レビュー
ファークライ3のスピンオフタイトルは,1980年代テイストのSFシューターに。え?
Far Cry 3 Blood Dragon
「ファークライ3」(PC/PlayStation 3/Xbox 360)といえば,南の島でハメをはずし過ぎた若者がひどい目にあいながらも,囚われの身となった友人や弟を救い出すため,地元の人々の力を借りながら海賊と戦う物語だった(関連記事)……って,簡単すぎですか? 「Far Cry 3 Blood Dragon」(以下,Blood Dragon)は,そんなファークライ3のスピンオフタイトルで,2013年4月24日に掲載した記事でもお伝えしたとおり,日本ではPC版の配信が5月1日に始まっている。というわけで,ここではそのBlood Dragonがどういう作品であるのかを軽く紹介したい。世界でも日本でもヒットを記録したファークライ3であるだけに,デベロッパのUbisoft Entertainmentも力が入っているはずだ。とりあえずバックグラウンドストーリーは,こんな感じになっている。
時は西暦2007年。1990年代に起きた核戦争によって地球全土は荒廃したが,東西の激しい争いは依然として続いていた。そんな中,USサイボーグ軍は,平和への道筋を見つけるための行動を開始。プレイヤーはUSサイボーグ軍「マーク4サイバーコマンド」のレックス・コルト軍曹となり,この悲惨な状況を打開するため,情報を集めなければならない……。
「Far Cry 3 Blood Dragon」英語公式サイト
はい,そうです。南の島も海賊も地元の人々もいきなりどこかへ行っちゃってて,もうファークライ3とはまったく違う世界になっているのがお分かりですね。しかも,時代は2007年。あまり記憶力に自信があるほうではないが,6年前に核戦争後の荒廃した世界が広がっていたという思い出はない。
ちなみにBlood Dragonが最初に発表されたのは,北米時間の2013年4月1日のことで,本編とあまりにも違うぶっ飛んだ世界観であったため,エイプリル・フールのジョークだろうと思われたという話さえある。しかし,そんなこと聞いちゃうともうプレイせずにはいられないという人も多いはずだ。ゲームのストーリーについては,残念ながらネタバレになってしまうので書けないが,ここで筆者が面白いと思った部分をざっくり紹介していきたい。
さて,スクリーンショットやアートワークを見てまず印象に残るのは,その独特の色づかいであり,なんというか,着色料をふんだんに使ったアメリカのお菓子や飲み物を思わせるものがある。もっとも,この感じを「懐かしい」と思う人もいるはずで,そんなあなたはベテランの洋ゲーマーだ。
つまり本作は,1970年代後半から1980年代にかけて発売されたゲームの雰囲気を狙っており,その当時から見た未来,つまり2007年あたりが背景の作品という設定になっているのだ。ああ,ややこしい。
当時のPCは使用できる色数に限りがあったため,いきおい赤や青,黄色の原色を使った絵づくりのものが多かった。本作ではそれを再現しており,Atari 2600やコモドール64,AMIGAといった,もっぱら海外で一世を風靡したハードウェアで遊んだことがある「おじさんゲーマー」にとって懐かしいのは当然。アートワークもまた,当時のB級SF映画のポスターを思わせるものになっている。
さらに公式サイトも,インターネット黎明期を思わせるデザインになっており,ぶっちゃけかなりダサくていい感じだ。ここまでやるか,Ubisoft。
もちろん,そうしたレトロムードはあくまでも「味付け」だ。本作にはファークライ3と同じUbisoftの最新ゲームエンジン「Dunia Engine 2」が使用されている。
ゲームシステムも基本的にファークライ3と同じものが採用されており,オープンなフィールドを舞台に,さまざまなミッションに挑んでいくというFPSである。ただ,スキルシステムは大きく変わっており,「レベル●で■のスキルがアンロック」という感じになっている。
ファークライ3のスキルシステムは,入手したポイントを使ってスキルをアンロックしていくスタイルだったが,本編よりボリュームが少ないBlood Dragonなので,このようにしたのだろう。ともあれ,ファークライ3を楽しんだ人なら,すんなりプレイできるのは間違いない。
使用できる武器の豊富さも魅力だったファークライ3だが,Blood Dragonでもそれは同じ。登場する武器は架空のものであり,それらにアタッチメントを追加することで,性能を変化させることが可能になっている。
ハンドガンのA.J.M.9を例にあげると,消音器やレーザーサイト,多弾マガジンといったカスタマイズが可能になっており,いろいろ装着していくと次第にゴテゴテした,いかにもSFチックな「大きいは正義」といった見た目になっていく。本当はそれほどでもないけど,なんだか無闇やたらに強そう。
各アタッチメントは,対応したミッションを達成することでアンロックされ,購入可能になるので,武器をゴツくしたければ,どんどんミッションをクリアしよう。
マップにはファークライ3と同様,野生生物が多数生息している。そのほとんどはファークライ3に登場した生物のテクスチャを若干変更したものだが,新規に追加された生物もおり,それがドラゴンだ。本作のタイトルもこいつらに由来するのではないかと思うが,ともあれドラゴンはいたるところに生息しており,プレイヤーキャラクターを見かけるとすぐに攻撃を仕掛けてくるという,獰猛なヤツらだ。
ただし,敵兵士から奪える(というか,もぎ取れる)CYBER-HEARTというアイテム(心臓だ)をまっしぐらに追いかける性質があるため,これを敵の拠点などに投げ込むことで,ドラゴンに敵を攻撃させることが可能になる。つまり,ドラゴンをうまく使うことで,自分の手を汚さずに敵に大きな被害を与えられるのだ。
Blood Dragonでも,広大なフィールドを移動するのにクルマやハンググライダーを利用できる。ファークライ3の場合,雄大な景色をバックに大空を舞うハンググライダーはかなり爽快だったのだが,本作では空気がよどんでいるので眺めはあまり良くない。しかも,移動距離も短めで,操作の難度は少し上がっている。でも,やっぱり空を飛ぶのは気持ちが良く,見つけるとつい利用して,木にひっかかったりしている。
こうした武器や,ドラゴン,移動手段を使って,ミッションに挑戦していくことになるわけだ。メインミッションだけをプレイすると,4〜5時間で終わるボリュームだが,ビデオテープや武器のパーツといったコレクション要素に加え,サイドミッションも豊富に用意されているため,これらすべてに挑めば,かなりの時間楽しめるだろう。
登場人物もなかなかユニークで,筆者のお気に入りはゲーム序盤から登場してプレイヤーをサポートする仲間,SPIDERだ。彼は腕の立つ兵士であるだけでなく,ハッキングも得意なキャラクター。見た目は「モータルコンバット」に登場したスコーピオンやサブゼロに似ているが,注目すべきは額に巻いたハチマキで,そこにはなぜか「人の愛」と書かれている。
サイバーパンク系の映画などによく登場する「謎の日本語」の伝統を,意図的にか偶然にか受け継いでおり,思わずニヤついてしまった。日本人ならではのお楽しみではないかと思う,人の愛。
1980年台のレトロなゲーム風味を前面に押し出した本作。全体を覆うバカバカしさと,ファークライ3で高い評価を受けたゲームシステムが相まって,実に楽しい世界を作り出すことに成功している。正直,プレイする前は「値段相応でしょ」と油断していたが,上記のように,サイドミッションやコレクションもこなしていくと十分なボリュームがあり,思わず熱中してしまった。
日本語版は用意されていないので,少々ハードルは高いかもしれないが,ファークライ3のプレイヤーで,この風変わりな世界観を「アリ」と思える人,あるいは荒廃したサイバーパンクっぽい世界を楽しみたいという人にはオススメできるゲームだ。
「Far Cry 3 Blood Dragon」英語公式サイト
Amazon.co.jp「Far Cry 3 Blood Dragon」ページ
- 関連タイトル:
Far Cry 3 Blood Dragon
- この記事のURL:
キーワード
(C) 2013 Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved. Far Cry, Ubisoft, and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the US and/or other countries. Based on Crytek’s original Far Cry directed by Cevat Yerli. Powered by Crytek’s technology “CryEngine.”