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REBOOT Developの開幕基調講演は上田文人氏と宮崎英高氏。両氏のゲームデザインに対する姿勢と,開発の秘密を聞く
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印刷2019/04/13 20:01

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REBOOT Developの開幕基調講演は上田文人氏と宮崎英高氏。両氏のゲームデザインに対する姿勢と,開発の秘密を聞く

 クロアチア南部,アドリア海沿岸の都市ドゥブロヴニク。世界遺産にも指定されている旧市街の近くに位置する高級リゾートホテル「シェラトン ドゥブロヴニク リビエラ」で,毎年恒例のPCゲーム技術カンファレンス「REBOOT Develop 2019」が現地時間の2019年4月11日に開幕した。
 7回目を迎える今年は,2000人を超える参加者を世界中から集め,登壇者の顔ぶれも豪華かつ多彩だ。日本からは6人のゲームデザイナーやエンジニアが登壇するほか,一般参加の日本人が10人以上を数える。主催者によれば,アジアからの参加者が急増しているという。

1200人の来場者で埋め尽くされた基調講演の会場
画像集 No.001のサムネイル画像 / REBOOT Developの開幕基調講演は上田文人氏と宮崎英高氏。両氏のゲームデザインに対する姿勢と,開発の秘密を聞く

「REBOOT Develop 2019」公式サイト


 そんなREBOOT Develop 2019の開幕基調講演に登壇したのが,「ICO」「ワンダと巨像」「人喰いの大鷲トリコ」などの個性的な作品で知られる上田文人氏と,「Demon's Souls」「DARK SOULS」シリーズや「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」(以下,「SEKIRO」)などの高難度アクションゲームで知られる宮崎英高氏だ。両氏のゲームデザインに対する姿勢やゲーム業界に入った理由などが語られた基調講演の模様をお伝えしよう。


「作りながら変えていく」ことで良くなるゲーム


 最初のトピックは,キャラクターのアニメーション(モーション)について。モデレーターを務めたBen Judd氏は「上田氏の作品には,キャラクターとプレイヤーの間に感情的な絆がある」と指摘し,それがアニメーションにどう関係しているのかと質問した。

「REBOOT Develop 2019」公式サイトより
画像集 No.002のサムネイル画像 / REBOOT Developの開幕基調講演は上田文人氏と宮崎英高氏。両氏のゲームデザインに対する姿勢と,開発の秘密を聞く

 これに対し上田氏は,「画面の中のキャラクターが,本当に生きているという感覚が生まれることが理想」と語る。生きているキャラクターが不自然な動きをしてはならないため,モーションのつなぎや移動などをひたすら直し続ける必要があるが,これについて上田氏は,「簡単ではない。時間をかけて調整していくしかない」と述べた。
 加えて上田氏は,「自然さを求めるのは,主人公はもちろんだが,NPCでも重要だ」と語る。絆を感じさせるためには,NPCの動きも大事になるためだ。そして,「生きている感覚」が成り立つところまでアニメーションを詰めたうえで,「お互いを必要とするようなシステムやレベルをデザインすることで,一層そこに絆が深まるのではないか。それが自分のスタイルだ」という。

 一方,Demon's Souls以降,キャラクターアニメーションを重視するようになったという宮崎氏は「上田さんとは対照的なアプローチで,僕の場合,ゲームを構成するためのモーションを重視する」と語る。バトルを重視した作品が多いため,攻撃や防御などのモーションが持つ「ゲームとしての記号性」や,操作の気持ちよさを大切にしているというわけだ。

左から宮崎英高氏,上田文人氏,モデレーター兼通訳のBen Judd氏
画像集 No.003のサムネイル画像 / REBOOT Developの開幕基調講演は上田文人氏と宮崎英高氏。両氏のゲームデザインに対する姿勢と,開発の秘密を聞く

 上田氏は,「モーションを完成させた段階で,ゲームデザインやレベルデザインを詰めていく」という指摘をしたが,これについてはシナリオもまた同じだという。

 上田氏の場合,企画が立ち上がった段階である程度のプロット(あらすじやエンディングなど)は決めているが,いわゆる「ゲームシナリオ」は存在しないという。
 これについて上田氏は,「ビジュアル優先でゲームを作ることがあり,映像が存在しない段階で『こうしたい』という脚本を提示しても,期待したクオリティに達する可能性がない」と語った。ゲーム制作を進める中でエフェクトや各種の制御など,できることが増えた段階で,「完成した道具を最大限に使ってカットシーンや物語を表現する」ということをやってきた。そのためゲーム制作の終盤になってカットシーンを作り始めることが多かったそうだ。

ワンダと巨像
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 宮崎氏も「基本は同じ」と語る。最初におおまかなあらすじはあるが,ゲームを作りながら追加や改変を行い,完成する頃には「最初のあらすじは,ほとんど残っていない」という。
 この方式を採用する理由は2つあり,1つは「そもそも,ゲームに最適化したストーリーはゲームを作りながらでないと見えてこない」という点。
 もう1つは,「これは自分の趣味」と断りつつ,「ゲームを制作している過程で発生した問題や刺激,あるいは期せずして生まれた素晴らしいものを,ストーリーに反映させていきたい」という意思があるという。その方が「生きた物語,生きた世界になる」のだ。
 この方式を指して宮崎氏は「混沌としたものの中からストーリーを作りつつ,ゲームを作り上げていくのが好きだ。頭で考えただけでは生まれない,ちょっといびつな,そして混沌としたものが好きで,そういう世界を作りたいと思っている。そのため,ゲームを作りながら物語を作っていきます」と語った。

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 ちなみに,この宮崎氏のやり方に対して上田氏は,「昔の日本のゲーム制作方法に近い」と指摘した。開発規模が大きくなることで,そうした制作手法の採用は難しくなってきたが,とはいえ,頭の中だけで考えたものが,ゲームを実際に動かしたとき,そのとおりにいくことはまずないのだから,それに対して「どう対処していくのかが面白いところであり,大変なところでもある。どう調整していくのかが大切」だと上田氏は語った。

 この「作りながら変えていく」という方式は,レベルデザインでも同様だ。宮崎氏は「ボスをデザインしたあとで,ボスが登場する順番を変えたりする」と語り,上田氏もまた,「ボスやレベルの順番は,作った順番とは一致しない」と述べている。
 上田氏はさらに,「順番に作ったからといってクオリティが高くなるとは言えない。できた素材を見て,順番を入れ替えたほうが,最終的には良いものになるのではないか」と指摘した。


ゲームの「世界」が持つ利点と弱点


 続いてJudd氏は「ゲームの世界観」について,上田氏の作品は和風の世界ではないし,宮崎氏の作品も,「SEKIRO」までは和風の世界ではなかった。これはどういう理由によるのかと質問した。

 上田氏は「僕は日本の価値観で育っているので,僕が感じる日本の郷愁のようなものを風景としてゲームに取り込めないかと考えたことはある」と語った。しかし,「個人的な郷愁をグローバルに発信して,理解されるのかという不安がある」とした。
 また,ゲーム制作という側面から見たとき,(和風であるかないかを問わず)現実世界をモチーフにすることはレベルデザインの制約になりやすいと指摘する。上田氏の作品がファンタジー世界を旅するのは,ゲームデザインが自由にできる世界設定のほうが望ましい,という判断に基づいているわけだ。もっとも上田氏は,「いつかは現実の,日本の風景を踏まえたゲームを作ってみたい」とも語っている。

SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE
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 この論点については宮崎氏もほぼ完全に一致しており,和風の世界観を持つ「SEKIRO」がワールドワイドで受け入れられるのか不安だったし,今でも不安だという。
 また,世界設定については「ゲームのための世界であって,現実世界をモチーフにすればするほど自由度が下がるのは,一面の真理」と語る。実際,「SEKIRO」は和風の世界だが,舞台や登場人物が現実に基づいているわけではなく,いわば「和風ファンタジー」だ。「史実に忠実に作ることにも可能性があると思っているが,今の自分の作り方では,世界設定に自由度がほしい」というのが宮崎氏の見解だ。

DARK SOULS
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 宮崎氏はまた,「世界観やゲームのテーマは,(正しさや強さ,美しさなど)自分が憧れるものをベースに作っている」とも語った。「SEKIRO」は和風の世界を採用したことで,「Demon's Souls」やBloodborneのようなゴシックファンタジーとは異なる,和風の「正しさ,強さ,美しさ」を持つことになった。宮崎氏は「違ったゲームを作れたのは面白かった」と語ると同時に,まさにそれが「ワールドワイドで受け入れられるかどうかの不安」の根底にあるとも指摘した。


方向性を決めるのは,最後は「好み」


 Judd氏からは,ゲームデザインに関する質問が飛び出した。まずは,両氏の作品には「主人公の口数が少ない」という共通点があり,それが意図的なものなのかという問いだ。

 これについて上田氏は,「ゲームである以上,操作できない時間をできるだけ少なくしたい」と述べ,そのためにボイスやテキストが少なくなっているとした。一方で,最近増えてきた,ボイスもテキストがまったくないというスタイルについては「さすがにやりすぎではないか。言葉がないゲームには,最近ちょっと食傷気味」だと指摘した。

 宮崎氏も基本的には同じで,「我々が作ってきたゲームは,テキストを読むためにデザインされていない」と語った。ゲームの主体はあくまでアクションであり,したがって,それ以外の情報は抑えめにしているというわけだ(宮崎氏は同時に,テキストや会話主体のゲームで,それらを楽しむ作品であれば,大量のテキストやボイスがあるのは当然だと述べている)。
 また口数が少ないというより,むしろ「言葉足らず」にしている理由として,「想像や解釈の余地と楽しみを用意したい。個人的にもそういう体験が好きだし,そのほうが物語やゲーム世界がプレイヤーのものになるはず」とその意図を語った。

 Judd氏はここで,上田氏のゲームデザインの方向性として,「少ないアセットで,それぞれをハイクオリティに」という傾向があるのではないかと質問した。それは,ゲーム体験をよりタイトなものにすることを意図しているのではないかというのだ。

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 これについて上田氏は,そうなったのはある意味で必然だったと語る。上田氏がディレクターとしてゲームを作り始めたとき,開発メンバーは15〜16人ほどで,しかも,それほどゲーム制作の経験が豊富というわけでもなかった。このチームで,ほかの大規模で経験豊富なチームの作品に対抗するには,大きなゲームを広く浅く作り込んでいく方向性ではとても太刀打ちできないと上田氏は判断したそうだ。
 そこで「できるだけ要素を減らし,それぞれの要素にかける時間を増やし,小さな世界のクオリティを上げていく」という方針を採用し,「その条件で成立する話を考えた」という。この制作方針は,今でも上田氏の中に残っているという。


 宮崎氏は「僕はデータ数を絞らない」と語り,おそらくそれはゲームデザインの問題なのだろう,とした。
 狭く深く作り込むのか,広く浅く作るのかという点については,まず「どんなゲームを作るのか」が深く関与する。そのうえで宮崎氏は,「僕がRPGに興奮するポイントとして,武器がずらりと並んでいたり,モンスター辞典を見たりといったりことがある。そういうものを見たり読んだりするのが好きだ」と語る。小説でも,登場人物が多い話(「ゲーム・オブ・スローンズ」など)が好みだという。
 上田氏もこの見解には同意して,「最後は好み」と指摘した。ちなみに上田氏は「マニュアルが厚いゲームには手が出しにくいタイプ」だそうだ。このように,「自分の遊びたいゲームの好みが,ゲームデザインの選択肢に出てきて,自分が楽しめるゲームへ向かっていく」という。


「好き」でありつつ,「好き」というだけではなく


 Judd氏はさらに,2人がなぜゲームを作ろうと思ったかという点に踏み込んでいった。

 上田氏は「もともとセガのハードが好きで,その後AMIGAに出会ってゲームが大好きになった」と語る。しかし上田氏は,その段階でゲーム業界を視野に入れていたわけではなかった。むしろ上田氏はアートの世界を目指しており,「プログラムもできないので,ゲーム業界に行くとはこれっぽっちも思っていなかった」と述べた。

 大学を卒業して,生活のために仕事をする必要が出てくると,就職先を決めなくてはならない。ここで上田氏は「妥協としてゲームの世界に入った」という。上田氏はすでに25年近くゲームを作り続けているが,最初の10〜15年は「ビデオゲームを作っていて,本当にいいのだろうか?」と疑心暗鬼になりながらの制作だったという。
 もちろん「最近はゲーム制作は天職だと思っているし,迷いはない」ものの,過去を振り返ると「迷って,いつゲーム業界を去ってもいいと思っていたからこそ,ICOやワンダと巨像など,その時代のゲームの常識から外れるような,大胆なディレクションができたのだろう。後先を考えない,若さがあったと思う」と上田氏は語った。

人喰いの大鷲トリコ
画像集 No.015のサムネイル画像 / REBOOT Developの開幕基調講演は上田文人氏と宮崎英高氏。両氏のゲームデザインに対する姿勢と,開発の秘密を聞く

 宮崎氏がゲーム作りを始めた理由はシンプルで,「ゲームオタクで,アナログを含めて幼い頃からゲームが大好きだった」ことが最も大きな理由だという。事情があって子供時代はあまりゲームを遊べなかったので,そのせいで憧れが強くなったという部分もあるそうだ。
 そんな宮崎氏がゲーム業界に入ったのは30歳のときのことで,この段階では「好き」以外にも理由ができていたという。

 理由は2つあり,まずはゲームというメディアには特有の力がある点だ。「ゲームは,時間に対する行為や作業に主体的な価値を与えられるメディア」であり,これはゲームの強さであり,かつその強さはどんどん増していくと予測した。つまり,「ゲームというメディアの未来には希望がある」と考えたのだ。
 もう1つは,ゲームはテクノロジーと密接に関係し,かつテクノロジーはすさまじい勢いで進歩していることだ。それは,「新しいものを作る機会や刺激には,しばらく事欠かないだろう」ということであるし,「一生の仕事とするにあたって,ずっと楽しそうだ」ということでもあると宮崎氏は語った。

 基調講演の最後にJudd氏は,インディーズゲームについてどう思うかを2人に尋ねた。
 上田氏は「最近は多くのインディーズゲームを遊んでおり,プレイヤーとして,とても楽しませてもらっている。ファンとして,新しいアイデアを持ったゲームをたくさん作ってほしい」と語る。
 その一方で,ゲームの内容や面白さとは別に,「無数に発表されているインディーズゲームマーケットで,どうやってユーザーに見つけてもらうのかということが,とても大変そうだ」と指摘する。

 宮崎氏は「インディーズの立場でゲームを作ったことがないので,偉そうなことは言えないが」と前置きしつつ,「ゲーム業界の人間としても,ゲームファンとしても,ゲーム業界には多様性が必要だと思っている」と述べた。ジャンルにしてもゲームの規模にしても,あるいは誰のために作るのかという点についても,「いろいろあるほうが面白いし,そのほうが,エネルギーのある生き生きとした業界になる」というのだ。

 その多様性の一端を担っているのがインディーズゲームであり,「僭越な言い方になるが,面白いゲームを一緒に作っていきましょう」と宮崎氏が会場に呼びかけて,講演は終了した。

基調講演終了後は,2人のサインを求める来場者が行列を作った
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