テストレポート
NVIDIA,次世代型VRデモ「VR Funhouse」を公開。物理演算満載のミニゲームをハイエンド環境で試してみた
「Funhouse」を辞書で引くと「びっくりハウス」と出る。それでは最近の若者に通じないだろうとは思うのだが,遊園地のアトラクションの一種だと思っておけばいいだろう。全体的な雰囲気は洋風の縁日の出店といったところである。
VR Funhouseの全体的な構成は射的やモグラ叩きなど,小さなデモの詰め合わせとなっており,同社のVR Worksをはじめ,GameWorksのミドルウェアがふんだんに使われていることがうかがえる。なお,両手で遊具を扱うこともあって,本デモの対応機種はHTC Viveのみである。ゲーム自体は,「Oculus TouchのToyBoxデモみたいな……」と説明するのがごく一部の人には分かりやすいのだが,普通の人にはまったく分かってもらえないのが難しいところだ。Oculus TouchがリリースされたらRiftへの対応は簡単だろう。
このデモはPascal世代のGPUと合わせて発表されただけあって,対応するスペック範囲はかなり広い。LowからHighまで3つのセッティングが用意されているのだが,レビュアーズガイドによるとそれぞれ,
Min Spec CPU: Core i7 4790
Medium Quality Settings: GeForce GTX 1080 or greater
Recommended CPU: Core i7 5930
High Quality Settings: Geforce GTX 1080 for Graphics and a Dedicated PhysX GPU (Geforce GTX 980 Ti or greater)
といった感じである。セッティングを上げるとなにが変わるかというと,SSAA(Super Sampling Anti-Aliasing)のクオリティ(MSAAではない点に注意),Clown Painterでの液体の挙動。Fire Archerでの炎の解像度だそうである。
GeForce GTX 1060が性能としてはGTX 980相当で,さらに「VRを30%速くする」みたいな機能が盛り込まれたGPUだと考えると標準的なVR Ready PCでは荷が重いことが考えられる。GTX 1080でもMediumが精一杯だというのがすさまじい。最上位のセッティングになると,描画用にGTX 1080を使い,さらに演算用にGTX 980 Tiを付けろとかいった具合である。さらには,Seating/Standingの状態ではプレイできないかもしれないと警告が出る。Room Scaleでセッティングするのが望ましい。
このように,現状ではフルスペックを体験できる人は非常に限られているデモなのだが,それというのも,このデモは物理演算をふんだんに使った「将来のVR」の姿を先取りしたものとなっているからだ。現在はハイエンドGPUを2基使わないと体験できないようなものでも,あと2,3世代経てばミドルクラスで実現できるかもしれない。物理演算というのは,VRのような体感系コンテンツで世界に物理的な実在感を示す際に非常に重要なものとなってくる。現在はレンダリングだけで手一杯な感じもあるが,その次の段階はすぐにやってくるはずだ。
ここでデモ自体の紹介をしておこう。
起動直後に表示されるのがこれだ。サッカーボールや野球のボールを棚に並んだ陶器の的にぶつけるゲームになっている。ここでモード選択も可能だが,プレイスペースがある程度広くないとボタンまでたどりつけないかもしれない
ボールを投げるのは意外と難しい。トリガーで掴み,腕を振ってトリガーを離すのだが,慣れないとヘロヘロ球にしかならない。少しやり込んでも難しい。下手投げにすると,ポイっと放っただけで剛速球になったりするのだが。
両手のコントローラが水鉄砲となり,緑色の液体を射出することができる。どっかで見たことなイカ? という気もしなくもないシチュエーションだが,質感がなんとなくペンキっぽくないなと思ってレビュアーズガイドを見ると,スライムだということが判明した。
射出されたスライムは,周りにある物体にしばらくは付着しているのだが,じわじわと染み込むように消えていく。普通に考えると垂れてきそうなのだが,そういう要素がまったくない物性の液体らしい。
ピエロの口にスライムを入れると上の風船が膨らんで,一定量溜まると破裂する。いくつ破裂させられるかを競うゲームだ。
技術的には,スライムにPhysX Flexという技術が使われている。これはパーティクルベースの物理演算システムだ。物理演算で一般的な剛体などの要素は持たず,すべてをパーティクルで解決するという特徴を持っている。単純なシーンでは効率が悪そうだが,複雑なシーンではパーティクルだけを処理すればよいのでむしろ効率がよくなる。
ゲーム全体では剛体演算なども行われているのだが,この部分の背景などはFlex用に作ってあるようだ。拳銃を一つ床に置いてもスライムの散布には影響せず,剛体との判定は行われていないことが分かる。
弓で的に向かって火矢を放つゲーム。火矢が当たると的は燃えて,得点が入る。
弓はVRデモでは定番のネタなのだが,若干ほかのデモよりしっかりと弓を引かないといけない雰囲気なので,とにかくしっかりと引くことを心掛けよう。
デモの中でクオリティ設定の違いが最も分かりやすいシーンでもある。炎の変化はHighにするととくに著しく,激しく燃え盛る(画面はMediumのもの)。
●Balloon Knight
風船は,軽く剣で触れたくらいでは破裂せず,ある程度力を入れたり,切っ先を突き刺したりする必要がある。
風船は割れると,中に入った紙吹雪が宙を舞う。剣を振り回すとちゃんとそのときに発生する風で乱流が発生し,紙吹雪に影響することも確認できる。
いわゆるモグラ叩きで,プレイヤーはハンマーを持って,飛び出してくるモグラを叩き返していく。あまり説明する部分がないのだが,モグラ(?)の髪の毛の処理などは注目してみよう。かつらみたいな雰囲気なのだが,毛髪が物理運動でそれらしく動いていることが確認できる。
ちなみに,このデモはある程度広さがないと厳しいかもしれない。
プレイヤーを半周取り囲むようにレールが延びており,モグラが前方に飛び出してくるのでパンチで撃退するというゲームだ。両手はボクシンググローブになる。
このデモも,ある程度の広さが必要である。運動量が多くなるのと,とくに他人が近付いたり,周りに壊れやすいものを置いたりしないようにしたい。壁の位置にも十分気をつける必要があるだろう。
拳銃で棚に並んだ陶器を撃つという典型的な射的ゲームである。リボルバー式の二丁拳銃(弾は無限)で,見た目ではリコイルも大きいのだがだいたい狙ったとおりに撃てる。ただ,連続して撃つとややブレる傾向があるのも分かる。撃つと煙も出て拡散していくのだが,このあたりは流体演算が駆使されている部分だろう。ただ,どれくらいリアルな煙なのかは判断できなかった。各種動画を見る限り,もっと瞬間的に大きく広がってもよさそうなのだが。
マウスでエイムして撃つといった特殊な操作ではなく,手に持った銃でそのまま狙って撃つという体験ができる。このように「手」を使えるコントローラがあると,FPSなども根本的に変わってくるだろう。
大砲から撃ち出される陶器を二丁拳銃で打ち落とすというゲーム。だんだん撃ち出される速度が上がってくるが,移動は行わないので比較的楽に試せるデモである。
拳銃はShooting Galleryと同じものだが,比較的長めのリボルバーである。型番などはよく分からないが左回転だからS&Wだろうか。
デモとして見ごたえがあるのは,Clown PainterやBalloon Knight,やっていて楽しいのはFire ArcherやCannon Skeet,Mole Boxingだろうか。Whack a Mole,Mole Boxingなどは運動量も大きく,周りに人がいるとやや危険なデモである。
重ね重ねだが強調しておきたいのは,プレイにはある程度広さが必要になってくるということだ。
まず,自分の机で試してみてサブの液晶ディスプレイを床に落とし,小会議室で壁を殴りつけ,大きめの会議室の端でセッティングしてみてもまだ手が届かないボタンがあるという感じで,Room Scaleセットアップをしていてもサイズによっては完全には遊べないという仕様である。
ViveのRoom Scaleセッティングは1.5m×2mというのが最少サイズなのだが,それでは若干足りない感じだ。Room Scaleでうまくいかないときは,Standingでセットアップ時に中心位置をずらすなどの工夫をするほうがよいかもしれない。
これらのデモのウリは,物理演算と触覚技術だ。
剣で風船を叩いて割れなかったときの挙動はこの手のデモではあまり見られないものである。すり抜けるわけでもなく,ぐっと風船を押しのけて剣が移動していく。
デモで多用されている陶器類をはじめ多くのオブジェクトが破壊可能なので,破片をさらに細かくしてみるのもいいだろう。オブジェクトはある程度割れると,破片を撃ってもそれ以上は割れず,最小単位になった時点でしばらく経つと消えてしまう。おそらく事前計算の壊れ方パターンが設定されているのだろう。
割れ方はたまに不自然なパターンもあるが,実際に拳銃で陶器の壷を撃ったことなどがあるわけではないので評価は保留したい。このあたり,今後は体感的に不自然でなく見栄えのよい割り方というのも工夫されるようになるのだろうか。
手に持ったオブジェクトとほかのオブジェクトがぶつかると,振動で接触の「感触」が返ってくる。ほんのちょっとしたものだが,スカスカすり抜ける物体ばかりだとつまらないので,こういったリアリティの補足も重要だろう。なお,ハンマーなどは,台に叩きつけてもスカらずに接触面で停止する。モグラ叩きができるのも,こういった仕様のためだ。振り下ろした腕の位置と齟齬は出るのだが,不自然さはとくに感じられない。
Low Quality Setting:GeForce GTX 970でのプレイ
非常にハードルが高いデモであるが,まずは,GTX 970という最低限のVRスペックで試してみた。世の中のVR Ready PCはこのスペックで用意されているものが大半なので,この状態でどの程度動くかに関心のある人も多いだろう。当然ながら,デフォルト状態ではLow Quality Settingが選ばれている。ちなみに,ViveはStandingでのセットアップで試している。
ちょっと心配していたのだが,やってみると,一応,普通に動いていて普通に遊べる。一般的なVRデモと比べると物理演算要素が多いかなと感じられるものの,まあ体感ミニゲーム集である。なお,GTX 980 TiでもLow Quality Setteingを試してみたが,体感上で大きな違いはなかった。
ほとんどのデモで不満はないのだが,Clown Painterのパーティクル数や挙動がちょっと不十分かもしれない。プレイに支障はなくても,少しまばらな感じはする。また,射的ゲームで背景の棚が壊れない,看板に弾痕が残らないといった違いもある。
以下,それぞれのモードで,見て違いが分かりそうなClown PainterとFire Archerの2本についてムービーを掲載しておこう。
Medium Quality Setting:GTX 1080でのテストプレイ
PCを変え,GTX 1080を搭載してプレイをしてみると,デフォルト状態でMediumになっていた。実はHighにも対応したマシンなのだが,とりあえずMediumが選択されるようだ。
体感的にLowとなにか変わったかといわれると難しい。ほとんど判別がつかないと思う。弓矢ステージでの炎が若干リアルになった程度ではないだろうか。
High Quality Setting:GTX 1080+GTX 980 Tiでのテストプレイ
演算用にGPUを1基使うというあたりで,エフェクトがド派手になると期待されるモードだが,どうだろうか。今回は運よく,GTX 1080+GTX 980 Tiという組み合わせのマシンを組むことができたのでレポートしてみたい。
試してみて最初に感じたのは,「ボールを投げやすい気がする」ということだったのだが,レビュアーズガイドにあるセッティングの効果には見当たらない。気のせいか単なる慣れだろうか。
SSAAによる全体的な画質は……これは見てもほとんど違いは分からないのではないだろうか。SSAAなのでかなり負荷は上がっているはずだが,「Multi-Res Shading」で解像度をあちこちで変えてレンダリングしているはずなので,いくぶんかは軽減されているのだろう。なお,画面の部位による解像度の変化は見てもまったく分からない。
スライムの挙動は滑らかになったような気がする。全体的な動作で大きな違いはないのだがムラなく流れるようになった感じである。
炎の表現は明らかによくなった。Lowあたりだと少し寂しい感じだったのだが,炎っぽさがかなり上がっている。
なお,VR Funhouseには今回紹介したもの以外に,バスケットボールのフリースローとガラス板に吸い付くタコの玩具系のアトラクションが追加予定となっているので,そちらも楽しみにしたい。
Pascal世代のGPUとViveという環境を用意できる人がどれくらいいるかは不明だが,Viveをすでに使っている人であれば,一応それなりには楽しめるのでぜひ試してみてほしい。本デモの真骨頂というべき部分を確認したい人は頑張って機材を揃えよう。
Steam公式サイト(「VR Funhouse」で検索)
- 関連タイトル:
GeForce GTX 10
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