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「Darsana Prime Tokyo」の戦いは“並行世界”で起きている。Niantic川島優志氏が語る「Ingress Prime」でつながるエージェントの絆とは
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印刷2019/03/22 00:05

インタビュー

「Darsana Prime Tokyo」の戦いは“並行世界”で起きている。Niantic川島優志氏が語る「Ingress Prime」でつながるエージェントの絆とは

「Darsana Prime Tokyo」公式サイトをキャプチャーしたものです
画像集 No.002のサムネイル画像 / 「Darsana Prime Tokyo」の戦いは“並行世界”で起きている。Niantic川島優志氏が語る「Ingress Prime」でつながるエージェントの絆とは
 2019年3月23日,ベルサール渋谷ガーデンタワーで戦いの火蓋が切られる。
 Nianticがサービス中の位置情報ゲーム「Ingress Prime」iOS / Android)の公式イベント「Darsana Prime Tokyo」が開催されるのだ。XM Anomalyと呼ばれる大規模イベントが開催されるということで,この日に合わせて何千人ものエージェント(プレイヤー)が東京に集結し,エンライテンドとレジスタンス両陣営による壮絶なバトルがくり広げられる。

 今回4Gamerでは,Nianticアジア統括本部長の川島優志氏に「Darsana Prime Tokyo」の開催経緯や見どころを聞いてきたので,その模様をお伝えしよう。話はAnomalyだけに留まらず本作を陰で支えるコミュニティの存在や,6年間をともに過ごしたエージェントへの想いも語られているので,プレイヤーはぜひ最後まで目をとおしてみてほしい。

「Darsana Prime Tokyo」公式サイト



リカージョンで“シミュラクラ”になるエージェントたち


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。川島さんにお話を聞くのは,2018年7月に開催された「Cassandra Prime Sapporo」以来ですね。このときはまだTVアニメの放送前で「Ingress Prime」もリリースされていませんでした。

Niantic アジア統括本部長
川島優志氏
画像集 No.001のサムネイル画像 / 「Darsana Prime Tokyo」の戦いは“並行世界”で起きている。Niantic川島優志氏が語る「Ingress Prime」でつながるエージェントの絆とは
川島優志氏(以下,川島氏):
 この間だけでもいろいろありましたね。「Ingress Prime」をライフスタイルの一部として楽しめるようなものにすべく,チーム一同考えながら6年間運営してきました。このように良い形でサービスを続けられたのはとても珍しいことだと感じています。ジョン(※)がよく言うんです,「Ingress Prime」は世界で2番目に成功したARゲームだって。1番はもちろん「ポケモンGO」(「Pokémon GO」)なんですけどね。

(※)Niantic CEOのジョン・ハンケ氏

4Gamer:
 なるほど(笑)。
 長く運営を続けていくと,おのずと変化が求められるものですが,「Ingress Prime」ではさまざまな挑戦をされていますよね。

川島氏:
 ええ。サービスを続けていくなかで,サーバーもクライアントもリフレッシュし,時代に合わせて変化を遂げてきました。その試みの1つが,「INGRESS THE ANIMATION」です。フジテレビジョンさんがNianticへの出資を持ちかけてくださった際に,ジョンと大多さん(※)がアニメを作りたいと盛り上がったのがきっかけでした。グローバルでも通用するものを日本ならではのアニメーションで作り,世界中のユーザーに楽しんでほしいと試行錯誤を続けました。2年という時間をかけて日本での先行公開が実現したので,あとはグローバル版の配信を待つばかりです。

(※)フジテレビジョン常務取締役の大多 亮氏

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4Gamer:
 日本版の放送に対して,どういった反響がありましたか。

川島氏:
 大コケするわけにいかないというプレッシャーもありましたが,深夜帯としては十分すぎるほどの反響を得られました。とくにアニメ批評家の方からは,クオリティの高さに太鼓判をいただいています。
 余談ですが,グローバル版は音楽を作り直していますので,サウンドにも注目してほしいです。今のところ,日本で見られる機会はなさそうなんですけどね(笑)。

4Gamer:
 グローバル版を見られないのがちょっと残念です。アニメをきっかけに「Ingress Prime」に触れた人もいるかと思いますが,放送を受けてプレイヤーの属性に変化はありましたか。

川島氏:
 名前だけしか知らなかったけれど,アニメをみて「Ingress Prime」を始めたという声を聞きましたし,そういったきっかけになっている手応えがあります。試写会には声優さんの女性ファンも多かったので,ゲームとはまた違った層にも触れていただけたと思います。
 アニメの影響ももちろんそうなんですが,「ポケモンGO」のポケストップを増やしたくて始めてくれる人もいるんですよ。

4Gamer:
 「Ingress Prime」でポータル申請を行えば,いずれ「ポケモンGO」にポケストップとして反映されるからですね。

川島氏:
 ええ。そうして「Ingress Prime」の深みにはまっていただいたケースもあるようで,うれしい限りです。

4Gamer:
 時代に合わせた変化といえば,メジャーアップデート版である「Ingress Prime」のリリースも外せませんね。「Unity」への対応やビジュアルの刷新,ストーリー一体型のチュートリアルの実装など,大きな進化を遂げたかと思いますが,リリース後のエージェントたちの反応はどうでしたか。

川島氏:
 メジャーアップデートを経て,新しい試みに挑戦できる体制が整ってきたことを感じてもらえていると思います。一方で,体が覚えている動きと違った操作を求められるため,新たなインタフェースへの違和感を訴える人も少なくはありませんでした。これは長期サービスの宿命で,変化を加えれば必ず出てくるものです。デザイナーの意図を汲んでくれた好意的な意見も届いていますが,まだまだローンチしたばかりなので,まずはバグを丁寧に修正していこうとチーム一同頑張っています。

4Gamer:
 追加要素として,レベル16のエージェントが再びレベル1に戻ってゲームを楽しめる“リカージョン”(プレステージモード)も実装されましたね。リカージョンの特典があるとはいえ,最大まで上げたレベルをリセットすることになるので,実行するにはかなりの勇気がいるのではと感じています。

川島氏:
 驚くことに,エンライテンドの重鎮やレジスタンスのベテランがサクッとリカージョンしていますよ。「えっ!? この人がリカージョンしちゃうの?」って,驚きでいっぱいでした。中には陣営を変えている人もいますし。

4Gamer:
 なんと(笑)。みなさん刺激を求めていらっしゃるんでしょうか。

川島氏:
 そうかもしれませんね。しかも「俺はもう人間ではない。シミュラクラになってしまった」と,人間を辞めて超人になった自分を楽しんでいるみたいです(笑)。
 以前からレベルキャップを開放してほしいという声がありましたので,その方向性への進化もあり得たのですが,今回はシャッフルの要素を加えて新たな出会いやコミュニティでの関係構築を促す狙いがありました。コミュニティの力が大きい「Ingress Prime」では,ゲーム内に限らずエージェントたちが楽しむ余白や,集まれる新鮮な場所を用意することが長く熱量を維持するうえで必要なんです。



もう1つの世界線でくり広げられる戦い「Darsana Prime Tokyo」


4Gamer:
 2014年12月に開催された「Darsana Tokyo」から約4年の時を経て,2019年3月23日に「Darsana Prime Tokyo」が東京の地で開催されます。なぜイベントの名称をアップデートし,東京の地で再び開催することになったのでしょうか。

川島氏:
 まず,「Ingress Prime」はゲームの中でシナリオを読むのではなく,ゲームの外側でストーリーが展開される作りになっています。

4Gamer:
 エンライテンドとレジスタンスがバトルする,XM Anomalyなどがゲームの外側のストーリーですね。

川島氏:
 その今まで綴られてきたシナリオの舞台が,“Prime”で別の世界線へと移ったんです。例えば,同じ日,同じような場所であっても,別の世界線では元の世界と違うことが起きる……というのは,SF作品でよく取り上げられるテーマの1つですよね。「Ingress Prime」は,それに似たことを現実世界でやろうとしているんです。今回のDarsanaに限らず,これまで開催したAnomalyが“Prime”となって,この並行世界で再び行われるんです。

4Gamer:
 ということは,「Cassandra Prime Sapporo」も並行世界での戦いだったわけですね。

川島氏:
 はい。もともとのCassandraは2013年に東京で行われ,参加者が30人ほどの小さなイベントでした。当時はレジスタンスが勝利しましたが,違う世界線では名称が「Cassandra Prime Sapporo」になり,札幌の地でエンライテンドが歴史を変えるべく奮戦し,勝利をもって歴史を変えました。

4Gamer:
 それはエージェントでなくても胸アツな展開ですね。並行世界でも同じ結果にしたい,今度は勝ちたいといった欲求が生まれるので,より戦いに熱が入ってしまいそうです。

川島氏:
 思い出話になるんですけど,以前の「Darsana Tokyo」は僕自身もスタッフとして参加した印象深いイベントでした。Darsanaの1つ前は2014年に石巻市で行われた「Interitus XM Anomaly」で,まだAndroid版のみだったこともあり参加者は80人ぐらいだったんです。iOS版が日本での起爆剤になることは分かっていたので,きっと「Darsana Tokyo」の参加者は1000人くらいになるだろうと予想して会場を探していました。でもいざ参加受付を開始してみたら,いきなり3000人分のエントリーが来て,これはまずいぞと大きい会場を探したんですが,ギリギリすぎてなかなか見つからなかったんです。これは下手したらバラしじゃないのかというぐらいの危機的な状況でしたね。

4Gamer:
 予想の3倍は,たしかに焦りますね……。

川島氏:
 そんななか,ベルサール渋谷ガーデンタワーが空いていると連絡が入って,飛びつくようにして会場をおさえたんです。参加受付開始時は3000人ほどでしたが,最終的にイベントに参加してくれたのは5000人以上でした。1つ前のAnomalyが80人でしたから,ジョンと一緒にステージに立って見た光景は信じられませんでした。

4Gamer:
 気になるAnomalyの結果は,エンライテンドの勝利でしたね。

川島氏:
 これにもドラマがあるんですよ。Anomalyはプレイヤーの数が物を言う部分もありますので,会場に集ったエージェントの比率からレジスタンスが勝つんじゃないかと思っていました。でもその予想は大きく外れました。
 Anomalyが始まると,エンライテンドが北海道の襟裳岬と,中国と,サイパンをつないで日本全体を覆う巨大なコントロールフィールドを展開したんです。コントロールフィールドによる得点倍率の変化を利用して,エンライテンドは人数が少ないながらも勝利をつかみ取る逆転劇を起こしていました。

4Gamer:
 そのコントロールフィールドがなければ,レジスタンスが勝っていた未来もあったわけですね。今回の「Darsana Prime Tokyo」で同じ結果となるのか,それとも歴史は変わるのかは,大きな見どころになりそうです。

川島氏:
 開催前から両陣営で気合いの入った準備が行われているのですが,今回嬉しかったのは,エージェントたちが「どうしても勝ちたいから参戦してほしい」と「Ingress Prime」をお休みしている人たちに声をかけていることなんです。渋々戻って来る彼らの姿は,地球の危機を救うべく立ち上がったヒーローのようで,映画「アルマゲドン」のような雰囲気を感じています(笑)。

4Gamer:
 強力な助っ人の活躍もですが,当日の両陣営の作戦も気になります。

川島氏:
 そうですね。「Darsana Prime Tokyo」はシーズン内のラウンド2にあたるんですが,東京が開催地になっていないラウンド1のときに,2014年のDarsanaと同じエンライテンドのコントロールフィールドが日本を覆ったんです。ラウンド2の1か月も前に出現したものですから,度肝を抜かれた人もいたんじゃないでしょうか。
 4年前とはプレイ環境が変わり,エージェントも増え,状況が変わったなかで,今回戻ってきた超人たちがどのような活躍を見せてくれるか,とても楽しみです。

4Gamer:
 Anomaly1つ1つにエージェントたちのドラマがあるわけですが,それが日本だけでなくて世界中で起きていることに驚きます。

川島氏:
 ゲームにまつわる物語ではなく,プレイヤー自身が主人公になったリアルな物語なんですよね。それがみんなに共有されて,体験の厚みが増していく。eスポーツが新たなスポーツとして認知されてきていますが,天才的なプレイヤーが戦い合う劇場型ですし,団体戦も4,5人ほどですよね。しかし「Ingress Prime」では,何千,何万の人が集い,みんなが1人の主人公となって戦うわけです。

 当日まであらゆる準備を行い,組織ができ,海外の国や地域の人と連絡を取り合う。「Ingress Prime」でAnomalyに参加するまで,そんなことを全然しなかった人たちが,本気で今ある力を最大限に発揮しています。Anomalyで勝ったり,負けたりして,泣く人だっている。それだけ本気になれるもの,そういった機会を作れたのは,とても意味のあることだったんじゃないかと強く感じます。

「Cassandra Prime Sapporo」での集合写真
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Nianticとエージェントはスナックのママとお客さん
コミュニティに支えられてきた6年間


4Gamer:
 Mission Day,First Saturday,Anomalyなど,「Ingress Prime」でのイベントの企画,運営にはコミュニティの存在が大きく関わっていると感じています。以前から気になっていたのですが,大規模イベントであるAnomalyを開催するまでの流れはどのようになっているのでしょうか。

川島氏:
 改善をくり返してきているので過去と違う部分もありますが,直近の事例をもとにお話ししますね。昔は開催2か月前のギリギリのタイミングで開催地などをアナウンスしていましたが,エージェントの準備期間を考慮して半年〜1年前には決めようと努力しています。
 今回のDarsanaは,最初に名古屋で開催するとアナウンスしていたのですが,調整をしていくなかで実現が難しい部分が出てきて,さまざまな場所から第2候補を探していたんです。そこに,4年前と同じようにベルサール渋谷ガーデンタワーが空いていると連絡が入って,東京での開催が決まりました。これは本当に並行世界にいるんじゃないかって,言葉にできない不思議な気持ちになりましたね。

4Gamer:
 運営をサポートするPoC(Point of Contact)の選定がどのように行われているのかが気になっているんですが,これはコミュニティからの推薦なんでしょうか? 誰でもいいというわけではなく,選定基準があるんじゃないかと思っていて。

川島氏:
 立候補だったり,地域のコミュニティからの推薦だったり,Nianticサイドから依頼させていただいたりして,さまざまな形でPoCを選定しています。PoCはチームのリーダーというよりは,イベントで使用するポータルの選定や周辺環境の調査などをしてくれるサポーターのような存在です。不平等にならないよう両陣営から選定するのですが,選定される人の多くはNianticと直接コンタクトをとれて,英語も話せる人が多いですね。安全な場所にあるポータルかどうか,近くにどういった施設があり人通りがどれくらいなのかなど,その地域の人にしか分からないことはやはりあります。彼らのサポートがあるからこそイベントの安全性を担保できるんです。

4Gamer:
 ゲームのリアルイベントは,運営サイドが会場もプログラムも用意する“おもてなし型”のケースが多いです。なので「Ingress Prime」のように,エージェントが共にイベントを作り,盛り上げるケースは特殊だと感じています。

画像集 No.004のサムネイル画像 / 「Darsana Prime Tokyo」の戦いは“並行世界”で起きている。Niantic川島優志氏が語る「Ingress Prime」でつながるエージェントの絆とは
川島氏:
 たしかにそうかもしれません。どんなイベントでもそうだと思うんですが,物販に並ぶグッズは運営サイドが制作して収益の1つにしていますよね。でも「Ingress Prime」の場合は,Nianticが販売しているものはほとんどなくて,ユーザーが自分で作ったものを物販に出しているんですよ。
 グッズやパンフレット,フライヤーを作ったり,イベントが開催されるとなったらエージェントたちがボランティアとしてお手伝いにきたりすることもあります。

4Gamer:
 こういった“共にイベントを作る関係性”はどのようして生まれたのでしょうか。

川島氏:
 Nianticのスタッフ自らがイベントに参加し,エージェントと直接コミュニケーションをとることを常に続けてきたからかもしれません。CEOであるジョン自らがイベントにちょくちょく来ては,あらゆるところに顔を出して,みんなと一緒に肩を組んで写真を撮ったり,会話したりしている。そんな姿をチーム全員が見ているからか,スタッフたちも同じようにイベントに参加するんです。エージェントからの声で「運営側との距離が近い」というのをよく耳にするんですが,そういった距離感だからか「こんなことがしてみたい」と企画をNianticに持ち込んでくれるんです。エージェントたちが熱い想いをぶつけてきてくれるからこそ,Nianticもベストな形で実現すべく,喜んで対応しようとしています。

4Gamer:
 運営とエージェントの距離が近いことで,お互いが何を考え,どこを目指そうしているかの意思疎通がしやすいんですね。

川島氏:
 例えば二次創作やグッズ制作に関する要望もその1つです。権利側としては,ユーザーが楽しんでくれることはうれしいけど,著作権を侵害されるものが販売されるのは困ってしまいます。エージェントたちが生み出してくれたクリエイティブなものをどう活かすかを考えた結果が,メルカリさんとの取り組みでした。

4Gamer:
 メルカリでの二次創作物の公式販売ですね。メルカリの「Ingress」カテゴリ内であれば,個人が制作したグッズであっても企業公認で売ることができる取り組みでした。

川島氏:
 コミュニティマネージャーであるAndrew Krugはじめ,コミュニティに関わるスタッフはこうしてエージェントの声に耳を傾け,そういった姿勢がエージェントに伝わっているからこその関係性なのかもしれません。エージェントたちは新しい機能を取り入れたり,発表をしたりすると「愛のある批評」をしてくれるんです。自分のことのように「Ingress Prime」のことを考えてくれる,優しさを感じます。
 よくコミュニティ論の話をするときに,“スナック”が例に挙げられるんですが,「Ingress Prime」はまさにスナックかもしれません。

4Gamer:
 スナックですか……?

川島氏:
 スナックのママが酔いつぶれたら,お客さんが代わりにお皿洗いをしてあげたり,毛布をかけてあげたりする光景ってありますよね。今月は店の経営が厳しそうだから高めのボトルを入れてあげようと,お客さんがそこのスタッフかのように店を一緒に切り盛りする関係性が,スナックのコミュニティの力だと言われているんです。
 「Ingress Prime」の運営やイベントの面でもそういう隙というか,なんとなく抜けているところがどうしてもあります。以前の「Darsana Tokyo」のときも本当に少ない人数で対応にあたっていたので,足りない部分がたくさんありましたし,エージェントからしたら「プロのやることではない。運営としてこれでいいのか」という不満もいっぱいあったと思うんです。

4Gamer:
 それでも一緒にイベントを楽しんで,運営を助けるべくサポートしてくれるのは,エージェントたちにとって「Ingress Prime」が放ってはおけない,愛すべきプロダクトだからなんですね。

川島氏:
 酔いつぶれたママの代わりに自分たちがやってあげようと,「Ingress Prime」をエージェントが支えてくれた6年間でした。
 Nianticだけで積み上げたものではなく,コミュニティのエージェント1人1人が,Nianticの足りないところを埋めてくれたからこそここまで来られた。お世辞でも,謙遜でもなく,正直にそう思います。本当に感謝しています。

4Gamer:
 エージェントたちのSNSへの投稿や過去のAnomalyの振り返りを見ると,須賀健人さんとのエピソードが書かれていることが多いですよね。エージェントと運営サイドの橋渡しとなる,Nianticスタッフの存在も大きいのだとあらためて感じました。

川島氏:
 須賀はもともとGoogleでマーケティング職に就いていて,ユーザーと直接触れあう職種ではなかったんですよ。彼に「日本全国をまわって,いろんなエージェントと会ってきて」と指令を出したら,本当にいろんなところに出かけていったんですよ。須賀はスナックのママみたいな感じで,いじれる存在というか,運営とエージェントの距離を近づけてくれる存在です。
 彼のキャラクター性がそうさせるのか,須賀がコンビニでエージェントからたくさんの差し入れと,なぜか重たいお米をもらったそうなんです。彼はそれを担いで次の場所まで移動してみたり,筋肉を鍛えているとコメントしてみたり,一方のエージェントたちは今度はどんな重いものを渡してやろうかとニコニコしているんです。こういったコミュニケーションが生まれるのもなかなか珍しいですよね。

4Gamer:
 友達や家族のような関係性なんですね。

川島氏:
 「Ingress Prime」のどこにそういう力があるのかを考えてみたんですが,Nianticのプロダクトとして目指しているものが上手く機能しているからだと思うんです。デジタル世界でのコミュニケーション能力が高い人はたくさんいますが,外の世界へ進んで出ていかない人も多いものです。そんな人たちが,「Ingress Prime」に影響されて現実世界を歩き,地域のおもしろいものを発見することで,心身共に健康でクリエイティブになっていった。それがそれぞれのコミュニティの中で起こり,エージェントたちのエネルギーの原動力になっている,そうであってほしいと思っています。


「Ingress Prime」は大人が本気になれるスポーツ
Nianticのプロダクトが目指す未来とは


4Gamer:
 コミュニティの話からは離れてしまうんですが,あるエージェントの方が「Ingress Prime」のAnomalyは“スポーツ”だとおっしゃっていて,そうかエージェントはアスリートなんだ! って,納得してしまいました。

川島氏:
 確かに,鉄板を背負ってますもんね(笑)。

取材に同席していた広報のカオリさん:
 「Ingress Prime」の女性エージェントが集まる会に参加したら,エージェントの方が「バッグに鉄板を何枚入れているか」という会話をしていて,2,3枚入れて通勤している方もいるそうなんですよ。それぐらいしておかないと,「いざというとき戦えないじゃないですか」ともおっしゃっていて(笑)。

4Gamer:
 どんな会話がされているのかと思ったら,すごく濃かった……! Anomalyのときの動きって,ちょっとしたマラソンですもんね。次の拠点まで走ったり,どこかで人手が足りなければ走って駆けつけたり,体力勝負なところもあります。

川島氏:
 Anomalyはまさに競技ですし,その裏で開催されているGORUCKイベントもトライアスロンのようなハードさがあります。このイベントは退役軍人の方が立ち上げたGORUCK社によるもので,鉄板などのウェイトを背負って軍隊形式のトレーニングを体験できます。このイベントで勝利した陣営はAnomalyで有利な情報が与えられることもあって,多いところでは200人規模の参加者が集うこともありますよ。
 前の晩からイベントがスタートして,それこそ夜21時から朝9時まで,スクワットや腕立てをしたり,人を背負って目的地まで移動したり……何時間もぶっ続けでさまざまな課題にチャレンジするんです。それを終えてそのままAnomalyに参加する人もいるんです。

4Gamer:
 えっ!

川島氏:
 朝まで戦い抜いた人たちの顔を見ると,すごく疲れはててはいるんですけど,不思議と爽快さに満ちあふれてキラキラとしているんですよね。走りきった……って。

カオリさん:
 それぐらい趣味に没頭できるのは,とてもうらやましいですよね。

川島氏:
 エージェントたちを見ていると,大人たちが本気になって遊ぶと,こうなるんだなというパワーを感じます。子供のうちにできることはやはり限界があって,こうやって大人たちがエネルギーや想像力を開花させ,発揮してくれているのを見ると,そのパワーの凄さを感じます。

画像集 No.005のサムネイル画像 / 「Darsana Prime Tokyo」の戦いは“並行世界”で起きている。Niantic川島優志氏が語る「Ingress Prime」でつながるエージェントの絆とは

4Gamer:
 まだまだお聞きしたいことはたくさんあるのですが,そろそろまとめへ……。「Ingress Prime」「ポケモンGO」が配信され,いよいよ「ハリー・ポッター:魔法同盟」の配信を待つばかりとなりました。それぞれのタイトルを見ると,「Adventures on foot」という根底の理念は同じであっても,ゲームの中にある遊びは異なっていると感じています。川島さんの中では,それぞれのタイトルにどのような違いがあると思いますか。

川島氏:
 おっしゃるとおり,「Adventures on foot」というコンセプト,そしてディスカバリー,エクササイズ,ソーシャルの要素を盛り込む方向性は,どのプロダクトにも共通しています。とはいえ,それぞれの作品の世界観や,作品を愛好しているユーザー層に合わせて,デザインや目指すべきところは変えています。
 「Ingress Prime」は未来に興味があるアーリーアダプターに向けてデザインされ,SFのような深い楽しみ方ができるゲーム性である反面,取っつきにくい。アニメによって要素を補完し,さらに「Ingress Prime」では拡張現実を取り入れた仕掛けを模索していきます。Nianticのオリジンですので,今後もさまざまな挑戦をするサンドボックス的な役割を果たしていくと思います。

4Gamer:
 世界的ヒットを遂げ,幅広い層に愛される「ポケモンGO」はいかがでしょう。

川島氏:
 「ポケモンGO」は広い層が遊ぶタイトルですので,末永く遊んでもらうためにも安全性や遊びやすさを大切にしています。ローンチ当初に比べてゲーム性が強くなったことで,最近再開した人が「違うゲームになっている」と言ってくれています。ソーシャル要素としてギフトを実装してからは,おじいちゃん,おばあちゃんの安否確認にギフト機能が活用されていることもあるそうで,ゲームに留まらないさまざまな使い方もされているんですよ。今後も安心安全に,家族で楽しめるプロダクトにしていきたいです。

4Gamer:
 そして今後配信予定の「ハリー・ポッター:魔法同盟」にも注目が集まりますね。

川島氏:
 「ハリー・ポッター:魔法同盟」は,よりゲームとして遊べるものを目指しています。作品の世界観的にも,現実世界と魔法の世界を重ねる表現が成立しやすく,拡張現実での試みと相性がいいので,それを活かせるよう形にしたいですね。これまでのプロダクトと違う遊びがつまったタイトルですので,「ハリー・ポッター:魔法同盟」をとおして世界中にたくさんの魔法使いが生まれることを楽しみにしています。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。

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[2019/03/11 23:00]

「Ingress Prime」公式サイト

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