レビュー
10年経っても色褪せないゾンビパラダイスアクションの魅力とは
デッドライジング
なかでもシリーズの原点と言える第1作「デッドライジング」(PC / PlayStation 4 / Xbox One)は,今からおよそ10年前,Xbox 360向けにカプコンからリリースされた時点で,過不足なく完成されていた作品だ。
その後はWii向けにリメイク作品「デッドライジング ゾンビのいけにえ」が発売されたのみで,PCやPlayStationプラットフォームで「デッドライジング」が遊べるのは初となる。そのため,噂には聞くが「まだプレイしたことがない」という人も多いだろう。
そこで,本稿では「デッドライジング」とはどのような作品なのか。いくつかの視点から,その魅力を振り返ってみたい。
「デッドライジング」公式サイト
ワールドワイドに通用する日本製箱庭アクション
スクリーンショットを見れば分かるとおり,「デッドライジング」はゾンビを題材にしたゲームである。
それまでにも,ゾンビはさまざまな形でゲームに扱われてきた。本作を開発したカプコンは,「魔界村」(1985年)で最初にゾンビを登場させたと記憶している。また,「バイオハザード」シリーズはゾンビを扱った同社の看板シリーズとして有名だ。
しかし,「デッドライジング」にはそれらの作品とは多少違った雰囲気がある。その要因の1つとして,フィールドがいわゆる「箱庭」になっていることが挙げられるだろう。
アクションゲームにおける箱庭という概念は,プレイヤーが自由にフィールド内を行き来して遊べることを表す。「デッドライジング」の舞台となるのは,コロラド州ウィラメッテのショッピングモール。ここには,さまざまな店舗やアトラクションが存在する。
さすがにオープンワールドRPGのような広さではないが,十分に巨大なショッピングモールといえる。ここで,プレイヤーは勝手気ままな行動を楽しめるというわけだ。とはいえ,どこもかしこもゾンビで埋め尽くされてしまっているが。
プレイヤーはゾンビと戯れるもよし,ショッピングモールをぶらついていろいろな物を食べたり,生き残っている人にちょっかいを出したりしてもいい。ショッピングモールは無法地帯になっているので,何でもやり放題だ。この自由度の高さが,箱庭系アクションゲームの特徴だと言える。
今でこそ広く知られている箱庭系アクションゲームだが,Xbox 360版が発売された当時では,日本のプレイヤーに浸透し始めていた時期だった。
冒頭で触れたとおり,「デッドライジング」はXbox 360向けに発売された。このハードは海外に強かったため,本作が欧米のプレイヤーを意識して作られたことは確かだろう。
昨今,日本のゲームが海外で苦戦を強いられ,ガラパゴス化を指摘されることがあるが,「デッドライジング」は海外でも高く評価され,日本のゲームがワールドワイドに通用すると証明したタイトルの1つである。
だからこそ,この機会にぜひ触れてほしいと思うのだ。
ショッピングモールのあらゆる物が武器となる
「デッドライジング」の主人公,フランク・ウェストはムキムキのマッチョでこそないが,第一印象ではタフガイに見える。どんな状況でも,しぶとく生き残りそうなタイプだ。もちろん,それが正しいか否かはプレイヤー次第。うまく立ち回れば,ゾンビどもを蹴散らし,命をつないでいくことができるだろう。
ゾンビは素手でも攻撃できるが,武器を使ったほうが殺傷力が高くなる。巨大ショッピングモールには銃砲店やホームセンターなどがあり,ハンドガンからショットガン,スナイパーライフルまでさまざまな銃が手に入る。ナイフや巨大な鋏,肉切り包丁,日本刀など,さまざまな刃物も入手可能だ。
対ゾンビ武器の定番であるチェーンソーは,かなり強力な武器として重宝する。ゾンビがチェーンソーで解体されていく様は,なかなかの迫力である。
こうした武器は,基本的にショッピングモール内を探索して,自らの手で確保するしかない。どこにどんな武器があるか。それを探すのも「デッドライジング」の楽しさと言えるだろう。
銃や刃物だけでなく,普通なら武器とは呼べない物でも戦える。ギターやマネキン人形,店のレジ,長椅子などを振り回して,ゾンビを撃退できるのだ。
手に持って振り回すだけでなく,投げつける物もある。店に並んでいる皿を投げれば,フリスビーのように気持ちよく飛んでいく。意外に役に立つのは,宝石類だ。固いからなのか,威力が高く使い勝手がいい。
直接,攻撃に使うわけではないが,本も貴重なアイテムである。本を所持していると,その種類によって武器の耐久力がアップしたり,食べ物の効果が上がったりする。まさに,知は力なり。本屋の場所は,早めに押さえておくべきだろう。
グルメとファッションを究める
ショッピングモールには,たくさんの食べ物も放置されている。当然,レストランやスーパーマーケットもあるわけで,よりどりみどりの食べ放題だ。ゲーム的に考えれば,重要なライフ回復手段なのだが,いろいろな物を食べたり,食材を調理したりすることが本当に楽しい。
たとえば肉の場合,「生肉」よりも焼いたほうがうまい(ライフの回復量が多い)。そのため,フライパンやコンロを探して調理することになる。
しかし,生肉を長時間放置していると,「腐った肉」になってしまう。これを食べると腹を下して,苦しんでいる間は操作がやりにくくなる。場合によっては生死に関わるので,注意が必要だ。
少々手の込んだ食べ物としては「ミックスジュース」がある。これは,オレンジジュースやキャベツ,パイなどの材料をミキサーにかけて作成できるものだ。飲むと無敵になったり,移動速度が上がったりと,特殊な効果を発揮するので試してみたくなる。
さらに,服飾店ではさまざまな服に着替えられる。帽子や衣装を変えてオシャレを意識したり,イカれた服装で狂気に満ちた舞台を楽しんだり。いずれにせよ,オツなものである。
シナリオ進めるために「CASE FILE」を達成しよう
自由気ままにショッピングモールを探索できる「デッドライジング」だが,「CASE FILE」と呼ばれる達成目標が存在する。これをクリアしていくと,シナリオが進んで,ゾンビ大量発生事件の真相に近づけるというわけだ。そのほかにもさまざまなイベントに遭遇することがあり,そこで要求されるのは,生存者の救出やサイコパスを倒すことなどである。
こうしたCASE FILEやイベントには制限時間が設定されている。本作は,ヘリコプターが迎えに来るまでの72時間を生き延びることが目的という自由度の高い作品ではあるが,すべてを完璧に遂行しようとすると,かなり時間にシビアなゲーム性が顔を覗かせる。腕時計を注意深く見つつ,迅速に移動したり,戦闘したりと忙しくなるはずだ。
ショッピングモールに取り残されている数少ない生存者を救出するには,安全なセキュリティルームまで連れてくる必要がある。
ところが,これがなかなか一筋縄ではいかない。生存者はそれぞれに問題を抱えている場合が多く,素直にフランクの言うことに従ってくれないことがあるのだ。そんなときは,相手の要求を聞いてあげなければいけない。こちらが助けてあげようと言っているのに。
その中には若者もお年寄りもいるし,レディもいればデブもいる。ゾンビと互角に戦える猛者もいれば,動けないのでおぶっていくしかない人もいる。それぞれに個性があり,人の数だけドラマがある。できれば,そのすべてを見届けたいところだ。
ゾンビより恐ろしいサイコパス
本当に怖いのはゾンビより人間。これはゾンビ映画の定番と言えるテーマだが,「デッドライジング」でも当てはまる。
プレイヤーの脅威となるのは,サイコパスと呼ばれる狂気に囚われた人間である。危機的状況になったショッピングモールでは,正気を保つことすら極めて困難となり,リミットを越えてしまった人間が異常な行動をしつつ,他者を攻撃するようになってしまったのだ。
ゾンビは数こそ多いものの動きは緩慢なので,慣れてしまえばそこまで恐ろしい存在ではない。その点,サイコパスはゾンビを上回る戦闘力を持ち,遭遇しようものなら死闘は避けられないだろう。ゲーム的に言えば,ボスのような立ち位置である。
「デッドライジング」に登場するサイコパスは,そのおぞましい雰囲気がとてもよく表現されている。地獄のピエロ,肉切り包丁を手にした怪人……。本当にヤバイ奴らがショッピングモールに潜んでいるが,CASE FILEやイベントに挑むのであれば,どうしたって戦いは避けられない。ぜひ,すべてのサイコパスと対峙して人間の本性を目の当たりにしてほしい。
初代「デッドライジング」の魅力とは
繰り返しになるが,「デッドライジング」は自由にショッピングモールを探索できるので,ほとんど強制されているとは感じない。こうしたタイプのゲームは,ともすると全体的に雑な作りとなりがちだ。プレイヤー任せでいいので,バランスがおざなりになりやすいものである。
しかし,本作はゲームを進めるにつれて,プレイヤーが獲得した知識やスキルがしっかり反映されるようにデザインされている。プレイヤーの遊び方を考慮して,ゲーム全体が精密に組み立てられているのである。
筆者が個人的に好きなのは,この部分である。
フランクが途中で力尽きると,そのまま続行するか,最初から再スタートするかを選べる。後者の場合,それまでに得た能力を引き継げるので,繰り返し遊ぶことによって,いわゆる「強くてニューゲーム」のようなことになる。徐々に余裕が生まれるようになり,真相にたどり着きやすくなるというわけだ。
ただし,「デッドライジング」のゲームバランスはそれを前提としたものではない。あらゆる知識やアクション,テクニックを駆使すれば,最初のゲームプレイで要救助者を全員助けて,CASE FILEを完璧に達成し,真相に迫ることは不可能ではない。もちろん極めて困難だが,ギリギリそれが可能なように調整されているのだ。
ちなみに生存者の救出は,決して強制されているものではない。これは「完璧に攻略したい」という,やり込みゲーマーの欲求に応える遊び方である。
とはいえ,攻略において生存者の救出は大きな意味を持っている。助ければ助けるほど,多くのPPを獲得してフランクを強くできるからだ。その力によって,さらなる生存者を助けられるという好循環が生まれてくる。
なお,生存者の救出には時間制限が設定されており,その長さはまちまちだ。プレイヤーは「今すぐにやるべきこと」と「今すぐでなくてもいいこと」を整理し,目標地点の場所や移動時間を考慮して,最も効率のいい救出順とルートを弾き出す。1人目を助けて,すぐにセキュリティルームに戻ったほうがいいのか。それとも,そのまま複数の生存者を助けに向かい,一緒に連れて戻ったほうがいいのか。
この試行錯誤が非常に面白い。
過密なスケジュールが課せられているようでいて,ぽっかり空き時間が生まれることもある。そんなときはPPを稼いだり,武器や食べ物を探したりする時間に当てていく。たとえば,スポーツジムでサンドバックを叩いたり,ルームランナーで走ったりすると,PPを獲得できる。こうした要素が多数隠れているので,ショッピングモールを探索するだけでも,なかなか飽きることはない。
「デッドライジング」はシビアな時間制限のある箱庭系ゾンビゲームという,他に類を見ないオリジナリティを持った作品だ。それに加えて,さまざまな遊び方に応えられる懐の深さも抜群である。このような作品はそうそうあるものではない。
生存者を救出する順番,武器や食べ物,隠し要素などの場所もすべて把握して,最も効率的な攻略方法を編み出す。そんなマニア好みの遊び方にも,本作はしっかりと応えてくれる。遊べば遊ぶほど,奥の深さが分かってくる。自由度の高さがウリなのに,よくここまで練り込んだものだと感心してしまう。
この機会に,高い完成度を誇る初代「デッドライジング」をぜひ多くの人に楽しんでほしい。そして,できればとことんやり込んで,奥の深さを実感してほしいと思う。