豪州時間2017年5月6日〜7日の2日間,オーストラリア・シドニーのQudos Bank Arenaにて,国際的なe-Sportsイベント「
Intel Extreme Masters」(以下,IEM)のシドニー大会が行われた。このイベントは,Intelが,世界各地でe-Sportsイベントを開催する企業「
Electronic Sports League」(以下,ESL)と組んで行うものだ。2007年にスタートしたイベントなので,今年で早くも11年めということになる。
会場のQudos Bank Arena。2000年に行われたシドニーオリンピックに合わせて作られたSydney Olympic Parkの一角にあり,最大収容人数は2万1000人にもなる大きなイベント会場だ
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IEMは,開催会場ごとに異なるゲームでのトーナメントを行うのが特徴で,シドニー大会の種目は,FPSの「
Counter-Strike: Global Offensive」(以下,CS:GO)のみ。予選を勝ち抜いた世界各地の4チームが,大観衆を前にCS:GOの腕前を競った。
そこで本稿では,イベント会場での展示と試合の様子を写真中心にレポートしたい。
近い将来,e-SportsイベントでVRゲームが戦われるように
イベント開幕前には,ESLのCEOである
Ralf Reichert氏と,Intelのゲーム分野担当マネージャーの
Frank Soqui氏,およびIntelのe-Sports分野担当マーケティングマネージャー
George Woo氏によるパネルディスカッションが行われた。
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 George Woo氏(eSports Marketing Manager,Intel) |
内容自体は,これまでの両社による取り組みを語るのが中心で,ややとりとめのない話が多かったのだが,そんな中でも興味深かったのは,両社ともVRゲームが遠くない将来には,e-Sports分野でも利用されるようになるだろうと考えていたことだ。
Soqui氏は,VR e-Sportsを実現するためには,VRヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)や高性能なVR対応PCの価格が高いことと,VR HMDがワイヤレス接続に対応していないことといった課題があることを示した。そのうえで,こうした問題も3〜4年後には解決しているだろうから,その頃にはVR e-Sportsが現実のものとなっているだろうと,楽観的に見ているということだ。
またSoqui氏は,Oculus VRがゲームデベロッパのInsomniac Gamesと組んで開発している「
The Unspoken」(以下,Unspoken)のような対戦型タイトルが登場しつつあること,さらにチームスポーツとしてプレイできるゲームタイトルの開発に取り組んでいることも挙げて,VR e-Sportsの実現に向けた動きが始まっているとアピールした。
一方,ESLのReichert氏は,e-SportsイベントをVRで観戦するというアイデアを持っていると述べている。イベント観戦に360度ビデオを利用する程度なら,通信帯域の問題さえクリアできればすぐにでも実現できそうだ。
会場ロビーのあちこちには,Intelがゲーム分野に向けたキャッチコピー「BE CORE STRONG」が掲げられていた。「Coreプロセッサは強いぜ!」といったところか
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話は変わるが,質疑応答で,「
AMDのRyzenがポピュラーになりつつあるようだけど,どう考えている?」といった質問が挙がった。それに対してSoqui氏は,「競合の存在は歓迎するよ」と述べたうえで,ゲームにおける性能は,CPUコア数や同時実行スレッド数,クロック周波数,グラフィックス,無線通信にVRとさまざまな要素が絡んでくるもので,それに対してベストなプロセッサを提供しているのはIntelであると,自信を示している。
また,PCのCPUだけでなく,クラウドを支えるデータセンター向け製品といったものも成長しているともSoqui氏は述べており,PC用CPUで有力な競合が登場しても,Intel全体として恐れることはないと見ているようだった。
展示ブースもVRがメイン
Unspokenを使った対戦イベントも実施
イベントの話に戻ろう。会場であるQudos Bank Arenaのロビーや展示コーナーには,各社のゲーマー向けPCを使ったゲームのデモ展示が多数行われていたのだが,中でもIntelが力を入れていたのが,VRゲームの展示である。
会場のロビーには,Oculus VRの「Rift」とモーションコントローラ「Touch」を組み合わせたゲームのデモ機が20台以上用意されており,来場者がいろいろなVRゲームを楽しめるようになっていた。VR HMD初体験という人も多かったようで,慣れないVRゲームで戸惑う人,両手に持ったTouchを振り回してノリノリで楽しむ人など,多くの来場者がVRゲームを楽しんだようだ。
会場ロビーの様子。試合開始1時間ほど前の光景だが,多くの来場者でごった返していた
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ゲームの展示は,Riftを使ったデモが多く(左),レース用コクピットとステアリングコントローラを使い,VR対応版「Project CARS」をプレイできるデモが好評だった(右)
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「Rock Band VR」を使ったデモ(左)は,ギター型コントローラの先端にTouchを取り付けて,ギターの動きまで取得できるようにしていた(右)
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展示ブースの一角では,パネルディスカッションでも言及のあったUnspokenを使ったVRトーナメントも行われた。なんと優勝者には,「
GeForce GTX 1080」を2-way SLI構成で搭載するPCが送られたようだ。正直うらやましい。
Unspokenの体験コーナー(左)。ルームスケールというほどではないが,動き回れるスペースが用意されていた。右写真は,Unspokenを使ったVRトーナメント会場で行われていた体験デモの様子だ。RiftやTouchに慣れていない人が大半で,どことなくおっかなびっくりプレイする人が多かったように思える
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Unspokenのゲーム画面。FPSタイプのゲームで,2人のプレイヤーが魔術をぶつけ合って戦う対戦型のゲームだ
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Unspokenの開発にはIntelも協力しており,Kaby Lake世代のCore i7プロセッサを使うと,エフェクトや環境の表現がリッチになるそうだ。もっとも,対戦中は見ている暇などないだろう
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Epic GamesのVR FPS「Robo Recall」をプレイしている来場者。ちょっとチュートリアルが分かりにくいのが難点で,まごついている人が多く見られたが,コツを掴むとなかなか楽しめるゲームだった
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そのほかにも,PCゲームメーカー大手やオーストラリアのローカルPCメーカーによるゲーマー向けPCの展示とデモやミニゲーム大会なども行われていた。トーナメント本番そっちのけで,対戦に興じている来場者も少なくなかったようだ。
MSIやASUSTeK Computer,AcerにHPなど,大手のゲーマー向けPCブランドも展示ブースを用意(左)。トーナメントの休憩時間ともなると,ごった返して展示が見えないほどだった。オーストラリアのPCメーカーによる展示もあった(右)
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展示ブースの一角では,IEMのトーナメントとはまったく別のゲーム大会も実施していた。筆者が立ち寄ったときは,「Rocket League」のトーナメントが行われていたようだ。会場で買った特売価格のPCパーツ一式を,現場で組み立てるというイベントも行われていた
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写真で見るIEMトーナメント準決勝および決勝
イベントのメインであるCS:GOのトーナメントは,5月3〜4日にかけて予選リーグを行い,6日に準決勝を2試合,7日に決勝戦である「Grand Final」を行うという進行で行われた。イベントでは,2万人以上が入れるアリーナの半分ほどを使っており,4フロア分ある観戦シートの多くが埋まっていた様子からすると,両日とも7000人程度は来場者がいたのではないだろうか。
トーナメントのメインステージ。巨大なスクリーンが3画面写っているが,実はこの上にも,上層階用のスクリーンが1画面あるという規模の大きなものだった
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1階席はほぼ満席,2階席もかなりの席が埋まっているほどの入りだ(左)。選手の見事なプレイには,惜しみない拍手が送られていた(右)
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観衆の喝采を浴びながら入場する2チームの選手たち
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筆者が観戦した準決勝第1試合は,優勝候補の呼び声も高いブラジルのプロチーム「SK Gaming」と,米国のプロチーム「OpTic Gaming」が対戦するものだ。3マッチ中2マッチを制したチームが勝者となるのだが,ここまで1マッチも落としたことがないSK Gamingが終始優勢で,簡単に2マッチを取って決勝進出を決めていた。
「SK Gamingはめちゃくちゃ強いから,この分だと,決勝もすぐに終わりそうだね」なんて会話を,日本からの来場者としていたほど,その強さは際だっていた印象だ。
3戦全勝で準決勝に駒を進めたブラジルのSK Gaming(左)。対する米国のOpTic Gamingは,3勝2敗で勝ち上がったチームだ(右)
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試合中は厳しい表情見せる両チームの選手たち
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内容的にはSK Gamingの圧勝といったところ。とにかく射撃の精度が高いうえ,相手の動きを的確に読んで,確実に倒していった
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前日の準決勝よりも観客の増えた決勝戦
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翌7日に行われた決勝は,全勝での決勝進出で波に乗るSK Gamingに,予選は3勝2敗,準決勝は2勝1敗で勝ち抜けた欧州拠点のプロチーム「FaZe Clan」(以下,FaZe)が挑むという形で行われた。最大5マッチが行われ,3マッチ先取したチームが優勝だ。1マッチで最大30ゲームを行うので,要する時間はおよそ1時間。最大の5マッチを戦うとしたら,5時間にも及ぶ戦いになる。
Grand Finalに進んだ2チーム。SK GamingのKill数が少ないのは,勝ち続けたため,対戦回数が少なかった証拠だ
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対戦前に円陣を組んで気合いを入れるFaZeの選手たち
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SK Gamingの強さはここでも変わらず,あっけなく2マッチを先取して大手をかける展開に。すると,このまま全勝で終わられては面白くないとでもいうのか,3マッチめ以降は観衆がFaZeに声援を送り始めたのだ。
その声援を受けてか,3マッチめはFaZeが先行して勝ちを積み重ねて,途中でSK Gamingに追いつかれるものの,それを振り切って勝利。ついにSK Gamingに土を付けることに成功した。こうなると観客も大盛り上がりである。
対戦中の中継画面。これは観戦モードで,各選手の姿が透けて見え,マップにも位置がリアルタイムで表示されるというもので,各人の動きがよく分かる。もちろん選手の画面には,これらは表示されない
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勝っても負けてもリアクションの少ないFaZeの選手たちだったが,ゲームが白熱し,観客の声援が集まるようになると,ガッツポーズを見せたり,選手やコーチが拳を合わせたりするように(左)。SK Gamingの選手たちは,勝つたびに拳を合わせて勝利をたたえ合っていたものの,終始冷静といった様子だった(右)
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勝敗が付くたびに,興奮した観客が立ち上がって大声援。FaZeに向けた声援のほうが大きかったものの,SK Gamingの好プレイにも拍手が贈られた
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4マッチめになると,観客もヒートアップ。SK Gamingの好プレイにも大歓声が贈られるのだが,FaZeが勝つとそれ以上に大きな歓声が上がり,立ち上がって拍手を贈る様子も見られた。
FaZeはここでも食い下がり,一時は勝利数で並んだりしたものの,SK Gamingとの実力差はいかんともし難いところ。最終的にはSK Gamingが4マッチめを制して,IEMシドニー大会の優勝を飾り,優勝賞金20万米ドルを勝ち取った。豪州のチームは準決勝に進出できなかったものの,大観衆は選手たちに惜しみない拍手を贈って,両者の健闘を称えていたのが印象的だ。
追いすがるFaZeを振り切って,SK Gamingがついに優勝した
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決着が付いた瞬間。立ち上がって抱き合うSK Gamingの選手とコーチたち(左)。右写真は,優勝のトロフィーを手にインタビューを受けるチームリーダーのGabriel "FalleN" Toledo氏(写真左側)
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大盛り上がりの決勝を見ていて,筆者は,「こんなに大人数が来場して盛り上がるe-Sportsイベントがうらやましい。日本でも見てみたいな」と率直に思った。どんなタイトルで戦うかはともかく,日本でもIEMくらい大規模で盛り上がるe-Sportsイベントの数が増えてほしいものである。