インタビュー
発売迫る「ファンタシースター ノヴァ」インタビュー。家庭用ゲーム機向け「ファンタシースター」シリーズの系譜を継ぐ新作の魅力を開発陣に聞いた
同社のオンラインゲーム「ファンタシースターオンライン2」(PC/PS Vita。以下,PSO2)と世界設定を共有しながらも,あらゆる面で新しい試みが盛り込まれた意欲作で,プレイヤーは特殊エネルギー「フォトン」が使えない未知の惑星において決死のサバイバルに挑むことになる。
今回4Gamerでは,発表直後から謎の超巨大エネミー「ギガンテス」や独自の武器「パイル」「ヘイロウ」などに注目が集まっている本作について,プロデューサーを務める都築靖之氏とディレクターの山下浩平氏にインタビューを実施。新要素の魅力や開発時のエピソードなどを聞いた。
「ファンタシースター ノヴァ」公式サイト
家庭用ゲーム機向け「ファンタシースター」の系譜を
受け継いた新作
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
まずは,PS NOVAがどのような経緯で開発されたのかを教えてください。
プロデューサー 都築靖之氏 |
PS NOVAは,PSO2を1人用ゲームに再構成したものではなく,家庭用ゲーム機向け「ファンタシースター」の系譜を受け継いだ新作です。
2011年に「ファンタシースターポータブル2 インフィニティ」を発売して以来,家庭用ゲーム機におけるファンタシースターシリーズは系譜は途切れていたのですが,「スタンドアローンのファンタシースターが遊びたい」「オンラインゲームはちょっと苦手」といった意見をいただいていました。
これに加えて,PSO2の世界をさらに広げていきたいという思いもあり,「家庭用ゲーム機専用ソフトとしての新しいファンタシースターを作ろう」と立ち上がった企画がPS NOVAだったんです。
4Gamer:
なるほど。それでPS NOVAのマルチプレイは,PS Vitaを持ち寄って遊ぶアドホック通信専用になっているんですね。
山下浩平氏(以下,山下氏):
我々が思い描いているのは,プレイヤーがお互いに声を掛け合える距離だからこそ成立する高い戦略性です。言い換えると,ラグのない環境下で即時性のある連携プレイということにもなりますが,これを実現するためにアドホック通信専用にしました。
4Gamer:
具体的にはどういうものですか。
山下氏:
たとえば対ギガンテス用の武器であるヘイロウやリングジェネレーター,パイルはいずれも戦略性が高く,プレイヤー同士で声を掛け合うことでスムーズに連携できるようになっています。
ギガンテスは巨大なので普通に戦っても足にしか攻撃が届きませんが,ヘイロウやリングジェネレーターで空中に足場を作れば,頭部や胴体を攻撃できるというわけです。「いつ,どこに足場を作るか」が重要ですが,キーボードでチャットするより,声を掛け合ったほうが手っ取り早いですよね。
パイルはギガンテスの身体に杭を打ち込む武器で,その杭に仲間が攻撃を加えると通常よりも大きなダメージを与えます。いわば連携の起点となるものですが,「足にパイルを刺すよ!」と伝えることで優位に戦えるというわけです。
4Gamer:
プレイヤーの中にはマルチプレイができない人もいると思いますが,PS NOVAは1人でエンディングまでたどり着ける難度でしょうか。
都築氏:
もちろんです。アドホック通信でのマルチプレイはクリアに必須というわけではなく,PS NOVAをさらに楽しくする要素だと思ってください。
開発陣が考えるファンタシースターらしさとは
4Gamer:
PS NOVAはファンタシースターシリーズと世界設定を共有する新作ですが,開発陣が考えるファンタシースターらしさを教えてください。
ディレクター 山下浩平氏 |
それぞれのプレイヤーが理想のキャラクターを作れる「高い自由度」でしょうね。これを踏まえたうえで,PS NOVAらしさとトライエース(本作の開発元)らしさを強調するための要素を導入しています。
4Gamer:
その要素とは何でしょう?
山下氏:
自由で奥深いカスタマイズ,そしてやり込み要素です。
たとえば,PS NOVAではさまざまな施設が並ぶ「拠点」を自由にカスタマイズできます。拠点はPSO2におけるアークスロビーのような存在で,施設の配置や見た目を変更することが可能になっています。「アイテムショップが不便だから,もっと入り口の近くに移動しよう」「施設を和風に変更したい」といったことが実現できるわけです。オンラインゲームのPSO2では,プレイヤーが勝手にアークスロビーの配置を変えることはできませんよね。
4Gamer:
それぞれの拠点にプレイヤーの個性が現れますね。
山下氏:
マルチプレイのホストになれば,ほかのプレイヤーを自分の拠点に招待できます。ショップの品揃えはゲームの進行度合いに依存しますので,こうした部分にも個性が出るでしょうね。自慢の拠点をお互いに見せ合いながら,感想を言い合えるのもアドホック通信専用ならではの楽しさだと思います。
4Gamer:
キャラクターの育成要素はどうなっていますか。
山下氏:
新クラスの「バスター」は,PS NOVAの自由度を象徴する存在になっています。
元々,自由度の高いファンタシースターシリーズですが,バスターはすべての武器が装備可能なので,ほかのクラスのスキルやフォトンアーツを組み合わせると,かなりの自由度があると思います。
4Gamer:
PS NOVAならではの理想的なキャラクターが育成できるということですね。
山下氏:
ええ。全武器種を装備できる万能クラスなので,「武器パレットを切り替える」という効果のスキルを使えば,ソードで斬ってからナックルに切り替えて殴るといった戦い方も可能です。ギガンテス戦で活躍するパイルを装備できるのもバスターのみです。
4Gamer:
バスターが万能すぎて,弱点がないように思えますが……。
確かに万能ですが,平均型の器用貧乏なクラスなので,攻撃力ではハンター,法撃力ではフォースにかないません。序盤は既存のクラスのほうが強いと思いますが,カスタマイズ次第で最終的にはどうなるかがお楽しみといったところです。
こうしたやり込み要素やカスタマイズの奥深さ,キャラクター育成の楽しさはトライエースさんのお家芸ですよね。メインのクエストだけをプレイしてもエンディングまで約50時間ほどかかりますし,もちろんレアなコスチュームや武器を集めたり,拠点をカスタマイズしたりと楽しめる要素は豊富に用意しています。
4Gamer:
なるほど。
キャラクタークリエイトもPSO2同様,かなり細かく設定できるのでしょうか。
山下氏:
もちろんPSO2の良い部分はできる限り,引き継いでいます。
PS NOVAではクリエイトした主人公がイベントシーンに登場するのですが,その調整が大変でした。主人公がコールドスリープのカプセルで眠っているシーンでは,キャラクターのサイズを最大にするとカプセルからはみ出すといったこともありました。
4Gamer:
それでは,そのためにキャラクターのサイズを調整したのですか。
山下氏:
いえ,カプセルを一回り大きくしました(笑)。プレイヤーの自由度は制限したくなかったので。
ただ,イベントシーンで迫力を出すためには,カメラがキャラクターの近くまで寄る必要があるのですが,サイズが大きいとカメラが身体に埋まってしまうことも……。かといって無難なところではカッコよくならないので,ギリギリの線を探りました。
4Gamer:
ちなみに主人公の性別によって物語の展開が変化するのでしょうか。
物語が大きく分岐することはありませんが,イベントシーンにおける仕草や仲間の台詞,対応が変化します。たとえば,あるNPCとの関係についての話題では,異性なら顔を赤らめ,同性ならギャグになるといった感じです。
主人公が誰かと結ばれるようなことはないですが,各NPCに設定された「プロミスオーダー」というミッションを達成すると親密度が上がります。NPCの性別を問わず,いわゆるフラグが立った状態になりますので,その後はプレイヤーのご想像にお任せする形です(笑)。
判断基準は「ゲームとしてカッコいいか否か」
4Gamer:
今回,開発のパートナーとしてトライエースを選んだ理由を教えてください。
都築氏:
弊社とは以前に「End of Eternity(エンド オブ エタニティ)」(PS3/Xbox 360)でタッグを組んでいるのですが,SFもRPGも得意にされているということが一番の決め手でした。
山下氏:
僕はディレクターなので,開発中はずっとトライエースさんに出ずっぱりで(笑)。
都築氏:
トライエースさんに「山下部屋」まで用意していただいたんです(笑)。
4Gamer:
両社の役割分担はどのようになっていましたか。
都築氏:
トライエースさんが開発し,そこから上がってきたものを弊社が監修するという流れでした。
山下氏:
トライエースさんは絵作りへのこだわりがすごかったですね。スペック的に限界で,期限も迫っている……はずなのに,ある日突然,解像度がアップしていることもありました。
都築氏:
グラフィックスに関しては,PS Vita版PSO2と比べてもリッチだと思います。これはアドホック通信専用に絞ったメリットと言えるかもしれません。
4Gamer:
トライエースとしては,初めてファンタシースターシリーズの開発を手がけたわけですが,シリーズの認識や理解において両社でズレを感じたことはありませんでしたか。
山下氏:
トライエースさんの担当者がPSO2を熱心にプレイされていたので,すでにシリーズの共通認識はあったと思います。実際,トライエースさんのアイデアを「ファンタシースターらしくない」という理由で却下したことは無かったですね。
PSO2のアペンドやスピンオフではなく,PS NOVAという新しいタイトルを作ることが我々の目標であり目的でした。とにかく「ゲームとしてカッコいいか否か」だけを判断基準として,お互いにアイデアや意見を出し合う形になりました。
当初,「PSO2に気を使いすぎているな」と思ったのは確かでしたが,そこで「もっとPS NOVAとしての面白さを追求してほしい」とリクエストしました。言い換えれば「もっとはっちゃけていいですよ」「自分達のタイトルと意識していいですよ」ということですね。
4Gamer:
PS NOVAの新しさを象徴する存在といえば,生物と兵器が融合したようなギガンテスだと思います。このアイデアはどこから生まれたのでしょうか。
山下氏:
従来のシリーズとは異なる雰囲気を持つ作品にしたい。そのための新しいアイデアを……と考え抜きました。
ファンタシースターの世界は,高度な文明を持つ人々がさまざまな星で未知との遭遇を果たすというスペースオペラ的なものです。そこで,PS NOVAでは逆に文明レベルを落とし,1つの惑星に閉じ込めてしまおうと。ギガンテスが火薬砲やチェーンソーといった粗野な旧式武器を装備しているのは,そうした理由によるものなんです。
都築氏:
未来的なフォトン武器と旧式武器なら,一見しただけでも異質さが際立ちますよね。
4Gamer:
しかし,超巨大なギガンテスとアークス達との戦闘を成立させるのは大変そうですね。
山下氏:
アークスが地上で戦うだけでは,ずっとギガンテスの足を殴るしかない。それではつまらないものになってしまうので,ギガンテスの身体をよじ登る,ワイヤーを打ち込んでジャンプするなどのアイデアを試しました。
しかし,自分が強化した武器や必殺技,テクニックを使って戦いたいですよね。そこで,空中戦のシステムやアクションを導入するのではなく,地上と同じように戦える足場を採用することにしました。
4Gamer:
なるほど。そういえば,つい先日プレイヤーがギガンテスを召喚できる要素が発表されました。
都築氏:
ギガンテスを捕まえて仲間にするという要素自体は,開発初期の段階から存在していたのですが,仕様が確定しなかったのでなかなか公開できなかったんです。実はプレイヤーがギガンテスを操作するというアイデアもあったんですが,いざ試してみたらかなり大味なゲームになってしまったので却下しました。
山下氏:
特定のゲージを消費してギガンテスを呼び出すと,敵に向かって突進したり,プレイヤー達を回復したりといった必殺技を使用できます。また,捕まえたギガンテスは拠点の下層にある「捕獲所」にいるので,たまに会いにいってあげるといいかもしれませんね。
4Gamer:
それでは,PS NOVA独自の武器であるパイルやヘイロウについてはいかがでしょうか。
山下氏:
PSO2は武器の種類が多いゲームなので,まったく新しい武器を考えるのは苦労しました。
ただ,PS NOVAは巨大エネミーとの戦いがテーマということで,パイルのアイデア自体は早い段階に決まっていました。巨大なクジラに銛を打ち込むようなイメージで「自分の攻撃の痕跡が残り,戦いが有利になっていくのが視覚的に分かる武器」を目指しました。
一方,ヘイロウは足場と武器が一体化しているというコンセプトで,これなら従来のファンタシースターに無かった武器だろうと。展開しているリングの数だけ攻撃力がアップする技や,攻撃判定の持続が長いといったちょっと特殊な技もあります。
4Gamer:
物語としては,サバイバルの側面が強調されています。
山下氏:
文明に守られた人々が極限状況に放り込まれることで,新しいドラマが生まれると思ったんです。拠点を自分の手で建設していく要素も,これまでのファンタシースターとの違いやサバイバル感を演出するために採用しました。
PSO2の世界では,綺麗なアークスロビーにアイテムショップや各施設があって当たり前ですが,PS NOVAはそうではない。最初は不自由を感じるかもしれませんが,自らが築き上げた拠点を眺めて「この星で生存圏を作ったんだ」と達成感を味わってください。
「バトル体験版」配信後に敢行した修正とは
4Gamer:
8月に「バトル体験版」を配信後,11月13日には「序盤体験版」の配信が開始されています。公式サイトでは11項目の改善点が公開されていますが,その中でも「リングフィールドを1ボタンで作成可能に」「プレイヤーキャラクターの移動速度アップ」の2つは対応が早かったですね。
山下氏:
実は,足場を出現させるたびにヘイロウを選択する必要があることには,煩わしいと思われるかもしれないという認識はあったんです。「バトル体験版」の配信直後,プレイヤーから指摘されたときには「やはり,そうか」ということで,その日のうちに直しました。
都築氏:
移動速度に関しては「バトル体験版」と比べて1.4倍にしています。元々は開発当時のPSO2とまったく同じ速度だったんですが,PS NOVAはマップが広く,速度を実感できる対象物が無かったことで,遅く感じられたようです。
移動速度を変えることは,これまでに築き上げたゲームバランスをすべてご破算にするような,とても難しい作業なんです。あの時期に移動速度を変更するのは,狂気の沙汰とも言える状況でしたが,トライエースさんには「これは修正しないといけない。準備はできています」と言っていただいて,たいへん助かりました。
4Gamer:
具体的にはどのような点で難しいのでしょうか。
山下氏:
移動速度の変更は,パラメータを1ついじれば終わりという作業ではありません。攻撃を繰り出す速度も一つ一つ調整する必要がありますし,キャラクター同士やオブジェクトが高速でぶつかると,お互いの衝突判定がうまくいかず,すり抜けてしまうようなことも発生します。こうした膨大な検証作業は「バトル体験版」の制作時にも行われていますが,移動速度の変更に合わせてすべてやり直したというわけです。
4Gamer:
発売日が間近に迫ってきましたが,そのほかに注目してほしいポイントはありますか。
都築氏:
ゲーム内に300体ものNPCを用意しました。母船のコールドスリープカプセルで眠っているという設定で,目覚めさせた後は戦闘に同行させたり,拠点のショップに配置したりすることができます。かなり豪華な声優さんを起用していますので,どんどん起こしてください。
山下氏:
主要キャラクターでは「ヒュペリオン」という,電子レンジのような物を背負ったキャストのコックに注目してほしいですね。行動や言動が面白く,大塚芳忠さんのユニークな演技もハマっています。
4Gamer:
それでは最後に4Gamer読者に向けてメッセージをお願いします。
都築氏:
トライエースさんと一緒に,新しいファンタシースターを作りました。
「バトル体験版」で寄せられた意見を反映して,さまざまな改善を施した「序盤体験版」を配信していますので,まずはこちらをプレイしてほしいですね。最初のギガンテス戦まで収録している,製品版とまったく同じ仕様になっています。
山下氏:
「序盤体験版」は全体的な操作感や快適性など,大幅にチューンナップしたものです。お待ちかねのキャラクタークリエイトも可能なので,ぜひ遊んでいただきたいです。
4Gamer:
ありがとうございました。
「ファンタシースター」シリーズがいまだ根強い人気を誇り,PSO2が多くのプレイヤーに愛されている状況において,“新しいファンタシースターを作る”ことの難しさが伝わってきたインタビューだった。家庭用ゲームソフトとしての「ファンタシースター」を継ぐ新作として,新境地を目指すPS NOVA。セガとトライエースの挑戦がどのように結実するのか,それが明らかになる11月27日を楽しみに待ちたい。
「ファンタシースター ノヴァ」公式サイト
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