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SEGA AGES企画 第1回:すべてはお金が解決!? “コインによるパワーアップ”が斬新だった「ファンタジーゾーン」を回顧する
セガの名作タイトルを現代に蘇らせるブランドとして,多くのゲーマーに支持されてきた「SEGA AGES(セガエイジス)」シリーズ。Nintendo Switch向けのプロジェクトでは,全19タイトルのラインナップが予定されている(18タイトルが配信中)。
今回,4Gamerでは“セガっ子”なライター陣に「心に残るゲーム」について,その思いを綴ってもらった。第1回は稲元徹也氏が選ぶ「ファンタジーゾーン」だ。
2019年11月28日よりNintendo Switch向けに配信された「SEGA AGES ファンタジーゾーン」は,セガが1986年に稼動したアーケード用シューティングゲームを移植したものだ。Switch版にはいくつかの新モードが追加されており,さらにプレイバリューが増している。
筆者も稼働当時にはゲームセンターで本作に魅せられ,ゲームクリアや周回プレイの攻略方法を模索する青春時代を過ごした一人だ。その後は非公式の攻略サイトを個人的に作っていたこともあり,愛着も強いタイトルである。
本稿では,当時体感した「ファンタジーゾーン」の魅力と,Switch版の特徴について紹介してみたい。
「SEGA AGES ファンタジーゾーン」公式サイト
アーケードシューティングの新たなフェイズに生まれた斬新なシステム
オリジナルのファンタジーゾーンがリリースされた1986年前後は,発展途上中のアーケードのシューティングゲームが新たなフェイズへと突入した頃で,ゲームセンターにはとにかく面白いタイトルが存在していた印象がある。
1983年の「ゼビウス」(ナムコ,現バンダイナムコエンターテインメント)や1984年の「スターフォース」(テーカン,現コーエーテクモゲームス),「1942」(カプコン)など,スクロールスタイルのシューティングのヒットを経て,1985年にはコナミが「ツインビー」や「グラディウス」をリリースした。このあたりから“プレイスタイルや戦況によって自機を任意にパワーアップさせていく”という概念が定着。以降はパワーアップシステムにさまざまなアイデアが盛り込まれたタイトルが続々と登場する。
ニチブツの「テラクレスタ」は攻撃方法の異なる僚機との合体,カプコンの「サイドアーム」は武器の任意切り替えと自機の合体,データイーストの「ダーウィン4078」は進化によるパワーアップなど,多彩なシステムがとにかく楽しかったわけだが,なかでもファンタジーゾーンは,“敵を倒して手に入れたコインでパワーアップアイテムを買う”という斬新なシステムが導入されていたのである。
そして1987年には「R-TYPE」(アイレム)や「ダライアス」(タイトー)など,現在も根強い人気を誇るタイトルがリリースされ,アーケードのシューティングシーンはさらなる盛り上がりを見せるわけだが,そのあたりはまた別の機会に触れられればと思う。
さて,ファンタジーゾーンがリリースされた1986年のセガといえば,前年の「ハングオン」をはじめとする大型筐体の「体感ゲーム」がゲームセンターを賑わせていた。しかし,当時の主流だったテーブル型の汎用筐体にて提供された本作は,そんな体感ゲーム群にも負けないインパクトがあった。
筆者がゲームセンターで初めて本作を見かけたときに惹かれたのは,そのグラフィックスだ。この頃は業務用のゲーム基板が大きく進化する過程にあり,同年代のタイトルのグラフィックスは,金属質だったり生物的だったりと,よりリアルな方向性で描き込まれているものが多く見られた。ただ,ファンタジーゾーンは,カートゥーンアニメのようなカラフルで色鮮やかなゲーム画面で勝負していたのだ。
セガの1980年代に入ってからのアーケードタイトルは,「フリッキー」や「忍者プリンセス」「テディボーイブルース」などのようにカラフルな画面のゲームが多く,このファンタジーゾーンはその進化形といった印象だった。ゲームセンターの照明がまだあまり明るくなかった時代に,その画面は一際華やかに見えたものだ。
ただカラフルなだけでなく,ラウンドごとに異なる背景のグラデーションや,キャラクターの凝ったアニメーションなど,グラフィックス的な面でも優れていたのは,当時最新のシステム基板「SYSTEM16」でリリースされたことにあるだろう。SYSTEM16はその後「忍 -SHINOBI-」や「テトリス」「ゴールデンアックス」など,セガのアーケードゲームの名作を輩出している。
敵を倒して手に入れたコインでのパワーアップや残機をやりくりする面白さ
ファンタジーゾーンはそのゲームシステムもとにかく斬新だった。自機となる「オパオパ」が向く左右に(厳密に言うと,上下にも)スクロールするラウンド(本作における“ステージ”の呼称)には10機の前線基地が点在。これをすべて破壊するとボスが出現し,倒せばラウンドクリアとなる。前述の通り本作のパワーアップシステムは,倒した敵が落としたコインを使ってアイテムを“買う”というものだ。
オパオパのパワーアップアイテムには,移動速度に関わるエンジン系の「SPEED UP」,ショット系の「WEAPON 1」,ボム系の「WEAPON 2」のカテゴリがあり,コインさえあればすべての武器をショップにて買える。ただし,ショット系とボム系の各1種ずつしか選択できず,多くには使用時間や回数の制限があり,さらにミスをするとすべて失ってしまう。拾えるコインの額やアイテムの価格,そして各ラウンドの難度を考慮することが重要な戦略となるのだ。
パワーアップアイテム以外にも,オパオパの残機をコインで買うというシステムも斬新だった。本作にはスコアによる残機追加がなく,アイテムと同様に「EXTRA SHIP」をショップで購入することで追加される。残機は買うたびに価格がアップしていくので,徐々に手が出せなくなっていくのだ。さらにゲームクリア時に残機はコインと同様にすべてスコアに還元されてしまうので,2周目以降のプレイを目指す上級者はそれを考慮した立ち回りをしなければならない。
“地獄の沙汰も金次第”を地で行くようなシステムなわけだが,そのバランスは絶妙だ。初心者はコインの許す範囲でアイテムや残機をしっかり買うことにより,着実に先のステージへと進めるようになり,上級者は購入を最小限にしてコインを節約することで,ゲームクリア時にそれらをスコアに換算しハイスコアを狙える。アーケードゲームデザインとして非常に優れている。
可愛くも緻密に描かれたグラフィックスは,現代にも通じるクオリティを誇る
キャッチーなグラフィックスで描かれたキャラクターも魅力的だ。主人公のオパオパは,大きなキャノピーのある戦闘機のように思えるが,バックストーリーを見ると生物のような印象も受ける。当時はソニックやアレックスキッドなどとともに,マスコットキャラクターのような扱いを受けることもあった。ゲーム本編には父親も登場し,さらに派生シリーズやSEGA AGES版のモードには,弟の「ウパウパ」も登場している。
オパオパが巡るラウンドは惑星であり,ラウンド1は“緑の惑星”,ラウンド2は“火の惑星”といったようにテーマがあり,前線基地やボスキャラクターもそれに合わせてデザインされている。とくにボスキャラは本作を象徴するキャッチーな存在で,紹介記事などでは,その登場シーンのスクリーンショットがよく使われていることもあるので,印象に残っている人も多いだろう。本作が家庭用ゲーム機への移植されるときは,このボスキャラの再現度が評価の一つとなったものだ。
こうした世界観の総合的なデザインと,前述のゲームシステムにおけるバランスがファンタジーゾーンの真髄だと筆者は思っていて,そのおかげでリリースから30年以上が経過した現在でも,飽きることなく楽しめている気がする。
アーケード版のプレイフィールを再現した完全移植に加え,新たなモードも追加
シューティングゲームの名作ゆえに,家庭用ゲーム機へと移植される機会も多く,その回数は20を超えている。
最初に移植されたセガ・マークIII版は,ハードウェアの制限から,ゲームが全体的に簡略化され,さらに一部のボスに変更があった。しかし,アーケード版の稼働から3か月程度しか経過していないタイミングでの発売だったことから,ファンを大いに沸かせた。かくいう筆者も,その発売に合わせて晴れてマークIIIユーザーとなったクチだ(初めて自分のお金で買った,新品のゲーム機でもあった)。
その後,家庭用ゲーム機で完全移植といえるものがリリースされたのは1997年のセガサターン版であり,SEGA AGESのブランドはこのときに生まれたものだ。
アーケード版のファンタジーゾーンには大きく分けて日本版(OLD)とUSA版(NEW)の2つのバージョンがあり,これらはセガサターン版の頃から再現されていた。
ファンタジーゾーンには,ファンによって生み出された独自の攻略法が存在している。例えば,ラウンド4の「ドリミッカ」では,アイテムの「レーザー」を購入してそれを撃ったまま地面を歩くことで,すべての前線基地を比較的楽に破壊することができる。また,同ラウンドのボス「クラブンガー」は,アイテムの「スマートボム」を3発使うことで容易に倒せる。
最終ラウンドで対峙するラストボスの最後の攻撃は,オパオパが特定の動きをすることですり抜けて自滅させられるという,バグのようなテクニックも存在していて,今回のSwitch版も含め,完全移植を謳うタイトルはこうしたところもすべて再現されている。
Switch版は過去に本作の移植を何度も手がけているエムツーが開発を担当しており,アーケード版のプレイフィールを忠実に再現するとともに,いくつかの新モードが追加されている。
オパオパの弟・ウパウパが登場する「ウパウパモード」は,元々ニンテンドー3DSの「3D ファンタジーゾーン オパオパブラザーズ」に収録されたもので,ショットやボムを任意に切り替えられるというルールが設けられている。
切り替えられるアイテム群は単発または時間単位で持っているコインを消費し,強さに比例してコインの消費数も高くなるので,無計画に使うとあっという間にコインがなくなってしまう。通常のゲームプレイとは異なる立ち回りが必要となる。
追加モードの中で,個人的に一番楽しめたのは「タイムアタック」だ。これはPlayStation 2の「SEGA AGES 2500 ファンタジーゾーンコンプリートコレクション」にあったもので,独自の難度設定においてゲームクリアまでの時間を競うというモードだ。残機制限がなく何度ミスをしても原則ゲームオーバーにならないので,初心者の練習にも向いている。
これらのモードはオンラインランキングに対応していて,上位プレイヤーのリプレイを見られるようになっている。アーケード版とはまったく違うウパウパモードとタイムアタックの立ち回りはかなり面白いので,ぜひ見てみることをオススメする。
筆者も含めファンにとってサプライズだったのは「エクストラボス」だ。これはゲーム中ある条件で,ラウンド4とラウンド6のボスがマークIII版オリジナルのボスに変わるというもの。しかも,その条件は見た目にはわからないため,気づかずにプレイすると突然ボスが入れ替わるというサプライズに見舞われるわけである。
筆者がマークIII版を買ってプレイしたときに,これら異なるボスが登場することを知っていたかどうかは記憶にないのだが,当時のプレイヤーが感じた初見の驚きをオマージュした演出だと思っている。ゲームの総額コインを貯めることにより追加されるオプション設定で「エクストラボス」をオフにしておけば,これらのボスは登場しない。
近年は「スペースハリアー」や「ソニック・ザ・ヘッジホッグ」などとともに,任天堂の主要ハードの定番タイトルとなりつつあるファンタジーゾーン。「またか」という声が上がる気持ちもわからなくはないが,稼働から30年以上が経過してゲームプレイの環境が当時から大きく変わりつつある中で,そのプレイフィールを新しいゲーム機でも味わえるように伝えていくセガの姿勢を,筆者は今後も支持していきたいと思っている。
とくに今回のSwitch版は,大画面と携帯画面の両方でプレイできるというこれまでになかったタイプなので,プレイスタイルに合わせて楽しんでみてほしい。
「SEGA AGES ファンタジーゾーン」公式サイト
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