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[CEDEC 2011]パッケージングという手法によって奇抜さを面白さに変える。「タッチ!ダブルペンスポーツ」を開発したindies0流ゲーム開発の方法論
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印刷2011/09/12 17:34

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[CEDEC 2011]パッケージングという手法によって奇抜さを面白さに変える。「タッチ!ダブルペンスポーツ」を開発したindies0流ゲーム開発の方法論

 CEDEC 2011の2日目,2011年9月7日に行われたセッションの題名は「奇抜なアイディアの収束的パッケージング手法 〜『タッチ!ダブルペンスポーツ』の開発事例〜」。講師を務めるのは,indies0(インディーズゼロ)の鈴井匡伸氏と岡安 司氏で,鈴井氏は2009年のCEDECでもゲームアイデアを一つにまとめる手法について話しており,今回も,ゲームの全体構成をパッケージングする重要性を説く講義となった。
 ここでいうパッケージングとは,ニンテンドー3DS向けソフト「タッチ!ダブルペンスポーツ」(以下,ダブスポ)のように,さまざまなミニゲームを,いかに統一的かつ個性的に,一つにまとめて一本のゲームに仕上げるかという手法のことだ。

写真左がインディーズゼロ代表取締役 鈴井匡伸氏。右は同社プランナーの岡安 司氏。岡安氏は進行の補佐をしてくれた
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開場時に配られた資料は,実際にタッチ!ダブルペンスポーツ開発時に使われたもの。セッション中のスライドでも使用されている
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ゲームはパッケージングによって決定される

 最初に2009年のCEDECで行われた,「ノスタルジックなゲームの現代的パッケージング手法」についての紹介が行われた。今回のセッションは前回の続編という位置付けなので,まずはその要点をまとめておこう。

 前回は,同社が2007年にリリースした「ゲームセンターCX 有野の挑戦状」の開発が例に挙げられた。1980年代のレトロな雰囲気のミニゲームを集めた本作を一つにパッケージングするうえで鈴井氏はまず“ゲームinゲーム”というアイデアを思いついた。具体的にはDSの下画面を「友達の家」として,上画面に1980年代のゲーム画面を表示する形式だ。
 鈴井氏によれば,「パッケージングとは全体の遊びの流れ」だそうだ。まずコアとなるゲームのプレイ部分(有野の挑戦状でいうなら,上画面のレトロゲーム部分)が面白くなければならない。コアの部分を続けて遊んでもらうために,インタフェースや世界設定といった部分(例えば,友達の部屋であったり,有野氏がプレイヤーに挑戦するという流れ)が重要になる。コアとそれを取り巻く要素を,開発初期段階からパッケージング構造として決めることで,説得力のある遊びの流れが生まれ,プレイヤーの満足度を押し上げるというわけだ。
 このとき,「遊びの流れは必要最低限にしたほうがいい」と鈴井氏は言う。アイデアを盛り込みすぎるとプレイヤーが目移りしてしまい,フォーカスがぼやけてしまうというのだ。


タッチ!ダブルペンスポーツ開発で使われたパッケージング手法

 というわけで,今回のセッションに話を進めよう。indies0流のパッケージング手法を用いて制作された「タッチ!ダブルペンスポーツ」だが,ゲームの最大の特徴は「ペンを両手に持って遊ぶ」というなかなかインパクトのあるプレイスタイルだ。この“奇抜”なアイデアをどのように収束させていったのだろうか。「これは,そこそこの予算と適度な期間で,いかにシンプルで効率的なパッケージングを行うかの一例です」と鈴井氏は言う。

ダブスポは両手にペンを両手に持って遊ぶスポーツアクションゲームで,DSの上画面を見ながら,下画面を両手のペンでタッチして操作するわけだが,開発では以下の2点がポイントになった。
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 一つ目は,誤検出を回避することだ。DSおよび3DSでは2点を同時にタッチした場合,それらの中点が検出され,操作点として認識されてしまう。これに対してindies0は,独自の補正プログラムを開発した。この技術を使うと中点からプレイヤーが実際にタッチした場所を割り出すことができるのだ。スライドにも対応しているので,プレイヤーはペン操作でストレスを感じることはなくゲームに集中できる。
 二つ目は,自然に両手でプレイできるようなUI(ユーザーインタフェース)のデザインだ。多数の競技が用意されたダブスポでは,それぞれの競技で操作方法が異なるが,UIデザインは相互に親和性の高いものとし,一つの競技を覚えれば,ほかの競技も直感的にプレイできるように気を配ったという。もちろんそれぞれの競技の操作方法も,自然に両手でプレイできるデザインが追求されている。

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 「奇抜で違和感のあるプレイスタイルを,いかにすんなり遊んでもらえるようにするかに心血を注いだ」という鈴井氏は,両手プレイという奇抜さを活かすことを中心にパッケージングを決めたという。奇抜な具材を馴染みやすい料理にまとめる,と鈴井氏はたとえた。
 大人も子供も遊べるスポーツゲームを目指したダブスポだが,スポーツは競技ごとにルールが違っていて複雑だ。そこで考えたのが,スポーツのイメージしやすい部分だけにフォーカスを当てること。ホームランを打つ,シュートを決めるなど,それぞれの競技が持つ華やかな部分に焦点を当て,手に汗握る緊張感を残しながらも,分かりやすく楽しめるゲームを目指したという。

 続いて鈴井氏は,各ミニゲームの「統一感」が重要であると考えた。プレイヤーが覚えることを少なくし,直感的に遊ぶために,すべての競技で適応されるルールやUIが必要不可欠だと考えたのだ。
 ダブスポにおいては,以下のことが統一された。

1:すべての競技を”3ミスルール”で統一する
 ベースボールなら三振,ボクシングなダウン3回,サッカーならシュートを3回外すなど,すべての競技に,3回ミスしてはダメという基本原則がある。実際の競技とは違うかもしれないが,初めてそのスポーツに触れる人に分かりやすく,経験したスポーツであれば違和感がないよう考慮して設定された。

2:すべての競技を「目的型」と「記録型」の2つの遊びのいずれかにする
 目的型は,指示された目標の達成のために次々と現れるライバル戦うもの。記録型は,3ミスするまで遊び続けてハイスコアに挑戦する。

3:すべての競技の画面表示物を統一する
 どの競技を選んでも,同じ位置に同じ情報が表示される。

4:すべての競技にアスリという統一の評価単位を設ける
 開発としては,各競技を長く遊んでもらうスタイルを望んでいたので,その動機付けとして「アスリ」という評価単位を導入。アスリが貯まることで,プレイヤーキャラクターのカスタマイズアイテムが増える。

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 ペンを両手に持って遊ぶこと自体が今までにない要素のため,それ以外の要素はなるべくシンプルかつオーソドックスにする。そして,競技ごとの違いを残しながらも同じテイストで遊べる安心感を与え,繰り返し遊んでもらえるよう仕組みにするというわけだ。


最初に画面コンテ資料を制作し,それを設計図として開発を進める

 ゲームの構造とアイデアのパッケージングが決まると,いよいよ本格的な開発がスタートする。だが,その前にindies0ではある大事な作業を行っている。それは,開発チーム全員がすべてのパッケージングされた要素を理解できるよう“画面コンテ資料”を作ることだ。
 
ゲーム開発のフローだけでなく,各画面でのボタンの大きさや位置なども指定された,レイアウト資料にもなっているのが特徴。これは発売元へのプレゼンのあと,すぐに制作されたという
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 画面コンテ資料の作成には,構成と手法を開発チーム全員で共有できるという利点があり,チームメンバー間の意思疎通が容易になる。また,画面コンテ資料があることで,突然の仕様変更や要素の追加などにもスムーズに対応できるという。
 実際,DS用ソフトを想定して開発が進んでいいる途中で3DS用への変更を余儀なくされたときも,柔軟に対応できた。もちろん,画面コンテ資料は開発が進むごとに更新されていく必要がある。ダブスポの場合,すべてのUIをディレクションする「UI直轄デザイナー」が,初期版から最終版までの画面コンテ資料の作成を担当している。

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 画面コンテ資料を作ったことで,ゲーム全体の流れが早い段階で分かり,作業が効率化された。その後は,統一のパッケージング手法に則って各競技の作りこみを行ったという。

 すべての競技で共通してこだわったのは,操作したときの強さ,距離,微妙な角度などがそのまま反映されるような,アナログ感あふれる自在なスポーツアクション要素だ。コアとなるゲームのプレイ部分は面白くなくてはならないと鈴井氏が言うように,アクション部分は妥協を許さない注力ポイントであった。
 開発作業は,各競技ごとに小さなチームを編成して行ったが,初期段階から統一されるべき内容を決めたことで,チーム間の調整や作り直しが最小限になり,その結果,それぞれのチームの持ち味を発揮できたのではないかと鈴井氏は分析する。
 「統一感にこだわったのは,ゲーム全体のUIも同様です」と語る鈴井氏。UI直轄デザイナーの監修のもと,形,色,配置などに統一感を持たせたという。鈴井氏は「indies0は構成とパッケージング手法,そしてUIデザインに強いこだわりを持っている会社である」と強調し,ダブスポはそんな自分達でも納得できる形に仕上がったゲームだと語った。

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 最後に,「すべてのパッケージングで目指すこと」について話された鈴井氏の言葉を掲載しよう。
「まず,核となるアイデアがあります。次にそれを活かすための構造を決めていきます。さらにそれを遊びやすい手法でまとめていく──そうしたパッケージングの全体像を開発チーム全員が初期段階から理解できるよう共有してく,と。これがタッチ!ダブルペンスポーツで行った収束的パッケージイング手法の土台となる理念です。
 具体的な構造や手法はプロジェクトによって異なると思いますが,この理念はすべてのプロジェクトに通じるものであると,indies0では考えています。これからも我々はいろいろなパッケージング手法を考えていきますが,遊びのコアを活かす構造と手法とは何か,お客様にとって一番分かりやすく遊びやすい仕組みとは何か,ということを第一に考えながらモノ作りを頑張っていきます」。

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 機会があれば講演3部作の完結編も行いたい,と話す鈴井氏。
 開発会社の数だけ開発のノウハウはあると思うが,indies0のように,画面コンテ資料を最初に作り,その情報をチーム全員で共有していくというやり方はかなり合理的だと感じた。ここで紹介された収束的パッケージング手法を用いて制作するindies0の次回作(講義中に少し話が出ていた)「3DS用の音ゲー」にも注目したい。
  • 関連タイトル:

    タッチ!ダブルペンスポーツ

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