今週のテーマ:ドイツの古城めぐりは楽しいよ
1992年に発売された
「Wolfenstein 3D」が,ゲームの歴史においてFPSというジャンルを築いたタイトルである,というのはもはや「色男,総身に知恵は回りかね」ぐらいの日本の常識だ。同作を開発したのは,ゲームデザイナーの
ジョン・ロメロ氏とカリスマプログラマーの
ジョン・カーマック氏らが1991年に設立したデベロッパのidSoftwareで,「Wolfenstein 3D」に続いてリリースした
「DOOM」や
「Quake」で大ヒットを記録し,黎明期のPCゲーム市場に燦然と輝くメーカーになった。
しかしその後,ロメロ氏とカーマック氏は,いろいろあって対立し,ロメロ氏は同社を去る。そして,独立デベロッパとして長く続いてきた同社も,新たなヒット作に恵まれず,2009年にZeniMax Mediaの傘下に入ることになった(
関連記事)。1992年には,すでにこんな仕事をしていた筆者は,「Wolfenstein 3D」で3D酔いを初体験しつつ,すごいメーカーが出てきたなあと感心したことを記憶している。栄枯盛衰は世の習いだ。
さて,今週の
「東京レトロゲームショウ2015」で取り上げる
「Return to Castle Wolfenstein」は,そんな「Wolfenstein 3D」の待望の続編だ。厳密にいえば,「Wolfenstein 3D」と同年に,前日譚の「Spear of Destiny」が発売されているので,直接の続編とは言いづらいのだが,あまり有名じゃないので,続編でいいですよね。「DOOM」シリーズや「Quake」シリーズは新作がバンバン出るのに,先駆者である「Wolfenstein 3D」の新作はどうなっているのだ,という(もっぱら筆者の)声をよそに,リリースは前作から実に9年後の2001年のことで,さらにidSoftwareはパブリッシングだけを行い,開発はロサンゼルスのGray Matter Interactiveが担当している。
話はこんな感じだ。時は第二次世界大戦のまっ最中,ドイツ北部の
ウルフェンシュタイン城で,デスヘッドの異名を取るナチス親衛隊の
ヴィルヘルム・ストラッセ大将が何やら怪しい研究をしている。これを察知した連合軍情報部は,2人のエージェントを城に送り込むが,潜入直後,彼らはあっさり捕らえられてしまう。プレイヤーは,城に送り込まれたエージェントの1人,
B.J.ブラスコビッチとして,ナチスの陰謀を阻止するのだ。正義のために!
ゲームは,ウルフェンシュタイン城の中で始まる。牢獄に閉じ込められたB.J.だったが,スキを見て見張りを倒し,武器を手に入れ,紆余曲折の末,からくも城からの脱出に成功する。「Wolfenstein 3D」は全編ウルフェンシュタイン城を舞台にしていたが,本作のロケーションはそれだけでなく,敵の軍事基地や謎の採掘現場など,ドイツ各地を転戦していく。もっとも,マップはいずれも直線的で,たまに,元いた場所に大きく戻るような場面もあり,ちょっと迷ったりするかもしれない。
デスヘッドと彼の配下にあたるパラノーマル部隊がやっていたのは,想像どおりというかなんというか,オカルト技術をベースにしたスーパーソルジャーやゾンビ,モンスターの開発および量産で,ナチスの悪いヤツがいかにもやりそうな感じのものだ。
ゲームシステムは言うまでもなくFPSで,次々に出てくる敵を,ほぼ1人で倒していくわけだが,「Wolfenstein 3D」のように撃ちまくりでいくとあまりうまくいかず,そのためステルスが主体になる。B.J.の体力はあまりなく,正面切って撃ち合うとすぐにやられてしまうので,なるべく敵を1人ずつ倒していき,あたりを警戒しながらゆっくり進んでいく必要があるというバランスなのだ。したがって,戦いの緊張感は高い。
武器は,ピストルやMP40サブマシンガン,FG42アサルトライフルなど,非常に豊富で,敵の種類に応じていろいろと使い分けるという楽しみもある。ナイフを使えば,敵にこっそり接近してステルス攻撃をすることも可能だ。さらに,テスラガンという電撃を発するSF的な兵器も登場するが,見かけの派手さに対して全然効かないので,注意が必要だ。なにこれ?
敵としては,一般SS隊員のほか,
スペシャルガードと呼ばれる黒ずくめの特殊部隊員,そして上記のように,ゾンビやクリーチャーなどが出てくる。無理に分ければ第二次世界大戦モノになるわけだが,そんな敵が相手なので,むしろホラーゲームっぽい感じだ。
筆者のオススメの敵は,デスヘッドの右腕,
ヘルガ・フォン・ビューローの直属で,ピッチリした黒革の制服を着込み露出度も高めの,全員女性からなる部隊,エリートガードだろう。人間とは思えない動きでB.J.を翻弄するのだが,カーマック氏が開発したゲームエンジン
「id Tech 3」が描き出すムチムチ感はかなり見事で,撃ち倒すのが惜しいほどだ。
全体的なデザインや雰囲気は,非常にいい感じだが,肝心のFPS部分に難ありという感じで,銃の集弾率が悪い。ちゃんと当てるには腰を落とす必要があり,動きながらの攻撃が難しいのだ。現実でも,立射でなく膝射,または伏射のほうが命中率がいいが,そこをリアルにしなくても,という気もする。爽快感にはやや乏しい。
さらにストーリーが短く,マップのデザインがあまり面白くないという問題もあり,待望の新作だったのだが,それなりにヒットはしたもののメディアやプレイヤーの評価は必ずしも高くはないという結果に終わった。しかし,これはシングルプレイの話だ。
クラスベースのチーム戦となる
マルチプレイは,単純な撃ち合いではなく目標の達成を競うタイプになっており,分かりやすいクラスやシンプルなルール,高いアクション性などで大人気となった。さらに,当初は有料の拡張パックとして開発されていたものの,時間がかかりすぎたため,無料配布された
「Wolfenstein: Enemy Territory」は,非常に大きな人気を獲得している。日本のプレイ人口も多く,今でも遊んでいるという人もいるかもしれない。
「Return to Castle Wolfenstein」のシングルプレイを制作したGray Matter Interactiveは,2002年にActivisionに買収され,
「Call of Duty 2: Big Red One」の開発終了後,同じActivision傘下のスタジオ,Treyarchに吸収されて今はない。マルチプレイを作ったNerve Softwareと「Wolfenstein: Enemy Territory」を開発したSplash Damageは現在も独立したデベロッパとして活躍中だ。
「Wolfenstein」シリーズは,「Return to Castle Wolfenstein」の8年後,2009年に
「Wolfenstein」がリリースされた。これまでのようなリニアなFPSではなく,ハブとなる街を中心に,さまざまなミッションを自由に請け負うというシステムに変更され,RPG要素なども盛り込まれた意欲作だった。主人公は同じくB.J.で,ポリゴン数が増えたデスヘッドも登場する。
オカルト色がさらに濃厚になった印象の「Wolfenstein」(2009年)
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とはいえ,この新システムはあまりうまく機能しておらず,ストーリー性が失われるというデメリットのほうが目立ってしまった感ありだ。その結果として,そこそこの評価に終わっているが,個人的には,ウルフェンシュタイン城がまったく出てこないところが問題でしょ,と思う。開発は最近「Call of Duty」シリーズに関わることが多いデベロッパ,Raven Softwareが担当している。
これでシリーズも終わりかなと思っていたら,2014年に
「Wolfenstein: The New Order」がリリースされた。ZeniMax Media傘下のスウェーデンのデベロッパ,MachineGamesが制作したもので,オリジナル版と同じく,シングルプレイのみに特化したことが特徴だ。
個人的に,これは文句のない傑作で,深みのあるストーリーと,爽快なアクション,パズル性などが高い次元で融合しているという印象だ。これまではマッチョで脳みそ筋肉という雰囲気のB.J.だったが,同作では深みのある人物造形が行われており,エンディングには思わずグッときた。現在,
「Steam」などで購入可能だ。
以上,最後はちょっとまとまりがなくなってしまったが,「Wolfenstein 3D」に始まるシリーズを,「Return to Castle Wolfenstein」をネタに概観した。2009年の「Wolfenstein」を除いてほとんどが現在でも購入できるので,興味のある人は挑戦してほしい。