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[CEDEC 2013]「機動戦士ガンダム バトルオペレーション」におけるF2P導入が紹介されたセッションをレポート
セッションには,本作を開発するB.B.スタジオのCS開発部 ディレクター・プランナーチームの神戸秋義氏と,同じくB.B.スタジオのCS開発部 プログラムチームの近藤亮治氏,そして運営を担当するバンダイナムコゲームスの第2事業本部 第1ディビジョン 第1プロダクション1課の桑原 顕氏の3人が登壇した。
セッションの詳しい内容紹介に入る前に,ここで「バトオペ」がどういうゲームであるかのおさらいをしておこう。
本作はアニメ「機動戦士ガンダム」の世界を舞台に,チームを組んで戦うという多人数対戦型のアクションゲームで,ガンダムをはじめとする「モビルスーツ」の激突が大きな魅力となっている。
コンシューマ機向けタイトルとしては珍しいFree to Play(基本プレイ無料+アイテム課金制。以下,F2P)を採用しているのも大きな特徴だ。配信後1週間で35万ダウンロード,2013年8月時点では90万ダウンロードを記録するなど,高い人気を誇っている。
F2Pとはいっても,ガチャなどによる強力なモビルスーツの直接販売などは行われておらず,課金で強くなるのは難しい仕組みが取り入れられている。
主な課金要素はゲームをプレイするために必要な「出撃エネルギー」だが,これは2時間ごとに1ポイントずつ回復していくようにもなっている。
無料でもプレイできるが,すぐに遊びたい人は課金すればいい,というシステムが取り入れられているわけだ。
当初はパッケージゲームだった「バトオペ」
それではセッションの内容に移ろう。まずは桑原氏によって,「バトオペ」の成り立ちが説明された。
本作は当初,通常のパッケージ販売型のソフトとして開発されていたが,α版が完成した頃に「このソフトをどうやって売っていくのか」という問題が浮上したという。そこで出されたさまざまなアイデアの中で,最も大胆だったのが「F2Pにする」だったそうだ。
F2Pというサービスモデルはコンシューマ機向けソフトとしては珍しい方式ではあったが,バンダイナムコゲームスがF2Pのサービスに注力しようと動き始めていたことに加え,配信開始から間もなかったソーシャルゲーム「ガンダムカードコレクション」の好調ぶりを見て,これがベストだとの確信を得たという。
「ゲームを遊ぶ時間」ではなく「遊べない時間」を短縮する,「バトオペ」の課金モデル
続いては神戸氏がバトオペの課金モデルを解説した。
「バトオペ」の課金モデルをひとことでいうと「強さを直接お金で買うことができない」スタイルだ。前述したように,強力なモビルスーツを課金で入手することができないため,強くなるにはゲームをしっかりと遊ぶ必要がある。課金要素は「自分の力で上達する」というアクションゲームの醍醐味を阻害しないような形にまとめられている。
こうしたスタイルはいきなり生まれたわけではない。コンシューマ機向けソフトとしては前例が少ないF2Pモデルを成功させるため,さまざまなビジネスモデルを参考にして,そこから「お金を使ったプレイヤーがほかの人から反感を買わない対人戦ゲームを作ろう」というコンセプトが生まれたという。
「バトオペ」の課金において特徴的なのは以下の点だ。
- 経験値などの獲得量をアップさせるブースター系アイテムは,同じチームのプレイヤーにも効果が及ぶようになっている
- 課金しないと使えないモビルスーツやマップが存在しない
- 強いモビルスーツを直接販売することはせず,一定レベル以上に強化する際のリミット解除にのみ課金が必要
対人戦は「平等な条件の下でプレイスキルを競い合う」のが理想であるため,F2Pと組み合わせるのには注意が必要だ。
F2Pはソフトが無料で提供されるため,運営サイドが収益を上げるためには課金アイテムを売ることが必要になる。
しかし,プレイヤー同士が腕前を競い合う対戦ゲームに,課金アイテムを使うほど強い,つまりお金で強さを買えるような状況を作り出してしまうと,不公平感が生まれ,課金プレイヤーが反感を買いやすくなってしまう。だからといって,課金アイテムに相応の価値がなければ,お金を払ってはもらえない。課金アイテムで収益を上げなければならないF2Pゲームとしては憂慮すべき状況だ。
この問題を解決できるのが,「短縮される時間」の質を意識した課金アイテムだ。経験値やお金が多く手に入ったり,レアアイテムが出やすくなったりするブースターや,強力な装備といった課金アイテムは,短時間で効率よくゲームを進められるようになるものだ。言い換えれば「ゲームを遊ぶ時間」を短縮しているということになる。
課金アイテムを使っていない人からすると,多くの時間を費やして頑張ったのと同じかそれ以上の成果を短時間で達成されてしまうことになるので,こうした課金は反感を買いやすい側面があると神戸氏は指摘した。
一方で,「バトオペ」に採用されている,プレイ回数を増やす課金アイテムは,「ゲームを遊べない時間を短縮する」ものだ。本作の「出撃エネルギー」は2時間に1ポイントずつ回復するが,これを使い切っても,課金アイテムがあれば待ち時間無しに遊べる。つまり,待ち時間という「頑張りようのない時間」を対象にした課金のため,反感が生まれにくく,「たくさん遊んだ人が強い」という対人戦の原則にも反せず,課金アイテムの価値も保たれるというわけだ。
こうした「バトオペ」のスタイルはプレイ回数に制限を持たせたものであるため,家庭用ゲーム機ユーザーにとっては馴染みが薄いという側面もある。そこでそこで「たくさん遊べば嬉しくなるご褒美を用意する」といった配慮もなされたという。
F2Pゲームにおいて,強さに直結しない課金アイテムとしては,アバター要素が選ばれることが多く,実際に「バトオペ」でも,サービス開始当初はモビルスーツのカラーリングやデカールを販売する計画があったそうだ。
しかし,アバター要素を課金アイテムとするよりは,たくさん遊んだご褒美とした方が良いのではないかという考えから,プレイすると無料で入手できる現在の形式になっているという。
実際のところ「バトオペ」の課金アイテムでは「出撃エネルギー」が一番売れており,中でもお得なまとめ買いタイプが好評だとのことだ。
皆がハッピーになれる課金アイテム
ここまでで「ゲームを遊ぶ時間」ではなく「遊べない時間」を短縮するのが「バトオペ」の課金モデルと説明されたわけだが,本作には,いわゆるブースター系課金アイテム,即ち「経験値」や「開発ポイント(本作におけるゲーム内マネー的なもの)」「設計図」といったものが多く手に入るアイテムも存在している。ただし,ここでも課金プレイヤーが反感を買わないような工夫がされているのだ。
こうしたブースター系課金アイテムへの反感が生まれるのは「買った人だけが得をする」からではないかと神戸氏は分析。そこで「バトオペ」のブースター系課金アイテムは,買った本人はもちろんのこと「チームが勝利した際はメンバーにも効果が及ぶ」というお裾分け仕様になっている。購入者は自分のために買ったアイテムでほかの人から感謝されるので「もう一度ブースターを買ってみよう」という気になり,チームにも「ブースター効果のために勝とう」というモチベーションが生まれているという。
課金ではなく,ゲームを遊んで強くなる
モビルスーツや装備を強化する課金アイテムも用意されているが,こちらにも対人戦ゲームとしてのバランスを崩さないような配慮がある。
モビルスーツの強化は,戦場で手に入る「設計図」を使って行なうのだが,レベル5以上に強化するための「リミット解除」に一度だけ課金が必要になる。「ゲームをあまり遊ばない人が,課金でいきなり高レベルのモビルスーツを手に入れる」ことは不可能で,強くなるにはゲームを遊んで腕を磨くしかない。「お金だけで解決できないからこそ,ほかの人が認めてくれるという喜びがある」と神戸氏は語る。
こうしたコンセプトはプレイヤーにも伝わっているようだ。昨年11月には「バトオペ」プレイヤーを対象としたインタビュー調査が行われたが,その際にプレイヤーに投げかけられた「すぐに強いモビルスーツが課金で手に入るシステムだったら?」という質問には,ほぼ全員が否定的な反応を示していたという。
神戸氏は「家庭用ゲーム機向けにF2Pゲームを作るという,不安を抱えながら投げたボールが,プレイヤーに届いたようで安心しました。本作の成功は『機動戦士ガンダム』というIPが持つパワーが大きく作用しているのは事実ですが,『ガンダムだから』というだけでは成し得なかったことが今回お話しした中に含まれていると思います」と話してセッションを締めくくった。
F2Pタイトルにおいて,ゲームの醍醐味を損なわないよう,いかに価値ある課金アイテムを販売するか……という問題には多くのクリエイターが頭を悩ませているが,そんな中,対人アクションゲームとF2Pモデルという困難な組み合わせを成功させた「バトオペ」は1つの参考例となるかもしれない。
「機動戦士ガンダム バトルオペレーション」公式サイト
CEDEC 2013まとめページ
- 関連タイトル:
機動戦士ガンダム バトルオペレーション
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