レビュー
軽快な操作感と多彩な駆け引きが魅力の最新2D対戦格闘ゲーム
UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late
本作は,TYPE-MOONのノベルゲーム「月姫」を題材とした格闘ゲーム「MELTY BLOOD」(以下,メルブラ)シリーズの開発元としてお馴染みのデベロッパ,フランスパンが開発を手がける2D格闘ゲームだ。
アーケードでは2012年9月に登場した「UNDER NIGHT IN-BIRTH」と,その続編として2013年9月にリリースされた「UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late」が稼働済みで,本作は同シリーズ初の家庭用ゲーム機移植作となる。それがいよいよ自宅でも遊べるということで,発売を心待ちにしていたアーケードファンも少なくないのではないだろうか。
さらにPlayStation 3版では,追加要素として,2人の新キャラクター・ナナセとビャクヤが登場。昨今の家庭用ゲーム機用格闘ゲームには必須とも言えるネットワーク対戦にももちろん対応し,自宅に居ながらにして白熱した対戦が楽しめる。とくにネットワーク対戦については,快適なネット対戦環境に定評があるアークシステムワークスが協力していることで,期待のかかるところだろう。
伝奇ライトノベル風の世界を舞台に,昔ながらのドット打ちで描かれた16名のキャラクター――「偽誕者<インヴァース>」達によって繰り広げられる,個性豊かなバトル。本稿では,そのバトルデザインを中心に,本作のレビューをお届けしてみたい。ネットワーク対戦のプレイフィールについても触れているので,アーケード版からのプレイヤーも,ぜひご一読いただきたい。
「UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late」公式サイト
UNI-ELとはいったいどんな格闘ゲームなのか
では,UNI-ELはいったいどんな格闘ゲームなのだろうか。一口に格闘ゲームと言っても,地上での攻防にフォーカスしたものや,派手な空中戦を重視したものなど,さまざまな種類がある。格闘ゲームとしての本作の特徴を挙げるとすれば,以下の3点が挙げられるだろう。
- 研究と練習次第で火力が上昇する,モダンなコンボシステム
- 中〜遠距離で発生する差し合いの緊張感
- 小ジャンプ攻撃と投げを駆使した,近距離でのスピーディな読み合い
普段から格闘ゲームをよく遊んでいる人なら,なんとなく分かってもらえたかも知れないが,ここからはこれらの各要素について,順を追って順に説明していこう。
■モダンなコンボシステム
本作では空中状態の相手にも一定時間やられ判定が残っているため,空中コンボが可能だ。通常技は“ヒット時にのみ”ジャンプキャンセルが可能なため,地上技からスムーズに空中コンボに持ち込むことができる。
必殺技をキャンセルできる「EX必殺技」(画面下部のEXSゲージを100%消費する強化版必殺技)や,後述する「チェインシフト」といった要素を駆使することで,創意工夫を凝らしたコンボが成立する。
こういった自由度が高く,研究し,練習した分だけ大きなダメージを与えられるコンボシステムは,ときに“コンボゲー”と揶揄されることがあるものの,現代の格闘ゲームにとって欠かせない要素と言えるだろう。
■中〜遠距離で発生する差し合いの緊張感
UNI-ELは全体的にダッシュの移動速度が速いうえ,前方小ジャンプ的に使える「アサルト」(D)や,いわゆる空中ダッシュの「空中アサルト」(ジャンプ中D)などもあって,相手への接近手段には事欠かない。そう聞いてしまうと,“とりあえずジャンプで近付き,相手に触ることができたら崩しにかかる”といったタイプかと思うかも知れないが,実はそうではない。本作の空中ガードで防げるのは,“飛び道具”のみであり,下手にジャンプで近づこうとすると,手痛いしっぺ返しをくらうことになる。
そのため,中〜遠距離戦では慎重な立ち回りが求められる。リーチに優れたけん制技を繰り出しながら相手の接近を阻みつつ,攻めに転じるときは,相手のけん制の技の空振りに合せたダッシュやアサルトで接近する――いわゆる“差し合いゲー”の緊張感が味わえるものとなっている。既存のタイトルで言えば,「THE KING OF FIGHTERS XIII」あたりに近いイメージだが,接近を迎撃されたときのリスクは,同作よりも遙かに高い。
■近距離でのスピーディな読み合い
中〜遠距離戦はじりじりとした展開になりやすい本作だが,近距離での攻防は,一転してスピーディなものとなる。その理由は,攻め側の選択肢が非常に強力であるのに対し,防御側はハイリスクな読み合い強いられることになるから。つまり接近されてしまった時点で,防御側はかなりの不利を背負うことになる。
例えば,投げ抜け失敗時のリスクを大きく減らす,いわゆる“しゃがみ投げ抜け”(しゃがみ中[A]→[D]ずらし押し)は本作でも可能だが,本作にはそれを潰せる「アサルト」からの小ジャンプ攻撃があるため,とても万能とは言い難い。
このほかにも,小手先のテクニックだけでは守り切るのが難しいよう,各システムが意図的に配置されていて,防御側はどこかで決断する(=読みを通す)必要が出てくる。崩しやすく守りにくいというルールの上での,高速な読み合いが本作の大きな魅力の一つといえるだろう。
GRDゲージって一体何なの?
ここまで本作の特徴について,3つのポイントに絞って説明してきたわけが,実は本作にはもう一つ,欠かすことのできない大きなシステムがある。それが「グラインドグリッド」――通称GRDゲージの存在だ。
GRDゲージとは,画面中央下にある1Pと2P,双方6つのブロックからなるゲージのこと。このゲージはキャラクターの特定の行動によって増減する仕組みになっている。そして,ゲージ中央にある環状のタイマー,GRDトランスファーステイトが1周する度,「その時点でより多くのゲージを保有する側」に「VOPAL(ヴォーパル)」と呼ばれる強化状態が付与される。
……というのがこのゲージの説明になるのだが,ちょっと何を言ってるのか分からないという人も少なくないのではないだろうか。だが何を意図したシステムなのかは,GRDゲージが増減する行動のリストを見れば,概ね分かってもらえるはず。というわけで,GRDゲージに影響を及ぼす行動は以下のとおりだ。
●GRDが増加する行動の例
- 前進やダッシュ,アサルトといった接近行動
- 攻撃をヒットさせる
- 相手の攻撃をガードする
- シールド成功
●GRDが減少する行動の例
- 後退やバックステップ,後ろジャンプといった相手から距離を取る行動
- ダメージを受ける
- 投げを抜けられる
上記の行動のほか,EXSゲージを消費するものの「コンセントレーション」([D]を押し続ける)でもGRDゲージを増やすことができる。また同時に,相手のGRDゲージも減少させる効果も
GRDゲージは,相手に近付く行動や読み合いに勝つといった行動で増加し,相手から離れるか読み負けると減少する……つまり「積極的に攻めたほうが有利だよ!」という,制作者側からのメッセージというわけだ。同様のシステムは,これまでにも「ネガティブペナルティ」という形で実装したタイトルはあったものの,それは逃げ続けると罰を受けるというもので,率直に言ってあまり面白いものではなかった。GRDゲージは,それとは逆に試合を動かしている方がボーナスを得られるシステムで,かつそれを可視化しているというのが面白い。少々分かりにくいのが欠点ではあるが,画期的なシステムといっていいだろう。
さて,では実戦においてGRDゲージがどのように機能するかを見てみよう。先に挙げた3つのポイントの説明で,本作は遠〜中距離までは防御側が有利で,近距離まで寄られると不利になることを説明した。それを踏まえたうえで,改めて上のリストを見てみよう。注目すべきは,ただ“相手の攻撃をガードする”だけでゲージが増えるというところだ。
つまり,ヒットを望めない遠距離でのけん制技や,ガードを崩せなかった近距離での攻めは,相手にVOPALを与えてしまうリスクを孕んでいる,ということになる。VOPALによる強化は,攻守のいずれにおいても強力であり,とくにチェインシフトの使用を相手に許してしまうことは,相手に問答無用で試合の主導権を握られてしまうことを意味している。ただ積極的に攻めればいいわけではないという,GRDゲージとVOPALをめぐるジレンマが,試合の停滞や一方的な展開を緩和する,一種の調停役として機能しているわけだ。
UNI-ELのバトルデザインを改めて振り返ってみると,本作はモダンな格闘ゲームの特徴であるスピーディで強力な“攻め“の面白さと,クラシカルな格闘ゲームの持ち味である立ち回りや対空といった“守り”の楽しさを,積極性や読み勝ちを評価するGRDゲージというアイデアで両立させた格闘ゲーム,ということになるだろう。モダンな格闘ゲームとクラシカルな格闘ゲームのいいとこ取りをしたかのようなプレイフィールこそが,UNI-ELならではの魅力と言える。
欠点はといえば,GRDゲージがほかにないシステムだけに,慣れるまでは使いこなすのが難しいことだが……まずはVOPAL状態を獲得したら[D]を2回押して,チェインシフトしてみるところから始めてみよう。その重要性が実感できるはずだ。
なお,各キャラクターの性能については,これまであえて一切触れてこなかったが,読み勝つことのメリットが戦況に反映されるGRDゲージのおかげで,スタイルはそれぞれ違えど,どのキャラも個性的なバトルを展開できる。それぞれのキャラクターの使い方や性能については,本稿では取り上げないので,フランスパンの公式サイトに掲載されている,「今から始めるアンダーナイトインヴァース エクセレイト!」を参考にしてほしい。
快適なネットワーク対戦と,さまざまなPS3版の追加要素
バトルデザインについてのあれこれはこの辺りにしておくとして,ここからはPlayStation 3版の追加要素について軽く触れておこう。
まずアーケード版のプレイヤーにとって,何より気になるのはネットワーク対戦のプレイフィール――いわゆるラグの問題だろう。この部分については筆者も気になったので,実際にアークシステムワークスで体験させてもらったが,結論としてはまったく問題なしと言っていい出来映えだった。
……バティスタのシデウスフラグメンツムを絡めた目押しコンボも,ほとんど失敗することなくできたと書けば,アーケードからのプレイヤーにもその快適さが伝わるだろうか。もちろん,オフライン対戦と比較すればラグはあるのだろうが,自宅からこれだけの環境で対戦できるならば,喜びこそすれ文句はないレベルである。
なお,記事の冒頭でも触れたように,UNI-ELの移植にあたっては,アークシステムワークスが全面協力を行っており,とくにネットコード部分は「BLAZBLUE CHRONO PHANTASMA」(以下,BBCP)のものをブラッシュアップしつつ搭載しているとのこと。聞けば納得の完成度といえるだろう。
やり込みのお供であるトレーニングモードについても触れておくと,細かい部分では[SELECT]ボタンによるポジションリセットや,各種受身の方向指定はもちろんのこと,ダミーの行動を5つのスロットに記録でき,それをランダムで再生できるといった機能が備わっている。また,強制的にVOPAL状態にする項目があるおかげで,チェインシフトを利用した連続技の練習が容易なのも嬉しいところだ。
なお,トレーニングモード中に確認できるデータは,各技のダメージとコンボダメージ,これまでに決めた最大ダメージのみ。本作は対戦中でもダメージ数値やリカバリーまでの時間が確認できるので,ここは少々寂しい気もする。より詳細な技データ――例えば技ごとのガード段であったり,発生フレームだったりが確認できればなお良かったと思うのだが。とはいえ,コンボの練習や研究,相手の攻めへの対策など,実戦的な練習をするうえでは,十分役に立つモードといえるだろう。
さらにPlayStation 3版ならではの要素として,オンライン/オフラインを問わず,対戦を行うごとにゲーム内ポイントである「IP」が獲得できるという要素がある。これを消費することで,ネットワーク対戦時に表示されるアイコンやプレート,称号,キャラクターカラーを自分好みにカスタマイズできるほか,ギャラリーモードでキャラクターイラストやエンディングイラスト,ゲストイラストを購入し,観賞できるのだ。
とくにゲストイラストには,TYPE-MOONの武内 崇氏や,黄昏フロンティアの鰯氏,さらにはSkullgirls Art Teamからの寄稿など,驚きのコラボレーションが行われている。ファンはぜひその目で確かめてほしい。
ネットワーク対戦に特化した,格闘ゲーマー必携の一作
伝統的な2Dドット絵で描かれた精緻なグラフィックスに軽快な操作感,攻めても守っても強いという昨今珍しいバトルデザイン。「UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late」は,まさにフランスパン格ゲー最新作の名に恥じないタイトルと言えるだろう。「メルブラ」の軽やかな操作感が好きだった人は,ぜひ遊んでみてほしいところ。
また,目の肥えたプレイヤーの多いアーケードをくぐり抜けてきたことと,さらにGRDゲージシステムのおかげもあってか,キャラクター間のゲームバランスも概ね良好だ。どのキャラクターを選んでも,やり込み次第で勝てるはずなので,新しい対戦格闘ゲームを求めていた人には,ぜひオススメしたい。ネットワーク対戦のプレイフィールも良好なので,アーケードからのファンやとにかく対戦に明け暮れたい人も安心してほしい。
とまあ,対戦格闘ゲームとしての出来映えは素晴らしいのだが,家庭用ゲーム機のタイトルとして考えると,少し残念な部分もないことはない。
まず,長く遊べる1人用モードが少ないこと。一応,スコアアタック,タイムアタック,サバイバルといったモードが用意されてはいるものの,CPUのアルゴリズムは同じなので,それこそハイスコアを狙うくらいしかやり込みようがないのだ。個人的には,「MELTY BLOOD Actress Again」のボスラッシュのような,攻略しがいのあるモードが一つくらいあっても良かったのではないかと思う。
さらに言えば,せっかく魅力的な世界観なのだから,ストーリーモードがあっても良かったのではないか。ナナセとビャクヤが追加されたことで,アーケードモードのやりとりでは二人の出番が用意されているものの,基本的にはアーケード版のままのストーリーが展開される。
また,ゲーム内にチュートリアルが一切ないことも気になった。まあ,昨今は少し調べれば攻略情報が見付かるし,フランスパンの公式サイトにも初心者講座や基本システム解説動画が掲載されているので,割り切り方としては潔いかもしれない。
というわけで,誤解を恐れずに言うならば,PS3版「UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late」は,ネットワーク対戦に特化した,かなりガチ勢寄りの格闘ゲームということになるだろう。……なんてことを言うと,「ネットワーク対戦はハードルが高くて……」と尻込みしてしまう読者もいるかもしれないが,とにかくキャラクターや世界観が気に入ったのなら,ひとまず買って遊んでみてほしい。
本作は何より,“動かしているだけで楽しい格闘ゲーム”であり,それはつまり,キャラクターの魅力に触れやすいゲームであるということでもある。そうして一度ハマッてしまえば,気付いたときにはネットワーク対戦への門戸を叩いていることうけあいだ。最近洋ゲーばっかりでちょっと飽きてきたなあ,なんて人にも,ぜひ触れてみてほしいタイトルだ。
「UNDER NIGHT IN-BIRTH Exe:Late」公式サイト
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