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[gamescom]反ナチス政権レジスタンスをマネジメントするストラテジー「Through the Darkest of Times」のデモをプレイ
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印刷2019/08/26 13:27

プレイレポート

[gamescom]反ナチス政権レジスタンスをマネジメントするストラテジー「Through the Darkest of Times」のデモをプレイ

founder/artistのSebastian St.Schulz氏(左)とtechnical designerのJan-dirk Verbeek氏(右)
画像集 No.001のサムネイル画像 / [gamescom]反ナチス政権レジスタンスをマネジメントするストラテジー「Through the Darkest of Times」のデモをプレイ
 ナチス支配下のベルリンにおいて反ナチス・レジスタンス組織を運営するストラテジーという,テーマからして強い絶望感の漂うインディーズゲーム「Through the Darkest of Times」(以下,TtDoT)。ベルリンを拠点とするデベロッパであるPaint Bucket Gamesは,これまで基本的に2人のチームで本作を作ってきたが,このたびパブリッシャとしてHandy Games(インディーズ〜ミッドクラスのゲームを専門にパブリッシュする,THQ Nordicの関連企業)が立つこととなった。
 これもあってgamescom 2019のIndie Villageでは大型のブースが出され,制作チームもフルタイムのスタッフが4人となり,体制が大いに強化されている。そしてゲームの完成度も,飛躍的に高まった。会場では最新のビルドを試遊できたので,その模様をレポートしよう。

 TtDoTは,最大5人までのレジスタンスチームを構築して,ナチス政権下のベルリンにおいて反政府活動を行うストラテジーゲームだ。状況設定は歴史準拠であるため,ゲームの展開は基本的に重苦しいものとなるし,端的に言って「戦後まで生き延びる」だけでも極めて困難なゲームだと言える。本作は基本的に一定期間を扱ったいくつかのシナリオをプレイする作品であり,「ナチス政権と最初から最後まで戦う」作品ではないとのことだ。
 基本的なゲームシステムについては,過去の記事を参照してほしい。

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 ゲームの流れをざっくり要約すると,

・チームは各種説得工作や,より具体的な行動(落書きなど)を通じ,反ナチス政権の支持者を集めていくのが目標となる
・チームには資金とモラルというリソースがあり,活動すればこれらのリソースが減る
・このため資金を集めるための活動や,モラルを回復させる活動もまた必須
・チームメンバーは「反ナチス」という方向性では合意しているが,イデオロギーの面においてまで一致しているとは限らず,チーム内の対立もあり得る
・ゲームは1週間=1ターンのターン制。プレイヤーは「今週の活動」をプロットし,実行結果を見る(ここで特殊なイベントが起こることもある)ことを繰り返す
・キャラクターは自動生成

 となる。

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キャラクターは自動生成(主人公に限り調整可能)
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メインとなる画面。以前のものと比較し,明らかに洗練されている
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活動に誰を参加させるかは,ドラッグ&ドロップで選択
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資金集めミッションに成功,40マルクを獲得

 gamescom版は,以前出展されたバージョンからゲームシステムそのものは変更されていないが,プレイアビリティを向上させている部分はいくつか見受けられる。
 モラル管理はその筆頭で,かつてはキャラクターごとに異なるモラルが設定されており,適宜キャラクターに「休養」を取らせることでモラルを回復させるというシステムになっていた。
 これはこれで理にかなったシステムではあるのだが,5人全員のモラルを管理するとなると,なかなかに面倒なのも事実だ。特にgamescom版では「プレイヤーとほかのメンバーとの関係性(信頼度)」もゲームの表に出てきており,気を使うべき要素がぐっと増えている。
 かくしてgamescom版では,モラルは資金同様,チームで共有されるリソースとなった。仲間が逮捕されればチーム全体のモラルが低下するし,何か良いことがあればチーム全体のモラルが回復するという仕組みは,むしろレジスタンス組織運営シミュレーションとして適切だと感じる。

ときにはチーム全員で美術館に行ったりパブに行ったりしてモラルの回復に務めることも必要
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 また,gamescom版では「アイテム」の要素が追加されていた。これは活動にあたって有利な補正をもたらしてくれるものだが,シナリオが進むにつれて顕著な効果を発揮しそうだ。例えば1944年のベルリンにおいて,どれほどの(そしてどんな)「アイテム」を獲得し得るかと考えれば,ゲーム開始直後との良いコントラストを形成し得る。

ミッションでは右側に見えるアイテムが利用できることも
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活動中に警察に発見されそうになることもある。逃げる(成果はゼロになる),隠れる(危険を伴うが成果は得られる),戦う(とても危険)の三択
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 インタフェースは全体的に大幅に向上しており,逆に「微妙に不便な点」が目立つレベルに到達している。以前はまだまだコンセプト・デモとしての側面が強く,「将来的にはこれらの数値管理もやりやすくなるんだろうな」と思いながらプレイしていたが,その「将来」が到達したというのが率直な感想だ。
 個人的には「ここがこうだったら」と思うところが少しあるが,「コマンドの発行も,状況の把握も,十分なクオリティをもって快適に行える」と評価できる。また全体的にタッチパネルでの操作も意識されたインタフェースとなっている(ドラッグ&ドロップで可能な操作が増えている)ので,モバイルへの移植もより簡単になったと言えるだろう。

キャラクターが吹き出しを使ってセリフを喋っているが,この吹き出しが情報を隠すことがあったりするので,できれば修正してほしいところ。またモラルと支持者がチーム全体の共有リソースであるならば,同じ共有リソースである資金もこの画面に置いてほしかった(右隅のインベントリを開くと資金はチェックできる)
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 上記のようにゲームとしてのTtDoTは明らかに完成度が大幅に向上しているが,gamescom版で最も強く感じたのは「なるほど,この作品は,こんなムードを持ったゲームとして企図されていたのか」という点だ。インタフェースが洗練されたため,よりストーリーに集中できるという面もあるが,イベントの作り込みや傾向,あるいはランダムイベントの構成が,より「リアル」になっているのである。

 例えばランダムイベントにおいては,以前のバージョンよりもずっと「嫁(ないし本人)が妊娠したので,もうこれ以上は活動を続けられない」と訴えてチームを離れようとするキャラクターが増えた。彼らを慰留することは可能だが,その決断は極めて重大な結果につながりかねない。
 とはいえ脱退を認めるとチームの手数が減ってしまうので,新規メンバーを募らざるを得ない。またキャラクターは活動を通じて成長していくので,熟練のメンバーが離脱してしまうのはとても痛い。だがこのように小規模なレジスタンス活動というものを考えたとき,そのメンバー構成が流動的になるというのは,実に納得できる話だ。

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メンバーが離脱を訴える
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メンバーはレベルアップしてステータスが強化されていくだけに,突然の離脱宣言はなかなかに困ることも

 固定で発生するイベントにおいても,いたたまれないイベントは少なくない。
 なかでも印象的なのは(これまでも実装はされていたが),「親族がナチス政権を強く支持するようになる」イベントだ。我々は過去の歴史としてナチス政権時代を知っているからこそ「なぜあの政権を支持したのか」という疑問を抱きがちであり,そのため実際にナチスが政権を取っていくなかで支持者となった「普通の人々」がそれぞれ相応の理由を持って支持者となっていったことを,なかなか理解し難い。
 だがゲームを通じて「支持者となった人々が語る,理論的な正しさ」と対話すると,本やフィルムでそういった証言を見聞きするより強く,彼らがいつの間にか形成した「妥当さと狂気」に慄然とすることになる。
 またプレイヤーが警察に捕まって尋問されるイベントも追加されているが,これまた陰惨極まりなく,人によっては強い衝撃を受けるかもしれない。

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 なんにせよTtDoTはゲーム体験の面においても,ほかに類例を探し難い作品となっている。あえて言えば「This War of Mine」「My Child Lebensborn」「Attentat 1942」といった作品が挙げられるが,これらとは表現やアプローチがかなり異なっているだけでなく,より「直球を投げてくる」印象が強い(なお「直球を投げつける」ことは必ずしも「正解」ではないことは言い添えておきたい。それはあくまで表現における選択肢の一つであり,例えば「My Child Lebensborn」であれば間接的なアプローチをすることで強烈な体験を生むことに成功している)。
 ともあれこのタイプのゲームが好きならば,プレイするしかない作品なのは間違いない。

 筆者は長年,シリアスゲームというジャンルを見ているが,シリアスゲームに限らず「何かを伝えようとするゲーム」は,しばしば大きな落とし穴にハマってしまうことがある。「何かを伝えるメディアとしてはノンフィクションや映画に劣り,ゲームとしてはクオリティが低い,ただ単に『このテーマに挑戦してみた』というだけの駄作」が,しばしば最後の一点だけをもって評価されてしまうという問題だ。
 この問題については,シリアスゲーム大国であるオランダの開発者が「『学ぶべきものがあるから多少つまらなくてもシリアスゲームを遊ぶ』というのは企画や開発側の幻想で,シリアスゲームがゲームである以上,遊ぶ側は普通の『ゲーム』と比較して,面白くなければ遊ばない。シリアスゲームは任天堂やセガのゲームと同じくらい面白くなくてはならない」と指摘してる。まったくそのとおりだ,としか言いようがない。

ヒストリカルイベントも精密に実装。しかも途中の選択肢が多い。イベント中に聞こえてくるシュプレヒコールなどは,当時の録音をもとに書き起こして,制作スタッフが再録音したそうだ。制作チームの1人であるSebastian St.Schulz氏曰く「言われると思うから先に言うけど,当時の録音なんかをゲーム内でも使いたいと思っている。ただ権利問題がややこしいので,今はまだ交渉を始めようという話をしている段階」とのこと
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 この点,TtDoTは強いメッセージ性を持つだけでなく,ゲームとしてもスムーズに楽しめる作品として完成しようとしている。
 現状のステータスとしては「コンテンツがすべて完成するまでもう一歩で,作業としては磨き上げのフェイズ。11月にはいったんこれで完成というレベルに達し,そこから最後の調整をして,2020年の早い時期にSteamでリリース予定」とのこと。コンソールやモバイルへの移植も考えているそうなので,日本語化とあわせて期待したいところだ。

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