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[GDC 2019]「The Elder Scrolls Online」におけるキーアート制作講座:ゲームの魅力を伝える「キーアート」には何が必要か?
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印刷2019/03/23 17:02

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[GDC 2019]「The Elder Scrolls Online」におけるキーアート制作講座:ゲームの魅力を伝える「キーアート」には何が必要か?

 ゲームのイメージを伝えるイメージイラスト(キーアート)は,単にゲームに登場する要素を散りばめただけの美しいイラストでは不十分だ。ゲームファンの想像力をかき立てて,「このゲームをプレイしたい」と思わせるものでなくてはならない。
 GDC 2019の4日めとなる北米時間2019年3月21日,MMORPG「The Elder Scrolls Online」PC / PS4 / Xbox One / Mac,以下 ESO)におけるキーアートをテーマにしたセッション「Illustrating Tamriel: Creating Key Art for 'The Elder Scrolls Online'」が開催された。

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Lucas Slominski氏(Senior Concept Artist, ZeniMax Online Studios)
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 このセッションでは,ESOのDLCや拡張パックのプロモーションで使われたキーアートがどのようなプロセスで制作されてきたのかを,開発元であるZeniMax Online Studios(以下,ZOS)のシニアコンセプトアーティストであるLucas Slominski(ルーカス・スロミンスキー)氏が説明した。ゲームの魅力を伝えるイラストの数々が,どのようなプロセスとルールで作られてきたのか。Slominski氏が公開した多数の画像と合わせて紹介しよう。

ESOがリリース後,無料で追加されたマップ「Craglorn」(クラグローン)におけるキーアート。2組の冒険者が出会った場面だろうか。中央の2人は手を取り合おうとしているように見えるが,周囲の仲間は武器から手を離さず,緊張した様子がうかがえる。その背後には,満天の星空と2つの月,そしてCraglorn中央にそびえ立つ岩の塔「Spellscar」が描かれている。星座をテーマにした連続クエストの舞台らしい絵とも言えよう
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MMORPGの拡張パックを宣伝するために,キーアートに求められる要素


 Slominski氏によると,ESOのキーアートは通常,計画段階のリサーチやスケッチなどで2〜3週間,線画によるラフからコンセプトを固めていって最終的なキーアートが完成するまで6週間と,計8〜9週間ほどの時間をかけて制作しているという。

キーアートのおおまかな制作プロセスと,作業に要する時間
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 ずいぶんと時間をかけるように思えるかもしれないが,キーアートに必要な要素は,パブリシャとゲームスタジオが考えたうえで,それを外部のイラストレーターに発注して作業を進める必要があるため,相応に時間を要するようだ。

キーアート制作に関わる人(ステークスホルダー)の一覧。ゲームスタジオのディレクターやブランドのマネージャー,世界観やストーリーの取りまとめを行うLore Master(ロアマスター)のほか,Webやコミュニティのチームなども参加して,キーアートのベースを作り出す
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DLCやチャプターのキーアートに求められる要素
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 ZOSはESOで,新しいフィールドマップやダンジョンなどを追加する小規模な拡張パック「DLC」を年数回,広いフィールドマップと長時間のプレイを必要とする連続クエストを中心とする大規模拡張パック「チャプター」を年に1回程度リリースするというサイクルを続けている。
 キーアートはDLCやチャプターをゲーマーに紹介する重要な宣伝素材であるため,必ず盛り込まなくてはならない要素というのが,あらかじめ決まっているという。

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 まずキーアートは,新DLCやチャプターで盛り込まれる要素に焦点を当て,魅力的な物語や新しい冒険が用意されていることをゲーマーにアピールすることで,ゲーマーの興奮や期待をかき立てるものでなくてはならない。とくにSlominski氏は,キーアート制作においてすべきこと(あるいはしてはいけないこと)を3点挙げた。

  • The Mandate(命令,指示の意):キーアートには必ずプレイヤーキャラクター(以下,PC)の姿を含むこと
  • The Blackball:ハリウッド映画のポスターで頻繁に使われている“アートの中心に,主人公が視聴者に背を向けたシルエットで立っている”絵は使わないこと
  • The Chimera:宣伝すべき複数の要素を盛り込むこと

Slominski氏がBlackballの例として示した映画のポスター。あまりに同じようなモチーフのポスターが氾濫しているので,米国でも呆れられていると,筆者も聞いたことがある
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 とくにPCの姿を含むというのは,MMORPGのキーアートにとっては重要なポイントであるという。Slominski氏は,2018年5月に発売となったESOの大規模拡張パック「Summerset」(サマーセット)において,キーアート制作の初期段階で作られた2枚のラフをスライドで示した。
 左のラフは,Summersetを支配するハイエルフの要人や衛兵の前で,連行されそうな人物たちが慈悲を求めているようなイラストだ。これはこれでドラマチックなシーンと言えなくもないが,ここにはPCの姿がないのでキーアートの目的にそぐわないとしてボツになっている。
 一方,右のラフは,Summersetの港で働くハイエルフたちが見守るなか,船で到着した人々が降りてくる場面を描いたものだ。新しい冒険の舞台に到着したPCを描いているので,キーアートの目的に沿っているのは右のほうであると,Slominski氏は説明していた。

2枚のラフを提示して,「どちらがキーアートとして適切だと思うか」とSlominski氏は聴衆に問いかけた。正解は右だ
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 Slominski氏は,DLCの「Horns of the Reach」(リーチの双角)における事例も挙げた。次に示すラフは,DLCに登場するミノタウロスのボスキャラと,リーチの民が行う邪悪な儀式を描いたものだが,ここにはPCがいない。

ミノタウロスのボスとリーチの民による儀式という要素で描かれたラフ
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 そこで,ラフで描かれた要素の手前側にPCを2人,ミノタウロスの右にも1人を配置したのが,以下に示す完成したキーアートだ。新DLCで描かれる冒険や倒すべき強敵と,それに立ち向かうPCの姿という必要な要素が盛り込まれているのが分かるだろう。

完成したキーアート。忌まわしい儀式と強敵の姿を見つけて血気にはやる左の戦士と,それを静止するソーサラーが描かれている。洞窟の奥には,弓を構えて奇襲を仕掛けようとしている人物の姿も見える。PCたちの着ている防具は,ゲーム中に登場するものだ
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 ところが,このキーアートを使った宣伝素材の1つでは,画像がトリミングされて肝心のPCたちが消えてしまうという珍事も発生したそうで,関係者間における認識の統一という点では課題もあるとSlominski氏は会場の笑いを誘っていた。

キーアートを使った宣伝素材で,肝心のPCたちがトリミングで消えてしまうという珍事が発生したという
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キーアートが完成するまでのプロセスを紹介


 キーアートに必要な要素を紹介したうえでSlominski氏は,豊富なラフや制作途中の絵を示しながら,より細かい説明を行った。

 次に示すラフは,Summersetのキーアートにおける初期段階のラフだ。Summersetでは,Elder Scrollsシリーズの世界であるTamriel(タムリエル)から姿を消していた魔術師の秘密結社「Psijic Order」(サイジック会)が登場し,重要な役割を担う。このラフは,サイジック会の魔術師たちが,Summersetに迫る脅威を前に議論を交わしている場面を描いているものだ。
 ラフの上側,赤丸で囲まれた部分には,Summersetの連続クエストにおける舞台の1つである「Crystal Tower」(水晶の塔)も描かれている。

初期段階のラフ。サイジック会がSummersetに迫る脅威を論じている
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 しかし,このラフにはPCの姿がないので,これではキーアートとして不十分だ。次に掲載する線画は,ラフの要素を土台としながら,PCの姿を加えたものとなる。
 魔術師たちの前には,Summmersetの様子が立体映像のように表示されており,そこに覆い被さるフードの人物――フードの背中にクモの脚のようなものがあるので,デイドラ公「メファーラ」であることが想像できる――を描くことで,迫る脅威に立ち向かうため,冒険者たちとサイジック会が協力しようとしていることが見てとれるわけだ。

キーアートの法則に従って描かれた線画
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 この線画をもとに,完成品に盛り込む要素を描き加えたのが次の線画である。要素を足すだけでなく,線画の左端にいたPCを省くことで,要素を絵の中心に集中するように修正を加えたのだ。端に近すぎる人物は,キーアートがトリミングされたときに消えてしまう可能性があることも考慮したのだろう。

クリーンナップされた線画。人物の服装や持ち物が描かれた
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 3枚めの線画をもとにした完成品のキーアートを次に示そう。薄暗い部屋の中で青白い輝きを放つ水晶球のような映像と,それを囲む魔術師やPCたちにより,キーアートに必要な要素が無理なく盛り込まれているのが分かるだろう。
 ちなみに,左端で膝をついているレッドガードの男性が手にしている剣は,「The Elder Scrolls V Skyrim」で登場したアーティファクト「Dawnbreaker」(ドーンブレイカー)だ。目ざといElder Scrollsファンなら,「あのDawnbreakerが出てくる」というだけでも,ワクワクしてくることだろう。ファンの期待を高めるというキーアートの目的に沿った要素というわけだ。

完成したキーアート
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 ESOにおけるキーアートは,それ1枚で1つの物語を提示するものでもある。Slominski氏は,DLCの「Dragon Bones」におけるキーアートを用いて,それを説明する。
 Dragon Bonesでは,名前のとおり死霊術で蘇った骨のドラゴンがボスキャラとして登場するので,それをベースにしたストーリーをキーアートの土台としたという。具体的には,

  1. 死霊術師が呪文を唱える
  2. PCが死霊術師に忍び寄る
  3. ドラゴンの頭蓋骨で目の部分が光り始める
  4. PCが目の光りに気付く
  5. 骨のドラゴンが目覚め,PCたちは戦闘に突入する

 といった流れの話だ。

キーアートのストーリー(左)と,登場する人物,敵,描くべき要素(右)を示したスライド
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 このストーリーをベースにした初期のラフでは,横たわるドラゴンの骨を前にして,死霊術師が呪文を唱えており,忍び寄った3人のPCが描かれている。このラフを見た人の視線は,中央の死霊術師から,手前にいるPCへと注がれていくという。

初期段階のラフ。骨のドラゴン,呪文を唱える死霊術師,忍び寄るPCと異変に気付いたPCという要素が揃っている
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 次のラフは,もう少しアイデアを盛り込んだ状態のものだ。遺跡のようなものの前に,数人のPCがおり,左の1人は死霊術師を捕まえて剣で脅しつけている。しかし,死霊術師の杖は魔法の光を放っており,骨のドラゴンがすでに操られている様子がうかがえるわけだ。しかし,なんとなくPCたちはヒーローと言うよりも,傍若無人な盗賊の類に見えなくもない。

別のラフ。PCたちは死霊術師を制圧しつつあるが,骨のドラゴンが蘇っていることに気付いていないようだ
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 2枚めのラフをもとに,欠けていた要素を盛り込んだ3枚めのラフを見てみよう。遺跡の上で死霊術師が呪文を唱えており,PCのうち3人がそれに対峙しようとしている。しかし,横たわるドラゴンの頭蓋では,死霊術師の杖と同じ赤い光が点っていて,それに気付いたPCの1人が,仲間に呼びかけようとしている様子が見てとれよう。
 いかにも,激しい戦いが起こる寸前といった緊張感溢れる絵だ。

3枚めのラフ。2枚めをベースに,欠けていた要素を盛り込んだ
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 4枚めのラフは,3枚めから遺跡部分を省略して,ドラゴンが今まさに起き上がったシーンを描いたものとなる。PCたちは死霊術師に注目しているが,異変に気付いた者もいるといったところだ。4枚めのラフを土台にして,完成品に近づける作業が進められた。

起き上がったドラゴンを背景に,PCたちが死霊術師を取り囲むというラフ。死霊術師の右手にある光と同じものが,ドラゴンの眼窩にもある
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 4枚めをブラッシュアップして,要素を追加したのが5枚めの画像だ。PCたちの何人かは,死霊術師が操るスケルトンと戦っていて,手前にいる1人は死霊術師に向かおうとしている。しかし,死霊術師の左手と杖には光がともり,右端にいるPCは,背後で起き上がったドラゴンに気付くといった具合に,1つの戦闘から次の戦闘につながる一瞬を切り取ったような絵となっている。
 キーアートの構図は,ほぼこれで固まった。

構図を固めた5枚めの画像。スケルトンを蹴散らして死霊術師に迫るPCたちだが,背後に現れたドラゴンには1人しか気付いていない
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 さて,次はPCたちに配役を行うのだが,このキーアートには,いくつか細かい配役ルールがあったと,Slominski氏は説明する。

  • 9種類の種族,男性と女性を描き分ける
  • 拡張パックのストーリーに即する役柄や装備にする
  • PCの1人は獣人種族(カジートかアルゴニアン)にする
  • 現実世界と同様に,なるべく多くの種族を盛り込む

 同様の配役ルールは,DLCの1つ「Thieves Guild」におけるキーアート制作でも使われた。Thieves Guildは,肌の黒い種族であるレッドガードが住むHammerfellの南部を舞台としている。何かを盗んだ盗賊のPCが,衛兵に追われながら街中を逃走しているというキーアートのコンセプトは決まったものの,PCの配役には悩んだらしい。
 一時期は,盗賊のPCもレッドガードにしようという案もあったが,盗賊も衛兵も,街の人々もレッドガードばかりでは,多様な種族を描くという配役ルールにそぐわなくなる。そこで最終的には,獣人であるカジートが盗賊役となったそうだ。

Thieves Guildにおけるキーアートのラフ(左)。盗賊役のPCに3種類の種族を割り当てて比較検討を行った。右はレッドガードを盗賊役にした画像だ。しかし,これでは種族的多様性を描けていない
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完成したキーアートでは,盗賊役に虎縞のカジートが割り当てられた。登場人物がレッドガードだけの場合よりも多彩になるだけでなく,カジートのPCがなぜレッドガードの街で盗賊をしているのかといった物語まで感じさせる
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 話をDragon Bonesのキーアートに戻そう。種族や性別の多様性を盛り込んで,配役は次に示したスライドのように決まった。死霊術師を含む4人が男性で,2人が女性。PCの1人はカジートで,それ以外のPCもすべて種族が異なる配役となっている。

配役を示したスライド。種族的,性的多様性を盛り込んだ
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 こうして完成したキーアートが以下のものだ。左右を反転し,死霊術師は黒いローブをまとわせたという違いはあるものの,コンセプトや配役を盛り込んだドラマチックなシーンを描きだすのに成功していると言っていいだろう。

さゆうが反転しているが,さらに練り込まれた完成版キーアート
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 アート論のセッションかと思って参加したら,MMORPGのキーアートに何を盛り込むのかという制作プロセスの説明だったのには少々驚いた。だが,ESOというゲームの世界と拡張パックの魅力を伝えるために,どれだけ多くの要素が1枚のキーアートに盛り込まれているかということがよく伝わったセッションであった。
 次のチャプターである「Elsweyr」(エルスウェア)は,2019年5月20日から先行スタートするとのこと(関連記事)なので,今後も魅力的なキーアートの数々が登場してくることだろう。

Elsweyrのキーアート。カジートの故郷であるエルスウェアでは,ドラゴンとの戦いが待っている
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