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[インタビュー]コーエーテクモという会社のAIへの向き合い方は,堅実かつ歴史に裏打ちされたものだった。AIの使い方から会社のポリシーに至るまで,普段は表に出ない人にあれこれ聞いてみよう
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印刷2023/08/30 17:00

インタビュー

[インタビュー]コーエーテクモという会社のAIへの向き合い方は,堅実かつ歴史に裏打ちされたものだった。AIの使い方から会社のポリシーに至るまで,普段は表に出ない人にあれこれ聞いてみよう

 1956年に,初めて「AI」という言葉が登場してから70年近く。2000年代に,ビッグデータや機械学習,ディープラーニングなどの登場により起きた「第三次AIブーム」は,2022年秋に突如として「生成AIブーム」として世間を騒がせることになった。
 その最先端の話題をかっさらっていたのが,Stable DiffusionとChatGPTであることに疑いの余地はないだろう。昨今ではようやく少し落ち着きつつあるが,一般メディアも含め,その名を聞かない日はないというくらいには浸透してきている。

 否定/肯定入り交じったさまざまな見解が聞かれるAIだが,ゲーム業界がその影響を“モロに”受け取るであろうことは想像に難くない。例えばモンスターの行動AIだったり,NPCの会話だったりは当たり前として(すでにそのあたりは普通に使われている),イラストやシナリオの生成,仲間キャラの自律的な行動など,AIによる恩恵を割と強く受ける業界なのだ。
 大手メーカーは,このあたりをどう考えてるのかな,AIに対する考え方を知りたいな,という大変ボンヤリしたレベルの話を振って「よろしい,お答えいたしましょう」と返してくれたのが,今回登場するコーエーテクモホールディングスだった。

 最先端の技術だし,使い方や使われ方はもちろん,法的側面もまだキチンと整理されてない以上,あまりにも核心部分に寄った話はできない。それでも「今コーエーテクモホールディングスがAIとどう向き合っているのか」は聞くことができたので,ぜひ一度お読みいただきたい。

(右)コーエーテクモホールディングス 常務執行役員 管理本部副本部長 総務部長 兼 法務部長 西村智稔氏
(左)コーエーテクモゲームス 執行役員 エンタテインメント制作本部副本部長 兼 フューチャーテックベース長 三嶋寛了氏
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4Gamer:
 本日はお時間ありがとうございます。
 コーエーテクモさんが,ゲーム開発においてAIとどう向き合っているのかというのをちょっと聞いてみたくて,先日襟川さんにお会いしたときに相談したら「それであればウチの三嶋をお出しします」と即答されまして(笑)。なんでもコーエーテクモゲームスは,AIに限らずゲーム開発における技術開発専門の部隊を持っているとかで……。

※ここでの「襟川さん」は,コーエーテクモゲームスの取締役常務執行役員にして,エンタテインメント事業部ルビーパーティーブランド長,そしてマーケティング本部副本部長を兼任する,襟川芽衣氏。

西村智稔氏:(以下,西村氏)
 三嶋の「フューチャーテックベース」ですね。

三嶋寛了氏:(以下,三嶋氏)
 そんなところで名前を出されるとは光栄です(笑)。

2020年1月1日付にて,株式会社コーエーテクモゲームスは技術支援部をフューチャーテックベースに変更した。(関連記事
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4Gamer:
 ゲームの内側で使われるAIとかもそうですが,外側の部分……開発における効率化のようなところにもAI的なものを使っているとのことで,そのあたりもいろいろお話できればと思っております。
 ……ところで三嶋さんのお名刺の,このフューチャーテックベースのロゴマークは何を表してるんですか?

三嶋氏:
 これはコロンブスの卵です。

4Gamer:
 なるほど! 確かに下がほんの少しだけ潰れてますね(笑)。
 あと今日来てみたら,三嶋さんだけでなく西村さんまでいらっしゃって,名刺を拝見すると「常務執行役員」「管理本部副本部長」「総務部長」「法務部長」と書いてあって,しかも「情報システム部」もやっているとかで,西村さんが明日病に倒れてしまったら,コーエーテクモのバックオフィスは相当危ないのでは……。

西村氏:
 事業部門などが本業に専念できるように「職場の環境を整えて,ビジネスリスクを排除する」という役割を担ってまして,総務,法務,情報システムをまとめて担当することで,スピード感を持って対応することができます。
 私が一人倒れたところで優秀な部下がいるので,安心して倒れられます(笑)。

4Gamer:
 それはそれで(笑)。
 さて昨今の生成AIの急激な発展というのをいったん脇に置いておくとしても,昔からもちろんAIと呼ばれるものはありました。しかしここ1年弱くらいの凄まじい進歩はちょっと類を見ない速さで,コーエーテクモとしてその部分についてどういう取り組みをしているのか,みたいなことを聞いてみたいと思ってお時間いただきました。

西村氏:
 ではまず私の方からご説明差し上げます。
 ご理解の通り,AI(注:従来からのAI)と生成AIは分けて考えてまして,AI自体は元々ゲームの中のNPCの思考とかで使ってますけども,生成AIに関しては本当に昨今の進歩が急激ですよね。基本的には,生成AIも活用できるのであれば活用すべき,という判断をしています。
 そしてこれはAIだけの話ではないんですけど,あらゆる新規のデジタル技術というものは,基本的にエンターテイメントコンテンツ,つまり我々のビジネスと相性がいいと思ってるんですね。

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4Gamer:
 そこはおっしゃるとおりですね。昨今のデジタル技術は,ほとんどすべてがエンターテイメントと相性がよさそうです。

西村氏:
 ええ。VRが出たときもARが出たときも,昨今ではNFTなんかもそうですね。とにかく何かしらエンタメに絡められます。ただちょっとだけ違うのは,例えばVRとかARとかはユーザーが感じる“ゲームの面白さ”に直結する技術なんですけども,生成AIは,これがあるから,これを使ったからといって,ゲームの面白さに直結するわけじゃないので,そういう意味では一般的な「ツールの一つ」という捉え方をしています。

4Gamer:
 なるほど,冷静です。

西村氏:
 ですので世間では大きな話題になっていますが,生成AIだからといってすごく特別視することなく,活用できるのであれば活用すべき,というのが,今のところの会社方針になってます。

4Gamer:
 変に気張って対応していないのがコーエーさんらしいというか。

西村氏:
 あと私の立場から申し上げるなら,情報システム部としてはセキュリティ部分がやはり悩ましいですね。個人情報保護とか,情報流出の問題とか。営業秘密や開発情報が流れてしまうことは困ります。そして著作権に絡んでは,法務のマネージャーという立場もあります。
 それらをすべて鑑みて,どこまでリスクを削除しながら使えるかというところで今,社内のガイドラインを作っていて,そのガイドラインの中で使ってもらおうと考えているところです。

4Gamer:
 やはりガイドラインがあるんですね。

西村氏:
 はい,まさに作成中です。ただ,同時並行的に行政の動きもどんどん動いていて,法改正のほうはそう簡単に進まないまでも,政府の方でも……内閣府の「AI戦略会議」にて使い方をどうするか有識者会議を開いてるところなので注視しています。

4Gamer:
 動くときは割と早いかもしれませんし。

西村氏:
 こういうのはなんでもそうですが,使わせたくない人と,使わせたい人/使いたい人のせめぎ合いになります。そもそも著作権も,著作権を強めたい人と弱めたい人のせめぎ合いでここまでずっときてる法律ですし。

4Gamer:
 なるほど。

西村氏:
 当社も当然両面ありまして。やはり当社のグラフィックなどについてはあまり不適切な形で使っていただきたくないと思うところはありつつ,一方で,生成AIを有効活用していきたいという側面もありますので。
 なので,一度どこかで線を引いて,その一回で終わりというわけではなくて,このガイドラインを頻繁に改訂をしてブラッシュアップしていくつもりで作ってます。

4Gamer:
 今だと,どんな感じのレベルで使わせる感じで考えてるんですか。

西村氏:
 社内資料とか社内での活用に関しては,おおむねOKにしたいと思っています。ただ生成AIで作ったものを製品に採用するとなると,著作権上の問題が今のところは完全にはクリアできておらず厳しいですね。特に当社の場合,日本の著作権法だけに注意すればいいわけではないので,アメリカとか欧州の著作権法においてどうなるのかというところも,非常に気にしています。

4Gamer:
 社内資料用とはいっても,会社の契約書をホイッとアップロードしちゃう人とか,会場の重要情報をほいほい書いちゃう人とかもいますしね。

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西村氏:
 デジタルに限りませんが,人類の歴史を振り返ると,新しい技術が出たときには,それを正しく前向きに使おうとする人と,悪い使い方をする人も同時に出てくるわけじゃないですか。
 スタート時には必ずその両者がせめぎ合うので,即飛びついて一番槍で行って,一番最初にリスクにぶつかるのを避けたいという気持ちは,正直に言ってあります。逆に,本当に新しい技術なので,先陣切って使いたい気持ちもまたありますし,社内からも当然そういう意見は出ています。

4Gamer:
 御社サイズの規模になると,そこは本当に難しい問題ですよね。

西村氏:
 そのリスクとリターンを天秤にかけるのも難しいんですが,防衛方法が見つかる前に攻撃方法が先に発展したりもしますし……。
 先ほどの話に戻りますが,ユーザーにとっての価値に直結するのであれば,頑張って一番に使っていきたいのですが,生成AIに関してはそうでもないかなと個人的には思っているところです。

4Gamer:
 先ほどもおっしゃっていた「それが即,面白さに直結することはないだろう」ということですね。

西村氏:
 その通りです。ユーザーにとって重要なのは出来上がったゲームが面白いかどうかであって,生成AIを使ってるかどうかは気にしないと思います。ですのでそういう意味では,一番手に先陣切ってどんどん使っていこう……ということを最重視しているわけではないです。

4Gamer:
 どんな問題が起こるかも,まだ全部分かってるわけじゃないですしね……と,三嶋さんは何かしゃべらなくてもよいんでしょうか(笑)。

三嶋氏:
 いや西村さんが大変いいこと言ってますし,私が喋っちゃうと技術寄りになっちゃうので(笑)。

4Gamer:
 技術寄り,ぜひ聞きたいですね。

西村氏:
 そろそろバトンタッチしないとですね(笑)。
 そんなわけでいまはまだ,生成AIを,不適切な形やダークな形で利用したいところに知恵を絞ってる人達がいる可能性が高いので,まずはちょっとそこの流れを見つつというところですね。

4Gamer:
 先ほどの話で言うなら,社内向け資料だったり,ラフを作ったりとかっていうのは,使い方としてはとてもありがちですがそれでも生産性にはかなり寄与しそうですよね。

西村氏:
 そうですね。使い方としては,いまいるプロジェクトメンバーが思いつかない部分の“斜めからの提案”みたいなもので,例えば候補案を4つ出してもらって,こういう見方もあるんだなという気付きの部分に使うのが一番いいと思ってるんです。その段階だと,著作権法のリスクも抑えることができます。
 それを踏まえて,それらの生成物をどう生かすのかというそこから先の話は,やはり人間の仕事ですね。

4Gamer:
 こないだ私,契約書のサンプルをChatGPTに作らせたら,おそらく某ゲーム会社さんと下請けさん,みたいな内容のものをChatGPTが吐き出してきてですね……

西村氏:
 え,それホントですか。

4Gamer:
 はい。ありゃーと思いながら見てましたが,そういうことを防ぐためにも逆アプローチ……というかある意味正面突破として,コーエーテクモホールディングスでLLMを作るみたいな,そういうプランはあるんですか?

西村氏:
 あー……(笑)。今のところはないと思うんですけど,どうです? 三嶋さん。

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三嶋氏:
 そうですね,いろんな考え方があると思うんです。ただあくまでも,使うところ……つまり目的ですね,それに合ったものであれば開発も考えますし,あるいはチューニングも考えていきます。
 それに開発効率化やユーザーの楽しさに繋がるかどうか,そこに沿った形で使うものを考えていくので,あまり私としては用いるAI技術がなにであるかを重要視していません。とは言え,先ほどの倫理観の話もあります。AI倫理といいますか。ですので,そこの区別は適切に行うように気を付けています。
 繰り返しになりますが,技術ありきではなく,求めるものに対するAIの振る舞いというか“何が適切か”が重要なので,技術の話ではないと考えています。

4Gamer:
 その場合の“技術の話”というのは手法というか,そういうことですか?

三嶋氏:
 そうですね。ルールベースであろうが,深層学習であろうが,強化学習であろうが,生成AIであろうが。そういう話ではないという考え方です。

4Gamer:
 なるほど。さすが技術屋さんらしいアプローチです。


クリエイターの動きだったり成果が最大限に発揮できる形でAIを使っていくことが,非常に効果的だと思っています


4Gamer:
 それが何のAIであれ,ゲームには,たぶんこのあとどんどん深く絡んでいくだろうとは思っているんですが,そうなってくると逆に,人間に作れないこと,人間にしか作れないこと,みたいな議論も外せなくなってくると思うんです。
 そのへんの問題については,たぶんこんな感じになるんじゃないかなとか,もしこうなったらこういうふうにしなきゃダメかなとか,お考えのことが何かあったりしますか

西村氏:
 その問題でちょっと盲信してはいけないと思っているのは,確かに人間が気づかないものとか,自分たちのノウハウにないものをどんどん出してくれるのは素晴らしいと思うんですが,AIが作ったものが人間が作るものより絶対的に良いとは限らないわけです。

4Gamer:
 はい。

西村氏:
 釈迦に説法だと思いますが,文章方面なんかもそうですよね。今は「生成AIでここまで作れるのか」という驚きもあって「AIは素晴らしいものだ」と評価されている部分も少なからずあると思いますが,ちょっと落ち着いて読んだときに,そこまでいい文章なのか? というのはやはりあると考えます。

4Gamer:
 確かになかなかキレイな構造の文章を書くんですけどね。

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西村氏:
 AIがどれだけいいものを作ってきても,その上にさらに人間が何かをかぶせて仕上げればいいと考えますし,我々のゲームの受け手であるユーザーも人間なので,最終的にユーザーとどう噛み合うかという部分が重要です。アジャストというか最後の仕上げはどうしても人間の手が必要なんじゃないかなと思っています。

4Gamer:
 私もそうありたいと思っているんですが,なぜそこまで「人間の手」にこだわってしまうのか自分でもちょっとまだ分かってないんですよね。明確な答えがないといいますか。

西村氏:
 おっしゃることは分かります。それってたぶん,80年代にあった「手書きがいいか」「ワープロがいいか」みたいな論争の繰り返しなんですよね。うまくツールを使える人が出てきて,そういう人は「仕事ができる人」って評価されるようになってきて。
 となると,例えば自分で文章を考えるのは上手じゃなくても,AIツールを使ってプロンプトとかで上手な文章を生み出せる人は「上手に仕事ができる人」になりますよね。仕事のできるできないの基準が,またちょっと変わってくるのかなというのは,特に事務職においてありそうな話だと思います。

4Gamer:
 イラスト関係とかはなんか比較的早めに影響が出ていて,海外のゲーム会社によっては生成AIを使い出してイラストレーターをリストラしたとかそういう話もありますけど,その辺についてはどうお考えですか。

西村氏:
 それでもなお,やはりAIができない部分をできる人っていうのは重宝されると思うので,追いかけっこになると思うんです。そういう部分が見つかったら,次はその部分もAIで出来ないかと考える人が出てくるので。
 ただ,どうですかね……いずれやはり限界が来て,人間じゃないとできない部分ってやっぱりあるんじゃないかなと私は思っています。

4Gamer:
 あるんですかねえ……。結構真面目に考えるんですけど,このままAIが進化していくと,人間じゃないとできないことは実際に少なくなってくる気はします。

西村氏:
 とりあえずのところは,「感受性」をどこまでAIで再現できるか,かなと思ってます。文章でも音楽でもCGでも,受け手であるユーザーは,その著作物を受け止めるわけですけども,受け止めたときに“琴線”に触れる触れないというところは大きいと思います。
 でもそこについてもAIで「琴線に触れる」レベルのものを作られてしまったら,結構お手上げかもしれないですけど(笑)。

4Gamer:
 我々も,ニュースじゃない記事なんかは読み手のことを考えて書くわけで,現時点ではそういうところをAIが処理するのは難しい気はします。

西村氏:
 文章の種類もありますね。「読みやすい文章」とか「万人が理解しやすい文章」とか,そういうものについては生成AIは既にハイレベルに見えます。意思とか感情とか,思想とか思考とか,そういったものを載せるという部分では,現時点ではまだ人間の方に一日の長があるんじゃないかと思っています。

4Gamer:
 なるほど確かに。
 そういう話で言うならば,個人的には「もうこれでいっか」っていう適当なことが出来るのが人間の強みだと思っていて,たぶんAIにはまだそれができないですよね。「もうちょっと突っ込んで書かなきゃいけないけど,このへんにしないとキリないしまぁいいか!」みたいなやつです(笑)。実はそれが人間の強み……というか強さだと思ってるんですけど三嶋さんどう思われますか

三嶋氏:
 急に振りますね(笑)。

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4Gamer:
 なんか私と西村さんばかりしゃべっているので……。

三嶋氏:
 でしたら,私の考えもほぼ同じです。大量のものを一定の品質で作るとか,効率よく物を作るとか,人間なら手を動かさないと調整できないところを繰り返し調整するとか,そういうものこそ計算機の得意とするところなので,そこでのメリットはあると思います。
 ただ,先ほど西村さんもお話しされた通り,人の琴線に触れたり,“伝える意図”を持ったり,そういうのは人間の仕事なので,あくまでもクリエイターの制作においてアシスタントとしてAIを活用するというのが,開発のときは大事じゃないかなと思ってます。

西村氏:
 いずれ精度が上がっていけば……という恐怖心はありますけどね。でもまぁ根性論で申し訳ないんですが,やはり「負けちゃ駄目だ」っていう思いは大事なことだと思います(笑)。

4Gamer:
 いやでも,ホントそうですよね。

西村氏:
 とても優秀なAIができて,場合によっては人の感情を揺さぶるようなものまで作れるレベルに達したとしても,やはり人間のクリエイターは「その上」をいかないとならない気がします。
 特に当社は「創造と貢献」を掲げていますので,その“創造”の部分でAIの方がいいもの作れるよねという時代が来てしまったら,ちょっともう看板をおろさないといけないのでは……とか。そうはなって欲しくないし,そうあるべきではないですが。

4Gamer:
 一足飛びにそのレベルまでいかないとしても,途中の過程の付き合い方は大事ですよね。

西村氏:
 はい。急激な発展が怖くなっても,排除しちゃいけないとも思います。やはり「AIはすごいな」って認めなきゃいけないと思いますし,単に「すごいな」で終わらずに,我々には何ができるだろうと考えなきゃいけないですよね。
 さっき手書きとワープロの話をしましたけども,今回のも急速な変化なので,本当にどんどん頭を切り替えて,追いついて追い越していかなきゃいけないという側面は確かにあるわけですし。

4Gamer:
 技術的に見ても,そのうち感受性を揺さぶるようなものは作られると思いますか?

三嶋氏:
 AIというのは,人の知的活動をコンピュータのシステムに実装していくということなので,それは推論ベースだけには限った話ではないですよね。ルールベースも十分可能性としてあります。
 どのような形で作っていくかはまだ見えませんので,何とも言えないんですけれども,一つ言えるのは……いや,これは私の個人の意見なのでどうかな……。

4Gamer:
 いやいや,ぜひ個人の意見を聞かせてください。

三嶋氏:
 先ほどお話ししたように,意図したものを伝えたいという意図があって,出しかたを決めて出していくその背景には,その人の「人生観」とかが絡んでくるわけです。そういうものを持ったAIはいけると思います。
 要は,人を配慮できる,人のことを思いやれる,そんな形の思考を持ったAIであれば,この人はこう楽しませてあげたいからこういう形のものを生成していこうという形で成立しますし,可能性としてはあるかなとは思ってます。

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4Gamer:
 なるほど。「AIを知ることは人を知ることだ」というのがしっくりきますね……。

三嶋氏:
 とはいえ,やはりクリエイターこそがそういう部分に情熱を持ってやってますので,そのクリエイターの動きだったり成果をですね,最大限に発揮する形でAIを使っていくことが非常に効果的だと思っています。

西村氏:
 私はクリエイターじゃないんですが,もう少ししゃべっていいですか?(笑)

4Gamer:
 ぜひお願いします。

西村氏:
 改めて,生成AIについては,競争相手として素晴らしいものが出てきたなと思っています。
 その昔シンセサイザーが出てきたときに,あのころ多くの人が「本物の楽器には負けるよね」と言っていたわけですが,それが正しかったかどうかというのは,今の時代にもう結果が出てるわけじゃないですか。

4Gamer:
 なるほど,シンセサイザー。

西村氏:
 でもそのときに拒絶もせず,かといって恐れすぎもせず,うまく付き合った人というのが,次の音楽の世界に生きてきたんだと思いますし,今回もそれと同じ動きになるのかなという気がします。技術革新というのは,いつでもそういうことだと思うんです。
 生成AIは,VRとかに比べると裾野が広くて,いままで最新技術にあまり触れてこなかったような人でも,とっつきやすくて結果がすぐ出るものだから,みんな生成AIに飛びついているという動きを感じます。今回はそうやって広がりを見せていますが,基本的にはどのツールでもあまり本質は変わらないんですよね。

4Gamer:
 確かに裾野の広さは感じますね。いままでの最新技術の中で,パッと見で使えて,誰にでも分かる凄さがあるせいかもしれません。とくにChatGPTは,使うための前提知識が何も必要ないですし。

西村氏:
 ですよね。恐れすぎず,かといって拒絶もせず,活用できる部分で活用して。とにかく我々の最終のお届け先であるユーザーさんにとって,何が一番重要なのかという軸を見失わなければ,とても優秀なAIが出てこようが,さらに次の技術が出てこようが,そこはあまり変わらないところなので,必要以上に乱されることはないと思います。

4Gamer:
 でもそれがなかなか難しくて,なんか必要以上に乱されてる気はします。

西村氏:
 まぁ確かにそれは思いますね(笑)。

三嶋氏:
 AIのシステムがちゃんと出来上がってきたという流れなんですよね。いままでのAIは一つの仕事をするものであったのに,それが複数組み合わさって,さらに高機能のものが形になってきた,と。より人間が活用しやすい形になってきていると思われます。

4Gamer:
 でも先ほどのシンセサイザーの例とかに近いですが,ここ最近ではイラスト界隈なんかを筆頭に,ちょっと混沌としてますよね。必要以上に違う意味で恐れられているという感じが,個人的にはちょっとあります。

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西村氏:
 イラストの話に限りませんが,一般のメディアなんかでもちょっと煽るのもよくなくて,すぐ「仕事がなくなる」みたいな話をするじゃないですか。

4Gamer:
 いっときよりマシですが,確かにその風潮はまだありますね。

西村氏:
 そういう話ばかりがクローズアップされてる状況はちょっとよろしくないかなと。
 まぁ,実際に生成AIも含め「AI」によって仕事がなくなってしまった人がどれだけいるのか,私には分かっていないのですが,変化への対応は誰であってもすべきですし,できるんじゃないかなというのが個人的に思うところです。そして,AIによってチャンスが広がった人たちもいることが,あまり注目されていない気がします。

4Gamer:
 どのみちこの進化は止まらないですしね。

西村氏:
 あと先ほどおっしゃっていたように,「完璧じゃない」ところは人間の強みだと思ってます。いまのAIじゃまだ合理的すぎるので,それであるうちは,人間が負けることはないんじゃないですかね。
 例えば「信長の野望」をプレイしてても,AI大名は基本的に天下統一を目指しますが,人間だと急に天下統一そっちのけで茶器集めたりするじゃないですか。

4Gamer:
 なるほど確かに(笑)。

西村氏:
 おそらく現状のAIは,そういうプレイはしないと思うんですね。まぁ設定すればできるのかもしれないんですけど(笑)。
 その理不尽さっていうのが人間の魅力であって,完璧じゃない理不尽さから,新たなイノベーションが生まれたりするわけです。無駄からイノベーションが生まれるというのは,たぶんこれまでもたくさんあったと思いますし。そこにまだ人間の強みは全然残ってるんじゃないかなという気はしています。

三嶋氏:
 その合理的/非合理的という話で言えば,AIの中にも“非合理的な要素”を入れることはできますよ。

西村氏:
 それは失礼しました(笑)。非合理さ,理不尽さもAIでしっかりと再現されてしまうとなれば,また話は変わってきますね。
 じゃあ別のポイントとしては,先ほども話にあがった,生成するときの“意図”ですかね。そこの根拠となる,理屈を作っていくというところが今の生成AIじゃまだ弱いかなと。なので,生成物を見たときの人の“共感”に繋げるのがまだ難しいかなと思っています。

4Gamer:
 しかしすごく大ざっぱな話をすると,人が描こうがAIが描こうが,利害関係のない第三者が見るときには,どちらでもいいわけです。正直,たぶん普通の人では見分けがつかないですし,見る人の判断に委ねられているので,なんならAIのイラストでも「共感」を得てしまうと思います。AIイラストがコンテストで優勝したり,AI生成の写真が受賞したり,当たり前に起きているわけですし。
 なので,描いてる人が急激な変化に拒否反応を示すというのは,気持ちとして分かります。でもそうじゃない,周辺の人達が騒ぎまくってるのがちょっと分からなくて……。でもつまり,その中に「何を恐れている」のかの本質が含まれてる気はします。

西村氏:
 シンプルに「分からないもの」「理解できないもの」に対しての反発……みたいなものなんでしょうか。世界的にもその傾向はありますが,日本人は特にそれが強い気がします。新しいものに対する変化にちょっと弱いといいますか。

4Gamer:
 共存もなかなか難しいんですかねえ。

西村氏:
 でもそうやって,AIがいろいろなアウトプットを出してくると,今度は違ったものが欲しくなるのが人間の性(さが)なので,大丈夫かもしれませんよね。この多様性というところがミソで。
 流行りの文章があれば流行ってない文章を,流行りの音楽があれば流行ってない音楽を,と求める人もいるので。あぁでも,もちろんそこにもどんどんAIがついてくる可能性はありますけどね。

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4Gamer:
 まだ現段階であのレベルですから,確かに先がちょっと予想できないです。

西村氏:
 予想できない,という点で言うと,PCとかコンソールに限らず,ボードゲームでも何でもいいんですが,すごく良く出来たNPC相手に戦うよりは,やはり人間対人間が一番面白いと思うんですよね。私が好きな麻雀なんかもそうですけど。

4Gamer:
 あぁ麻雀はまさに,ですね。

西村氏:
 AIもその域までたどり着ければいいとは思ってるんですけど,どうなんでしょう。そこまでいけば,それは素晴らしいゲームが作れる気もします。例えば1対100でやるようなバトロワでも,100人全部をAIにして,新しい面白さや新しい楽しみを今以上にユーザーに届けることができるのであれば,それはそれで成功事例になると思うんです。
 まあでも思考の読めなさとか理不尽さとかは,人間が持つものなので……。最善手で進めてるはずなのになんで? みたいな理不尽さとか,理詰めの詰将棋のようにはいかないところが,やっぱり人間を相手にしている面白い部分なので,そこも再現できたらいいですね。……できるんですか?

三嶋氏:
 作ればできると思います。

4Gamer:
 即答でした。

三嶋氏:
 先ほどお話しした通り,一つのことをやるだけではなく,いろんなものの要素を入れてそれらを思考判断のベースに入れていけば,そうなっていくと考えています。

西村氏:
 論破はされましたが,思わぬところで老後の楽しみが増えました(笑)。

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「信長の野望・新生」は4回天下統一したんですが,全部委任です


4Gamer:
 そんな三嶋さんは,「信長の野望・新生」(以下,新生,PC / Nintendo Switch / PS4)の合戦AIを担当したとのことなんですが,それについてもせっかくなのでちょっと聞いてみていいですか?

三嶋氏:
 開発したのは私の部署のものですが,私が答えていいことであれば答えますよ(笑)。

4Gamer:
 あの合戦のAIって,ちょっと地味ではありますが結構優秀ですよね。正直な話「AIって言っても,まぁたぶんそこまでじゃないよね」と思っていたんですが,合戦ではフルオートしかやってないです私……。

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三嶋氏:
 そう言っていただけると(笑)。
 今回の新生は,武将の個性をAIで表現したいというのがテーマでした。一作前では,大名の個性をAIで表現したんですが,今回は武将です。
 新生で私の部署が担当した「合戦」では,武将の行動で個性を感じられるように挑戦しました。なので,ユーザーが見て「なるほどこの武将はこういう人だから,こういう風にいくんだな」というのが分かりやすくなっています。

4Gamer:
 その「こういう人だからこういう風にいく」というのは,どういうプロセスで決まってるんですか。

三嶋氏:
 実は大局的に合戦を感じるというのはなかなか難しいものがあって,一つのAI要素だけだと困難です。なので,中には3層のAI要素があります。ゲームAIの面白いところは,限られたマシンリソースの中で,認識して,記憶して,思考して判断していかないといけないところなんですが,特別なAIのアーキテクチャをそれぞれ設計することで実現していくんです。

4Gamer:
 3レイヤーになってるんですね。では,そのそれぞれがどんなものなのか教えてください。

三嶋氏:
 まず最初は大将としてのAI。これは全体の采配ですね。今が優勢なのか,劣勢なのか,それを見ながら全体の調整をします。そして2層目には,軍師のAIを持っています。これは,全体の局面を見ながら,どのポイントにどの部隊を持っていくのがいいのかとか,そういうことを考えています。

4Gamer:
 その軍師AIは,どの部隊をどこに持っていくのかを考えて,実際に指示を?

三嶋氏:
 はい,部隊に指示を出す形です。軍師AIは,ここにこれを動かして挟撃しなさいとか,この部隊を救援しないと駄目ですねとか,遠距離射撃のポイントとしてはここがいいんじゃないですかねとか,そういうところを見ている層なんです。そして最後の層として武将自体のAI層がありまして,これが部隊行動をやってます。

4Gamer:
 それは,メタAIとナビゲーションAIと……みたいな解釈でいいんでしょうか。

三嶋氏:
 厳密にはメタAIではないんですけど,そういう風には見えますね確かに。それぞれが役割を持って合戦を司っているイメージになります。
 あと武将の行動なんですが,「行動で見た目を変える」っていうのはなかなか難しくて,AIを実際に実装していくときに,武将AIがゲーム世界の何を認識しやすくするのか,そういうところで特徴立てた部隊行動を引き出していきます。

信長シリーズ第16作目にしてシブサワ・コウ40周年記念作品の,「信長の野望・新生」。2023年7月20日には,「信長の野望・新生 with パワーアップキット」も発売された
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4Gamer:
 といいますと……? 武将の性格的なものですか。

三嶋氏:
 例えば,武勇に優れてる,守りに優れてる,知略に優れているという武将がいた場合,武勇が優れている武将は好戦的です,要は敵を見つけることに長けてるんです。守るのが上手な武将は,相手の行動を妨害することに長けてるんですね。それをできる情報を認識しながら動いていきます。
 じゃあ知略は何かというと,自分の今の状況を“より有利な状況”に持っていくのが得意です。挟撃をできるようなところを選んだり,あと射撃ポイントへ積極的に向かったり。そういうことを,それぞれの部隊の武将が考えています。
 でも,そこだけだとやはり一本調子になるんですよ。

西村氏:
 作業ゲー的になっちゃいますね。

4Gamer:
 なるほど。単調になってしまう,と。

三嶋氏:
 ですので,個々にさらに特性を持たせてるんです。例えば「乾坤」(けんこん)という特性……これは天と地のことですが,一か八かみたいな意味です。
 武将が攻撃するときには,近くにいる敵部隊を攻撃するのが普通なんですが,この特性持ちの武将はそこを攻撃せずに,ここを取れば勝ちというポイントである退き口を積極的に狙っていくわけです。そういう特徴を持っていて,先ほどお話ししたルールだけでは動いてないので,一様にはならないというわけです。

4Gamer:
 なるほど。武将に付けられた性格によってあの動き方が変わってるんですね。やたら序盤から毎回退路を塞ぎたがる奴とかいて,「せっかちだなぁ」って思ってました(笑)。

三嶋氏:
 まぁそうですね(笑)。特性と能力,そして現在の自分の役割から,何が適切かを判断しています。

4Gamer:
 要するにそれって「意思決定」ですよね。武将の意思決定のフェーズって何段階ぐらいになってるんですか。

三嶋氏:
 何段階……という形で説明するのはちょっと難しいですね。

4Gamer:
 では聞き方を変えて,どういうプロセスで意思決定が決まっていくんですか?

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三嶋氏:
 プロセス的には,先ほど申し上げた通り,認識をしたものに対して,ある一定の状況に応じての処理をして判断を決めていきます。そのあたりはルールベースですね。なので,複雑ではあるんですけど,先ほどお話ししたどれぐらい認識ができるかとか,そういうところを調整したりもしていくので……難しいですね(笑)。
 こうだからこうなる,とかそういうものもなくはないんですが,それだけではなくて,環境の状況に応じて何をする,という形で調整していくんです。そうしないと,特定の条件で必ず同じことが起きたりするので。

4Gamer:
 それぞれの武将は,メタAI的な感じで戦局情報を全部持ってるんですか?

三嶋氏:
 戦局情報は,その場その場で認識していくもので,各武将は自らの周辺に関する情報のみ認識して行動……いやこれ説明結構難しいな(笑)。

4Gamer:
 なんかすみません……。

三嶋氏:
 いえ(笑)。人間もそうなんですけど,自身が持っている情報の範囲でしか判断できなくて,AIもそれの組み合わせで変わります。例えば合戦のときなど,攻め手になってるときもあれば守り手になってることもあるので,状況に応じてAIの考え方も変わらないと駄目ですよね。

4Gamer:
 例えば,この武将から絶対見えてないだろそこ,という敵部隊を挟撃しようとしにいくので,メタAIみたいなものから戦局全体の情報を渡されてるのかなと思いまして。

三嶋氏:
 あぁ,なるほど。それは軍師AIが見てる可能性が高いですね。いや,本当にそうかどうかは分からないですよ。でも軍師AIは戦局全体を見てますから,どこにどの部隊を持っていくのがいいかと考えてると思います。

4Gamer:
 なるほど。

三嶋氏:
 そしてそういうのを武将AIが持ってしまうと,もう神の領域というかGPS持ってるというか……現代の情報戦にすら勝てる武将になっちゃいますよね。そうなるとまた面白さも全然変わってくるので,3層にして,それぞれのAIができることを限定している感じです。

西村氏:
 先ほどもおっしゃってましたが,ご自身では操作せず,合戦はもうオートのみという感じですか?

4Gamer:
 最初は何か操作しようと思ったんですが,結局ずっとフル委任状態です。どうするのかなーって思いながらじっと見てますが,めちゃくちゃなことしないですから。

西村氏:
 新生は4回天下統一したんですが,私も合戦は全部委任です(笑)。たまにウロウロしてる奴いますけど,概ね納得のいく内容で動きますよね。

4Gamer:
 そうですね。安定感あります。

三嶋氏:
 AIの開発をしてるスタッフにも聞きましたけど,やはり委任がいいそうですよ(笑)。開発してる本人が自信を持って言うんだから間違いないかと。

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4Gamer:
 今日のインタビューで割と重要な部分ですねそれ。「合戦は委任」。

西村氏:
 あと合戦とはちょっと離れちゃいますが「具申」ってあるじゃないですか。あれは元々,チュートリアル的に「これやったらどうですか」「次はこれをやりましょう」と出してるわけなんですけど,実際にプレイヤーはそれに従ったり従わなかったりするわけです。

4Gamer:
 そうですね。私もときどき放置します。

西村氏:
 ですよね。で,「助言」という種類の一部の具申では,その具合を見て,このプレイヤーは慣れてるなということになると,単なるリマインドになるんですよ。

4Gamer:
 リマインド?

西村氏:
 はい。「これをやりましょう」じゃなくて「これはお忘れじゃないですか?」とか「もうすぐ春なのでこれじゃないですか」とか。それも聞きいれてくれなくなってくると,頻度を減らしていくような調整が入ってます。

4Gamer:
 あ,なるほど。そうなってるんですね。ちょっと気付かなかったです……。意外と細かいんですね。

西村氏:
 ゲームには「ストレス」があっていいと思うんですよ。全部圧勝ばっかりだと面白くないですし。ただゲームのストレスを感じるのは,やっぱりゲーム本編で感じるべきです。ストレスは楽しさの裏返しですからね。
 UIとか操作性でそれは感じるべきではなくて,そこはもうとにかく滑らかにストレスなく入っていけるようにと考えた結果です。やはり初心者の方はいろいろ教えてほしいでしょうし。

4Gamer:
 「信長の野望」というゲームは,やることいっぱいありますからね。

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西村氏:
 そうですね。でも慣れてらっしゃるシリーズユーザーにとっては,「言われなくても開発くらいやるよ」となるわけです。そうすると,ある程度のところで「これもう分かってるな」と判断されると,AIの方である程度調整して,ちょっとだけリマインドするとか,あまり言わなくするかとか,そういう調整が入ってるんです。

4Gamer:
 いま素直に「なるほど」と思いながら聞いているんですが,それをなぜ三嶋さんではなくて管理畑の西村さんがご説明してるんでしょうか。

西村氏:
 なんで急に管理本部がそんなこと言い出したのかというと,法務部で特許出願を手続したからです(笑)。

4Gamer:
 あ,なるほど(笑)。そういえば法務部長でもありましたね……。
 確かに具申は耳にそんなにうるさくないんですが,それは僕が適度に聞いてるからなんですね。

西村氏:
 そうですね。ずっと無視したりすると,このプレイヤーはあんまり命令には重きを置いてないんだなとか,この人はあんまり調略とか好きじゃないんだなとか,そういう風に判断します。
 非常に良いバランスで整ってるんですよ。手前ミソで申し訳ないですが。

4Gamer:
 しかし一方でコンピュータのAIって,好戦度合いを弱めにしても,結構攻めてきますよね。あれ,いつもこんなに攻めてきてたっけ? みたいな。最近の作品は,正直飛び飛びでしか見てないから私が知らなかっただけですかね……。

西村氏:
 今回は特に,早めに城の多い畿内……というか近畿地方を抑えないと,天下統一がすごく難しくなってしまうんですよね。今までだと有利だった,後ろに憂いのない島津家とかも,今回実は天下統一がそれなりに難しくなってます。

4Gamer:
 新生にちゃんと慣れてないうちに島津で開始したら,ちょっときつかったです。

西村氏:
 島津家で九州から出たはいいけど,そのころには織田が強くなりすぎていて,これはもう中国地方から向こうに行けないな,という状況になりますよね。

4Gamer:
 おっしゃるとおりで,途中で諦めて天下3分の計でいいかなとか思ってました。

西村氏:
 最後は経済力がモノを言うので,兵を養う力がある方がやはり動員できる数も多いですし,そのへんが割とリアルです。

4Gamer:
 兵糧なんかもちょっとシビアで,油断するとすぐなくなりますよね。

西村氏:
 そうですね。昔の当社のゲームでは,一騎当千的に武力100の武将がいればそれで何とかなるみたいな,ところもあって,それはそれで面白かったんですけど,最近はもう難しいですね。
 もちろん武将の能力値というのは,引き続きこのシリーズの魅力であるべきだと思うので,一生懸命,開発チームが「1ポイント」の上下を議論しているはずです(笑)。

インタビューでも語られているが,合戦はAIに委任がオススメ。ただ,戦力が拮抗した状態で委任するとポカをやりがちな気がするので(個人の感想です),そういうときは手動で頑張ろう
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AIの技術に合わせて我々が動くよりかは,我々のやりたいことに対してAIをつけるというほうがやりやすい


4Gamer:
 ところで“AI”と呼ばれるものは,その他の部分にもたくさん入ってる感じなんでしょうか。例えば,委任したときの動き方とか。

三嶋氏:
 いますぐどこに何が入っていると正確なことはお話しできないのですが,基本的にそういう形で考えていると思いますよ。いろんなところでAI的なもので考えているというか。
 先ほどお話しした通り,人の知的活動として認識して思考して判断する,それを“AI”として考えてますので。そういう意味ではいろいろ入ってると思います。

西村氏:
 逆にそうじゃないと,同じ場面で同じ条件だと同じ動き方になっちゃうんですよね。

4Gamer:
 そういえば武将の“それっぽさ”の話のときにちょっと思い出したんですけど,登録武将編集のとこに「AIレベル」ってあるじゃないですか。あれは何が変わるんですか?

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三嶋氏:
 あれは,戦略バリエーションの多さや効率のレベルだと思います。
 そのパラメータがどこにどうやって入って使われてるのかまでの詳細を把握していないので,あんまり迂闊なことは言えないんですが,合戦の思考には影響していなくて,メイン画面での戦略面に関する,読んで字のごとく「レベル」……だと思っていいと思います。

4Gamer:
 なんかすみません,話しづらそうで。

三嶋氏:
 いやすみません(笑)。我々フューチャーテックベースというのは,1個のプロジェクトに対してフルで入っていって,そのタイトルのテクノロジー部分を全部賄うという動き方ではなく,ゲームで使われているいろんな技術に対して,それぞれにスタッフをアサインしている感じなんです。

4Gamer:
 あ,なるほどそういう部署なんですね。

三嶋氏:
 はい。なので私は「合戦のAI」については語れますが,それ以外のAIについてはまた別のものが担当しているんです。

4Gamer:
 局所的に関わってるんですね。それで合戦以外ではちょっと話づらくなるんですね。すみませんでした。

三嶋氏:
 いえいえ。こういう風にタイトルの技術面をサポートする以外にも,会社の技術全体をもっと向上させるために我々がいるといいますか,そういう動き方をしています。

4Gamer:
 それは……ゲームそのものとはあまり関係なさそうですが,どんなことをしてるんでしょうか。

三嶋氏:
 ちょうど今回のAIの話にも少し絡むんですが,我々フューチャーテックベースが作っているのは,効率的に高品質なコンテンツを作るためのソフトウェアです。

4Gamer:
 ミドルウェア的な?

三嶋氏:
 ゲームを開発するためのソフトウェアでもありますし,それこそ今回の話で言うならAIを作るためのものも入ってます。まぁ内製のゲームエンジンですね。
 ゲームエンジンっていうのはいろんな要素を持っていて,制作環境の側面もあるわけですが,拠点同士でやるデータのやり取りから,データ制作を効率化された形で出来るようにしたり,開発者が開発しやすいようしている一連のパッケージですね。

4Gamer:
 想像したものより大がかりな感じがします。

三嶋氏:
 そうだと思います(笑)。
 なので,それこそAIの活用とかもそうですが,いろんな技術が出てくるじゃないですか。AIのモデルもたくさん出てきます。そんなときに,先ほど申し上げたように,目的に対して効果の出るAIを見てそれを活用しようとするときには,制作環境や制作フロー,ナレッジを蓄積するための組織体も含めて設計し,AIの活用をより効果的にできるように考えています。

4Gamer:
 「統合ゲーム開発環境」なわけですね。ところで名前は……?

三嶋氏:
 あ,名前言ってなかったですね。「Katana Engine」です。
 これがない開発では,DCCツールでモデルを作って,それを実機に持っていく形になりますが,それだけだとどうしても実機上での確認とか難しいですし,前段階で作り上げることそのものも必要になるんです。あと,一つのデザイナーが一つのものを作るときも,結局いろんなものを組み合わせて作るわけです。

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4Gamer:
 はい。

三嶋氏:
 なので,その作ったものをそれぞれオーサリングしつつ,データを共有しながら,リポジトリ管理とかもしながら,DCCツール環境まで持っていて,海外拠点含めてグローバルに並行して開発してても,効率よくできるようになってるんです。

4Gamer:
 なんか陳腐な表現で申し訳ないんですが,完全にワンストップソリューションになってるんですね。

三嶋氏:
 そうですね。その上で高機能をうたっているので,例えばこう……それこそ今回のAIの話つながりで言うなら,画面内に物を置きたいとして,ある程度の決め事,ルールがあれば,自動的にそれを作り上げてくれます。

4Gamer:
 え。

三嶋氏:
 そうすることによって,属人化をしないというメリットも出てきます。
 例えば自然物の配置なんかがそうですね。植物とかに関しては,人が置くよりも,ある程度のルールで置くことによって一定の品質で出しているわけです。

4Gamer:
 SpeedTreeみたいな感じですか?

三嶋氏:
 同じではありませんが,位置づけ的にはそうですね。

4Gamer:
 確かにああいうのも,一種のAIと呼べるかもしれません。

三嶋氏:
 他社様のことはコメントできませんが,振る舞いによって得られる効果で分類すると,私は当社の自然物の配置をそう捉えています。基本的に我々は,いままでもある程度自動で……半自動でやるとかやってたんですよ。
 Katana Engineのおかげで,AIの技術に合わせて我々が動くよりかは,我々のやりたいことに対してAIをつけるというほうがやりやすいんですが,そこは当社の強みだと思います。

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4Gamer:
 なるほど。生成AIが出てきたところで落ちついたものですね(笑)。
 例えばさっきの例の植生みたいなものだと,どんな感じの設定をするんですか? 設定というか……。

三嶋氏:
 例えば「こういう地面素材に対しては,Aという草をどれくらいの比率で配置しましょう」みたいな感じですね。それも「ルール」ですので,まぁあとは地面素材をブラシで塗るかどうかとか。また別の機能ですが,「構造」の利用も積極的に考えます。

4Gamer:
 構造?

三嶋氏:
 うちはシミュレーション技術とかも非常に大事にしているので,構造さえあればシミュレートができます。どういうところにチリが積もりやすいとか,マテリアル制作機能の一部にはそういうものも自動的に処理して汚すものもあります。もちろん汚したくないところにはマスクして汚さないようにしたりして。
 プロシージャル技術として作ってたりするんですけど,そういうものを使った制作環境になってます。結局はクリエイターのアシスタントなんですよね。ある程度のことは自動でやっといて,みたいな。

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4Gamer:
 感覚的なものでいいんですけど,Katana Engineができる前とできた後で,どれぐらい効率化されてるんですか?

三嶋氏:
 すごく,です……効率化した後は違う意味でキツかったりしますけど(笑)。でもとにかくすごいと思います。
 例えばマテリアル一つとっても様々なパラメータがあるわけですよね。そのパラメータがテクスチャーとかに乗っていて,形状の情報もあれば,物性パラメータとかもあって,それをデザイナーが1枚ずつ編集していたら大変です。
 なので,それに対して計算機がそれぞれの性質に合わせて,それぞれ個別の合成をまとめてすることによって,パラメータ数がどれだけ増えても,人の手は増えない様に工夫することができます。


4Gamer:
 命令……というか設定するだけなんですね。

三嶋氏:
 高機能な道具を使うという感じで使い方はものによりけりですね。例えばブラシなどで「ここに銀素材を塗って」と指定することもあれば,適用率をあげて汚していったり。その裏にはパラメータがたくさんあって,塗ったときにどのような形で構成するかは環境により違うんですが,それを全部自動でやってくれて,高品質なタイトルを作るわけです。コストを下げて作っていけるってやってるんで……。

4Gamer:
 「すごく違う」と(笑)。

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三嶋氏:
 そうです(笑)。例えば,うちが考えた映像表現のためのライティング技術をもし新たに作ったとしたら,それに対応する制作機能を専用に作って効率化を図れるわけです。
 また,先ほどのプロシージャル配置は非破壊で背景制作結果を調整できる側面がある,いわゆるプロシージャルモデリングの一種ですが,このような形での強化はさまざまなところで進めています。

4Gamer:
 AIとはちょっとズレちゃうかもしれませんが,プロシージャルモデリングはやはりクリティカルに重要ですか?

三嶋氏:
 ええ。というのも,一体のキャラクターと比べると背景空間はとても広大で,中には水流のようなものもあります。そのような空間に緻密な形状を高密度で表現していくためには,さまざまなプロシージャルモデリングを組み合わせることが重要です。

4Gamer:
 そういう複雑な環境下では,ますます修正の容易さが引き立つような気もしますね。

三嶋氏:
 そうですね。そのために個々の話であれば,建築様式そのものを文法化したり,空間に対してルールベースやシミュレーションベースで建築物や自然物、それらと影響する水流表現を生み出すことも有効と考えています。

4Gamer:
 プロシージャルモデリングの有効性は理解できるのですが,緻密なグラフィックスを高密度で……を突き詰めていくときに,ゲーム機側のリソースとの兼ね合いはどんな感じで考えてる感じですか?

三嶋氏:
 ご指摘のように,ゲームというのは限られた性能の中で動作させる必要がありますので,ただリソースが作れればよいというわけではありません。見た目の品質を落とさずに,メモリや処理量を減らす取り組みが必要となります。

4Gamer:
 はい。

三嶋氏:
 実はそこがポイントでして,見た目の品質を落とさないように描画しているリソースを,切り替える技術ごとに手法があるわけです。当然LODとなるリソースの作り方も異なります。当社ではこのようなLODのためのリソースを自動生成する制作機能も,用途ごとに内製しています。

4Gamer:
 あぁもうホントに全部を一気通貫で内製してるんですね。

三嶋氏:
 とくにいまの例は,内製技術に対して専用の制作機能を作ることが重要となる典型的な例と言えますね。
 プロシージャルモデリングからLODリソースの自動生成,ランタイムエンジンでのメモリ効率を考慮したLODのための一連の処理……これらすべてをシステム統合することで制作効率化を図りながら,高品質で描画の切り替わりを極小にする形で,表現することができるようになります。

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4Gamer:
 外部ツールを使ってもなかなか難しい?

三嶋氏:
 外部ツールにも非常に優れたものはありますが、当社タイトルに必要とする先端技術を生みだし、当社のワークフローに合わせて効率的に制作をすることを考えた場合は、難しいと思います。
 先ほどのはルールベース、算術ベースではありますが、様々な制作機能がAI技術によって開発されていく可能性は当然ありますね。できるだけ高機能にして,できるだけ計算機に作業してもらう。

4Gamer:
 不勉強ですみませんが,そのエンジン,いつごろできたんですか?

三嶋氏:
 かなり……前ですかね。元々2000年代前半にソフトウェアライブラリと個々の制作ツールとして作っていたものがあって,それを,統合的な制作環境がないと難しいなという話になって……2010年頃から本格的な統合制作環境としても開発し、今にいたります。

4Gamer:
 そんなに前からあったんですね。

三嶋氏:
 はい,特にここ5年,6年は更によくなってきましたね。制作コストを下げつつしっかりと品質ケアできるようにと。実は今も,もっと高機能なものに取り組んでいるんですけど,ここでは言えません(笑)。

西村氏:
 最近は「フューチャーテックベースでKatana Engineに関わりたいです」と言ってくれる新卒の人も増えてきてるので,ぜひ4Gamerさんも名前を覚えておいてください(笑)。

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4Gamer:
 いやホント不勉強ですみません……。でも開発環境にまでAIが導入されてるようなものですねこれ。

三嶋氏:
 そうですね。まぁもちろんAIの定義にもよるんですけど,例えば構造を検知して,認識し,それに合わせて塗り方を変えるとか,AIといえばAIと言えなくもないですね確かに。

4Gamer:
 生成AIばかりが昨今騒がれていますけど,ゲームにとって本当に必要なAIとはなんだろうと考えると,たぶんそういうところから……いま聞いたようなそれこそ開発環境みたいな部分から,その候補に挙がってくるわけで,やはりコーエーテクモはそういうところにも取り組んでいるんだなというのがよく分かりました。
 本日はありがとうございました。

――――2023年7月21日

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