プレイレポート
PS5専用ソフト「Returnal」プレイレポート。リスクとリターン,変転する状況でプレイが揺らいでいく,高難度ローグライクTPS
冷静な宇宙飛行士が,異常な状況で少しずつ狂気に冒されていく
Returnalの魅力は,謎めいたストーリーと工夫されたバトルシステム,そしてローグライク要素にある。
宇宙飛行士である主人公・セレーネは,任務の最中に謎の惑星「アトロポス」に墜落してしまう。この惑星に来るのは初めてのはずだが,そこにはなぜか“自分の死体”が転がっていた。しかも,あちこちに落ちている音声ログには,探索の記録がセレーネ自身の声で残されていたのだ。
奇妙な状況に混乱するセレーネは,その後アトロポスに巣くう怪物に殺されてしまう。しかし,彼女は宇宙船のそばで意識を取り戻す。まるでアトロポスに墜落した直後に時間が巻き戻ったかのようだ。いったい何が起こったのか。ありえない状況ではあるが,セレーネは再び探索に赴く。そこに待ち受けるのは,自分自身の過去。生と死のループを繰り返しながら戦い続けるセレーネは,アトロポスから無事に脱出できるだろうか。
主人公のセレーネは冷静沈着な女性として描かれており,自身が死を繰り返している事実に気づいても,なんとか冷静であろうとする。しかし,その後も精神的に負荷のかかる展開が続き,じわじわと狂気に冒されていく。もだえ苦しみながらも蘇る姿は何度見ても痛ましいのだが,そう思う気持ちとは裏腹に,心は物語へとどんどん引き込まれていく。
映画「エイリアン」を思わせるデザインワークも魅力的だ。アトロポスには異星文明の遺跡があり,セレーネはその遺物を利用して探索を進める。これら遺物のデザインは,いずれも不気味なものばかり。有害な寄生生物にしか見えないが,セレーネの能力を上げてくれる「パラサイト」。怪物の口のような開口部に手を突っ込まないと作動しない「ステータス強化装置」。それ自身がエイリアンであるかのような「異星の銃器」……など,機能が分かるまでは,どれも危険なトラップやモンスターに見えてしまい,ビクビクしながらプレイを進めた。
弾幕を華麗に避け,高難度のガンファイトを生き残れ
アトロポスには謎のモンスターが棲み着いている。雑魚であっても無数の弾をばらまいて攻撃してくるため,一匹でも残っていると危険だ。また,敵が強力な「悪性変異」モンスターやボスともなれば,出会い頭に高速の弾幕を撃ち込まれて瞬殺されることも珍しくない。これに対して,回復手段はたまに落ちているアイテムや,たまに出てくる施設くらいと限られているため,いかに安全に戦うかが重要になる。
TPSにおける安全確保の手段といえば,物陰に身を隠すカバーアクションが思い浮かぶ。しかし,本作にはそうしたシステムは存在しない。物陰に隠れること自体は可能だが,ボタン1つで障害物に吸い付くように隠れてくれたり,障害物の間を渡り歩いたりはしてくれない。被弾を抑えるには,「ジャンプ」や「ダッシュ」で攻撃を避け続けなければならないのだ。
なお,ダッシュは無敵時間がある短距離移動になっている。攻撃をすり抜けられるが,使うとしばらく使用できないため,乱発したり,頼りすぎるのは危険だ。加えて,アトロポスの地形は高低差が激しい。時には段差から飛び降りるなど,地形を使って弾を避けるのも有効である。
動きを止めないように走りつつ,攻撃の種類と周囲の状況に合わせてジャンプやダッシュを使い,地形も利用して攻撃を避ける……というスタイルは,いまどきのカバーアクション主体なTPSというより,どちらかというとジャンプ系のアクションゲームに近いかもしれない。
それもそのはず,本作を開発するHousemarqueは,弾幕が絡むジャンプ系アクションや見下ろしシューティングを得意とするデベロッパだ。インディーズゲーム好きなら「MATTERFALL」や「Nex Machina」といった弾幕アクションゲームを遊んだ人もいるだろう。本作もジャンルこそTPSだが,細かな位置調整や無敵ダッシュで弾幕を避けるのが基本で,この辺りにHousemarqueらしさがある。
最初はカバーアクションがないことに戸惑うかもしれないが,プレイをしているうちに高速で走り,飛び,無数の弾をすり抜けるといったスタイリッシュもプレイができるようになってくる。敵の攻撃はかなり激しいが,うまく回避が決まると自分に拍手したくなる。
銃撃戦にメリハリを付けてくれるのが,モンスターの気絶システムだ。銃弾を撃ち込んでいくと気絶ゲージが上昇していき,満タンになると一定時間気絶して無防備になる。漫然と攻撃するのではなく,一気に気絶させられれば安全を確保できる……というわけで,飛び道具主体ながらもアグレッシブなプレイへの動機付けをしてくれる,面白い要素といえるだろう。
もちろん,攻勢に出るにはリスクが伴うため,状況によっては消極的に戦うのもアリだ。しかしながら,場所によっては“隙あらばワープして後方に回り込んでくる敵”や“近接攻撃しか効かない砲台”,“モンスターを継続的に回復させるオベリスク”など,良い意味で意地の悪い強敵がいて,逃げてばかりもいられない。ときには敵陣に深く切り込んで彼らを処理する必要もあるため,なかなかにスリリングだ。
「アドレナリン」システムも印象的だ。ダメージを受けずにモンスターを倒していくと,3体ごとに「アドレナリンレベル」が上昇する。「モンスターの姿が壁越しに見えるようになる」「オーバーロード(リロード時にタイミング良く入力する,いわゆるジャストリロード)がやりやすくなる」「熟練度(セレーネのレベルに相当する)が上がりやすくなる」といった特殊効果を得られる。
しかし,一度でもダメージを受けてしまうとアドレナリンレベルはリセットとなり,特殊効果もすべて失われる。したがって,アドレナリンを最大限活用することを考えると,自然と“ダメージを避けて素早く敵を倒す”という動きになるわけだ。
ローグライクらしくランダムで生成される銃器も,戦いにバリエーションを与えてくれる。ベースになる銃器で通常射撃の性質が決まり,ここにグレネードやホーミングミサイルといった「セカンダリファイア」,そして特殊な性質を与える「固有能力」がランダムに組み合わされるのだ。
ショットガン風の「スピットモウ・ブラスター」に,近距離に稲妻を放つ「ショックストリーム」のセカンダリファイアが付いて近距離戦に滅法強くなったり,アサルトライフル風の「タキオマティック・カービン」とホーミング弾「トラッカースワーム」のセカンダリファイアが組み合わさることで遠近万能の武器になったりと,入手した銃器によって戦闘スタイルも変わってくる。とはいえ,どれだけ良い品を引いても,死ぬとすべてが失われてしまう。それだけに,死なないように頑張ろうという気分になるのだ。
メリットとデメリットが,プレイに揺らぎをもたらす
セレーネは死ぬたびにスタート地点から再出発することになる。アイテムはすべて失われ,レベルに相当する熟練度も初期状態に戻ってしまう。加えて,探索中にモンスターを倒して熟練度を上げても,セレーネ自身の能力が上昇するわけではなく,見つけられる武器のレベルが上がるだけ。ゴリ押しは難しいゲームデザインになっているのだ。
しかし,プレイを続けていると,死んでも失われない引き継ぎ要素がアンロックされ,ゲームが少しずつ楽になっていく。例えば,アトロポスのあちこちにあるワープ装置を起動させるデバイスや,障害物を切り裂くブレードを入手すれば,これ以降のプレイで多少近道ができる。また,新たな消費アイテムをアンロックすれば,その後の探索中にランダムで出現するようになる……といった具合で,ローグライクでは定番のシステムが盛り込まれている。
銃器に付与される固有能力も,こうした引き継ぎ要素の1つだ。「防御力が上昇する」「弾の威力は上がるが射撃精度が落ちる」「集弾性が上がる」といった,いわゆるパッシブ能力である。固有能力は,その能力を持つ銃器でモンスターを倒し,固有能力の経験値を貯めてアンロックする仕組み。こちらの経験値自体はプレイをまたいで引き継がれるとはいえ,新たな固有能力を持つ銃器を手に入れると,アンロックのために何としても生き残りたくなる。死を繰り返すローグライクでありながら,生への執着はどんどん増していく。
パワーアップや回復にリスクを伴うことが非常に多いのも印象深い。通貨となる「オボライト」や,回復や補助のアイテム,そしてアイテムが入った「チェスト(宝箱)」の中には汚染されて「悪性アイテム」となったものがあり,使うと「故障」というデバフが発動する可能性がある。
どの故障が起こるかはランダム。「ダメージを受けるとオボライトを失う」「止まった状態だと銃器のダメージが下がる」といった比較的軽微なものから「ダッシュのクールダウンが長くなる」「攻撃を受けた敵が打ち返し弾で反撃してくる」「熟練度が上がらなくなる」といった危険なものまでが存在し,故障のおかげで大苦戦させられることもある。
なので悪性アイテムは無視したいところだが,なかなかそうもいかない。例えば,窮地の立たされた状況で悪性の回復が出た場合や,貴重なアイテムが入っているが開けると高確率で故障が起こるチェストを見つけてしまったときは,難しい選択を迫れられる。故障を直すには専用の消費アイテムが必要となるが,本作はローグライクなので,そう都合良く出るとは限らないのだ。
一方で,故障の中には「オボライトを支払ってアイテムを作る」「敵を何体か倒す」「コンテナを空ける」といった,特定の行動を取ると修復されるものもあり,これらがプレイにメリハリを与えてくれる。
寄生生物「パラサイト」はセレーネの能力を上げてくれるが,「一度だけセレーネを死亡から守ってくれるが,代わりに故障が2つ起こる」「耐久力が自動で回復するが,高い所から落ちるとダメージを受けるようになる」など,悪影響も及ぼすのが恐ろしい。
とはいえ,悪影響もそのプレイ限りで,セレーネが死ぬとすべてチャラになる。開き直ってパラサイトを着けまくってみても,メリットの方が大きくて,案外プレイがはかどった……なんてことも起こるのが面白い。
まとめると,高い難度の中で,メリットとデメリットを併せ持つ悪性アイテムやパラサイトが出現することにより,リスクとリターンを天秤に掛けた選択を要求され,これがスリルをもたらす。そして,思わぬ故障と,修復を意識した行動がプレイに揺らぎを発生させるというわけで,ローグライクの魅力がしっかり押さえられていると感じた。
ゲームを進めると,与えられた装備と特殊条件下でステージを攻略してスコアを競い合う「シミュレーションモード」が解禁される。バトル好きのプレイヤーには嬉しい要素といえるだろう。今回はリリース前にプレイしたのでオンライン要素は体験できなかったが,ステージ内に転がるほかのプレイヤーの死体から,死に至るまでの状況を追体験できるシステムもあるそうで,発売後が楽しみだ。
滅多に顔が見えない主人公。サイコホラー的な展開。不気味なモンスター。高い難度と,繰り返し死ぬローグライク要素。本作は尖ったゲームであり,人を選ぶところがある。その一方で,激しいアクションと,プレイに揺らぎをもたらすさまざまなシステム,そして先が気になるストーリーと,多くのプレイヤーにとって魅力的に映る要素も多い。ダークな雰囲気や攻略しがいのあるゲームを求めている人にオススメのタイトルだ。
「Returnal」公式サイト
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Returnal
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(C)2021 Sony Interactive Entertainment Europe. Developed by Housemarque Oy.
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