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[TGS 2011]これからのソーシャルゲームとは。パネルディスカッション「経営から見るソーシャルゲームのインパクト」レポート
新しい市場としてのソーシャルゲーム
コナミデジタルエンターテイメント執行役員 上原和彦氏 |
これに対し上原氏は,「今までのビジネススタイルに,新しいビジネスの市場がプラスされたというイメージ。新しい市場ができたので,そこに新しいコンテンツを提供する」と語った。KONAMIのソーシャルコンテンツに登録したユーザー数はこの1年で1000万人を超えており,この成長速度は驚異的の一言に尽きる。
経営的に見ると,「KONAMIはさまざまな事業を展開している。アミューズメント時代,ファミコン時代,高性能機の時代,ハンドヘルドの時代,といった節目があって,いま新しい節目が来たという形でコンセンサスがとれている」と述べ,またユーザー層に関しても「年齢層は変わっていない。より楽しんでいただいている層は,リテラシーの高い20代〜30代」と指摘した。
セガモバイルニューメディア事業部MNM2部長 岩城農氏 |
また,グロウエン氏は従来のゲームとソーシャルゲームの違いについて以下のように語った。「サービスモデルにシフトしているし,配信の方法も変わった」とし,「新しい広大なマーケットが存在し,また流通から見ても小売店の棚を争う必要はなくなった」。アメリカではソーシャルゲームユーザーの平均年齢が40代であるという点についても,「ユーザーベースは多岐にわたっており,ゲームによって異なる。また1つのゲームが世界中で遊ばれているケースもある」「より多くのユーザーにアプローチできているのがソーシャルゲームの特徴で,30代のユーザーでも男女比が1:1になっている」とした。
Electronic Arts Interactive (Playfish) Japan ジェネラルマネージャー アラ・マック・グロウエン氏 |
グリー 代表取締役社長 田中良和氏 |
コンシューマゲームとソーシャルゲームの違い
また売り上げが逆転したことにより,KONAMIはコンシューマから撤退してソーシャルゲームに移行するといった誤解があるが,氏は「コンシューマゲームには年間を通じ売れる時期がある。たまたま第1四半期で逆転したが,売れるタイトルはしっかり売れている」と述べた。
「しばしばコンシューマゲームとソーシャルゲームは食い合っていると言われるが,食い合っているのではなく市場全体が広がっているというイメージがある」というのが上原氏の見解だ。
また岩城氏は,ソーシャルゲームとコンシューマゲームの,開発におけるスピード感の差について,「ソーシャルゲームでは意思決定をいかに早めるかを重視し,制作チームはコンシューマとは比較にもならないくらい小規模」であると語る。また決定的な違いとして,「ソーシャルゲームでは1日の中のどの時間に,どれくらいの売り上げを上げるかというところを目標に立てて,運営を回していく」と述べ,「サービスと考えて作るのか,コンテンツと考えて作るのか。サービスとコンテンツは両極ではないにしても,セガのようなレガシーカンパニーにとってはサービスを意識してやっていく必要がある」と補足した。
グロウエン氏は,世界市場を相手にサービスしていくチームに必要とされるものとして,「小さいチームで始めて,徐々に規模を大きくするようにしている。ノウハウの継承が可能な形での拡大が大事だ」と語る。また「ソーシャルゲームは商品からサービス指向へと変化しているが,この2つは異なるモデル」であることを指摘する。
一方,これからの課題として「データが蓄積されるのは良いことだが,古いデータをどうするか,またデータの規模が大きくなったときの扱いの難しさといった問題がある」と語った。
日本のソーシャルゲームの海外展開
さて,世界市場という点については,「フィーチャーフォン向けのゲームをスマートフォンにほぼそのまま移植してもダメだ」と言われていたが,日本では問題なかった。これは世界でも同じなのだろうか。
この問いについて,田中氏は「半分はそうだと思う。FacebookのゲームもHTMLとFlashのゲームなので,意外と静的だ」と言いつつも,「ゲームは文化でもある。どういうゲームを遊んできたかという経験が,ユーザーの体験の中で1つの文脈となり,それがUIになる。日本ではフィーチャーフォンをベースにしたUIが文脈として存在したが,海外にはそれは存在しない。そこに障壁がある」ことを指摘する。しかし全体的な見通しとしては,「その障壁を乗り越えれば,海外でも通用するだろう」と語る。
また海外展開という点では,OpenFeintの買収が大きなトピックだ。
これに関しては,「ソーシャルゲームにおいて一番重要なのは多くのユーザーに使ってもらうということ。ゲームそのものが面白いことも重要だが,共有されていることが重要」「OpenFeintは海外で多くのユーザーに使われているので,この点において大きな価値がある」と田中氏は述べた。
同様に海外展開において問題とされるのは,日本のソーシャルゲームの課金率の高さだ。この課金率を維持できるかどうかが海外展開におけるハードルになるのではないかという懸念は,しばしば口にされる。
田中氏は,「日本のソーシャルゲームの課金率が高いのは,ゲームデザインが洗練されたから。多くの人がより長く,より楽しく遊ぶようになった結果,課金率の向上としてそれが反映された。事実,2年前まではGREEのソーシャルゲームも収益性は悪く,改良の結果現在の課金率に至っている」と指摘し,海外でも課金率を高めていくことはできると語った。実際,プラットフォームは違うがFacebookではFacebook Credit導入後,課金率が上昇しているという報告もあり,海外だから課金率が低いという図式はFacebookでも通用しなくなりつつある。
海外展開での課題について,上原氏は別の面に論及する。「フックの部分がやはり問題になる。最初の掴みに差がある」という氏の言葉は,日本における「洋ゲー」に対する一般的な反応の鏡面と言えるだろう。しかし氏は「とはいえKONAMIは世界的に成功したコンシューマタイトルをいくつも持っている。そのノウハウが活かせるなら道は開けているし,多少の差があるならそれを経験として積み上げていく」と,ゲーム制作の老舗ならではのアドバンテージを示した。こういった既存IPの利用については,グロウエン氏と岩城氏も同じ見解を示している。
また上原氏は,「なんだかんだで中身。中身が面白ければユーザーはついてきてくれるし,それは日本であっても世界であっても変わらない。日本発のコンテンツで,世界と勝負したい」と語る。岩城氏はこれに加え,「ローカライズ,カルチャライズは重要になるだろう。SNSそのものにもその傾向は見て取れる」と補足した。
世界に進出するプラットフォームに求められること
グロウエン氏は「難しい問題だ」としながらも,「第一に,世界的な組織を作るだけの資金が欠かせない。第二に,ソーシャルゲームは地域ごとに異なるサービスを行なっており,世界の各地域で個別にサービスを提供できるようになっていなくてはならない。そしてまた,それらは個別でありながらも,つながっている必要がある」ことを指摘する。
そしてまさにいま世界展開を目指すGREEの田中氏は,「今のサービスを,全世界で今のまま再現する」ことを目指していると語る。だが「これが非常に難しい」と氏は続けた。「GREEを運営するために日本国内でも何百人が必要になる。これが全世界ということになると,今の何倍ものスタッフが求められる」というのは,単純な算数であり,覆せない事実だ。
氏は,「現状,世界的なプラットフォームとしては,コンシューマゲーム機を別にすると,FacebookとTwitterくらいしかない」と言う。「しかし,プラットフォームが1つで済むということは考えられない。そこに参入のチャンスがある」。
一方,このようにソーシャルゲームの市場が拡大し,また成熟するにつれ,ソーシャルゲームの開発費は順調に上昇している。
この点について田中氏は,「スマートフォン自体もどんどん高性能になるし,それに伴ってソーシャルゲームの開発費も高騰していくのは間違いない」と認めた。しかし,「ソーシャルゲームの面白さの本質は見た目ではなく,ユーザー間のインタラクションにある。コストをかけていくにしても,見た目に全部その予算を投じるのではなく,バックエンド,サーバやデータベース,あるいはゲームデザインもより重視されなくてはならない」と語る。
「将来的には,ユーザーのインタラクションのアルゴリズムを練り上げるのがゲームデザインになっていくだろう。見えないところのデータ作りこそがゲーム作りになっていく」というのは,氏ならではのビジョンと言えるのではないだろうか。
ソーシャルゲームという時代の変化
上原氏は,今が「節目の時代」であることを再確認する。そして「この節目は,インターネット環境の変化などを前提とし,必然として生まれた」と推測する。「しかし,我々が培ってきたものは活きると思う。どんな時代になろうとも,情熱を持ってものを作り,サービスしていけば世界を取れると思う」という氏の言葉からは,ソーシャルゲーム時代にキャッチアップした確信が感じられる。
岩城氏は,「ゲーム環境がモバイルに移行していく。いつでも,どこでも,それぞれの遊び方で遊べる。ユーザーの遊び方,ゲームの捉え方も独自になっていっている」と分析する。そのうえで,「その変化するニーズを満たすことが重要になってくるし,それは作り手にとって表現の幅を広げることにもなる。面白い時代になった」と語るとともに,「ソーシャルビジネスのなかで,最初にゲームが成功したというのは,ゲームのポテンシャルを示していると思う」と,ゲームの持つ力に対する自信を見せた。
グロウエン氏は,「素晴らしい革命が起きてきた」と述べ,「初めてソーシャルゲームに取り組んだとき『これはいったいどうなるのか』と思ったし,『こんなものをゲームと呼ばないでくれ』と言う人もいた。しかし今,ソーシャルゲームには世界的に勢いがある。みんながゲームを通じて1つになっている。ゲームは社交の場となっている」と語った。
GREEのこれから
田中氏は「インターネットには,ホームページの時代があり,メーリングリストがあり,メールマガジンになり,ブログ,SNS,Twitterと移ってきた」「だが,やってきたことはテキストを作って友人に見せるということだ」「テキストを作って見せる,その方式が変わるたびに,インターネットはより大きなコミュニケーション,プラットフォームに生まれ変わっている」と言う――「そして今,ゲーム業界とソーシャルコミュニティ業界が合体して,ソーシャルゲーム業界ができている」
「そういった意味で,かつてメルマガと呼ばれていたものが今ではしばしばTwitterで代用されるように,ソーシャルゲームという名前が3年後や5年後に残っているかどうかは分からない。けれど名前が変わったとしても,コミュニケーションが増大するという方向は強くなっていく。
今後も,もっと革命的なコミュニケーションサービスが生まれてくるだろう。ソーシャルゲームもまた,形を変えながら,しかし本質的にはゲームとコミュニケーションの融合というテーマを追い求めて,もっともっと変化していくし,それに伴い規模も大きくなる」という田中氏の視点は,ソーシャルゲームをも1つの通過点としてみているようだ。そして,「未来を待っているのではなく,未来を実現させていく側に回っていきたい」。そう田中氏は語る。
だが氏は「現状,コンピューティング・プラットフォームは携帯も家電も全部違うが,これは今後5年から10年の間に統合されるだろう。これが次の大きな革命になる」と述べ,「この革命のなかで求められるサービスは何か,その中でゲームビジネスはどう変わるべきかというのが重要なポイントになる」とした。
最後に田中氏は,「家庭用ゲーム機を買える人は,地球上で5億人から10億人程度だったのではないか。しかし,スマートフォンでゲームが遊べることで,20億人,30億人がゲームを楽しめるようになる」と指摘する。
「スマートフォンでのゲームが現れなければ,地球上でコンピューターゲームを知らないまま死んでいった人が10億人,20億人といただろう。それがいま革命的に変化しようとしている。
この規模の人の人生を変えるチャンスに携われるなどというのは,滅多にないことだ。僕自身はゲーム業界だけの人間ではなく,インターネット業界の人間でもあるが,ゲーム業界の革命に参加して,ゲームを人類の一部の人の楽しみから,人類すべての人の楽しみに変化させていきたい」と語り,ディスカッションを締めた。
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