レビュー
“キムタク×神室町”が織り成す,探偵ゲームの新たな形。「JUDGE EYES:死神の遺言」レビュー
筆者も本編をクリアし,思っていた以上に大満足できたゲームだったのだが,連続殺人事件の真相を追う内容なので,何か話そうとすると即ネタバレにつながってしまう。そのため,未プレイの人へ向けて「こういう所が良かったよ」という話をしづらいゲームでもある。
4Gamerでは以前,4つの項目に分けて体験版をレビューしているが,「で,製品版はぶっちゃけどうだった?」と気になる人に向けて,気をつけつつ今回は,本作の「4つの魅力」をお届けしてみたい。できれば,体験版のレビューと合わせてドウゾ。
キムタクが走る!戦う!尾行する! 「JUDGE EYES(ジャッジアイズ):死神の遺言」先行体験版のグッと来るポイントを伝えたい
2018年12月13日にセガゲームスが発売を予定している「JUDGE EYES:死神の遺言」。先日,衝撃的に発表された龍が如くスタジオの新作だが,早くも先行体験版の配信が始まっている。そこで,まだダウンロードしていない人に向けて,体験版を通じて感じた本作の魅力を伝えたい。
#1 良い意味で期待を裏切る,ハイクオリティな本格リーガルサスペンス
正直なところ,プレイ前は「黒幕が意外な人物でさえあってくれればいいや」程度の気持ちでいたのだが,予想以上に,ストーリーに引き込まれた。「本作の良かった点は?」と聞かれたら,筆者は「断然,ストーリー」と答える。「このまま実写ドラマ化しても,高視聴率をマークするのでは……」と感じるほど。
その理由を考えてみると,全13チャプターで構成される物語の中で,中だるみがなかったことが挙げられる。舞台となる神室町で起きた連続殺人事件を追うのが本編の目的だが,この事件を追う過程で別の事件が絡んできたり,新たな事件が発生したりもする。
1つの事件だけを黙々と追い続けるのではなく,その脇を固める形で,ほどよい頻度でプレイヤーの興味を引く別の事件が発生していく。それによって,常に物語の先が気になるし,「不可解な事件のパズルピースが少しずつ集まっていき,徐々に真相に迫っていく感覚」が持続する。
また,常に直近の目的と目的地が表示されるので,次に何をすればいいのか分からなくなったり,行き詰まったりすることもない。神室町という箱庭を走り回るゲームスタイルが,“足で情報を稼ぐ探偵モノ”というテーマとうまくマッチしていて,今後の探偵を題材にしたゲームに要求されるハードルをグイッと上げたな,と感じさせられた。
本編は基本的にはシリアスに進行するが,中には箸休め的な,コメディタッチの事件も起こる。これがまたうまい緩急のつけ方であると共に,八神を取り巻く登場人物たちの個性を描く機会にもなっている。
また,本作には極道,いわゆるヤクザの存在が大きく関わってくる。これは「龍が如く」シリーズでもいまだに壁となっていると聞くが,「反社会勢力と呼ばれている存在を美化するようなことがあってはいけない」という感覚が,どうしても,ある種の心理的ハードルを生み出しているのだろう。筆者もどちらかというと,極道が絡む話を好んで見たいとは思わないほうだ。
しかし本作の場合,「龍が如くスタジオのゲームだから……」とか,「主人公が街中で戦う相手で現実離れしていないものと考えると,ヤクザを出すしかない……」とか,そんな単純な理由でヤクザを登場させているわけではない。本作のストーリーには,ヤクザが登場する必然性があるのだ。あまり言及するとネタバレになってしまうが,もし,この部分が懸念点となっている人がいたら,ぜひハードルを飛び越えてプレイしてみてほしい。本当に,テレビドラマを観ている感覚でグイグイと先へ進めてしまうはずだ。
#2 シリアスな本編を支える,ゲームならではのコミカルさ
本編は,ストーリーだけを見ると重い話だが,逆に言うと,それ以外は楽しさにあふれている。
特にバトル部分に関しては,舞台となる神室町と同様に「龍が如く」シリーズを強く踏襲している部分だが,木村拓哉さん扮する八神隆之というキャラクターあってこそのテイストが,そこかしこに表れている。もちろんマジメなシーンも多いのだが,命に関わるような危険な状況も,どこかひょうひょうとした雰囲気で乗り切ってしまう“キムタクらしいカッコ良さ”がうまく表現されていると感じるのだ。
とはいえ,アクションが苦手な人は多い。ストーリーは気になるけど,バトルが難しくないか心配……という人には,有料DLC「究極・仙薬パック」がオススメだ。
本作には「仙薬」というアイテムがあり,これ自体は神室町のとある場所で調合することもできるのだが,「究極・仙薬パック」では,このDLCでしか使えない,使用回数無限の特殊な仙薬が多数手に入る。
このDLCは配信後,ネットでも大きな話題になっていた。もはや世界観を無視した技の数々で,かつてこれほど爽快感を得られたDLCがあっただろうか……と感じるほどのハチャメチャっぷり。しかし,終盤のボス格の敵はさすがに強く,このDLCを使っても,すべてが楽勝とはいかなかったりする。
とはいえ,これらDLCの仙薬は一定のクールタイムを挟めばまた使えるので,ボス戦のニオイを感じ取ったら仙薬のクールタイムを整えておけば,大抵なんとかなる。筆者も,同じバトルで長時間詰まるということは一切なかった。「究極・仙薬パック」の価格は,1600円+税だ。財布に余裕があれば検討してみよう。
また,神室町の人たちと仲良くなると,新たなEX攻撃が使えるようになる。たとえば,コンビニの兄ちゃんと仲良くなった状態で,コンビニ前でバトルに入ると……
「えっ!? 何!? 何倶楽部!?」 |
「んああー!」 |
「からの〜……」 |
「ドーン!」 |
手から波動を出すわ,空からレーザー降らすわ,しまいにはおでん食わせてチンピラを動かなくさせるわ。冷静に考えると「今,俺は何をやっているんだ」とワケが分からなくなってくるが,この状況でチンピラたちの「チキショウ! てめええぇぇ!」とか言うボイスが聞こえてくると,どうしても笑ってしまう。おでん食わしただけやがな。
また,体験版でも味わえた「尾行シーン」は,製品版に多く登場するが,体験版の時点で片鱗を見せていたバレバレ感は,期待通りの仕上がりを見せている。
特に印象深かったのが,ストーリー後半,とても警戒している人物の尾行シーン。
ここはさすがに,リアルで「ちょ,待てよ……」と言ってしまった。尾行中のターゲットが曲がり角に消えた後にまた戻ってくるって,ほとんどコントだろ……。
本編はシリアス……なはずなのだが,ちょいちょい,こういうのを挟んでくるので,思わずニヤニヤしてしまうことも多かった。こうした要素を成立させているのもまた,“キムタク”の力であることは間違いない。
#3 クリアしてからが本番!? 神室町は寄り道天国
「ジャッジアイズ」は,本編をクリアしてからが本番なのでは……と感じるほど,寄り道要素がハンパない。
筆者は,最初からDLCを導入し,手から波動とかを出しまくって駆け足気味で進めたが,本編のクリアには21時間ほどかかった。
しかし,この時点でトロフィー取得率は18%。トロフィーコンプリートを目指すとどれだけボリュームがあるか,お分かりいただけるだろう。
たとえば神室町にはいろんなお店があるが,店で販売されているアイテムを買ったことがあるかのコンプリートリストまである。
特に,その場で食べる食事系は,体力が満タンになるとそれ以上は買えない。お金さえ貯めておけば,一気に大人買いしてコンプリート……という手段はとれないのだ(特定のスキルを取得すれば,制限なしに食べることもできる)。
町のチンピラとバトルをした後,体力が減ったときに,ふと「あの店のアレは,まだ食べたことなかったな……」と思い出して,その店にダッシュする。まるでグルメ通の動きだが,こうやってお店の食事を少しずつコンプリートしていくのも,本作ならではの楽しみだ。
また,ゲーセンでは,本作オリジナルのガンシューティング「KAMURO OF THE DEAD」や,セガの著名なゲームたちがそのまま遊べるという,太っ腹な仕様となっている。
ダーツやUFOキャッチャーまであるので,ゲーセンだけでも盛りだくさんなのだが,このほかにも,カジノではブラックジャックやテキサスホールデムが遊べ,路地裏にいるおじさんとは青空将棋の対戦も可能だ。
通常の将棋とは別に,メニューに「試練踏破」というのがあったのでやってみると,なんと駒落ち(一方が特定の駒を使わずに対戦するルール)で,戦うモードだった。な,なぜ,ここまで……。
「さすがに,キムタクの存在感やインパクトは寄り道要素ではあまり発揮されていないよね……?」と思っている人に朗報。寄り道要素でも,その存在感を遺憾なく発揮している。
たとえば,麻雀でアガると……
スゴい演出の後で申し訳ないが,これ,役がタンヤオのみなのだ。役表示画面ではなんと木村拓哉さんのボイスで「タンヤオ」とまで言ってくれる。正直,「えー! もしかしてこれ,すべての役にキムタクボイスが……?」とビビる。「九蓮宝燈」とか「流し満貫」とか超聞いてみたい。
また,町中である女の子と知り合うと,探偵事務所にマッサージの出張サービスを呼べるようになるのだが……
やったことのないハリ治療の実験台にされた八神の絶叫に対して,「ええ声で鳴くなぁ」と謎の強キャラ感を漂わせ始めるマッサージの女の子。しかし,これはイイ所に当たると……
体力が回復したりしなかったりと,ギャンブル要素の高い未熟なマッサージ師による施術。なんてことはないサブイベントも,高い映像技術によるキムタクの顔芸を見たいがために 「また呼んでみよう」という気持ちにさせられる。魔性のニオイを醸し出すイベントだ。
上に挙げたように,各要素をやり込み始めると,時間がいくらあっても足りない状態だ。1度クリアすると挑戦できる難易度「EX HARD」でのクリアもトロフィーの条件になっているので,コンプリートへの道のりは遠い……。
#4 “キムタク”から“八神隆之”へ──神室町に息づく新たな世界
本編をクリアするころ,筆者の中で“キムタク”は完全に“八神隆之”になっていた。発売前は「キムタクが如く」などと言われていたし,今もそう思っている人は多いだろう。プレイした人ですら,最初は誰しも強烈すぎるキムタク旋風に翻弄されていたはずだ。
しかし,これはれっきとした「八神探偵事務所の物語」であり,「龍が如く」シリーズの派生でもない,「キムタクが如く」でもない,神室町を舞台にした新たな柱の誕生だと感じる。
八神は,自身の弁護によって無罪となった人物・大久保新平が再び事件を起こしたことで,多くの人に「犯罪者を無罪にして世に放った弁護士」と思われ,冷たい目で見られている。加えて,そのことが引き金となって,弁護士事務所を退き,便利屋まがいの探偵業に身をやつしている。これが本作のスタート地点だ。
そういった経緯もあってか,オープニングが終わり,実際に八神を操作して探偵事務所に戻ってくると,どこか孤独を感じる。唯一,旧知の仲でもある海藤正治が探偵業を手伝ってくれてはいるが,常に事務所にいるわけではない。ほとんどが八神1人の生活だ。
本編の事件を追っていくうちに,八神の周りは少しずつ変化していく。決して儲かっているとは思えない探偵業だし,治安という意味では決して良くはない神室町で仕事をしていると,敵を作ることもある。しかし,やさぐれずに目の前の仕事に真摯に向き合う姿と,八神の信じる正義を貫く姿が,自然と周りに新たな仲間を集めていく。この過程は,RPGで徐々に仲間が増えていくようなワクワク感があった。
「ジャッジアイズ」の魅力は,サスペンスとしてのストーリーの牽引力に加えて,八神を中心とした登場人物たちの成長物語にある。
主要人物の多くが,過去にあった何かを乗り越え,着実に一歩ずつ前へ進んでいく。殺人事件の真相を解明するだけでもゲームとしては成立すると思うが,この,多くの登場人物たちの成長をも,違和感なく本編に組み込んだ手腕は驚愕に値する。これこそ,筆者が本作のストーリーを「良い」と感じる部分だ。
絵面のインパクトから,「キムタクが如く」というイメージが先行した本作だったが,少なくとも,このゲームをプレイした後に木村拓哉さんの起用に対する違和感は消えているだろう。八神隆之というキャラクターを通して木村拓哉さんのイメージを上げ,木村拓哉さんという大きな入口を通して,龍が如くスタジオのゲームに初めて触れた人の脳裏にも,しっかりと高評価を刻み込めたはずだ。本作は双方に良い効果をもたらした,理想的な「芸能人起用ゲーム」の形だったのではと思う。
こうした,さまざまな要素が脳裏をかすめていき,エンディングのスタッフロールは本当に感動してしまった。このゲームをクリアして,「良いゲームだった……」と感じない人など,果たしているのだろうか。それくらい,完璧な作品だった。ストーリーについて語ると,ことごとくネタバレになってしまうので,あまり語れないのがもどかしい。
「そういえば,あのゲームはどうだったんだろう。面白かったのかな? そうでもなかったのかな?」ということも,ネットで調べる時代になって久しい。決して安くないお金を出して買うゲームだから,やはりクリア後はしっかり満足したい。だからこそ,気になるゲームの評判は知りたい。
しかし本作の場合,ヘタに下調べをすると,ストーリーのネタバレをくらってしまう可能性が高い。評判は知りたいけど,ネタバレは知りたくない。そんな人に,このレビューが一助となれば幸いだ。
「ジャッジアイズ」は,「眼球をくり抜かれた惨殺死体の謎を追うこと」や,殺人犯かもしれない人間を無罪にしてしまった八神の弁護士としての「人を見る目」の揺らぎなど,“目”にまつわる,さまざまな意味が込められたタイトルであると思う。世間の評判など気にせず,実際にプレイして貴方の“その目”でジャッジしてほしい──そんな意味もあるのではないか……というのは,さすがに考えすぎだろうか。
「ジャッジアイズ」のストーリーは,これ1本で完結してもいるし,続編を作ろうと思えば,可能な余地も残している。メチャクチャ綺麗に終わっているので,ここで終わったほうが美しいのかな……と思う反面,良い作品はどうしても続きが見たくなるものだ。
──もし,続編の予定がないのなら。このゲームをプレイした1人として,声を上げておきたい。「え? 八神探偵事務所の物語を,これ1作で終わらせる? ちょ,待てよ」──と。
「JUDGE EYES:死神の遺言」公式サイト
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