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[CEDEC 2013]企画書がボツになるのは発想法が理由。ギミックでなく大枠から組み立てる,その極意とは?
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印刷2013/08/26 16:21

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[CEDEC 2013]企画書がボツになるのは発想法が理由。ギミックでなく大枠から組み立てる,その極意とは?

セガ 第一研究開発本部 戦略企画室 ディレクター 平魯隆導氏
画像集#001のサムネイル/[CEDEC 2013]企画書がボツになるのは発想法が理由。ギミックでなく大枠から組み立てる,その極意とは?
 2013年8月23日,神奈川のパシフィコ横浜で行われたCEDEC 2013では,「勝つべくして勝つための企画書作成テクニック 〜百戦錬磨の企画マンになるために〜」という講演が行われた。
 テーマは企画の発想法から後輩の指導まで,ゲームクリエイター志望の人だけでなく,ゲーム以外の業界に勤めるビジネスマンにも役立ちそうな,根本的かつ実践的な内容となっていた。
 講師は「源平大戦絵巻」「機動戦士ガンダム 0083 カードビルダー」といった個性的な作品を手がけた,セガ 第一研究開発本部 戦略企画室 ディレクターの平魯隆導氏

 昨年のCEDEC 2012の講演では「アーケードゲーム作りの手法がスマートフォン向けゲームにも応用できる」という提言を行った人物だ(関連記事)。次々とユニークなゲームを生み出す平魯氏の発想法とはどういったものなのだろうか?


「負ける企画書」「負けない企画書」の違いとは?


 企画書には「負ける企画書」「負けない企画書」がある,というのが平魯氏の持論だ。「負ける企画書」とは,ボツになる企画書のこと。一生懸命に書いた企画書をあっさりとボツにされ,気力が萎えるような体験をした人も多いのではないだろうか。

 では,両者を分けるのはどういった部分なのだろうか? 平魯氏は“負けた”企画書を例に挙げ,その問題点を指摘していった。
 負けた企画書では「最大4人で同時プレイ可能なミニゲーム集」「誰でもみんなで楽しめる,協力型アクションRPG」「ARで着替え可能なプリクラマシーン」といったものがコンセプトとして掲げられていた。

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“負けた”企画書に書かれていたコンセプト例
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 一見すると無難に見えるが,実はこれはコンセプトというより「自分の思いついた遊びの説明をしただけ」であり,「どんなお客さんに遊んでほしいか」という視点が欠けていると平魯氏は指摘する。ゲームの企画を進めるということは,誰かがその企画に投資するということ。誰がそのゲームを買ってくれるのか,という部分が不明瞭な企画にはそうそう投資できるわけがないというのも理解できる話だ。

 こうした企画書が生まれる背景には,ゲームプランナーが陥りがちな,ゲームギミック優先の企画立案があるという。本来は目的を達成する手段であるはずのゲームギミックを最初に発案し,そこから企画を膨らませていく手法だ。

ゲームギミック優先の企画立案の一例
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 この発想法だと,自分が本当に何をやりたいのかが定まりにくく,多数の要素を付け加えてしまうため,企画書の分量が多くなりがちだ。企画書を審査する立場にある人々は忙しいので,分量が多いということはそれだけで不利に働く。また,企画を組み立てていくうえで自分の思いついたギミックに固執しがちになるため,修正の必要があっても大ナタを振るいにくくなるというのだ。

 もし企画書が“負けた”場合,ゲームギミック優先の企画立案だとリカバリーがききにくい。企画を否定されるということは,せっかく思いついたゲームギミック――すなわち,この発想法における企画の根幹を否定されることでもある。一度ダメ出しを受けるだけで,企画のすべてが丸々無駄になってしまうのだ。

ゲームギミック優先の企画立案をした場合,ボツにされるとリカバリーがきかない
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目的地から発想する,「逆算の企画立案」


 では,負けない企画書を作るためには,どのように企画を組み立てていけばいいのだろうか。
 ここで平魯氏は「逆算の企画立案」を勧める。「ゲームギミックから発想し,これに肉付けする」という先の流れとは逆に,「どういう人・場所・空間(社会現象)を作るかを考え,これを実現する手段を選んでいく」という発想法だ。こうすることで,負けないコンセプトが生まれるという。

 通常「社会現象」といえば,国民すべてが熱狂するようなブームを指すが,ここでいう社会現象とはブームの規模の大小ではなく,ゲームが発売されることで生活習慣や人の集まり方が変化していくことを指す。例えば,「これまでは個人個人で遊んでいた携帯ゲーム機だが,『モンスターハンターポータブル』をきっかけに皆で持ち寄ってプレイするようになる」といったケースなどが,ここでいうところの社会現象だ。

「逆算の企画立案」における社会現象
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 「逆算の企画立案」とは,まずは壁に大枠をセットし,その中にパズルのピースをはめ込んでいくような手法だと平魯氏は例える。ここでいう「壁の大枠」が先の「実現したい社会現象」で,「パズルのピース」が「ゲームギミック」。完成したパズル=できあがったゲームというわけだ。

「逆算の企画立案」の進め方。まずは大枠(社会現象,ゲームが出ることによる社会の変化)から,中身のゲームギミックなどを埋めていく
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 ゲームギミック優先の企画立案の場合,パズルのピースから作っていき,枠無しで組み立てていくような作業になる。枠がないためパズルがあらぬ形になってしまうことになるし,作り出したパズルのピースが目的にそぐわない形状をしていても捨てることが難しい。

 平魯氏が勧める逆算の企画立案だと,目的はあくまで「壁の枠にピースをはめ込んでパズルを完成させること」と,たどり着くべき目標がはっきりしている。ピースは手段であるというとらえ方なので,取捨選択も難しくないのだ。

 氏は,「逆算の企画立案」を「ゴール以外は何も決まっていない状態」であるとも例えた。目的地さえ決めておけば,車だろうと徒歩だろうと飛行機だろうと,どんな手段でも使える。しかし,ゲームギミック優先の企画立案だと,交通手段を決めてから行くべき場所を考えるようなものになってしまうのだ。


「逆算の企画立案」,その実例


 ここで平魯氏は,実際にこれまで手がけてきた作品を例に挙げて,「逆算の企画立案」を説明した。「百鬼大戦絵巻」「源平大戦絵巻」は,絵巻物の絵が動いて戦うディフェンス系ゲームだ。
 最初に掲げられた「壁の枠」,すなわち氏が起こそうと考えた社会現象は「お爺ちゃんと孫が,一緒に遊ぶゲームを作り出す」ことであったという。

「百鬼大戦絵巻」「源平大戦絵巻」は,「お爺ちゃんと孫が一緒に遊ぶゲーム」という社会の変化を目指して作られたという
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 きっかけは,iPadの発売が報じられたことだった。高年齢層でも使えるコンピューターとして話題となり,氏の両親がiPadを欲しがっているのを見て,こうした人々でも遊べるようなゲームがあればいいのではないかと考えたそうだ。

 高年齢層は子供のお守りをすることが多い。これまで,高年齢層は将棋や囲碁を通じて子供とコミュニケーションを取っていたが,携帯ゲーム機全盛の今では両者をつなぐものがない。ここから「お爺ちゃんと孫が一緒に遊ぶゲーム」という,本作が目指すべき社会現象が生まれた。

 「機動戦士ガンダム カードビルダー」の場合だと,「“俺ガン”を通じて,『ガンダム』が共通言語のファンの集い場を街に生み出す」ことだった。企画立案当時,ガンダムファンの集いの場がなかった,というのが氏が感じていたことだった。

「機動戦士ガンダム カードビルダー」は,「“俺ガン”を通じて,「ガンダム」が共通言語のファンの集い場を街に生み出す」ことが目的。それゆえに筐体は多人数が集まれる仕様になっているし,モビルスーツと装備を組み合わせるカスタマイズシステムが生まれた
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 模型雑誌では,プラモの達人が自作のガンプラの写真を投稿することでコミュニケーションしていた。“俺ガン”,つまり「俺のガンダム」を見せ合うことで,彼らはつながっていたわけだ。氏はプラモ作りがうまくなかったので,そうした光景を羨ましく思っていたという。
 ここから多人数が集まれる筐体と,モビルスーツのカスタマイズシステムが生まれた。カードを組み合わせて作った“俺ガン”を持ったファンが集える場所が,同シリーズの筐体というわけだ。

 興味深いのは,いずれも“平魯氏の周囲に起こった出来事”がヒントになっていることだ。「逆算の企画立案」を実現するには,いろいろな物事を受信できるアンテナの高さも必要と言うことなのだろう。


「いつの間にかうまい人のために作っていた」

――「ソウル・サーファー」の実例


 そんな氏も連戦連勝ではなかったという。氏がキャリアの初期に手がけた「ソウル・サーファー」では,「運動オンチな自分でも“カッコイイ自分”になれる遊びを作り出す」ことが目標とされた。同作はサーフィンをモチーフとした体感ゲームだ。筐体に備え付けられたサーフボードに乗り,サーファー気分が楽しめる。

「ソウル・サーファー」における実例。大枠は正しくとも,そこへたどり着くための軌道修正は必要と言うことなのだろう
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 氏はサーフィンの魅力をつかみ取るため,実際にサーフィンを始めてみた。年に100日も波に乗っていたため,サーファーとしてはかなり上達したという。
 そんな「ソウル・サーファー」だが,ロケテストでゲームを遊び終えたプレイヤーは皆,一様に首をひねっていたそうだ。運動オンチな人をターゲットにするゲームのはずが,自分自身がサーファーとなったため,いつの間にかサーフィンがうまい人のためにゲームを作っていたからだ,と氏は分析する。

 一般的なゲームセンターには,サーファーよりもそうでない人のほうが多く訪れるだろう。こうした“ターゲットの違い”が起こってしまった場合,「面白いか,そうでないかを判定する次元にすら至らない」という。
 もちろん「運動オンチな自分でも“カッコイイ自分”になれる遊びを作り出す」という最初の大枠は何も間違ってはいないのだから,物づくりの難しさがうかがえるエピソードだ。


「逆算の企画立案」をするための思考トレーニング


 これまでゲームギミック優先の企画立案をしていた人が,突然「逆算の企画立案」をするのも難しいだろう,と氏は語る。そこで氏が勧めたのは「逆算の企画立案」をするための思考トレーニングだ。
 「iPhone」「Wii」「初音ミク」など,一大ムーブメントを起こしたものについて「なぜヒットしたのか」「社会現象や人々の生活習慣はどう変わったのか」を考える。これを習慣化していけばいいという。実に興味深い提案と言えるだろう。

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 平魯氏は,企画募集の目的は「こぎれいな企画書を作ること」ではなく「未知のアイデアをいかにして多く引き出すか」にあると語る。企画書のデザインやイラストの描き方で優劣が付くような仕組みは用いるべきではないというのが氏の持論だ。部下に整った体裁の企画書を作らせた場合,時間も労力もかかってしまうが,それよりは少しでも多くのアイデアを出してもらうほうが有益だという。

プランナーは入社時にアシスタントの業務をすることが多いが,その中で体裁の整った企画書を作ろうとすると,大きな労力が必要になる。そこで企画書が“負けて”しまうとダメージも大きい
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 平魯氏は「自分も最初からちゃんとできていたわけではなく,指導者的な上司に育ててもらいました。我が子を千尋の谷に突き落とすようなやり方もありますが,それで育ってくれるかどうかは運次第です。企画書を書いてもらう上司は特権階級ではなく,ボクシングで言うところのトレーナー。部下の企画を見ていくことで上司のスキルが上がっていくという側面もありますし,ボクサーである部下と二人三脚で戦うくらいの心構えで,部下に華を持たせてほしいです」と講演を締めくくった。

懐かしいゲームを例に取った,ボクサーとトレーナーの関係
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 負ける企画書ができてしまう背景には,ギミック優先の企画立案がある。これを防ぐには,ゲームが起こす社会の変化という大枠から発想する「逆算の企画立案」が有効。ギミック優先の企画立案だとギミックを否定された場合に企画全体がダメになるが,「逆算の企画立案」ならギミックを変えていくことで再起できる。なぜならギミックは大枠という目的地にたどり着くための手段であるからだ。

 企画書が負けるのは,体裁が整っていないからではなく,アイデアの発想法が原因であるという平魯氏の説を聞いて,目からうろこが落ちたような気持ちになった人も多いのではないだろうか。自らが手がけた作品の実例があるからこそ説得力のある,面白い講演だった。

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