連載
「あんスタ!!」ストーリー紹介連載第9回。スカウト!サマースノー,踏み出す行き先/ネクストドア,スカウト!荒野の花,降臨!紡ぎ始めるネヴァーランドを語る
Happy Elementsのアイドル育成ゲーム「あんさんぶるスターズ!!Basic/Music」のストーリーを紹介する記事の第9回は,「スカウト!サマースノー」「踏み出す行き先/ネクストドア」「スカウト!荒野の花」「降臨!紡ぎ始めるネヴァーランド」の4本を取りあげる。本記事では,“知っているとストーリーをより楽しめるポイント”の解説と,各イベントやスカウトの感想,考察をお届けする。記事内では詳細なネタバレは控えているが,できるだけ各ストーリーの読了後に読むのがおすすめだ。
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ストーリーピックアップ
「スカウト!サマースノー」
開催期間:2020年8月14日〜8月30日――あらすじ――
ES内に“水に引きずり込んでお金を要求する妖怪”が出ると聞き,様子を見に行った朔間 零と葵 ひなたは,噂の正体が深海奏汰だったことを知る。奏汰は,実家が経営する「あおうみ水族館」がライバルのせいで経営のピンチにあることを悩んでいたのだった。するとその話を聞いていた七種 茨が,力を貸すと言い,ある提案を持ちかける。<全8話/シナリオ:西岡麻衣子(Happy Elements株式会社)>
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ESの七不思議?
ESビルでは時折,怪談めいた話が出てくることがある。たとえば【スカウト!風来坊】では,蓮巳敬人が「ESのあちこちで,天井や壁から何か奇妙な音や人の声がする」「ESや寮で幽霊を見た」という“噂”があると話していた。また【メインストーリー第三章】では,三毛縞 斑から“ESに現れる怪人”の話も挙がっていた。いずれもひとまずは解決している模様だが,夢ノ咲学院にあった七不思議同様,これから増えていくのだろうか? なお夢ノ咲の七不思議は,「!」の【スカウト!夜の怪談】でその一部が語られている。
深海奏汰と「あおうみ水族館」
今回のストーリーをより深く楽しむために,また,深海奏汰の実家や「あおうみ水族館」について知るためには,「!」の【ドロップ*遠い海とアクアリウム】は外せないストーリーだろう。これについては,このあとのストーリーの感想で語っていきたい。
「流れる水は苦手」な朔間 零
本ストーリーにて,朔間 零が「流れる水は苦手」だと話すシーンがある。これは「!」の【追憶*それぞれのクロスロード】や,「!」の【灼熱!南国景色とサマーバカンス】など,いくつかのストーリーで言及されており,彼が生まれた“一族”としての体質からくるものだと思われる。
兄と弟を入れ替えている葵 ひなた,ゆうた
昨年度は葵 ゆうたが葵 ひなたを「アニキ」,ひなたがゆうたを「ゆうたくん」と呼んでいた。最近では兄弟を入れ替えることが増えたという話だが,この行為の始まりは,「!」の【招福*鬼と兄弟の節分祭】で確認できる。彼らは幼いころ,見分けがつかないことで父親に拒絶された過去があり,あえて「兄らしく」「弟らしく」振る舞うようになっていた。だが,兄弟で何度もぶつかり合ううちに,お互いが「ふたりでひとり」であり,「異なる個」でもあることを受け入れ,その結果が兄と弟の入れ替えに表われているのではないかと筆者は解釈している。
七種 茨の「いつもと違う戦術」とは?
深海奏汰に手を貸すことになった七種 茨は,「今回はいつもとちがう戦術で凱歌をあげてみせる」と語る。これは【軋轢◆内なるコンクエスト】で茨の作戦の裏をかいた凪砂から,「同じ戦術を繰り返すと必ず手を打たれて通用しなくなる」と釘を刺されたことに由来するものだろう。このときの茨は,普段(表向き)はおとなしく従順にしているはずの凪砂に対して,ものすごい暴言を吐くほどの取り乱しっぷりを見せており,ある意味必見である。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
筆者は本ストーリーに対して,「ライバル会社が立ちはだかった! 圧倒的に不利な我が社はどう対抗する?」とでも言うような,企業をテーマにしたちょっとしたエンタメ系小説に似た面白さを感じた。七種 茨は現役の高校生でありながら,事務所の代表として指揮を執っているし,実は中学生のころから企業経営に関わってもいることも明らかとなっている(「!」の【奇跡☆決勝戦のウインターライブ】より)。一方の深海奏汰も生まれながらにして“一族の代表”的存在であり,まだ高校を卒業したばかりの現在,実家が経営する施設の運営に関わっている。その2人が繰り広げる,ビジネス目線の腹の探り合いから共闘に結びついていく様子には,純粋にわくわくしてしまった。
【スカウト!サマースノー】は,奏汰の実家が経営する「あおうみ水族館」の経営をめぐる物語だ。これ以前にこの場所について詳しく描かれたのは,先述した「!」の【ドロップ*遠い海とアクアリウム】である。このストーリーでは,それまでにハッキリとしていなかった奏汰の実家についてや,彼の実家とつながりがあった三毛縞 斑との関係,(当時の)夢ノ咲学院で同じ海洋生物部に所属していた羽風 薫とのやりとりなどが描かれ,楽しい雰囲気ながらも,それぞれの複雑な背景についても触れられていた。本ストーリーで奏汰が「黙ったままでみんなを心配させると,また薫に怒られる」と話すのは,ここでの出来事を指している。
今作【サマースノー】では,【アクアリウム】と同様に,「あおうみ水族館」にピンチが訪れる。奏汰本人もそのときのことをよく覚えていて,みんなのおかげで今がある,と言っているのが印象的だった。
みんなに助けてもらい残すことができた水族館は,奏汰にとっては何ものにも代えがたい宝物なのだろう。けれどあのとき助けてくれた仲間たちも,今回,一緒になって奏汰に協力しようとしてくれた仲間も,(ビジネスとして交渉にあたった茨以外には)これといったメリットはない。それは奏汰の言う,「『そんとく』をかんがえず,だれかれかまわず『たすける』」守沢千秋の行動にも似ていると言えるかもしれない。あのときも今回も,奏汰の周りにいたのは“ヒーロー”たちではなかったけれど,なぜ彼らが奏汰を助けたかと言えば,みんなが奏汰を好きだからということにほかならないのだ。
深い海から地上へ上がり,ゆっくりと呼吸をする。独特のテンポではあるけれど,奏汰がこの「ちじょう」に馴染んで,仲間たちと心を通わせていることが嬉しくなるような,そんなストーリーだった。
ストーリーピックアップ
「踏み出す行き先/ネクストドア」
開催期間:2020年8月15日〜8月24日(Basic)2020年8月15日〜8月23日(Music)
――あらすじ――
ニューディの副所長としての仕事に追われて多忙を極める青葉つむぎは,逆先夏目に心配されながらも,春川 宙を含めた3人でアイドル活動に注力しようとしていた。一方,悪名高い“GFK”と最近まで一緒に仕事をしていた月永レオを案じ,Knightsのメンバーはレオを保護しようとする。しかし自分の意志で動きたいと考えたレオは4人の元から脱走し,【ジャッジメント】の開催を宣言する。<全22話/シナリオ:日日日>
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チェックしておくべき過去のストーリー
本ストーリーはSwitchとKnightsにフォーカスした物語だ。この2つのユニットは,どちらも「!」のリリース時にはフルメンバーが登場していないながらも,夢ノ咲学院の過去においては重要な歴史に関わっていたという一面を持つ。このストーリーを読むにあたり,ぜひ目をとおしておきたい過去のストーリーをいくつか紹介しよう。
【迷い星*揺れる光、プレアデスの夜】ほか
これまでに何度も語っているが,【迷い星*揺れる光、プレアデスの夜】はSwitchというユニットにとって極めて重要なストーリーだ。Switch自体の活動は,春川 宙が夢ノ咲学院に入学した昨年度の春にスタートしているのだが,ユニット結成はそれ以前の,「天祥院英智の革命(≒五奇人の討伐)」がきっかけと言っていいだろう。このストーリーでは,実は幼少のときから知り合いだった青葉つむぎと逆先夏目によるSwitchの始まりの瞬間が描かれている。また,「!」の【追憶*集いし三人の魔法使い】では,本ストーリーで言及されている「fineの道化師だったつむぎ」や「リセットボタン」という言葉の意味が,【駆け引き◆ワンダーゲーム】では,つむぎが髪を伸ばしている理由が語られるため,合わせておさえておきたい。
【追憶*モノクロのチェックメイト】
“しんどさ”では「あんスタ!!」のストーリーの中でもトップクラスの【追憶*モノクロのチェックメイト】は,Knightsだけでなく,夢ノ咲学院が辿ってきた歴史を知るために欠かせない物語である。このストーリーを読むと,夢ノ咲のユニットの中でもかなり古い歴史――しかも,メンバーのみならず名前も数回変わってきた――を持つKnightsが歩んできた“血と涙の道のり”がよく分かるだろう。なかでも,月永レオや瀬名 泉の心情が深掘りされているストーリーだ。
また,【踏み出す行き先/ネクストドア】では,レオとSwitchの春川 宙が同じステージに上がることになるわけだが,この2人のふれあいとしては「!」の【スカウト!ブルーフィラメント】をおすすめしておきたい。【ブルーフィラメント】は,レオがKnightsに復活した【ジャッジメント】こと【反逆!王の騎行】より少し前の夏の物語である。
【初興行★祝宴のフォーチューンライブ】
【迷い星*揺れる光、プレアデスの夜】で逆先夏目と青葉つむぎ,【追憶*モノクロのチェックメイト】では月永レオと瀬名 泉の2人と,鳴上 嵐,朔間凛月たちの出会いと始まりが描かれた。そして昨年度における1年生であり,両ユニットのもっとも新しいメンバーである春川 宙と朱桜 司の触れ合いが描かれたのが,この【初興行★祝宴のフォーチューンライブ】である。ここでは宙と司がクラスメイトから“友だち”になるまでの過程が描かれるとともに,SwitchとKnightsの“未来”を感じさせるストーリーになっているように思う。
なお【踏み出す行き先/ネクストドア】は,レオの親友である三毛縞 斑と,司の遠縁である桜河こはくが結成した新ユニット・Double Faceがお披露目された【マーブルキャスト】ステージ直後の物語である。そこに登場した“GFK”とレオの関係や,彼に対するレオの考えも知ることができるので,これらが描かれた【新参!目覚めの暗夜行路】もぜひ読んでおきたいところだ。
◆【踏み出す行き先/ネクストドア】に登場する小ネタについて
本ストーリーには,海外ドラマやゲームなどの小ネタが多かったのでその出典もチェックしていこう。
「あなた疲れてるのよ」
月永レオがお疲れ気味の青葉つむぎにかけた「あなた疲れてるのよ」というセリフは,作中で説明があったとおり,海外ドラマ「X-ファ*ル」に由来するものだ。これはエイリアンの存在を強く信じているモ*ダー捜査官に対する,ス*リー捜査官の発言(名セリフ?)である。「X-ファ*ル」には,本ストーリーでレオがKnightsのメンバーに拉致されそうになった場面で言う「ロズウェル事件」がモチーフのエピソードもある。なお,つむぎが好きだと言っていた“副局長”とは,おそらくス*ナーFBI副長官のことだろう。ちなみに筆者はディープ・ス*ートがお気に入りです。
「バンゲ*ングベイ」などのゲームネタ
春川 宙が突如繰り出した呪文の元ネタであるゲームが,1985年にハド*ンから発売されたファミコン用ソフト「バンゲ*ングベイ」である(元々は海外の作品)。本作はヘリコプターを操作するシューティングゲームで,ソフトの説明書には「IIコントローラーのマイクに向かって『ハド*ン!』と叫ぶと何かが起きる」と書かれていた(実際には何を叫んでもいいらしい)。
そのほか,宙が瀬名 泉と月永レオ捜索のための即席パーティを結成した際のセリフ「そして伝説へ……!」は,「ドラ*ンクエストIII」のサブタイトルである。また,「命を大事にしないと」というセリフは,「ドラ*ンクエストIV」から登場した作戦コマンドに由来すると思われる。
歴史関連の小ネタ
月永レオが脱走したあと,朱桜 司が言う「兵は拙速を尊びます」という言葉は,孫子の兵法にある一節で,元は「兵は拙速を聞くも,未だ巧の久しきを睹ざるなり」というものだ。その意味は,「戦いは,作戦がまずくとも相手よりも素早く攻撃することが肝要である(長期戦が有効だったことはない)」だ。武家の子らしいセリフである。
また,疲れ切っていても運動不足を嫌って階段を使う青葉つむぎに逆先夏目が言う「死刑の前に干し柿を嫌がる石田三成」とは,喉の渇きを訴える三成に「水はないが柿はある」と柿が差し出された際,死を目前にしているにも関わらず,体に悪い(とされていた)柿は食べないと断った逸話が元である。ところで,筆者はこの一連の小ネタ解説を書きながら,「これアイドルたちの話だったよね……?」と思ってしまった。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
【踏み出す行き先/ネクストドア】は2つのユニットにフォーカスしたストーリーではあるが,軸はやはりSwitchの青葉つむぎと,Knightsの月永レオと言っていいだろう。よって,今回はこの2人について書いていきたい。
まずは青葉つむぎから。筆者は「あんスタ!」の世界につむぎが登場してから少しの間,彼を「ちょっと怖い」と思っていた。穏やかで優しい人だけれど自分の心の痛みにはひどく鈍感なところがあり,彼を思うと,小石を落としてもいつまでも音のしない深い井戸を覗いているような気持ちになったからだ。しかし,彼の歩んできた道を紐解いていくうち,次第に理解していけたようにも思う。つむぎは決して絶望の海に沈んだままなのではなく,差し込む光の温かさや,誰かが落としてしまった小さな希望の輝きに気づける,このうえなく繊細な人なのだと。
とはいえつむぎには,ごくシビアな面があるのも確かだと感じる。それは彼の壮絶な人生(母の新興宗教への入信や借金トラブルなど)に起因しており,過去にこんな言葉を口にしていたのは,そうした体験があったせいかもしれない。
そうしたある種の残酷さは,とくにつむぎ自身に向けられることが多いように感じられる。彼はかつての天祥院英智の革命に深く関わっていたからか,よく「自分は恨まれるだけのことをした」と言う。【踏み出す行き先/ネクストドア】でも,自分の幸せについても考えていると口にしながら,まるで贖罪であるかのように身を粉にして働いている。けれど本ストーリーで筆者の胸に響いたのは,いつか聞いたのと同じ「地獄には底なんてない」という言葉の次に,「それでも,泡沫の夢だったとしても」と,そこから続く言葉が紡がれていたことだ。
Switchという魔法使いたちがずっと呪文のようにつぶやき続けてきた,「みんなを幸せにする魔法をかける」という言葉。作中でもつむぎが言っているが,そもそも「みんな」の中に彼ら自身が入っていないなんてありえないのだ。3人はお互いを信じ,愛していることを伝え合い,幼いつむぎと逆先夏目が交わした「一緒に幸せになろう」という誓いを新たにする。少し先を歩いていたつむぎと夏目に宙がついていくのではなく,向かい合って手をつなぎ合う。その輪がきっと,幸せの魔法を増幅する魔法陣になるのだろう。
そんな彼らを見て「ここから先は3人一緒に全力でやりたいことをやれる」と言うレオもまた,本ストーリーでさまざまな想いを知ることのできた1人だ。彼は類まれなる音楽の才能と,同時に純粋すぎるほどの人間性を持つ。基本的に人を嫌うことができず,彼もまた,負の感情によって割られた心のガラスの破片を,自分に向かって突き立ててしまうタイプのように見える。
今作でレオは,絶望して抜け殻のようになっていた“過去”と,そこから抜け出した“現在”の,両極端ともいえる姿を見せる。ここであらためて明らかとなったのが,彼が自分の作品を銃などの“兵器”になぞらえ,「誰かを傷つけてしまった」「生まれるはずだった他人の可能性や夢を塗りつぶして消してしまった」と捉えていたことだ。
けれどこれは,恵まれた才能を持つ者の宿命であるようにも思う。「天才は孤独だ」と言われる所以は,人と異なる力を持つ者は,多くの場合,人とは違う人生を歩むからだ。それは,凡人には得られぬ称賛や羨望だけでなく,妬みなどのマイナスなエネルギーも受け取るということでもある。
だからこそレオにとっては,自分と向かい合って「馬鹿だなぁ」と笑ってくれる仲間がいることが,どれだけ支えになっているのだろうと思う。本ストーリーでの5人揃っての会話を見ていると,涙が出そうなほどあたたかくて,このぬくもりがあるからこそ,彼はまた笑顔になれたのかもしれないと感じた。
作中,つむぎやレオの口から「真面目にがんばるだけ,言うことを聞くだけで褒められるのは子供だけ」「好きだという気持ちだけでは何にもならない」という言葉が出てくる。それは本当にそのとおりで,「では,アイドルとして人を幸せにするには? そして何より自分自身が幸せになるためには?」に対する答えを求め,“次の扉”を開くのが,【ネクストドア】という物語ではないかと思う。
ところでこのストーリーでは,逆先夏目と瀬名 泉という,「あんスタ!!」きっての“素直じゃない”2人の口から「愛してる」というセリフが出てくるのが,なんというかすごく「ああ,いいなぁ」と感じた。それから,ステージで鳴上 嵐と朔間凛月が交わす言葉もしみじみと良かった。それは,【ネクストドア】ってどんな話? と聞かれたときに,ひとことで答えるのにぴったりなフレーズなのではないかと思う。
「あら,愛の話?」
「そう,愛の話」と――。
ストーリーピックアップ
「スカウト!荒野の花」
開催期間:2020年8月30日〜9月14日――あらすじ――
明星スバル,衣更真緒,高峯 翠たちがバスケ部の活動をしていると,プロデューサーに連れられて乱 凪砂がやってくる。バスケをしてみたいという凪砂とともにプレイを楽しむ一同だが,凪砂は,夢ノ咲学院にやってきたのはもう1つの目的があったからだと話す。<全8話/シナリオ:木野誠太郎(Happy Elements株式会社)>
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AdamとEveが“仲違い”した【軋轢◆内なるコンクエスト】
このストーリーの冒頭,葵 ひなたと葵 ゆうたが乱 凪砂との会話で持ち出すのが【軋轢◆内なるコンクエスト】でのEdenの騒動だ。【コンクエスト】ではコズプロ上層部が提案した“AdamとEveの対決”をとおして,ユニット内の絆が描かれていった。こうしてひなたやゆうたの反応を見ていると,当事者はもちろん,ファンや周辺関係者にもかなりのインパクトを与えていたことがよく分かる。
夢ノ咲学院バスケットボール部
守沢千秋が昨年度の部長を務めていた夢ノ咲学院のバスケ部は,今年度になって衣更真緒が率いることになった。「!」での千秋がいたころのバスケ部にまつわるストーリーは多く,例を挙げるとすれば,【対抗!星合う夜の天球戯】【白熱!夢ノ咲学院体育祭】【スカウト!熱血硬派】【スカウト!ドッグファイト】などがある。なお,全員ではないが真緒と高峯 翠の2人によるバスケ部ストーリーには,【スカウト!初夢物語(前半)】や,筆者イチオシの名(?)ストーリー【高峯 翠キャラクターストーリー「バスケボン誕生」】がある。
お金を使いまくったTrickstar
本ストーリーで,Trickstarの面々が「【BIGBANG】でお金を使いまくって補填の仕事をしている」と言った話は,【新星団★輝きのBIGBANG!】でその経緯を知ることができる。未読の人に少しだけ説明をすると,春ごろにESを紹介する番組を任されたものの,その役割にしっくりきていなかったTrickstarが,より自分たちらしくあるために【BIGBANG】という新しいスタイルのライブを企画・敢行した……という内容だ。【BIGBANG】は当初の予定にはない企画だったため,想定外の出費が出てしまったものと思われる。
「星と勘違いした懐中電灯」
衣更真緒が乱 凪砂に冗談交じりで言った「前に“星と勘違いした懐中電灯”と言われた」という発言の意味や当時の流れは,昨年度の【SS】に向けての前哨戦として,Trickstarが初めてAdamと対決した「!」の【軌跡★電撃戦のオータムライブ】で確認できる。これは,凪砂が初対面の真緒にパフォーマンスを披露するよう命じたあと,真緒を評して放った言葉である。そのとき周りのメンバーは憤慨し,真緒も一度は落ち込んだものの,それをきっかけとして“ブレイクスルー”し,底力を発揮した忘れられない一言だった。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
【スカウト!荒野の花】は短いながらも非常に深い考察のできるストーリーだったように思う(訳:エモすぎました)。本ストーリーは,「!」で繰り広げられてきた物語の中心人物の1人である明星スバルに加え,これまでは他校のライバルキャラであり,ある意味で「あんスタ!!」世界の“異分子”だったとも言える乱 凪砂という存在が登場し,“こちら側”の歴史を語る点が重要だったと言えるかもしれない。
この話の中で,最初に筆者がハッとさせられたのはこのセリフだ。
作中で凪砂も言っているとおり,スバルと凪砂は「正反対」であり「似た境遇」でもある関係だ。スバルの父は過去にアイドル業界で人気と実力の頂点を極めており,凪砂の父は,業界に多大なる影響を与えながらも,“表舞台にはできるだけ痕跡を残さず,闇の部分を請け負って”きた。そしてどちらの父も,今はもうこの世にはいない。無条件で自分を守ってくれるはずの親であり,目指す夢にたどり着くための師でもある存在を失った痛みを,スバルも凪砂も知っている。そして2人とも,アイドル以外の生き方を知らないし,できないように感じられる。そういう意味で彼らは“表と裏”,かつ非常に“似ている”のだ。
そして,このストーリーでもう1つ印象に残ったのが,凪砂のこの言葉だ。
凪砂が言うように,歴史は繰り返されていく。しかし,どんなに近くにいても,同じ体験をしていても,自分以外の他人が何を考えているかを知ることは不可能だ。だからこそ,同じ時代に生まれて同じ言葉で話し,気持ちを伝えられること,それを理解し共に歩めるのは奇跡以外の何ものでもない。この物語は奇跡の存在をあらためて教えてくれるストーリーであり,その奇跡によって,スバルと凪砂がほんの少し“救済”されたように感じられる。
【スカウト!荒野の花】の終盤では,夢ノ咲学院にいたころの凪砂の姿が描かれる。このころの凪砂は絶望していて,今よりもずっと儚く見える。その凪砂に,“今”の凪砂はそっと語りかける。かつてたくさんの血が流され,荒れ果ててしまった土地であっても,未来には幸福に彩られた花が咲いているのだと。凪砂が自身に語りかけるこの光景はとても不思議なものに思えるが,これは現実にもありえることだ。痛みを受け入れ,未来を,この先にある幸せを信じて今を生きていくというのは,過去を癒すことでもあるから。
果てしなく広い宇宙の片隅で,気の遠くなるような長い時間の途中で交わった人と人との心。それは夜空に光る星のように,荒野にひっそりと咲く花のように,小さな美しい奇跡なのだと思う。
ストーリーピックアップ
「降臨!紡ぎ始めるネヴァーランド」
開催期間:2020年8月31日〜9月9日(Basic)2020年8月31日〜9月8日(Music)
――あらすじ――
世界で最も芸術的なミュージシャンを決める「日本ネヴァーランド杯(JNLC)」の出場準備のため,帰国したValkyrieの斎宮 宗。しかし影片みかは,宗に任された企画が思うように進まず悩んでいた。一方,日々樹 渉は乱 凪砂を誘い,JNLCに出場しようと考える。<全12話/シナリオ:日日日>
◆ストーリーのここをチェック!
白が似合う乱 凪砂と黒が似合う日々樹 渉
本ストーリーで乱 凪砂と日々樹 渉は,本来のお互いが似合う色について話す。この2人の関係性といえば“旧fine”と“五奇人”としての対決が挙げられ,そのときの凪砂は旧fineの白い衣装を,五奇人としてステージに上がった渉は黒い衣装を纏っていた。その2人が今は,凪砂が黒(Adam/Edenの衣装),渉が白(fine)を着ているというのが興味深い。渉は「出会う相手を間違えましたかね?」と笑うが,この相手とは七種 茨と天祥院英智を指すと思われる。
臨時ユニット「トロイメライ」とは
昨年度,繁華街にあるダイナーで臨時ユニット“ナイトキラーズ”(月永レオ,天祥院英智,鬼龍紅郎,仁兎なずな)がライブをすることになった際,「そんな面白そうなことに混ぜてもらえないのはつまらない」と,日々樹 渉が結成したのが“トロイメライ”である。メンバーは渉に加え,「お祭り男さん」こと三毛縞 斑と,「右手のひと」こと蓮巳敬人,「騎士さん」こと瀬名 泉の4人だ。この話は「!」の【リバイバル☆一夢のダイナーライブ】で読める。なお,トロイメライには“夢”という意味がある。
日々樹 渉の鳩
ストーリー序盤,「(斎宮)宗と(日々樹)渉は似ている」と言った影片みかに対し,日々樹 渉はふざけて(?)みかに向かって鳩を放つ。渉は小さいころからマジックを嗜んでおり,マジックの定番である鳩もたくさん飼っているようだ。代替わりもしている可能性はあるが,「!」の【真白友也キャラクターストーリー「火刑台上のシンデレラ」】で,そのうちの1羽がジャンヌ・ダルクという名前であることが明らかとなっている。名前の由来は,「十字架に留まるのが好き」だかららしい。
乱 凪砂の“神モード”
食料を買い出し中の斎宮 宗と,そこに現れた乱 凪砂との会話中,凪砂の口から出た「『神モード』を発動して黙らせる」という単語。これは【軋轢◆内なるコンクエスト】の作中にて,ある思惑により周囲を欺くため,凪砂がとった威圧的なスタイルのことである。最初は身内(ユニット)内で使い,あとでその姿を録画したものを見返した彼は「私,かっこいい」とご満悦であった。そして味を占め,その後も度々利用している様子である。
Valkyrieというユニット
「あんスタ!!」に登場するユニットの中で,最も芸術性の高いパフォーマンスを行うのがValkyrieと言っていいだろう。彼らはアイドルでありながら,大衆に寄り添うというより,己の感性と審美眼を信じ,完璧な「作品」を作り上げることに命を燃やしているのである。現在のValkyrieを構成する各メンバーについて補足する。
斎宮 宗
夢ノ咲学院在学時は“五奇人”の1人に数えられ,卒業後は本格的に芸術を学ぶためパリへ渡った。彼はマドモアゼルという名のアンティーク人形を抱えており,時折マドモアゼル自身が会話をすることがある。マドモアゼルは昨年の秋くらいから少しずつ「話をしてくれなくなった」らしいのだが,本ストーリーで判明した彼の祖父に関係する出来事をきっかけに,再び話し始めていた様子。なお,宗の祖父は昨年の冬の時点で入院しており,幼馴染の鬼龍紅郎が「見舞いに行きたい」と話していたことがある。
影片みか
影片みかの生い立ちや家族についてはあまりはっきりとしていないのだが,そのあたりについてのヒントとなるのは,彼の故郷や一緒にいた“子供たち”の話が少しだけ聞ける「!」の【リアクト★マジカルハロウィン】だろうか。このとき彼は「ゴミ捨て場で宗に拾われた」と言い,その宗を求め,故郷から半ば家出のような形で飛び出してきたと話していた。【降臨!紡ぎ始めるネヴァーランド】では,落ち込んだみかがアパートのそばのゴミ捨て場で座り込んでいたところに宗が現れ,横に座って会話をするシーンがあるのが印象的だ。
◆筆者が選ぶ“心に残った言葉”とストーリー所感
待望のValkyrie“箱イベ”である。このストーリーを読んでまず筆者が驚いたのは,何よりも斎宮 宗があらゆる面で“大人”に成長していたことだった。そしてこのストーリーにおける筆者の解釈は,大きく3つに分けられる。それは,「有限の命を持つ人間」「永遠の命を持つ芸術」そして「理解し合おうとする2つの異なる魂」だ。
Valkyrieは結成から昨年の後半くらいまで,宗が絶対的なユニットの核であり神たる存在だった。しかし,影片みかと2人で活動するようになり,さらには宗の卒業が近づいていくうち,宗の心に変化が訪れる。「!」の【モーメント*未来へ進む返礼祭】を読んだ人ならよくご存じかと思うが,宗はみかとの関係を,「人形師と操られる人形」ではなく,「対等な芸術家たる人間」として続けていくと決めたのだ。けれど【降臨!紡ぎ始めるネヴァーランド】をはじめ,みかが登場するいくつかのストーリーを読むと分かるように,「芸術家であり人間としての初心者」のみかは,なかなか満足のいく作品作りができないことに思い悩む。
まだ優れた芸術を生み出せないみかに一度は失望した宗。だが,宗はみかを自分の枠にはめて評価するのではなく,対等な人間だからこそ,敬意を払うべきだと思い直す。みかは「人間と人形,どっちになれば宗に好かれるのか?」と聞くが,宗は「自分がみかに対してどう思おうが,みかという人間の価値には関係がない」と答える。それは決してみかを突き放しているのではなく,芸術は見る者がその評価を決めるが,人間の価値は他人が決めるものではないからではないだろうか。さらに宗は,人間として生まれて間もないみかに「自分自身を愛してほしい」と願っているように見える。それは「あんスタ!!」という物語のなかで繰り返し語られる本質の1つ,「自分を愛することが,自分が愛する人の幸せになる」に通じるもののように思う。
次に,芸術について考えた。
今回,Valkyrieとアルティシモ(日々樹 渉と乱 凪砂による臨時ユニット)が出場するステージは,ずばり【ネヴァーランド】という名前である。いわゆるおとぎ話のなかのネヴァーランドに住むのは,年を取らない子供たちや妖精などで,永遠に終わらない世界を象徴している。
宗はみかに,人間は変化していくものだと教える。そして芸術は命に限りのある人間の愛や執念から生み出されるものだが,その美しさは不変だということも。宗が言うとおり,人の執念や愛から生まれた芸術を語り継ぐ者がいるかぎり,それは永遠となりえる。
宗が子供のころからずっと追いかけている美しいものや,頭の中に広がる緻密な世界。【ネヴァーランド】のステージはきっと,俗世から切り離された別の次元,はるか高いところにある。宗とみかはその場所で,気高く美しく舞う。その姿に胸を打たれ語り継ぐ者がいるかぎり,彼らもまた永遠となるということなのだ。
本項の冒頭で,「宗があまりに大人になっていて驚いた」と書いた。けれど本ストーリーで,2人の間にまったくトラブルが起きていないわけではない。というか最後の最後まで,喧嘩と和解を繰り返している。とはいえそれは2人の関係の根幹を揺るがす深刻なものにも見えず……というこの感じを,渉がビシッと見事に一言で言い表してくれていた。これは筆者的にも,【ネヴァーランド】ってどんな話? と聞かれたときに,「こういう話」として答えたいフレーズの1つでもある。
人形師と人形だった昨年とは異なり,今の彼らは対等な人間であり,同じ場所に生きる芸術家だ。2人は異なる言語を持つ異人同士の子供のように,お互いの心の内を相手の分かる言葉で語り,少しずつ理解し合っていく途中のように見える。
今回の【降臨!紡ぎ始めるネヴァーランド】というストーリーには,終始おとぎ話のようなワクワクとハラハラと,けれどある種の安心感が混ざったような,優しくて楽しくて幸せな空気が流れているように感じる。「みかよりほんのすこぉし経験豊富な,ひとつ年上のお兄さん」である宗がみかの手を引き,ネヴァーランドに向かっていくおとぎ話のような。
ほかでもないValkyrieがこんなおとぎ話を描けるのだなということを意外に思いつつ,この愛すべき物語もまた,永遠になればいいなと思う。
第10回記事もお楽しみに!
■たまお(ライター)■
エンタメ系フリーライター。音楽・ゲーム業界などでの社会人生活を経て,作品やキャラの素晴らしさを文章で伝えるためにライターへ転向。現在4Gamerにて「あんさんぶるスターズ!!」のストーリー解説記事を連載中。このほか追いかけ中のタイトルは「アルゴナビス」「スタマイ」「ツイステ」「ヒプマイ」「パラライ」「刀剣乱舞」「A3!」「まほやく」「ブラスタ」など。
◆Twitter(@tamao_writer)
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