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[GDC 2023]ストーリーのクオリティを上げる10か条をCD Projekt REDのクエストディレクターが語る
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印刷2023/03/25 21:54

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[GDC 2023]ストーリーのクオリティを上げる10か条をCD Projekt REDのクエストディレクターが語る

 CD Projekt REDのクエストディレクターを務めるパヴェル・サスコ(Paweł Sasko)氏が,「ウィッチャー3とサイバーパンク 2077から学んだクエストデザイン10のレッスン」(10 Key Quest Design Lessons from 'The Witcher 3' and 'Cyberpunk 2077')というセッションを,GDC 2023で披露した。

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CD Projekt REDでクエストデザインのディレクターを務めるパヴェル・サスコ氏
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 まず,「クエストデザイナー」という職分について解説しておくと,「ナレーティブデザイナー」が具体的なセリフやメッセージを作成するのに対して,「どのように当該のクエストの展開が面白くなるか」を先にデザインしておくという,脚本チームとゲームデザインチームの中間に立つような役割だ。
 クエストデザイナーたちを統括するサスコ氏は,Reality Pump Studios時代に「Two Worlds」シリーズを手掛け,CD Projekt REDでは2011年の「ウィッチャー2 王の暗殺者」から関わってきたというベテランである。
 今回のセッションは,彼の代表作と言える「ウィッチャー3 ワイルドハント」「サイバーパンク 2077」のクエストを例に,サスコ氏らクエストチームが学んだことやデザイン意図を解説するという,ネタバレだらけの講義だった。そのため,サスコ氏が語った内容はできるだけ省いて「10か条」をまとているが,後半は具体例として「ウィッチャー3 ワイルドハント」のネタバレがあるので,未プレイの人は注意してほしい。

■1 注意の引き付け
 次のストーリーへ進みたいという意識をゲーマーに与えるために,特定の重要な情報を故意に外しておく。このことで,プレイヤーはその情報を知りたいがためにさらにゲームを続けてくれる。

■2 インパクト
 草稿時点から,プレイヤーに感情的なインパクトを与えるためにストーリーをデザインしておく。シーンの1つ1つに重要な意味を持たせることで,プレイヤーの記憶に残りやすくなる。

■3 信憑性
 それぞれのストーリーで,始まりから終わりまでを焦らず,十分なスペースを作って余韻を残す。アクションやヘビーな会話ばかりでない,本当の人間に接しているような時間を作り,プレイヤーがキャラクターに感情移入しやすくしてあげる。

本筋とはまったく関係ないが,女性キャラクターがソファに投げ出した足の上に,自分の足を置くという人間臭い描写が,確かに「サイバーパンク2077」では多かった
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■4 簡潔さ
 くどい解説は,ストーリーの構造の中から外しておくべき。シーンごとに説明を調節し,その多くをセリフではなく世界の表現により行うことを心掛ける。

■5 選択
 ストーリー上のジレンマや不鮮明な状況は,プレイヤーが独自に解釈しても問題ないようなゆとりを残しておく。並びに主人公キャラクター,そして感情移入するプレイヤーの双方が,自分の考えは論理的なものであると納得できるような選択枝を与える。ストーリーの展開に左右するような重要な選択は,その前にしっかりと説明しておくこと。

■6 選択の結果
 選択と結果の時間差が長ければ長いほど,プレイヤーの記憶に残る。選択の結果がどうなったかをしっかり見せなければ,そのクエストは意味がなかったことになる。

■7 過剰なデザイン
 過剰なデザインには注意。アドベンチャーゲームはエンターテイメントであってライフシムではない。そのゲームがプレイヤーに与えるゲーム体験の核心部分でないものは,減らしたり簡素化したりすべき。

■8 勇気
 これまでにどのゲームもやってこなかったような,新しいトピックやアイデアに果敢に挑戦する。しっかりと調査して敬意を払うことで,多くの人々の心に突き刺さるものになり,彼らがまったく予期していなかったシナリオとして評価される。

奇形児の誕生という,タブーに近いセンシティブなイシューを,尊重しつつも果敢に描き上げた「ザ・ウィッチャー 3: ワイルドハント」
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■9 目新しさ
 MAYA理論(Most Advanced, Yet Acceptable:最も革新的だが,多くの人に受け入れられる事象)に基づき,ゲーマーにとって馴染みがありつつも,目新しい材料を盛り込む。

■10 効果
 ほかの開発メンバーがパーソナルに思い入れを込められる要素を盛り込む。ほかのクエストやナレーティブデザイナーの作業を共有し,同じようなことをしていたり,単一的なものになっていたりしないかをチェックし合う。

あらすじとクエストを切り離し,草稿と合わせて何度も何度もイテレーション(短期間での調整)を繰り返しながらストーリーを作り出していくのがCD Projekt RED流
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 こうしたCD Projekt REDのクエストデザインチームの信条が,最も的確に表現されたというのが,「ウィッチャー3 ワイルドハント」前半のクライマックスと言える,ケィア・モルヘンの1シーンだ。主人公ゲラルトの養女であり,ウィッチャー見習いであったシリを追って,ワイルドハントがケィア・モルヘンを急襲するというシーンで,そこでゲラルトの師匠である老齢のウィッチャー,ヴェセミルが死んでしまう。ゲームのストーリーはアンドレイ・サプコフスキ氏による原作小説とは時代が違うため,その展開やキャラクターの扱いはCD Projekt REDに委ねられていたとは言えるが,それでも人気のあったキャラクターの命を奪うというのは,クエストデザインを担当したサスコ氏にとっても大きな決断であり,開発チーム内で大きな議論が交わされたという。

 シリの叫び声が耳に焼き付くシーンだが,サスコ氏は「シリに動機を与えるためには必要でした」と明かす。「(それまで追われてきた)シリが,もう狩られる側ではなく,狩る側になると決断するための,大きな転機が必要でした。ここから,シリはワイルドハントを追いかけていくことになりますが,それを行うには彼女の内面にあった恐怖を超越する感情が必要であり,脚本チームにヴェセミルの死を提案したのです」と,その内情を語っていた。

 確かに,例えば「ザ・ウォーキング・デッド」のような人気ドラマでも,残されたキャラクターの生きる動機を明確に表現するために,原作コミックスでは序盤に死なないキャラクターが命を落とすなど,ファンに驚きを与えつつ,そのことが議論のタネになるような展開が挿入されることがある。
 しかし,ザ・ウィッチャーの原作小説でも重要な役どころを担っていたキャラクターの出番を,その後のストーリーから奪ってしまうということについては,脚本チームの間でも穏やかでないメンバーは少なくなかったという。
 結果的にサスコ氏の判断は,原作の読者でもあったコアなファンに対して,「これからは何が起こるのかわからない」という緊張感を生み出すことになり,このゲームのクエストデザインとその評価における1つのポイントとなったのは間違いない。

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