:
僕のチームメンバーも,ゲームデモを見て,なんならPVを観て初めて「こういうゲームだったのか」と悟ります。こういうフィーリングでいきたかったのかと,そこで初めて分かるんです
須田氏:
チームは何人ぐらいなんですか。
羅氏:
30人くらい。
須田氏:
みんな羅さんの頭の中を探りながら作ってる?
羅氏:
探る……というよりは,自分からの指示出しが多いですね。「こう作ってくれ」と。すぐにピンとくる人もいれば,これが一体何になるのか,何をするものなのか分からない人もいて,プレイヤーの考察を読んで初めて「なるほど,そういう意味だったのか」と知ります。
須田氏:
なるほど(笑)。確かに面白い作り方だなあ。
羅氏:
例えばゲーム内に「例のプール」も入れてるんですが,アートチームはそのシーンを作るときに,それがなんのための,どういう意味を持ったプールなのかがさっぱり分かってませんでした。使い道も,作る理由も,何一つ知らなかったのです。
須田氏:
ふっふっふ。あの「例のプール」かぁ(笑)。
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4Gamer:
かの有名な。
須田氏:
そう,かの有名な。
しかしあのチョイスは,なかなかすごいですね。
4Gamer:
言い方アレですけど,中国人開発者が自分のタイトルにあのプールを選ぶセンスがさっぱり分からない。
須田氏:
分からないのもそうですが,あれをちゃんと3Dモデルで組むっていう……なんて言うんですかね,荒業に近いというか,めちゃくちゃですよホント。頭おかしいかもしれませんこの人(笑)。
あ,褒め言葉ですからね!
羅氏:
ありがとうございます。須田さんと同じくらい頭おかしくなりたいです(笑)。
4Gamer:
似てるなと思って対談してもらってるわけですが,思った以上だった。
須田氏:
いや僕にもあの勇気はない。素晴らしいです。
うちのスタッフに,Zoomのアイコンをあのプールでの自撮りにしてる狂った人がいるんですが,きっと喜んでくれると思います(笑)。
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昔と違って,同じ好みと感覚を持った,全世界のオタク達とすぐにつながれる時代なので,僕らの作品も共感してもらいやすいのです
4Gamer:
僕は物を作ったことはないですが,こうやって多くの人が,見ただけで「あっ,これ」と分かるものをピックアップするセンスと,それを“分かるように出す”センスって結構すごいなと思ってます。
羅氏:
作る時の自信みたいなものも,あると思います。自分たちの好きなものに対して共感してくれる人が,きっとたくさんいるはずだ,と。
どれぐらいの規模で,どれくらいの人数が共感してくれるのかはまったく把握していませんが,そういう人が絶対存在しているはずだと信じています。
須田氏:
そうですね。昔と違ってコンソールだけの時代じゃなくて,今はSteamとかもあって全世界の人たちが容易にゲームを遊べる時代なので。
自分たちの国だけじゃなくて,世界中にいる,同じ感覚を持ったオタクたちをちゃんと拾ってくれる土壌が今ありますよね,今は業界全体に。
4Gamer:
しかもお二人の強いところは,日本とアメリカっていう世界でも相当名の知れた部類にある国をテーマにしてるので,その「拾ってくれる」人達の幅が広いと思うんですよね。
言い方がちょっと難しいのですが,これがドイツとかポルトガルだと正直ピンと来ないのではないかと。いやドイツは人気あるか……でもカルチャー込み込みで理解している感じはしないですしね。あ,もちろん否定するような意図はありません。
須田氏:
分かります。確かにそういうセンサーには引っかからないかもしれませんね。
4Gamer:
ドイツのカルチャーとかポルトガルのカルチャーに,そこまで詳しいわけではないので……。しかし日本とアメリカでしょう? 世界の誰もが知るカルチャーがテーマなので。
須田氏:
んー確かにそうですね。そうか,自分も無意識に……。
4Gamer:
あれ,無意識だったんですか。
須田氏:
無意識ですねえ。
4Gamer:
(羅氏へ)もしかして無意識ですか?
羅氏:
言われてみればそういうところは無意識でしたね。
でも今の話を聞いて思ったのは,やっぱり日本の人も気付いているんですね。日本のカルチャーがアメリカと同じように世界中に影響していることを。日本の皆さんはすごく謙虚で控えめなので,そんなことには気付いていないなのかなとちょっと思ってました。
4Gamer:
ふふふ。
羅氏:
あとドイツについての話がありましたけど,日本の作品には,ドイツ語をしゃべるキャラクターがちょこちょこ見受けられます。そういうドイツ語をしゃべるキャラクターは洒落ていて,高貴な生まれの設定みたいな感じが多い気がします。
なので僕から見ると,日本のクリエイターはドイツカルチャー好きな人が多いのかな,と思ってました。
4Gamer:
ドイツ好きは多いけど,カルチャーには正直そこまで馴染みはないですねえ。
須田氏:
うん,そんなにないですね……。
というかこれはドイツの人のせいじゃないですが,デバッグが大変なんですよ!
4Gamer:
デバッグ?
須田氏:
そう。翻訳版を作ったとき,ハミ出すのは大体ドイツ語です。毎回デバッグ時に苦労します。
なので羅さんも,今のうちからテキストボックスに自動改行の仕組みは作っといた方がいいですよ! それがないと,スタッフがみんな手打ちで直すんです。ホント苦労します……。
4Gamer:
でも中国語からしたら,どの言語も無駄に長いですよねきっと(笑)。
羅氏:
はい。僕らにとって,日本語も同じ感覚ですね。
僕が書いた中国語が,いざ日本語に訳されたらとんでもない長さになってびっくりします(笑)。
須田氏:
あー,そうなんですね。
4Gamer:
中国語の,決定的にコンパクトな様式美には勝てないですね。
日本の学校では,五言絶句とかしかやりませんけど。
須田氏:
ひらがなとかカタカナもないしね。
羅氏:
日本語に訳されたものを見ると,それがあまりに長すぎて,僕が書いたセリフにローカライズのスタッフが勝手に何か追加したんじゃないかとさえ疑っちゃいます(笑)。
(一同笑)
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須田氏:
ちなみに何言語ぐらい対応するんですか,昭和米国は。
羅氏:
英語と日本語と,あとヨーロッパでよく見かける言語も対応します。
須田氏:
EFIGS全部対応ですかね。※
※EFIGS:英語(E)+主要欧州言語対応(FIGS:フランス語,イタリア語,ドイツ語,スペイン語)
羅氏:
国によって,各国のカルチャーに対する認識には微妙な差異があると感じているので,それもあって,カルチャー融合のゲームを作るのは面白いです。
4Gamer:
昭和米国物語を遊ぶイタリア人,ってちょっとシュールでいいですね。
須田氏:
なるほど(笑)。
4Gamer:
日本とアメリカをテーマにして中国人が作ったゲームを遊ぶイタリア人。
須田氏:
ぐるっと地球一周を回った感じですね。
4Gamer:
4か国分入ってますね。
家に大量のフィギュアを置けないので,僕の自宅のデスクには,すんごく小さいG-3ガンダムが1個あるだけなんです
須田氏:
しかしこの間ね,羅さんにスタジオの写真見せてもらったんですよ。そりゃもうすごいかっこいいスタジオで,環境がめちゃめちゃいいんです。
うちの会社にあるフィギュアとかの5倍ぐらいありましたね。ちょっと勝てないなあ。
4Gamer:
そこですか(笑)。でも確かに,前回の記事のときにもらった写真,ちょっとおかしいですもんね。
羅氏:
でも前回須田さんにお会いしたときにオフィスをちょっとだけ見せていただきましたけど,並んでいるフィギュアを見て「あ,これ僕も持ってる。須田さんも買ったんだなぁ」と心の中で「ふふふ」って思ってました。並んでいるものは,私にもすごく馴染みがあります。
須田氏:
羅さんが持っているのがすごいよ(笑)。
ていうか,ダイアクロンも持ってますよね。
羅氏:
ええ,タカラトミー。
須田氏:
高いしデカいんですよ。でもビッグサイズのものを,羅さんほとんど持ってるんじゃないかな。
羅氏:
そうだと思います。でも僕も,ダイアクロンにはあとから触れ始めたんです。
最初はトランスフォーマから入って,タカラトミーにダイアクロンシリーズがあるのを初めて知って,遊んでみたらこれが(以下略)
(ダイアクロンの話が長いので省略)
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羅氏:
でも須田さんは,社内にすごいサンドボックスを持ってらっしゃるじゃないですか(微笑み)。
須田氏:
あー,サンドボックス(笑)。
羅氏:
前回来たときに初めて見て,すごくうらやましく思いました。
4Gamer:
そんなのあるんですか?
須田氏:
新作のゲームマップをジオラマで作ってるんですよ。あとでお見せしますね。
羅氏:
しかし須田さんは,日常でこういうおもちゃに触れるときはどういう状態なんでしょう? 僕の場合は,家でこういうおもちゃだの分解した歯車だのをいじるときに感じる楽しみは,子供の時と感じたのと似たようなものでした。よく妻に不思議そうな目で見られます(笑)。
須田氏:
ハハハ。うちはそもそも,まず自宅ではフィギュアNGなんですよ。家にはそういうものを置いてはならぬ,と。
羅氏:
えええ……日本にそういうカルチャーがあるんですか。
須田氏:
あるんですよ,これが。だから全部会社に置いてあります(笑)。
日本は意外と,自宅フィギュアNGな家庭は多いのでは?
羅氏:
すごく予想外です。
須田氏:
なので僕の自宅のデスクには,このぐらい(と言って指2本で数cmを示して)小さいG-3ガンダムが1個だけあります。
4Gamer:
それは何かささやかな抵抗ですか(笑)。
須田氏:
いやもうなんか,少しでも生活にガンダムを(笑)。
羅氏:
こっそりと小さいのを置いておけば分からない?
須田氏:
まあバレてますけど(笑)。それぐらいはギリOKらしいです。
4Gamer:
しかし逆に言うと,須田さんはONとOFFがキッチリ分かれてるということですね。
須田氏:
そうなりますね。でもうちのスタッフにもいますよ。家だと迷惑だから,会社に大型フィギュアを持ってきて置いてある子が。
羅氏:
ネットで,日本の家屋にコレクション詰め詰めになってる写真を見たことがありますけど,やっぱりそういうのはコアなオタクだけなんですかね。
須田氏:
稀有な例ですね。まぁ家によってルールはいろいろですからね。OKな自宅もあるんと思うんですが。
4Gamer:
僕は集めたりしないのでよく分かってなかったんですが,思ったより理解されてないんですね。サブカル大国の日本なのに。
須田氏:
あとほら,東京は狭いじゃないですか。なので地方とか行けば一軒家とかで,そうするとおもちゃ部屋とか……。
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4Gamer:
上海とか香港とかも,東京とあんまり変わらないですよ。
須田氏:
あ。まあそれもそうか。
羅氏:
でも今日はここまでの会話で,僕がイメージしている須田さんとギャップができています。須田さんは,家でもプロレスマスクをかぶって生活してる人なのかなと勝手に想像してました。
須田氏:
ハハハ。いやさすがに(笑)。
羅氏:
週末には「仕事に行きます」と家族に言って,こっそりと会社に来ておもちゃで遊んだり。
須田氏:
それは……ないですね。
4Gamer:
今,ちょっと目が泳いでましたよ。
羅氏:
メディアがいるから言えないだけだと思うんですよね。
須田氏:
いやいや,そんなことない(笑)。
自分たちが好きなものを理解してくれる人たちが世界中にいて,その人たちのためにゲームを作れていることが重要
4Gamer:
なんか雑談で盛り上がって時間がどんどん過ぎてるので,ちょっと戻します。
さっきの,お2人とも好きなものをアウトプットしてるだけだ,みたいな話があったじゃないですか。まぁその流れから,お二人が好きなものの話でここまできたわけですけど,そういう雑談聞いてても思うんですが,なんかその「アウトプット」に打算的な意味があんまり含まれてないような気がするんですよね。
これ入れたらアメリカでこれくらい受けるかなとか,これを入れておけば日本人は喜ぶだろうな,みたいな。そういうものが,そんなに感じられないなぁ,とちょっと思っていて。
須田氏:
言ってることは,うん理解できます。
4Gamer:
そういうことを遊ぶ側も敏感に察知して,ちゃんと面白さを理解するんだろうなぁと思いました。
須田氏:
そういう話で言うと,たぶん羅さんのほうが“野性味”があると思いますよ。
4Gamer:
あぁいい表現ですね,野生味。
須田氏:
僕は,ひょっとしたらそういう思考が働いてるような気もするんです。やっぱり長年作ってますし,これはウケるウケないみたいなものも自分の中にはあるわけです。
幸いにも,僕シナリオを書くじゃないですか。シナリオを書いていくと,そういうものはいったん全部なくなるんですよね。そこで打算的なものもどんどんなくなっていくような気はしますし,現場でもミーティングでみんなと話しながら,どんどんアイデアが回転するじゃないですか。そうすると,よりもっと面白いものをとスタッフからもアイデアがどんどん出てきて,「それ面白いから採用!」みたいなことになってくると,それはもう打算じゃないものになっていくんですよね。
![]() |
4Gamer:
なるほど。広い意味で「ビジネスの意味で物事を決めてない」ような気がするんですよね。もちろん,本当の裏側にはそういう意味も多分にあるかもしれないけど,でもそれは少なくとも,我々にはまったく分からない。
須田氏:
さっき羅さんも言ってましたけど,自分たちが好きなものを理解してくれる人たちが世界中にいるということを信じてるのは,まったく一緒なんですよね。
その人たちのためにゲームを作れているということがあるので,ある意味では「ビジネス」を信じてるかもしれません。そこが自分たちにとって一番の自信というか,その人たちがいてくれるからというか……。
4Gamer:
よりどころ?
須田氏:
そうですね。よりどころとか確信みたいなものになってるような気がします。
羅氏:
須田さんは最初ヒューマンというちゃんとした会社にいたから,個人のスタイルに満ちた作品を出すのはきっと簡単なことではなかったと思います。会社の管理層を説得しないといけないだろうし,予算が降りるように莫大な努力しないといけないでしょう。想像するだけでも,簡単に超えられるようなハードルではないと思います。そんなことをやってきた須田さんを尊敬しています。
僕が大手メーカーに就職した経験で言うなら,こういうゲームを開発したいと言って,僕が思い描いたスタイルの作品を売り込もうとしても,ほぼ不可能に近く,勝算がまったくありません。もらう返事は大体「頭が壊れたか?」です。
須田さんの作品を使ってボスに見せたり,投資家に見せたりしたこともあります。でも十中八九「こんなゲームは日本人しかやらないだろ」と返してきました。
なので僕がNEKCOMを立ち上げたのは,自分が思い描くものを作りたいというだけです。会社のコントロール権を自分の手に握っている限り,思うがままに,僕が面白いと思うゲームを作れるわけですから。
須田氏:
あぁそのへんは僕も一緒ですよ。まったく一緒。
ヒューマン時代には,結局僕もオリジナルのゲームは作れなくて,会社から任されたタイトルを職業監督として,ディレクションして世に出してました。なので,このままずっと会社にいたら自分の作品は作れないなと思って,独立してグラスホッパー・マニファクチュアを作ったんです。
羅氏:
そうだったんですね。
須田氏:
そう。なので,たぶん発想は同じだと思いますね。
僕の作りたいゲームは作れなかったので,独立するしかなかった。羅さんと同じ境遇ですよ。
羅氏:
ということは,グラスホッパーを設立してから作った作品は,より須田さんが“作りたい”と思った作品達でしょうか。
須田氏:
うんそうですね。
いろんなプロデューサーさんとの出会いもとても大きくて,その人たちが僕らの理解者になってくれたんです。1番大きかったのは,カプコンさんとお仕事した時に三上真司さんと出会って,三上さんが「killer7」を一緒に作ろうって言ってくれたことです。それが僕にとって,グラスホッパーにとって,一番大きな分岐点でしたね。
羅氏:
killer7はそうやって出来たんですね。
須田氏:
本当に自由に作ってくれって言われたし,そこで世界への道も開けました。そこでクリエイターとしての自信みたいなものも得られましたし,あれがすごく大きかったと思いますね。
羅氏:
そういうお話を聞くと,確かに共通しているところが多いなとしみじみ思いました。
あと,本当に自分が作りたい作品を作るには,必要な前提がたくさんあります。なにより,クリエイトに当てられるリソースを手に入れなければなりません。
チームの信頼もそうです。長年かけて一緒にやらないと築けないものです。僕の場合は,ほかの会社で一緒に仕事をしているとき,いろんな難関を共に克服してプロジェクトを一緒に仕上げたことがあるからこそ,スタジオを立ちあげるときに僕の判断を信頼して付いてきてくれたのだと思います。そういう人じゃないと,決定権も任せられないと思います。
須田氏:
そういうコアなチームがちゃんといるんですね。
羅氏:
はい,おかげさまで。
須田氏:
いま“ほかの会社”って言ってましたけど,羅さんって元々どこにいたんですか?
羅氏:
一番最初はUBIでした。その後はPandemicにいましたが,どちらも欧米系の会社です。
須田氏:
けっこう大手にいたんですね。
羅氏:
なので,いまNEKCOMのコアメンバーも,僕とは15年来の付き合いで,つまり15年も一緒に仕事をしてきた仲間です。
須田氏:
じゃあ本当にチームとしてすごく強いですねえ。
4Gamer:
しかし「15年の付き合い」ということは,コアメンバーの年齢層,結構高いですよね。
羅氏:
概ね僕と同年代で,数人は50代です。
須田氏:
羅さんはいま40代なんですね?
羅氏:
83年生まれの,42歳です。
須田氏:
若いなぁー。
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4Gamer:
え(笑)。
須田氏:
いやほら,僕らからするとね(笑)。
4Gamer:
まあ確かに。いやあ,まだまだ色んなことができますね。
羅氏:
長年の信頼関係を持ってチームが構築できて,いろんな準備ができてからようやく,自分が作りたいものを作れる日が来ました。
須田氏:
素晴らしいです。
羅氏:
昔,自分が須田さんだったらなーと思うことがありました。僕がもし須田さんのように著名であれば,上層部をきっと簡単に説得できるだろうと夢見てましたね。
須田氏:
いやいや,僕だってなかなか自由には作れなかったですよ。
羅氏:
でもすごく理解できます。実際,スタジオを立ち上げてからもそれは体感できています。
須田さんだったら簡単に出来るのに,とか言ってたのも若気の至りで,簡単に考えすぎでしたね(笑)。
4Gamer:
まぁでも分かります。
羅氏:
作品を作る過程には決定を制約する要素が多くて,本当に自分の思うようにするのは確かにとても難しいことです。
須田氏:
今は,その環境を手に入れたので最高じゃないですか。
羅氏:
そうですよね。とても重要で,逃してはいけないチャンスだと思います。
好きなものに対する執着や濃さ,“血が通っているかどうか”が,作品にとっては重要なファクターになる
4Gamer:
ちょっとメディア的な質問を挟んでもいいですか?
須田氏:
どうぞどうぞ。
4Gamer:
羅さんはどこまでいっても日本人ではないわけで,須田さんもどこまでいってもアメリカ人ではないわけです。
「何を当たり前のことを」という感じですが,それだけ雰囲気満点の作品を作っているお二人が,他国のカルチャーをテーマにしてゲームを作るときって,何に一番気を付けてるんですか?
羅氏:
僕が一番心に留めているのは,僕が作っているものは必ず僕が好きなものでないとならない,ということです。
4Gamer:
なんかカッコいいですね。
羅氏:
自分が好きなものだけが確証を持てる部分であって,ほかの要素には確証がありません。人の意見に左右されてゲームに修正を加えることをする度胸は,僕にはないのです。自分自身に,それらの修正要望を把握するような確信がなければ,足が地に付いてない感じというか,自分の中にはふわふわした不安があります。
僕が好きなものはきっと,世界のプレイヤーが好むテイストとは多少差があるであろうことは分かっています。今回のように日本に来たり,またはアメリカに行ったりするときも,いろいろなものが大きく違うことを実感します。なにより日本では,僕がひと言も発さなくても中国人であることがバレます。それくらい違うのでしょうきっと。
そのため,作品を創作する過程の中で,僕の一番のボーダーラインは,必ず自分が好きだと思えて,自分を魅了できる作品であることです。そうすれば,世界のどこかにいる,僕と似たような趣味を持っている人が,この作品に興味を持ってくれるわけですから。
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須田氏:
なるほど。すごく真っ直ぐでいいですね。
僕の場合は,自分の目線とか,日本から見た目線というものをなるべく意識するようにしています。
4Gamer:
お,ちょっと違う感じのお答えが。
須田氏:
アメリカそのものについて,僕は詳しいわけではないですし。
例えば「killer7」の場合は,アメリカが舞台なんですけども,必ず日本という国の国家の存在があって,日本とアメリカの関係性で,この政治がどうなってくのか,日米安保理がどうなっていくのかっていうのが主軸になっていきます。
「No More Heroes」はモロに主人公がアメリカ人です。でもそれはどちらかというと,僕自身がもしアメリカの田舎町に住んでて違う人生を送ってたら,どういう人生を送るんだろうとちょっと置き換えてみてから作ってるんですよね。
今作ってる新作もアメリカが舞台なんですけども,それもどこか,自分がこの場所でこういうふうに生まれたらどういう人生を歩むんだろう,どんなことが起こるんだろう……みたいなことがあって,必ずそこに自分自身をちょっと置いてみるというか。海外に行った時に,この街に自分が住んでたらどういう人生を送るんだろうって,僕いつも考えるんです。それを作品化していく感じですね。
4Gamer:
スタンスは結構お二人違うんですね。
須田氏:
そうみたいですね。
4Gamer:
須田さんは,日本から見たアメリカという視点が必ず入ってる感じ?
須田氏:
うん,それは必ずそう意識してますね。
羅氏:
でもそれはすごく同意です。このあたりの考え方も近いなと思って嬉しくなりました。
僕は,いま述べたように僕の好みから出発しているんですけど,「昭和米国物語」を作るときも,中国のデベロッパーである僕からの視点から,日本とアメリカというものを描かない,とハッキリ認識していました。僕が子供時代に触れた,日本やアメリカのカルチャーや,僕の好みそのものも,中国という環境にいる僕の成長過程で出来上がったものです。僕の思考回路や感覚もきっと,本物の日本人やアメリカ人とは違うのでしょう。
なので僕も,人の意見を頼ろうとはしなかったし,細かく考察をしたわけでもありません。多くは僕の想像からで,このように作られた作品は,中国デベロッパーの視点からこそ出来上がる表現だと思います。自分が見せたい独自性というか,僕の個人スタイルによるものです。
須田氏:
そうですよね。アメリカのカルチャーを真剣に調べたりして,正確なデータや描写に基づいて作られた“アメリカがテーマのゲーム”って大体こう……。
4Gamer:
なんか分かります。
須田氏:
本当に好きなものを,好きなようにアウトプットすることは本当に大事です。だからSucker Punchが「Ghost of Tsushima」を作ったのは,本当にすごいです。日本人以上のものを作り上げた。
4Gamer:
あれは日本的には,逆パターンですごいプロダクトですよね。
須田氏:
なにがすごいって,日本人以上に日本のことや対馬のことを理解している。
で,今度は北海道じゃないですか。ああいう,好きなものに対する執着や濃さみたいなものって,ある意味では僕らと同じような熱量を持ってるんじゃないかなって思いますね。
4Gamer:
羊蹄山をテーマにするとは思いませんでしたよ。
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「Ghost of Tsushima」は,日本文化の中の代表的な風景やシーンを凝縮して入れていて,対馬を完璧に再現しているわけではなくて,リアルの対馬と大きな差異がありますよね。
あれも別に“考察”をして作っているわけではなく,彼らが考える対馬を入れているんだと思います。
須田氏:
うん,そうですね。
4Gamer:
さっきの須田さんの,ちゃんと研究すると……っていうのは,好きで好きでたまらないという気持ちがないからなんですよね。
須田氏:
そう……だと思います。
4Gamer:
お二人は,“自分のルーツ”をアウトプットしてるわけじゃないですか。子供の頃の体験だったり,好きでたまらないものだったり,そういうものを形としてアウトプットしてるわけで,まぁそもそもの立脚点が違いますよね。
須田氏:
ぼんやりした言い方になっちゃいますけど,“血が通っているかどうか”という話になってきちゃいますもんね。
4Gamer:
そこは結局,一番重要なんですよねえ。
羅氏:
すごく同意です。
ゲームを作ることはやっぱり,日本のコミックの中に描かれる中二病みたいな気持ちでいないといけないのかもしれません。
(一同笑)
羅氏:
カルチャーの面白いところは,人が違えば,同じものに対しても理解する角度や思いつくものが変わるということです。
話の最初のときに,須田さんがガンダムネタを口にして僕が会話の中の「アムロとララァ」を聞き取れたとき,真っ先に頭に浮かんだのはNTRでした。
4Gamer:
この人もどこまで日本のサブカルに詳しいのか……。
須田氏:
あとはやっぱり時代がちょっと変わってきてるというのはあって,さっき羅さんも言ってましたけど,日本の若い人たちに伝わってない,伝わりにくいというのはあるかもしれません。逆もありますけど。
4Gamer:
逆?
須田氏:
例えばイギリスとかって,アニメを全然観る土壌がなかったらしいんです。米国産のアニメばかりで。だけどコロナ明けた瞬間に突然,ロンドン中にアニメショップが出来上がったらしいです。コロナ禍でみんなアニメを観るようになって,「こんなに面白いアニメがあるんだ!」って。
4Gamer:
それまではそういうのがなかったということですか?
須田氏:
そうみたいです。まぁ人づてに聞いただけですけど(笑)。
でも様々な要因で環境が変わって,世界中に,今までにいなかったファンが増えてきてるわけですよ。だからたぶんグレンラガン※とかも,これから若い子たちが見始めてくると思うんですよね!
※天元突破グレンラガン
4Gamer:
そこで急になんでグレンラガン……(笑)。
あーでもカラオケとかもそうですよね。一周回って昭和のヒット曲が歌われたり。
須田氏:
そうですよ。昭和米国物語のあのチョイス(「それが大事」)も素晴らしいです。新しいんですよね,むしろ。
あと「昭和」って今すごく日本でもフィーチャーされ始めてるので,またそれもいい後押しになりますよ。
4Gamer:
羅さん知ってます? 昭和100年なんですよ。
羅氏:
ふっふっふ。もちろん知ってます。
須田氏:
さすがだ(笑)。
4Gamer:
いいタイミングですね。そんなタイミングで、ぜひとも昭和米国を遅れなく出していただきたいですね。
須田氏:
ホントそうですね。
4Gamer:
須田さんはあんまりそういうこと言わないほうがいいのでは。
須田氏:
あー……うちはもうだいぶ,はい(笑)。
4Gamer:
まぁでもお互い新作が控えていますし,クリエイターらしく作品で語っていただきましょう。
須田氏:
そうですね。僕はまだ色々言えないんですけど,もどかしくて(笑)。
羅氏:
この前須田さんの新作についてちょっと話す機会があったんですが,すごく気に入ってます。
須田氏:
おお,ありがとうございます。
4Gamer:
それ書いていいやつですか?
須田氏:
もちろんダメなやつです(笑)。
(以下,須田さんの新作の話)
羅氏:
……というわけで,さすが須田さんの作品だと思いましたね。
須田氏:
ありがとうございます。
羅氏:
“おなじみの味”でした。
(一同笑)
4Gamer:
ではそんな感じで,お2人の新作に期待してます!
須田氏:
ありがとうございました。
羅氏:
非常感謝!
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―――2025年2月19日収録
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昭和米国物語
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- Xbox Series X|S:ホテル・バルセロナ
- Xbox Series X|S
- インタビュー
- 編集長:Kazuhisa
- カメラマン:林 佑樹

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